ロケット団戦闘員   作:○○海老

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思いついたので処女作投稿します。


ロケット団戦闘員、誕生

「ニドキング戦闘不能!勝者、トレーナーアレス!」

 

皮膚が焦げたニドキングが大きな音をたてて地面に倒れ込む。勝鬨をあげるように天に向かってリザードンが炎を吹き上げた。

 

「完敗だ、アレス……これが勝者の証であるグリーンバッチだ」

「ありがとうございます」

 

審判と黒いスーツを着た男、そして青い帽子を被った男の三人以外誰もいない静寂。

スーツの男は深く響く声で勝者を称賛し、勝利の証を帽子の男に手渡した。

 

「二年の成果にはご満足いただけたでしょうか、ボス」

「ああ、その腕前なら安心して任せられる。お前をロケット団戦闘員に任命する。唯一の、な」

 

ボス。そう呼ばれたスーツの男、サカキが笑みを深める。対峙する帽子の男、アレスも微かに笑みを漏らした。

 

「早くても5年はかかると思っていたが…二年でジムバッチを16個集め切るとはな。期待以上の成果だ。来週から戦闘員として働いてもらおう」

「承知いたしました。では今日はこれで」

 

アレスは踵を返してスタジアムを後にする。

 

彼の背後のモニターにはサカキの手持ちの全滅と、欠けることのなかったアレスの手持ちを示すモンスターボールが映し出されていた。

 

 

 

 

 

 

「今日はありがとう、リザードン」

 

気にするな、と言わんばかりに吠えるリザードン。こいつともなかなか長い付き合いになってきた。

 

3年前ボスに出会った後、カントーとジョウトのバッジを全て集めろと言われた時はどうなることかと思ったが。どうにも俺はトレーナーの才能があったらしい。

 

特に苦戦することなくバッジを15個集めきり、そして今日最後のジムであるトキワジムも一匹も気絶させることなく勝利した。

 

俺を戦闘員、とやらに任命したロケット団のボス、サカキ。ロケット団が何やら多大な悪事を働いているというのは知っている。

 

正直、ポケモンはロケット団が全て支配するべきだ、という思想を持っているわけじゃない。ポケモンにも幸せに暮らしてほしいし、ロケット団のやってることは良くないことだとは思う。

 

だが、自分の仲間であるポケモンの生活を犠牲にするほどじゃない。

 

シロガネ山に幼い頃捨てられた俺は凶暴なポケモンに襲われそうになっているところをロケット団に保護された。どうやらボスは身寄りのない子供を集めて訓練された私兵にしようとしていたらしい。

 

訓練施設に送られた俺は与えられたヒトカゲで施設トップの成績を維持し、五年間の訓練の末バッジ集めの旅に送り出された。おそらく同期の奴らもロケット団の下っ端や研究員になっているのだろう。

 

ロケット団を抜けて悪事を警察に報告することもできるがおそらく意味はないだろう。ロケット団は警察にも影響力があるし、ジムリーダーであるボスの告発なんて相手にされないだろう。

 

すぐにロケット団に特定されて俺やポケモンに報復が加えられるだろう。勿論逃げ切れるとは思うが……万一のこともある。

 

それに生活を保証してくれたボスには恩義がある。明日からの戦闘員の仕事も真面目にやるつもりだ。

 

「何にせよ、このままの生活がつづくといいな……」

 

与えられた部屋で一人つぶやくと気が少し楽になった気がした。長い旅を終えて、どこかで気を張って疲れが溜まってたのかもしれない。今日はもう休もう。

 

リザードンをモンスターボールに戻し、俺はベッドに向かった。

 

 

 

 

 

 

 

暗い部屋。長い机に並べられた5つの机に人影が同数座っている。

 

最上座に座る黒スーツの男、サカキが低い声で4人に呼びかけた。

 

「皆、よく集まってくれた。アポロ、アテナ、ランス、ラムダ」

 

呼びかけられた4人、ロケット団幹部達は微動だにすることなくサカキを見つめる。その姿に満足そうに頷き、サカキは口を開く。

 

「今回はいつもの報告に加えて重要な報告があるのと、次なる作戦の提案を聞きたくて皆を集めた。知っている者もいるかもしれないが……アレスが帰還した」

「あの子供ですか……二年で帰還するとは、やはりジムバッジ16個の収集という試練は過酷すぎたのでは?」

 

青い髪の男、アポロが反応を返す。しかしその声色はアレスの試練の不達成を疑っていない様子であった。

 

「いいや。奴はバッジを15個しっかりと集め切り、そしてこの私を打倒して任務を達成した。私に完膚なき敗北を与えてな」

「まさか…」

 

アポロ以外の三人も半信半疑といった様子であった。バッジを8個集め切るのでさえポケモントレーナーの最上位層、上位0.1%の者にしか成し遂げられないことである。16ものバッジを集めることを14歳の少年が成したという事はなかなか信じられることではなかった。

 

「信じられないだろうが、事実だ。だがこれも奴の訓練施設での成績を見れば納得できるもののはずだ。私は達成できない試練は出さん」

 

サカキの言葉を聞き、幹部たちはアレスに関する記憶を思い出す。

 

アレス。シロガネ山から拾われてきたその子供は訓練施設に入った頃から異質な存在だった。

 

ポケモンと以心伝心するかのように指示を出し、彼の育て上げたリザードンは他の追随を許すことない実力を有し、多くのポケモンをその火炎で焼き払った。

 

相手を惑わす補助技やタイプ相性を読み切った交代、あらゆる戦略を使いこなすアレスはまさにバトルをする為に生まれてきたような少年だった。

 

通常15歳まで訓練するプログラムを10歳で終了した彼は、以後サカキの元で個別指導を受け、旅に出た。幹部として出立前にバトルを行ったが既に傷をつけることは叶わなかった。

 

