女性限定なのにスカウトされた僕、なぜか美少女VTuberとなる   作:そらのすすむ

67 / 67
第23話 三期生の温泉旅行(完)

「そ、それで、二人は一体、僕に何をさせるつもりなの……?」

 

 

 

 両脇を固められた僕は、引きつった表情のまま二人に聞いていた。

 

 

 

「温泉旅行から帰ったら私とコラボ配信をしよう」

 

 

 

 こよりさんはにっこり微笑んで、言ってくる。

 

 

 

「あっ……。ご、ごめんね。そうだよね。最近、コラボしてなかったもんね。うん、約束だよ」

 

 

 

 なんだか申し訳なくなって、思わず謝ってしまう。

 

 

 

「えへへっ、久しぶりに祐季くんとコラボだ……。楽しみにしてるからね」

 

 

 

 うれしそうに、はにかんでみせるこよりさん。

 

 

 

「そ、それじゃあ、いつものようにこよりさんの枠で――」

 

「もちろん、オフコラボだね」

 

「えっ!? ……う、うん、わかったよ」

 

「あれっ? いつもの祐季くんならもっと嫌がると思ったのに……」

 

「今回は僕が全然コラボできてなかったのが悪いからね。ぼ、僕にできることならするよ……」

 

「うん、楽しみにしてるね」

 

 

 

 わざわざお願いで言うようなことでもないけど……。

 こよりさんなら、いつでもコラボをするのに……。

 

 

 と、言ってたら結局ほとんどしていなかったので、こういう形を取ったのだろう。

 もしかして、結坂も?

 

 

 僕は結坂の方を振り向く。

 すると、結坂はニコッと微笑んでいた。

 

 

 

「私もオフコラボで良いよ?」

 

 

 

 あっ、やっぱりそうなんだ……。

 最近、同期のコラボがなかったもんね。

 もっと時間を作るしかないかな。……僕、大丈夫かな?

 

 

 予定が埋まりすぎている気がする。

 一応あとからマネさんに連絡を入れておこう。

 

 

「ふふっ、色々と動いておかないと。あとから担当さんに例の件を確認しないといけませんね」

 

 

 

 不敵な笑みを浮かべるこよりさん。

 なんだろう、温泉に浸かって体は温まっているはずなのに、ものすごく悪寒を感じてしまう。

 何か良からぬことを企んでいるような……。

 

 それでいて、この件は触れたらダメな気がしてしまう。

 きっと聞いてしまったら、もう後には引けないような、そんな約束をさせられる気がする。

 

 触らぬ神に祟りなしだよね……。

 

 

 

「例の件ってなに? 私、聞いてないよ?」

 

 

 

 僕がわざわざ聞かなかったのに、結坂がそのことを触れてしまう。

 すると、こよりさんは口元に人差し指を持っていって、一度僕に視線を向けてから微笑む。

 

 

 

「内緒、ですよ。またうまく言ったら教えてあげますね」

 

 

 

 

 

 

 その後、逃げるように大浴場から出ると、浴衣を着たこよりさんたちと合流する。

 

 

 

「祐季くん、その浴衣、とっても似合ってるね」

 

「そ、そうかな……。ぼ、僕だけじゃなくて、こよりさんも凄く似合ってますよ」

 

 

 

 お風呂上がりのやや湿った髪。

 やや紅潮した頬。

 浴衣から見え隠れするうなじ。

 

 普段見慣れないその姿を見て、緊張してしまった僕は思わず顔を背けてしまう。

 ただ、それが間違いだった。

 

 その隙を突いて、結坂が僕に向かって飛びついてくる。

 

 

 

「ゆっきくーん!! 私はどうかな?」

 

「わわっ、ゆ、結坂!? そ、その、あの……」

 

 

 

 薄い浴衣生地から直に当たる胸に思わず顔を紅潮させて、あたふたと手をバタつかせる。

 そんな僕の様子を見て、結坂は目を細めてニヤリと微笑む。

 

