ゴミ溜めVRMMO記録   作:どうしようもない

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記録.71『契約は履行されず』

 

「そういやラミミ、新世界の方見に行ったか?」

 

 ボロと指スマをしながら、俺はラミミの方を向く。

 あ、ボロお前、あれは無しだぞ。セメントとか。純粋な数だからな。

 

「行ってない」

 

 マジで?あそこ魔境よ、魔境。

 馬鹿みたいに強い魔物がうじゃうじゃいるわ。あ、負けた。

 

「ルーよわ!」

 

 ふん、俺を超えたところで所詮雑魚よ。

 なにせ俺は四天王の中では最弱…。これから先、お前はもっと厳しい戦いに身を投じる事になるだろうよ…!

 

 俺の悪役ムーブを前にし、ボロが自分のほっぺを挟んで「ひょえー」とムンクポーズを決める。

 

 行った事無いなら見に行くか?

 新世界の野営拠点までなら舗装もされてるし、敵も出てこないぜ。なぁ、ボロ。お前も新世界見に行こうぜ。化け物がうじゃうじゃいるぜ?それこそラミミみて―な奴もいるぞ。

 

「おー!行きたい!」

 

「…まぁ、良いだろう」

 

 俺とボロの会話を聞いて、ラミミは皿を洗いながら承諾した。

 そうと決まれば早速行こうぜ!ボロ、暖かいもん着てこい!もう雪は降ってねぇが、風は強いからな。

 

「うん!」

 

 ボロは、俺の言葉を聞くと奥の部屋へと自分の服を取りに行った。

 おう、ラミミ。お前もさっさとコートやら何やら取ってこい。

 俺が蜜柑の皮を剝きながら、そう言うとラミミは溜息をつきながら亜空間から防寒着を取り出した。

 

 あ、持ってたのね。

 

「ルート、お前も早く着ろ」

 

 ラミミは俺を責める様にそう言った。

 俺ぇ?俺別にいいよ。風邪ひかねーもん。もしもの時、俺がさっさか動いて処理するからいらねー。

 

 俺は蜜柑を口に運ぶ。あー、すっぺーやつだこれ。

 蜜柑の酸っぱさに顔をしぼませていると、ラミミが鬼のような形相をして、俺に迫ってきた。

 

 え?何、どったの。

 

 ラミミは幼女の為、常日頃頬がほんのり赤い。

 間近で見ると、それがよく分かる。こんな細部にまでこだわってるこのゲーム、やっぱおかしいわ。

 

「私とお前、どっちが強いか分かってるか?」

 

 ……お、お前。

 学校で怒られているような感覚を覚える。

 なんだか懐かしい気持ちと同時に、ラミミのガチ怒りモードの恐怖が相まって、何とも言えない気持ちになる。

 

「分かってるなら、お前も防寒しろ。コートを着る私と着ないお前でも動き出しが早いのはこちらだ」

 

 ……へいへーい。

 着ますよ、着りゃいいんでしょ?ったくよぉ、過保護なんだよおまえはよー。俺は弱くねーんだ。現に金稼いできてんだろーが。

 愚痴愚痴文句を言いながら、亜空間からコートを取り出す俺を見て、ラミミは満足した様に頷いた。くそ……こいつ外じゃ内弁慶発揮する癖に…。

 

 暫くして、俺達は家を出た。

 目指すは新世界!希望と絶望の新天地!

 

 ◇■◇

 

「ルー、あれなにー?」

 

 新世界の野営拠点に着いて直ぐ、ボロが口を開いて何かを指差した。

 

 ああ?

 俺とラミミは、ボロが指を差した方向へと顔を向けると、そこにはプレイヤー共の人だかりがある。なんだ?なんであんなとこに集まってんだ?

 

 ……気になる。なんとも気になる。

 

 俺とボロは互いに顔を見合わせる。そして、頷き合うと俺はボロを抱っこして人だかりが出来ている場所に走り出した。

 どうせラミミの事だ。「危ないから近づくなー」とか言ってくるに決まってる。だったら先に行っちまおう!そうだろ?ボロ!

 

「ふふふ!」

 

 俺の考えを肯定する様に、ボロは笑い声をあげた。

 

 くけけ……!

 俺もその笑いにつられる様にこらえていた笑いが零れる。

 さーて、あいつらは一体何で集まってるんでしょーねぇ!後ろからラミミと思われる足音が聞こえる。しかし、奴は幼女…!歩幅しかり、加速しきるまでに時間が掛かる…!