そんな彼が2年間で各地のジムを制覇した。確かに思い起こすとその事実に信憑性があるかのように感じられた。

 

「では彼の今後の処遇はどの様にするおつもりでしょうか?」

 

涼やかな表情で幹部の1人、ランスがサカキに尋ねる。サカキはその問いを待っていたかのように口角を吊り上げた。

 

「奴をロケット団戦闘員に任命し、各地の抗争、特殊任務に従事させる。手始めにどこかの勢力を叩き潰すのを奴に任せたい。手頃な相手はいるか?」

 

サカキは幹部の顔をじろり、と見回す。その呼びかけに答えるように赤髪の女、アテナが口を開いた。

 

「でしたらヤマブキシティのギャングの勢力がまだ抵抗を続けています。かなり強力なポケモンを多数所有しており手を焼かされていましたので、アレスをそちらに派遣するのは如何でしょうか?」

 

アテナの提案を聞き、サカキはギャングの規模等を頭に浮かべ、アレスにとって良い実戦経験になると考え、頷いた。

 

「ならばそれで行こう。作戦の計画、指揮はアテナに任せる。では報告に移ろう」

 

議題が移り、幹部達も手元の資料を開く。初めにラムダが立ち上がり、報告を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

光が瞼越しに目に刺さり、耐えかねて瞼を開く。ベッドを降りて窓を開けると、ポッポ達が囀りながらきのみを探して街を飛んでいた。

 

顔を洗ったら朝食の準備に取り掛かる。今日はミルタンクのミルクにトースト、オレンの実が入ったサラダにした。昨日の夜買っておいたものだ。

 

二年ぶりに帰った我が家での食事にどことなく安心感を覚えつつ、食事を終えて片付けをしていると、ドアのインターホンが鳴る。

 

帰ってすぐに訪ねてくるなんて誰だろうか。疑問に思うがとりあえず覗き窓を確認して、すぐに扉を開けた。

 

「兄さん!帰ってたなら早く知らせてくれよ!」

「ごめんごめん、昨日は疲れてたんだよ、シルバー」

 

ドアの先に立っていた真っ赤な髪の少女、シルバー。俺が旅に出る時5歳だったから……今は7歳か。身長がずいぶん伸びたように思える。

 

兄さん、と俺を呼んでいるが兄弟ではない。旅に出る前一緒にいることが多かった子だ。妹みたいに俺も思っているが。

 

実はこの少女はボスの娘……らしい。俺がボスの元で訓練を積むようになった時からよく遊んでいた。どうやら周りにロケット団員の大人しかおらず小さい頃から寂しい思いをしていたらしい。

 

その反動からか俺にはすぐ懐き、なんだかんだ兄妹のような関係を続けてきた。俺としても家族ができたみたいで嬉しかったというのもある。

 

「兄さん、冒険の話早く聞かせてくれよ!いや、それより捕まえたポケモン見たい!」

「わかったからちょっと落ち着けって」

 

久しぶりに会えて嬉しいのか俺にぎゅっと抱きついてくるシルバー。正直会えてめちゃくちゃ嬉しかったりする。かわいい。

 

「早くスタジアムまで行こう!どんなポケモン捕まえたんだ?」

「わかった、行こう。でも捕まえたポケモンは見てのお楽しみだ」

 

楽しそうに笑うシルバーに手を引かれ、俺は戸締りをしてスタジアムに向かった。

 

 

 

 

スタジアム、というよりロケット団のポケモン訓練所のバトルフィールドは本来使用予約が必要な所だが、そこはボスの娘ということですんなりと使用許可が降りた。

 

こうやって何も気にせず笑っているシルバーも、実はあのカリスマ溢れるボスの娘で立場的には偉いんだよな……

 

「兄さん!ポケモン早く見せて!」

「分かったよ。じゃあみんな、出てきてくれ」

 

俺が放ったモンスターボールから白い光が溢れ、中からポケモンが姿を表す。モンスターボールから出たポケモンは外の世界に出れたことを喜ぶように鳴き声を上げた。

 

「おーー!リザードンまた強そうになったな!それにこれは……カイリューにゲンガー、フーディンにニドキングだな!で、あとこのポケモンは……なんだ?」

「お、ポケモンもうそんなに覚えたのか、偉いな。ただこいつはカントーにはいないから分からなかったかな?」

 

光から現れたポケモンは六匹。大きく翼を広げるリザードンに髭をゆらめかせ、悠然と佇むカイリュー。何かを企むようにニヤニヤと楽しそうに笑うゲンガーにスプーンを念力で浮かべてアピールしているフーディン。そして地響きを立てて地に降り立ったニドキング。

 

そして圧倒的な存在感と共に鈍く光を反射させた暴虐の化身、バンギラス。

 

「こいつはバンギラスっていうポケモンだ。シロガネ山に住んでたヨーギラスってポケモンを進化させたポケモンだよ」

「シロガネ山って超強いポケモンばっかりの危ないところなんだろ!?兄さんそんなとこ1人で行ったのか!すげえ!」

「まあな……」

 

実は7歳の頃にシロガネ山に捨てられてたんだって言ったらどんな顔するだろうか。言ってみたくなるが今は言わなくてもいい。シルバーがもう少し大人になったら話すかもしれないが。

 

リザードンは訓練所時代からのポケモンで結構長い付き合いだ。こいつが居なかったら俺は訓練所であんな成績を残すことは出来なかったと思う。リザードンの中でも突出して強い奴だ。特に炎の威力が並外れている。

 

バンギラス以外の他の四匹は旅をしている中で出会った。どいつも癖のあるやつだがなんだかんだ上手くやれてる…と思う。

 

だが実は一番付き合いが古いのはこのバンギラスだ。こいつは俺がシロガネ山に捨てられてた時に一週間ほど一緒に暮らした仲だ。こいつも俺も弱っちかったから2人で協力してなんとか生き延びた。

 