 

 

「あれれっ? 祐季くん、どうしたのかなー? 顔が真っ赤だよー? 熱でもあるのかなー?」

 

「あ、あわわわっ……」

 

 

 

 ますます体をくっつけて、顔を近づける結坂。

 恥ずかしさやら緊張から、僕は目を回し、何とかその場を逃れようとする。

 すると、そんな僕に助け船を出す天使のような人がいた。

 

 

 

「彩芽ちゃんばっかりずるい! 私も祐季くんとくっつく!!」

 

 

 

 助け船ではなく、死刑宣告だった。

 天使だと思ったこよりさんは、悪魔のような笑みを浮かべながらジワジワと近づいてくる。

 

 小柄な結坂でも困惑してしまったのだ。

 こよりさんに同じように抱きつかれたら……。

 

 顔に恐怖の色を浮かべる僕。

 すると、今度こそ僕に助け船を出してくれる。

 

 

 

「全く、そんなに祐季を取り合うなら、あれで勝負したら良いじゃない」

 

 

 

 ため息交じりの瑠璃香さんが指差した先にあったのは、卓球台だった。

 

 

 

◆◆◆

 

 

ユイ :『うみゅー。こうして、血で血を洗う一大抗争が起こることになったの』

 

ココネ:『起こりません』

 

ユイ :『うにゅー、囚われのユキくんを助け出すのは一体誰なのか。悪の魔王妖精、ココママを倒す勇者ユイは一体誰なのか……』

 

カグラ:『……自分の名前、言ってるじゃない』

 

ココネ:『わ、私は魔王なんかじゃないですよ!?』

 

ユイ :『勝利のダンボールを手にするユイは一体誰なのか。次回に続くのー。それじゃあ、乙ユイなのー』

 

 

 

 ユイが眠そうな顔をしながら、手を振って、ユキくん段ボールの中へと入っていく。

 

 

 

ココネ:『おつここ……って、まだ終わらないですよ!? それにユキくんもユキくんのダンボールは私のものです』

 

カグラ:『さり気なくユキも含めたわね……』

 

ユイ :『うみゅー。やっぱり悪の大魔王なの。卓球で倒すしかないの』

 

ココネ:『わかりました。勝負に乗ります!』

 

カグラ:『はいはい。まだそこの話をしてないでしょ。勝負をするならユキを起こさないように部屋の隅でしてなさい』

 

 

 

 カグラに窘められて、ユイとココネは枠の端へ移動する。

 

 

 

【コメント】

:相変わらずのカオス空間w

:いつもの景品ユキくんw

天瀬ルル :ぼ、ぼくも参加します!!

:やっぱりユイっちが勝つのか?

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 なんでこんなことになっているのだろう?

 

 

 

 卓球台を挟んで向かい合うこよりさんと結坂。

 ばちばちと視線を飛ばし合っており、その顔は真剣そのものだった。

 

 

 

「ふふふっ、そろそろ彩芽ちゃんとは決着をつけないとって思ってたんだよね」

 

「それは私の台詞なの。こよりに祐季くんは渡さないんだからね。祐季くんの初めて(の友達)は私なんだから」

 

「そ、そんなこと、許さないから。祐季くんは私が貰います!」

 

 

 

 二人の背後に禍々しいオーラのようなものを感じてしまう。

 そんな様子を見て、心配になって瑠璃香さんに話しかける。

 

 

 

「もしかして、僕、身の危険?」

 

「もしかしなくても危険よ」

 

「うぅぅ……、僕、どうしたらいいんだろう……」

 

「別に簡単なことでしょ? 卓球の景品が祐季なんだから……」

 

 

 

 瑠璃香さんがさも当然のように言ってくる。

 

 

 

「そっか……。勝負が付く前に逃げたら良いんだね!」

 

「違うわよ!? 祐季が参戦して二人に勝てば良いのよ」

 

「……さすがに運動は苦手だから」

 

 

 

