普段は飄々とした表情をしてばかりの彼女が酷く怯え、そして酷く困惑した表情をしている事に若干の面白さを感じてしまうのは記者としての本能なのだろうか。
「どこで、それを…」
「経緯は色々ありますが…貴女と四宮先輩の会話を聞いた、というのが決定打ですね。秘密があるなら誰かに聞かれるリスクを考えて行動するべきですよ…まぁ、張らせてもらっていたので気を付けても仕方なかったですけどね。」
悔しそうな表情でこちらを見つめる彼女に本題を告げる。
「この秘密を守るには一つだけ条件があります。それは…………」
早坂愛は油断していた。いや、完璧な仕事をしているからこそ穴に気がつかなかったのである。
「早坂先輩、ですよね。今日の放課後、校舎裏に来てもらえませんか?」
そう話しかけてきたのはマスメディア部の1年生。
彼の能力は未知数だが所詮この学校のマスメディア部の部員…それにマスメディア部とある程度の関わりがある身としてはこれを無視するわけにはいかなかったのである。
「なんか嫌な予感…単なる告白ならいいけど。」
秋月の要求を承諾した後、早坂は少しの危機感を覚えていた。
「自信に満ち溢れた表情、話す間もずっと手に持ったままだったメモ帳とペン…いや、まさかね…」
自分の仕事は完璧で、正体がバレる筈はない。そう思いながら校舎裏に行くと、そこには待ち構えるように秋月が立っていたのだった。
「来てくれてありがとうございます、早坂先輩?」
「別にいいよ!でもウチ、今日バイトだから手短に済ませてくれると嬉しいな!」
「プロ意識…尊敬しますよ、早坂さん。まぁ…四宮家に仕えているのですから、当然ですかね?」
微笑みながら彼にそう告げられた瞬間、すっと全身から熱が冷めていくのを感じた。
自分の正体がバレた。しかも何の関わりもない年下の男に。
目の前に立つ彼が、突然恐ろしいものに見えてきて、頭が真っ白になる。
そうして場面は冒頭へと戻る……。
「先輩たちの事、許してくださいっ!!!」
「ぁ…え?」
想像していた物とは全く違う角度の要求を、それも頭を下げながら言われてつい素っ頓狂な声をあげてしまう。
「いや、その…ですね?ある時、早坂さんが四宮先輩に仕えてるんじゃないかってエリカ先輩に言われて…それを調査しているうちにどんどん証拠を見つけちゃったんです…。一応先輩には誤解だと伝えておきましたが。」
「………なるほど。それで、先輩を許せというのは?」
「その…早坂先輩って先輩達の「かぐや様ファンクラブ」みたいなのに参加してる…もしくは参加させられてる…じゃないですか?
純粋な記者精神で調査したのは良いものの…早坂さんがかぐや様の側近となると、かなり我慢して参加してたんだろうなぁと思いまして…
それと、最初脅すような口調になったのはすみませんでした。その、自分の情報で相手を追い詰める…っていうの憧れてて…」
事情を聞き、彼が優しくてよかったと心から思った。
あれほどの情報、ダシにすれば私に何だって要求出来たというのに…
「君、私に変な命令しようとか思わなかったわけ?あの情報を出されたら、私はセックスくらいは我慢できたよ?」
「せっ…!?す、するわけないじゃないですか!?第一、そういうのは好き合ってる2人がやるもので、それに…」
顔を赤くしながらわたわたする彼を見て少し可愛いと思いながらも、とりあえずは現状に特に変化が無いことを安心する。
「君の先輩たちを許すのはもちろんok。ただ、私すごいビビったから…私を怯えさせたお詫びとして、相談相手になったりたまに利用させてもらったりしてもいいよね?」
「あ、そうですよね、すみませんでした…はい、それくらいなら大丈夫ですよ!」
「チョロ…ま、とりあえずそういうことでよろしく。くれぐれも私の事はバラさないでね、可愛い探偵くん?」
「か、かわ…!? それに、探偵じゃなくて記者です!早坂先輩ー!?」
本日の勝敗:秋月の敗北(揶揄われた上、定義の曖昧な『利用』にokしてしまったため)
※秋月×早坂の恋愛ルートは無いです。