俺がロケット団に引き取られる少し前に頼もしそうなバンギラスについて行ったから大丈夫だとは思ってたが、旅の途中でシロガネ山に寄ってたまたま会った時には見違えるくらい強くなってた。

 

そこで試しにスカウトしてみたら快くついてきてくれたって感じだ。

 

「どいつも強そーだな…ちょっとバトルしてるところ見せてくれよ!」

「わかったわかった。じゃあ…誰かバトルしたいやついるか?」

 

聞くと全員が雄叫びを上げた。どいつもこいつも好戦的なやつだ。

 

俺の合図を待つことなく、リザードンとバンギラスが組み手を取り始めた。

 

 

 

 

 

 

一週間後。俺はヤマブキシティで作戦の開始を待っていた。

 

一応ロケット団のコスチュームを着ているが、区別のために帽子は普段の青い帽子を被らされている。

 

「いい?あそこのギャングのボスはかなりのトレーナーという情報が入っているわ。どのポケモンを使うかまでは秘匿されていて分からなかったけれど……本当に大丈夫なの?」

「うーん、多分大丈夫だと思う。俺もポケモンも結構鍛えてきたし、仕事だからちゃんと真剣にやるしさ」

 

ほんとかしら……と不安そうに俺を見るアテナ。アテナとは幹部の中でもかなり仲がいい方だ。幼かった俺の世話をよく焼いてくれた。個人的には姉……みたいに思っている。

 

「まあサカキ様があなたの実力を認めているから大丈夫だと思うけど……何かあったら助けを呼ぶようにね」

「わかったよ、アテナ」

 

2人で作戦の最終確認をしているとロケット団の下っ端が駆け足でやってきた。

 

「アテナ様!作戦の全準備、完了いたしました!」

「わかったわ。じゃあアレス、頼んだわよ」

 

了解、と頷くと俺は作戦の定位置につく。俺はロケット団員達がギャングの抗争しながらギャングの本部に攻め入るのについていき、ギャングのボス等の強力なポケモンが出てきたら処理するのが仕事だ。

 

ただヤマブキシティの警察やジムリーダーが駆けつける前に事を終わらせる必要があるので迅速な作戦遂行が求められる。

 

特にヤマブキジムリーダーのナツメ、奴は超能力者だ。俺もジム戦で一度戦ったが俺の思考を読んでいるような戦いをしてきて薄気味悪かったのを覚えている。

 

正直超能力者なんてこの世に存在するわけがないと思っていたが目の前で空中浮遊されてしまえば信じざるを得ない。正直全てのジムリーダーで一番戦いにくかったかもしれない。一応完封勝利はできたのだが。

 

エスパータイプは人間の思考を読み取ることができる、ということも言われている。正直その面に関してはフーディンがバトル中の指示を全て読み取ってくれるのでありがたいと思っている。ただ敵に回るとその分恐ろしい。

 

そんなことを考えていると作戦開始のハンドサインが送られた。下っ端から繰り出された5体のサイホーンが耐衝撃加工の施されているであろうガラスを破壊する。中から驚いたような声と共に怒号が発せられた。

 

「前進しろ!」

 

下っ端の中でもリーダー格の奴が号令をかけると下っ端達が割れた扉から次々と中に押し入る。ギャング達もポケモンを繰り出して応戦しているようだ。

 

だがロケット団はそこらのギャングとは違い、幼い頃から訓練を施されたエリート戦闘員も含む優秀な人材を揃えている。そのことを証明するかのようにギャングの繰り出したウツドンやスピアーをこちらのベトベトンやマタドガスが薙ぎ倒している。

 

俺も彼らの後に続いて中に侵入し、奥へと進む。今のところ俺の出番は無さそうだ。ロケット団では特にどくタイプのポケモンの使用が推奨されている。その理由は人体に瞬時に影響を与えられるというのと、対策すれば味方の被害を抑えられるというものだ。

 

現にギャングたちはマタドガスの毒ガスが体に回って倒れていく。一方でガスマスクをつけたロケット団員達は毒を浴びることなく、的確に敵を始末していっている。

 

先行していた下っ端が地下への階段を見つけたらしく、リーダー格に報告する。リーダー格は粗方地上のギャングを片付け終わったことを確認すると地下への侵攻の号令をかけた。

 

地下へ隊列を組んで降りていく下っ端たちに紛れて俺もモンスターボールを構えながら地下へ進む。ここから先がギャングたちの本当の本部。油断せずに行かなければならない。

 

降った先にもギャングたちが大勢おり、ここでも乱戦になる。やはり地上にいたのは下っ端ばかりだったようで、今は少しロケット団が押されている。

 

ギャラドスの破壊光線が頭上を掠めるのを避け、物陰に隠れる。どうやら向こうも本腰を入れてきたみたいで、サイドンを数匹出してこちらに向かって突撃させてくる。ロケット団のポケモンは捨身の攻撃には少し弱い。ここは俺も手を出すべきか。

 

「いけ、ゲンガー!催眠術!」

 

白い光と共に現れたゲンガーがサイドンの頭上から催眠術をかける。

一体、二体と眠りにつかせ、ロケット団が体勢を立て直すための時間を稼ぐ。

 

ゲンガーの奮闘もあってかロケット団も体勢を立て直し、ベトベターを盾にしてマタドガスのガスを充満させていく。やはりギャングでもガスマスクを携帯しているものは多くなかったのか、次々と倒れていく。

 

このままボスのところまで攻め入れるか、と少し安堵の息を吐く。だが気になるのは情報にもあったギャングのボスがまだ出てきていないこと。ここまで攻めてきているのだからそろそろ出てきてもおかしくないからだと思うのだが……

 

そのまま下っ端達と共に最深部まで到達する。道中のギャングは全て片付けた。あとはボスと側近だけだ。リーダー格もそう思ったようで下っ端たちに隊列を組ませ、十全の注意を払いながら最奥のドアをサイホーンに突破させる。