 思わず眉をひそめてしまう。

 でも、よく考えると僕は男。

 力では負けないわけだし、卓球だともしかすると勝てるかも……。

 

 

 そんなことを思いながら、こよりさんたちの勝負へと視線を向ける。

 その瞬間に目にも留まらない速度の球が、顔の横を通り過ぎていった。

 

 

 

「なかなかやるね」

 

「勝負なら負けないからね!」

 

 

 

 メラメラと火花を飛ばし合う二人。

 勝負はほぼ互角に進んでいるようだった。

 ただ、僕の動きは固まってしまい、まるでロボットのような動きのまま、顔だけを瑠璃香さんの方へ向けていた。

 

 

 

「あの二人に勝てるとでも?」

 

「……私が悪かったわ」

 

 

 

 瑠璃香さんも遠い目をしていた。

 ただ、すぐに僕の方へ振り向いてくる。

 

 

 

「と、とりあえず、あの二人は邪魔したらダメだから私たちも卓球をする?」

 

「そ、そうだね」

 

 

 

 結局僕たちが取れる手段は、現実逃避だけだった。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「勝った」

 

 

 

 卓球の勝負は結局結坂の勝利で終わったようだった。

 一方の僕たちは一進一退の、中々良い勝負をしていた。

 

 もちろん何度もラリーの応酬が続く……というわけではなく、ミスがミスを呼び、更にその上でミスを重ねる、といった感じだったが。

 

 

 

「初めてやったけど、なかなか難しいね」

 

 

 

 スカッ。

 

 

 

 サーブを空振りながら、瑠璃香さんに話しかける。

 

 

 

「祐季はもう少し運動をしたほうがいいわね。体を鍛えたらもう少し男らしくなるんじゃないかしら?」

 

 

 

 次は瑠璃香さんが明後日の方向へサーブを打っていた。

 ラリーすら始まらない……。

 でも、これはこれで新鮮味があってなかなか楽しいかも知れない。

 

 そんなことを思っていたら、突然後ろからこよりさんに抱きつかれる。

 

 

 

「祐季くんを鍛えさせるなんてダメだよ! 祐季くんは今のままが1番可愛いですよ!?」

 

「祐季くんマッチョ化計画か……。ちょうどいいゲームがあるからやりにくる? ちょうどRTAが人気だから祐季くんも挑戦すると良いよ」

 

 

 

 瑠璃香さんの後ろに移動していた結坂がにっこり微笑みながら言ってくる。

 

 

 

「ゲームなら僕にもできそうだから良いかも……」

 

「うんうん、ダイエットにもちょうどいいって聞くし、瑠璃っちもどう?」

 

「瑠璃っちって、また新しい呼び名を作って……。でも、そうね。肘の下とかちょっとプニプニしてきたから気になってたのよね」

 

「わ、私もお腹……、ううん、健康のために一緒にしようかな?」

 

「ココママはプニママになったのかな?」

 

「ま、まだプニってないですよ!? プニってない……ですから」

 

 

 

 不安げに自分のお腹を触るこよりさん。

 その……、目のやり場に困るから僕の後ろでそういったことをするのはやめて欲しいんだけどな……。

 

 

 

「――全然気にする必要はないと思うけど?」

 

「祐季くんは痩せてるから気にしなくて良いよね」

 

「ぼ、僕はもっと筋肉質な……」

 

「わかったよ! それじゃあ、今度みんなでフィットネスアドベンチャーのRTAに挑戦しよっか。目指せ世界記録!」

 

 

 

 にっこりと嬉しそうな笑みを浮かべる結坂。

 それを見ているとどうしても不安を隠しきれない。

 

 

 なんだろう……、踏み込んではいけないところへ踏み込んだような、そんな気持ちを抱いてしまった。

 

 

「えっと、その……、RTAって確か、スピードを競うんだよね? フィットネスでどうやってするの?」

 

「それは当日のお楽しみだよ。マネさんに配信できるかの確認をしておくね。日は……、来月ならまだ予定の埋まっていない日があったよね?」

 