 

そのまま中に突入して制圧を試みる。抵抗を警戒してポケモンを出して攻め入ったが、中はもぬけの殻だった。

 

「なに……?襲撃がばれていたのか?それともどこかから脱出を?」

 

リーダー格の男が首を捻りながら周囲を隈なく見渡す。下っ端たちが隠れられそうな場所を捜索するがどこにもボスが見当たらない。襲撃の情報が事前に漏れていてボスたちが避難していたのか?しかしギャングがそんな弱腰の手を打つだろうか。

 

どこか違和感を感じながら周囲を見渡す。その時リーダー格の携帯していた通信機から切羽詰まったような声が轟いた。

 

「救援要請!ギャングの本隊が我々の本部を奇襲!至急救援を!」

「なに…?くそっ。まんまとやられた!」

 

リーダー格が悪態を吐きながら壁に拳を叩きつける。違和感の正体がわかった。あまりにも()()()()()()()()()()()()

 

確かにロケット団の部隊は訓練されており精強だ。今まで幾個もの敵対勢力をその兵力でねじ伏せ、支配してきた。だが今回のギャングは別だ。

 

数年前ボスの仕事について行っていた時に聞いたことを思い出す。

 

ヤマブキシティを根城にする『ヤマブキファミリー』。なぜロケット団がこの大都市の支配権を求めて攻撃を続けながらも支配権を奪いきれていないのか。

 

それはこのヤマブキファミリーのギャングのボスの傑出した頭脳によるものだ。秘密主義の彼は自分の顔さえ側近に知らせず、彼に関する情報は昔異彩を放つトレーナーであったことだけ。

 

そんな彼がなんの抵抗もなく本場までロケット団を攻めいれさせた事に意味がないはずがない。彼は囮の下っ端ギャングだけを本部に残し、本隊をどこかへ隠してロケット団の作戦本部への奇襲を計画していたのだ。

 

奇襲を図られたということはこちらの作戦が筒抜けであったということ。つまり奴らの目的は恐らく幹部のアテナの身柄……!

 

「まずい……!」

 

俺は地上に出るために扉に向かって走り出す。リーダー格の男も下っ端を引き連れて地上へ向かおうとする。その瞬間警報が建物内に響き渡り、こちらを嘲笑うかのような笑い声が聞こえてきた。

 

『HAHAHA!そろそろ連絡がいったころかな?だが残念!お前たちに救援には向かわせない。悪いが地下への扉を強化壁で塞がせてもらった!』

 

声を聞いて地上への扉を見る。今まさに左右から壁が迫ってきており、通路が閉ざされようとしていた。まだ走れば間に合う……!

 

全速力で扉に駆け寄る。迫り来る壁の隙間を抜けようとしてスライディングで滑り込む。あと少しで壁の向こうへ届く!

 

しかし、あと一歩のところで壁は閉まりきり、外への道は閉ざされてしまった。

 

『OH!あともう一つお知らせがあったな。その壁は耐衝撃、耐火、耐刃……とにかく強化された特別性の壁だ!ポケモンの技は全て通じない!そのまま窒息して仲良く眠ってくれ!HAHAHA!』

 

またもや響く癪に触る声に苛立ちが募る。壁に拳を叩きつけるが壁は微動だにしない。リーダー格の男も悔しそうに眉を寄せている。

 

『あと言い忘れていたな。どうやらそこにいるらしいロケット団戦闘員とやら!バトルの腕が立つらしいが見せ場を作れなくて申し訳ない!だが安心してくれていい!君の活躍はきっちり君のボスに伝えさせてもらうよ!幹部の女の悲鳴と一緒にね!HAHAHA!』

 

また煽るようなことを言う声に言い返しそうになる。どうやら戦闘員である俺のことも向こうに筒抜けだったらしい。情報が漏れたのは一週間前より後……まさにハメられた形だ。

 

だが……俺は紛いなりにも戦闘員という役職をボスに任された身。作戦の遂行の障害となるものの排除を命じられた以上、このままここで座して死を待つわけにはいかない。

 

「仕事だからな……仕方ない」

 

悪いが、請け負った任務は全て果たさないといけないからな。お前の思い通りにさせるわけにはいかないんだよ。

 

「リーダー、団員達を扉から離れたところに移動させてくれ」

「何か策があるのか?戦闘員サン」

 

リーダーは俺を見定めるかのような視線を向ける。まあ14歳の子供に素直に従うわけはないよな。だが……安心してくれ。

 

「ああ、腕っ節には自信があるんだ」

 

なんたって俺はロケット団最強。唯一の戦闘員だからな。

 

 

 

 

 

「ふー、私の作戦は全て成功し、お相手の作戦は全て失敗。この時ほど快感を感じる時はないねえ」

 

数人の部下を引き連れた男がニヤニヤと笑いながら通信機をポケットに突っ込む。目の前にはロケット団の制服を着た者たちが地面に伏せ、残っているのは赤髪の女1人だった。

 

「無駄な抵抗はやめてさっさと捕虜になったらどうだい?ロケット団の幹部」

「悪いけど捕虜になるくらいなら今すぐ自爆してやるわ」

 

目の前の瀕死のアーボックと気丈に啖呵を切る女を眺め、そばにいるニョロボンを撫でながら男は笑う。男の手持ちは残り3体。女の手持ちはゼロ。周りの仲間も全員倒れた今、女の敗北、すなわちロケット団の敗北は決定的であった。

 

「ほう?今すぐこちらに下れば命は助けると言っても?」

「当たり前よ。サカキ様以外に忠誠を誓う気はないわ。失せなさい」

 

男はくつくつと笑い、幹部たちに視線で指示を出す。その様を見てアテナは顔を歪める。

 

「であれば実力行使に出るのも仕方ないか。やれ、ニョロボン。足を潰せ」

 

命令を受けたニョロボンが咆哮を上げて拳を振り上げる。恐らく、あの拳が当たると足は砕け折れるのは確実だろう。万力をこめながら拳が振り落とされる様をアテナは逃げることもせず口角を上げて見上げた。

 

「今よ。やりなさい、アーボック!」

 

瞬間。瀕死状態だった、いや、そう見せていたアーボックが跳ね起き、ボスの右腕に噛み付く。炎を纏った牙により男の腕は瞬時に焼け焦げ、次第に肉の焼けるような音が響き渡る。

 

「ぐぉぉぉぉぉぉぉ!!このクソ女!往生際の悪い奴め!今殺してやる!ニョロボン!奴を殺せ!お前たちもやれ!」

 

叫び声をあげるボスはアーボックを腕を振って跳ね除けると血走った目でモンスターボールを投げる。すると残りの2つのボールからエビワラーとサワムラーが現れた。そのままジリジリとアテナを囲いながら三匹は近づいていく。

 

一方アテナの足の骨は先程のニョロボンの攻撃により折られており、到底逃げられる状況ではない。アテナは冷や汗をかきながらも笑みを浮かべる。

 

(一矢報いたわね。これで捕虜にされることはないし、ロケット団に迷惑をかけずに済む。さあさっさとやりなさい)

 

再び力を込めたニョロボンが拳に力を込め、逃げることのできない女の頭を叩き割ろうとする。振り下ろされる拳を見てボスは狂ったように歯を見せた。

 

 

 

 

しかし、拳が頭部に届くことはなかった。何か見えない力により、空中に拳が固定されていた。苛立ちを覚えたニョロボンは腕を振り回すがその拳が動くことはない。

 

「戦闘員、救援要請に応じて援軍に参りました。今から殲滅を開始します」

 

ボスはわけがわからないまま上空を見上げる。そこにはカイリューに跨り空から降り立つ青い帽子の青年がいた。

 

「フーディン、サイコキネシスで幹部の首を捻じ切れ」

 

命じられたフーディンがスプーンを手に力を込める。その刹那、ボスの背後に控えていた幹部の首が捻れ飛んだ。カイリューから降り立った青年、アレスは落ち着いた表情でその光景を眺める。

 

「お前は……!なぜだ!?地下にお前たちは閉じ込めたはず!」

「壁は破壊した。俺のバンギラスに壊せない壁ではなかったからな」

 

ボスは信じられないという表情をして絶句する。カイリューから降り立ったアレスはアテナを見て舌打ちを一つした。

 

「間に合わなかったか……だが最悪の事態は避けられた。フーディン、残りのポケモンを片付けろ」

 

その一言とともに三匹のボスのポケモンはサイコキネシスで宙に浮かべられる。そのまま体を捻られてたまらず瀕死となった。

 

手駒を失ったボスは怒りのあまり顔を紅潮させ、そのままアレスに向かって突進してきた。

 

「くそが!お前さえいなければ……!」

「俺はお前のおかげでここに来ることができた。ありがとう」

 

その言葉と同時にフーディンがボスの足を捻り切る。男はその勢いのまま地面に激突する。フーディンが男の首を念力で締め、そのまま失神させた。

 

アレスはポケットから通信機を出し、サカキに通話を繋げる。

 

「ヤマブキファミリー制圧完了しました。帰還します」

『そうか、ご苦労だった』

 

通話越しに聞こえるサカキの声はこの状況を見透かしたようであり、どこか嬉しそうな響きを感じさせた。

 

 

 

 

 

 

 

作戦の後、俺はボスへ呼ばれて空き部屋で待機していた。ギャングのボス等の片付けを通話で頼んだのだが、何故か放置してこいとのことだった。何か考えがあるのだろうか。

 

改めて考えると、今回のアテナの負傷はほぼ俺のせいみたいなものだ。俺は戦闘員として敵の強力なポケモンを抑えることを任務として任されていた。しかし結果は敵に釣り出されて一歩間違えばアテナの命は今はもうなかっただろう。

 

用意された水を飲んで溜息を吐く。今回の件できっとボスは俺は過大評価していたと気づくだろう。たしかに俺はバトルは強いかもしれないが、他の判断はからっきしだ。

 

まず、なんと言っても、俺は覚悟が全く足りなかった。ロケット団に入るという意味も分かっていなかったし、人を殺すなんて事考えもしてなかった。

 

どこかで敵は戦闘不能にすればいい、と思ってたし、俺ならそれができると思ってた。実際、敵が目の前にいたらできることの方が多いだろう。

 

だが、敵がいつも目の前にいるとは限らない。俺のポケモンは紛れもなく最強の力を持っているが、俺は最強じゃない。ポケモンを奪われれば、俺は無力だ。

 

ロケット団に入った以上、これからも敵に狙われ続けるだろう。俺だけでなく、ロケット団の仲間も。

 

俺は確かにロケット団に入るしか道がなかったかもしれない。だが選んだのは俺だ。選んだ以上、覚悟を決めなければ守りたいものも守れない。

 

ロケット団に入ったからには、任務に手を抜くなんて事はしてはならない。一つの甘さが仲間の死に繋がる。

 

ロケット団っていうのは世間的に見れば犯罪組織だし、ポケモンにも人間にも悪いことばっかりしてる奴らだ。でもそこにいる奴らを守りたい奴はどうすればいい?説得して足を洗わせる方法もあるだろう。だが、それにはもう皆手を汚しすぎた。だったら、たとえ皆から憎まれようと、間違ってようと俺は自分の決めた道を進みたい。

 

その為には今は未熟だけど、世界を敵に回しても、幹部のみんなやボス、そして何よりシルバーを守れる力、知恵を身につけなきゃならない。

 

「俺は決めた。俺はロケット団戦闘員だ。もう、誰にも負けはしない。これからは絶対に」

 