「うん、それはある……けど」

 

「なら決まり! 3期生、フィットバトル。負けたユキくんは勝った人の良いなりになるの。それは別の配信枠を用意して貰おうっと」

 

「ちょ、ちょっと待って!? どうして僕が負ける前提なの!? 結坂が負ける可能性だってあるよね?」

 

「私がゲームで負けるとでも? 今日からみっちり体を作っていくよー。夢の世界で」

 

「あっ……、現実に鍛えるんじゃないんだね?」

 

 

 

 その態度はいつもの結坂でどこかホッとしてしまう。

 

 

 

「でも、そのコラボはさっきお風呂で言っていたコラボとは……」

 

「もちろん別だよ!?」

「当然別だね」

 

「うん、……だよね」

 

 

 

 即答されてしまったので、僕は思わず苦笑いを浮かべてしまう。

 

 

 予定……、大丈夫かな?

 この旅行が終わったらまたとんでもなく忙しくなりそうなんだけど……。

 

 

 

◆◆◆

 

 

ココネ:『以上が今日の出来事ですね。そのあと、配信の準備をして、今……って感じですよ』

 

ユイ :『うみゅー、勝負に勝ったのでユキくんはユイが貰うの』

 

ココネ:『ダメですよ。ユキくんが起きちゃいますからね』

 

ユイ :『うみゅー……、ココママがずるいの……。ユキくんのダンボールだけでも先に貰っておくの』

 

 

 

 ユイが自分の体にユキくん段ボールを重ねると、そのまま中へ隠れてしまう。

 

 

 

カグラ:『ほらっ、それよりも今後のコラボの発表もするのよね? フィットネスのやつ。さっき日も決まってたわよね?』

 

ココネ:『そ、そうでしたね。来月、フィットネスアドベンチャーのタイムを競うコラボをします』

 

ユイ :『うみゅー、負けたココママは罰ゲームなの』

 

ココネ:『ま、まだ負けてません!』

 

ユイ :『でもプニプニボデーじゃ、勝てないの』

 

 

 

 ユイがニヤニヤと笑みを浮かべ、実際にココネのお腹を触っていた。

 それから必死に逃れようとココネが動こうとする。

 

 しかし、膝で寝ているユキを起こさないためにもジッと耐えるしかできなかった。

 

 

 

ココネ:『ユイちゃん!? ユキくんが起きちゃいますよ!?』

 

ユイ :『うみゅー、起きたら今度はユイが膝枕するの』

 

ココネ:『そうじゃなくて、起こすことがダメ――』

 

ユキ :『うーん……、もう朝……?』

 

 

 

 ユキが眠そうに目を擦りながら体を起こす。

 

 

 

ユイ :『うみゅ、もう朝なの』

 

ココネ:『全然違いますよ!? まだまだ夜ですからね!?』

 

ユキ :『なんだ、まだ夜なんだ……。お休み……』

 

 

 

 一瞬起きたユキだったが、またすぐに眠りに就いてしまう。

 

 

 

ユイ :『あっ!? またユキくんがココママの膝に!? それになんでユイよりココママを信じてるの!?』

 

ココネ:『ふふっ、これがユキくんの信頼の差、ですよ。悔しかったら、ユイちゃんももっとユキくんに信頼されると良いですよ』

 

ユイ :『うみゅ……、つ、次の対戦では目にものを見せてやるの……』

 

カグラ:『全く違う方向に進んでるわよ。それよりそろそろ今日の配信を終わりにするわよ。これ以上はユキも起きてしまいそうだし……』

 

ココネ:『そ、それもそうですね。では、今日はありがとうございます。乙ココー』

ユイ :『うみゅー』

カグラ:『乙カグラー』

ユキ :『むにゃむにゃ……』

 

 

 

【コメント】

:おつかれさまー

:おつー

:乙ここー

:乙ココー

:乙ユキー

 

 

 

この放送は終了しました。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。