これは宣言だ。誓いだ。もう絶対に油断はしないし、手も抜かない。手を汚す覚悟も、既にできた。

 

腰につけたモンスターボールを触る。こいつらはずっと昔から覚悟を決めてたのかもしれない。遅い、と言っているような気がした。

 

「覚悟を決めたようだな」

 

声をかけられ顔をあげると、その先にはロケット団のボス、サカキ様がいた。言葉を返すことなく、頷く。

 

「このままならただの実動部隊として扱うつもりだったが、期待通りの成長だ。お前をロケット団第五の幹部、戦闘員として正式に任命する」

 

満足そうに笑うボスに、俺は無言で頭を下げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……やはり、起きてしまったのね」

 

朝焼けの空の下、慌ただしく警官たちが動き回る。町外れから異常な騒ぎが起こっていると住民の通報があり急いで駆けつけたかったが、ポケモンの暴走が町中で起こっておりそちらの対処に手を焼かれていた。

 

町外れの無骨な家に駆けつけた頃には、そこには毒ガスに苦しむ多くの人が倒れ伏しているだけであった。

 

いや、もう一人。足を捻じ切られたまま呆然としていた男。おそらくエスパー技によって切られたものだろう。格好はいつもと随分と異なっていたが見間違えることはない。空手道場の師範、タケノリ。かつて私がリーグ公認ジムの座を賭けて争った男。

 

発見された時、周囲には男の生首がいくつも転がり、凄惨な状況だったという。彼も以前の様子とは打って変わって私が話しかけても要領を得ないことを呟くだけだった。

 

……ただ、彼はこう呟いていた。『ロケット団に手を出すな』と。

 

私は、夢を見た。かつて私に挑み、私が手も足も出ないまま敗北した青年。思考を読もうとしたが、ただあまりにも高度な戦術と、深いポケモンへの信頼、その二つに圧倒され、思考を読み取れきれなかった青年。私の、憧れの人。

 

彼がフーディンを操り殺戮を尽くすのを。この空手家の足を捻じ切るのを。……私は、信じたくなかったし、信じなかった。

 

あの青年は、ロケット団の一員だったのだろうか。あの悪名高いロケット団。彼とは正反対の組織の。

 

私の超能力は、見たくないものは見せるくせに、本当に知りたいことは教えてくれない。彼の考えが知りたいのに。まだ彼のことを信じていたいのに。

 

後日分かったことだが、タケノリは何やらヤマブキファミリーとかいうギャングのボスだったらしい。ここ数年、というより私が彼に勝利してから急に現れ、頭角を表した反社会組織。強力なポケモンを各地から集めて戦闘させることで更に強力なポケモンを生み出す。その強力なポケモンを使ってヤマブキシティを裏から徐々に支配していったらしい。

 

ジムリーダーの業務に追われて気づかなかった上、気まずさからタケノリのことをどこかで視界に入らないようにしていた私の責任は重いだろう。ヤマブキファミリーは解散したようだが、これからロケット団がどう動くかもわからない。

 

行方も知れない彼と、これからのヤマブキシティを思って空を見上げると、朝焼けの空に霧のように雲がかかっていた。

 

 

 

 

 

 

 

「皆、集まってくれてありがとう。今日は重要な議題について話し合う為に集まってもらった」

 

マントを翻して椅子に腰掛けた威風堂々とした男。現カントー、ジョウトポケモンリーグチャンピオン、ワタルが朗々とした声で謝辞を述べる。

 

「議題はロケット団についてだ」

「それはわかるが随分と急なんだな。この前もロケット団対策は話し合っただろ?」

 

ワタルの言葉にニビジムリーダー、タケシが応える。この場にはポケモンリーグチャンピオンと四天王の4名に加えて、カントーのジムリーダー8名が集められていた。皆、急に呼び出されたことに疑問を少し感じているようであった。

 

「ああ、ロケット団についてこれまで何度も話してきた。しかし俺たちはその強大さを見誤っていたかもしれない。先日のヤマブキシティでの出来事は知っているだろうか?」

 

ワタルの言葉に皆が頷く。その様子を確認したワタルは一度頷いて話を続けた。

 

「確かにこれまでも影で暗躍するロケット団の情報は掴んでいた。だが今回の事件はこれまでとは気色が違いすぎる。奴らが今まで惨殺死体を放置したまま現場を後にしたことがあったか?奴らは常に暗躍してきた。今回を機に、ロケット団の何かが変わった気がしてならない」

 

一度言葉を止めて呼吸をする。そして皆の顔を見回し、言葉を紡ぐ。

 

「それにもうひとつ気がかりなことがある。ロケット団と交戦した事のある者も多いと思う。その時の奴らの実力は、高く見積もってもジムトレーナーレベルだったはずだ。だが、これを見てくれ」

 

そう言ってワタルは後ろの壁に貼り付けた幾枚もの写真の内2つ指す。そこにはこじ開けられた壁の残骸の写真が2枚貼られていた。

 

「その写真がどうかされたのですか?」

 

タマムシジムリーダーのエリカが尋ねる。いつもは優雅に微笑んでいる表情も、ワタルの話を聞くにつれ険しいものになっていた。

 

「左の写真が発見された残骸。右の写真はその残骸に俺のカイリューの破壊光線をぶつけたものだ」

「ですが……ほとんど同じに見えますよ?」

「ああ。ほとんど同じ、というくらいにしか傷がつかなかった。どうやら対ポケモンの攻撃にかなりの効果を持つ壁のようだ。カイリュー以外のポケモンでも試してみたが、長時間かけて曲げることが限界だった。そうだろう?シバ」

 

ワタルに呼びかけられ、目を瞑っていた筋骨隆々とした男、シバが目を開いて答える。

 

「ああ、俺の格闘ポケモン達の力でもなかなか曲げられない強力な壁だった。試したい者は後で試してみるがいい」

「だが、この残骸の壊れ方を見てくれ。専門家にも調査してもらったが、一度ないしは二度のポケモンの技で完全に断裂したとのことだ。あまりにも分厚い壁だったので念のために調査を依頼したが、まさかこんな事実が隠れているとはな……」

 

いつになく真剣な表情で面々を見渡すワタル。誰かが息を呑む音が聞こえた。

 

「もしかすると……ロケット団はチャンピオン級のトレーナーを味方につけた、もしくは伝説のポケモンを捕まえたのかもしれない」

「そんなまさか……あり得ないでしょ」

 

そう呟いたハナダジムリーダー、カスミにワタルは視線を向ける。

 

「勿論、偶然の可能性の方が高い。だが先程述べたロケット団の姿勢の変化と合わせてみるとどうにも嫌な予感がしてね……」

 

そうワタルが呟くと、いつもは沈黙を保っている男。トキワジムリーダーサカキが口を開いた。

 

「ロケット団は新たなる戦力を手に入れた……そしてその力を各地の勢力に示す為に今回の事件を起こした。という仮説はどうだ?」

 

カントージムリーダー最強と謳われる男の発言に、ワタルは肯定の意を示す。

 

「そういう考えもできるだろう。なんにせよ、これまで以上にロケット団に対する警戒を強める必要があると俺は思う。そこで今までは守りに入っていたロケット団対策について、より積極的な案を今日は求めたいと思う。どうか皆よろしく頼む」

 

ワタルが言葉を締め括ると、皆が顔を見合わせて頷く。自分のジムの街、カントー地方を守る為にどうにかしなければならない。そう思って自分の考える対策を主張していった。

 

その喧騒の中、サカキはただ一人薄い笑みを浮かべていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい、聞いたか?ロケット団の幹部が5人に増えるらしいぞ」

「本当か?誰が出世したんだ?」

 

幹部が増える、という噂を話す同僚に興味ありげな答えを返す男。何年も下っ端から昇進せず、このまま人生を終えると思っている男からしてみれば、誰かの出世話はどうしても気になってしまうものだ。

 

「いや、なんでもサカキ様のスカウトっていうか。なんでも14歳のガキらしいぜ」

「ガキ?なんでそんな奴が幹部になるんだよ。ガキが上司だなんてごめんだぜ」

 

男は同僚の発言に疑いの念を向ける。もちろん自分より年下の上役なんて御免だ、と同時に不平を垂れた。

 

「いや、組織運営に携わるわけではないらしい。どうにもバトルが滅茶苦茶強いらしいぜ」

「そんなガキなんて俺のマタドガスでぼこぼこよ!バトル挑んで勝ったら俺も幹部になれねーかな」

「いや、お前じゃ無理だと思うぞ」

 

男が冗談めかして放った言葉を否定する声。苛立ちを覚えた男が振り返ってみるとそこには赤髪の少女が立っていた。

 

「お、お嬢様?」

「幹部になったのは俺の兄さんなんだが、まず16個のジムバッジを二年で集めたすごい人だ。手持ちも勿論6匹いるし、全員めちゃくちゃ強い。マタドガス一体だと無理だと思うけどな」

 

少しムッとした表情で自身の兄の話をするシルバー。強さも勿論伝わったが、それ以上に彼らには無視できない発言があった。

 

シルバーはサカキの娘である。新しい幹部はシルバーの兄である。そのことから新しい幹部はサカキの息子である。そういう結論が導き出される。そのことに気づいた2人の顔は瞬時に青褪めた。

 

「も、申し訳ありません!もちろん幹部様に勝てるなんてとんでもない話です!そのような妄言を吐いたことを心から反省しています!」

「こいつも反省しているんで、どうか許してやってください!」

「え?あー、分かったならいいんだよ。分かったら!」

 

サカキの息子を侮辱していたことに気づいた2人は平身低頭シルバーに謝る。シルバーは大好きな兄を馬鹿にしていた2人が反省してくれたことに笑顔になり、機嫌良く去っていった。

 

「危ないところだった……このことが他の上司にばれたらえらいことだったぞ」

「ああ、早いとこ他の奴らにも知らせてやらないと……」

 

ロケット団の下っ端の彼ら。普段サカキを見かけることさえ無い2人からすると、サカキは忠誠の対象であると共に、畏怖の念を感じざるを得ない人であった。  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

僕は、あまりポケモンが好きじゃなかった。小さい頃から幼馴染のグリーンはいつもポケモンの話をしていて、いつか僕も旅に出てポケモンをたくさん捕まえて、チャンピオンになるんだ、と思ったこともあったけど。

 

やっぱり、木の上にいる大きなピジョンは怖かったし、草むらでいつも牙を向いてくるコラッタも嫌いだったと思う。

 

昔から話すのが苦手で、グリーンの幼馴染だからって言ってみんな話しかけてくれるけど。いつの間にかまた一人ぼっちになってた。人間と話すのも苦手で、ポケモンも苦手な僕はどうすればいいんだろう。そう思っていつも家でテレビを見ていた。

 

テレビで出ていたポケモンたちはみんな優しそうで、テレビ越しだから攻撃なんかしてこなくて、なんとなく安心してたのかもしれない。

 

だからポケモンたちが敵意を剥き出して戦うバトル番組とかは苦手だった。お母さんが見たがったけど頼んでいつもチャンネルを変えてもらってた。

 

そんな僕と遊んでくれるのは幼馴染のグリーンだけで、一回無理やりポケモンバトルの番組を見せられたことがあった。正直見たくなかったけど、友達が0人になるのは嫌だったから我慢して見た。

 

その番組は地方を巡るジムチャレンジャーを特集する番組だった。グリーンはチャンピオンのバトルが良かったって言って拗ねてたけど。僕はチャレンジャーのバトルの方が激しくなさそうだからよかった、って安心していた。

 

何人かのチャレンジャーのバトルが映像で流れた。どのチャレンジャーのポケモンも、ジムリーダーのポケモンの強力な攻撃を耐えて、我慢して、そして技を返していた。やっぱりバトルって痛そうで嫌だな、って思って早く終わることを願っていた。

 

最後に、今一番凄いらしいチャレンジャーの映像が流れた。なんでも怒涛の勢いでジムバッジを集めていて、既にカントーとホウエンのバッジを合わせて13個も持っているらしい。

 

そんな人のバトルなんて絶対痛そうなやつだ、と思って嫌な気分になった。グリーンが横にいるから見ないわけにもいかなかったけど。

 

チャレンジャーの人は、見たこともないすごく強そうなポケモンを出した。後から調べてみたけど、なんでも山を崩す程のパワーがあるらしい。ジムトレーナーの人はエスパー使いで、地面を抉るようなサイコキネシスをたくさん撃ちまくっていた。

 

でも、強そうなポケモンは微動だにしなかった。トレーナーもポケモンも攻撃なんか受けてないみたいで、全然痛そうじゃなかった。でも、エスパーポケモンが力を込めてパンチをしようとした時、突然ポケモンを引っ込めて、お化けみたいなポケモンを繰り出した。

 

そのポケモンにパンチは全然効かないから、またサイコキネシスをしようとするんだけど、今度はまた強そうなポケモンに交代して全然ダメージを与えさせないんだ。勿論、相手がどっちの技を出すかなんてわからないはずなのに、交代してダメージを減らしたり、もしくは読み切ってかわさせたりしてた。

 

ポケモンを傷つけさせないバトルの仕方に憧れた。鮮やかに相手の戦略を読み切る頭脳に感嘆した。

 

その試合の後、そのトレーナーのことを頑張って調べた。やっぱり有名なトレーナーらしく、すぐに情報は集まった。

 

曰く、天才。曰く、未来のチャンピオン。そんな枕詞ばかりついて語られたあの青い帽子のトレーナーの名前はアレスさん。手持ちポケモンはフーディンにゲンガー、カイリューにニドキング。そして相棒のリザードンに切り札のバンギラス。どのポケモンも今まで見たどんなポケモンより強そうで、何より安心感があった。

 

きっとあの人は次のチャンピオンになる人だ。そう思って僕はどうやったらチャンピオンに会えるかお母さんに聞いてみた。そしたらジムバッジを八個集めてチャレンジャーになるしかないんじゃない?って笑いながら言われた。

 

確かにそうだ。ポケモンと信頼しあって、強いトレーナーじゃないと、きっとアレスさんは会ってくれない。そう思って頑張ってポケモンの勉強をするようになった。

 

苦手だった草むらに近づいてコラッタに噛まれた。痛くて泣いて帰った。でもアレスさんの試合を見てたら勇気が出てきて何度でも草むらに行った。

 

バトルについても勉強した。グリーンについて行ってあいつのやるバトルごっこを見学してた。ずっと黙ってたからグリーンはちょっと気まずかったみたいだけど。

 

そうやって過ごしてるうちにポケモンが苦手じゃなくなっていった。怖かったピジョンにもきのみをあげられるようになったし、草むらのコラッタとも遊べるようになった。

 

そしたらポケモンたちも怖い生き物じゃないってことがわかって、どんどんポケモンと仲良くなれた。全部、アレスさんのおかげだ。

 

絶対に会ってお礼が言いたいって思ってポケモンの勉強をしてると、10歳になって、旅に出る日が近づいてきた。

 

この日までにアレスさんがチャンピオンになるかな〜って思ってたけどどうやらまだドラゴン使いのワタルのままみたいだ。もしかしたらどこかで修行してるのかもしれない。旅の途中で会っちゃったらどうすればいいんだろう。そんなことを考えてワクワクしてた。

 

グリーンは今からチャンピオンを倒して俺がチャンピオンになる!とか言ってるけどチャンピオンになるのはアレスさんだから無理だと思うよ、って言ったらキレられた。グリーンはおじいさんがすごい研究者だからポケモンの知識がすごくて、いつも自慢してくる。でも絶対にアレスさんの方がポケモンのこと知ってるに決まってる。

 

そして旅立ちの日。お母さんは怪我と病気のしないように、って少し涙ぐみながら僕を送り出してくれた。僕も絶対にアレスさんに挑戦して帰ってくる!って宣言して出発した。

 

まずは最初のポケモンをオーキド博士の研究所に貰いに行かなきゃいけない。途中の道でグリーンと待ち合わせしてたから、一緒に研究所に向かった。

 

どうやらグリーンは最初のポケモンはゼニガメに決めてるらしい。それを聞いて一安心した。僕の選びたいポケモンとは被ってなかった。被ってても絶対譲るつもりはなかったけど。

 

研究所に着いたら、オーキド博士が親切にも出迎えてくれた。グリーンはポケモンが待ちきれないようで研究所の奥に先に進んで行っちゃった。苦笑するオーキド博士と一緒にグリーンの後をついていった。

 

先に待っていたグリーンに急かされつつオーキド博士が最初の三匹のポケモンを見せてくれた。みずタイプのゼニガメ。くさタイプのフシギダネ。そしてほのおタイプのヒトカゲ。

 

グリーンが真っ先にゼニガメを選んで、次は僕の番。僕はずっと前から決めていた。一つのボールに手を伸ばす。

 

憧れのアレスさんの相棒のリザードン。その進化前のヒトカゲ。アレスさんとお揃いで僕のパートナー。くりくりした目がかわいい。

 

「……これからよろしくね、ヒトカゲ」

 

元気よく鳴き返してくれたヒトカゲを抱きしめる。グリーンが遠くからバトルしようぜ!って呼んでる。

 

このバトルから僕の戦いは始まるんだ。もう一度ヒトカゲを抱きしめて、僕は一歩踏み出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




詰め込みたいもの詰め込んでみた。

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