 

 無事、人だかりの出来ている場所に到達した俺とボロは適当な奴に話しかける。

 

「なぁ、これ何の集まり?」

 

「あ?遺跡だ、遺跡。文明遺跡が見つかったんだよ…って、ごみ溜め…てめーかよ」

 

 おぉ、マジか。

 おい、ボロ。遺跡だってよ、遺跡。知ってっか?

 

「いせき?」

 

 おお、言っちまえば不思議空間だ。

 願えばそれ通りの事が起きたり、地面が突然水になったりする場所だよ。

 

「おぉ~!遺跡すごー!」

 

 おう、すげーすげー。

 俺はボロを肩車して、プレイヤー共を押しのけて遺跡の姿を見ようとする。

 ここにいる連中のほとんどは、野営拠点に滞在してた雑魚ルーキーだ。押せば倒れ、引けば倒れる木偶の坊ばかり。簡単に押しのけられ、俺とボロは人だかりの中心に到着した。

 

 そこには、二人のプレイヤーと地面に設置された扉があった。その扉は既に開かれており、中から淡い光を放っている。

 俺は、遺跡を見つけたと思われる二人のプレイヤーを見る。すると、そいつらは…

 

「あ、文ちゃんと明ちゃんじゃん」

 

「え?…あ!ごみさん!」

「ん?あ!ホントだ!……ってその子…」

 

 明ちゃんが肩車しているボロを見る。

 ん?ああ、そういやお前らにはまだ会った事無かったか?ボロっつーんだ。可愛いだろ?

 

「い、いや…どこかで…?」

「んん?そう言えば確かに……ああ!!!!」

 

 明ちゃんが疑問の声を上げると、文ちゃんも既視感があったのか少し唸り、何かを思い出したように叫ぶ。

 

「そ、その子…!確か遺跡で――」

 

 文ちゃんがそう言いかけた途端、俺の頭に掛かっていた幼女一人分の体重が消える。

 その瞬間、俺は一も二も無く叫んだ。

 

 

「―――お前ら死ぬぞ!逃げろぉおおおお!!!」

 

 手を大きく振りかぶり、辺り一帯に聞こえる様に俺は迫真の叫びをする。

 俺は腐っても二つ名持ちのプレイヤーだ。無名の奴よりは影響力がある言葉を吐ける。

 その声を聴いたプレイヤーは一瞬の間を置くと一斉に顔を青くして、その場から逃げ出そうと背中を見せる。しかし、その中で唯一人、背中を見せずにこちらに走り寄ってくる者もいた。

 

 ルーキーは何より死を恐れる。

 廃人ともなれば死は単なる通過点なり得るが、ルーキーにとってデスペナルティ程、恐ろしいものは無い。一定時間のステータスダウンとプレイヤー本体の経験値減少…。ルーキーのステータスはただでさえ低いのに、そこから更に下げられたら奴らにとっては溜まったものじゃない。それに、奴らは単純に死を怖がる。

 

 それ故に、()()()

 だからこそ、死の恐怖をトリガーとし、俺の発動条件は満たされる――。

 

「”蜈育ィ句香遘帝俣(先程十秒間)縺ョ縺阪♀縺上r(の記憶を)蠢伜唆縺励※(忘却し)閾ェ螳ウ縺帙h(自害せよ)!”」

 

 為される宣言。

 強制される言葉の執行。

 民衆は血を吹き、その場に倒れ伏す。

 

 俺は直ぐに上を向く。

 懸念されるは、ボロが宙を飛んでしまったことだ。

 肩に乗っていた体重の消失、これはボロが宙を舞ったことを意味する。もしも、これを知られたならば、ボロの身が危ない。

 だからこそ俺は死を予期させる言葉を吐き、その死への恐怖を持って俺を()()させた。

 

 これで、ボロの空飛びはチャラだ。

 問題は何故飛んだか…。

 俺は必死に空を見て、ボロを探す。しかし、どれだけ探してもボロの姿は視界に映らない。どこだ!?一体どこ行った!?

 

「ご、ごみさん!ごみさん!!!」

 

 すると背後で俺を呼ぶ声がする。

 そちらを振り向くと、そこには切羽詰まった様に遺跡への扉を指さす文ちゃんと明ちゃんがいた。死んでいないという事は、恐らく俺の言葉を信用しなかったという事だ。しかし良い。こいつらならば口は堅い。

 

 

 

「――ぼ、ぼぼ、ボロちゃんが入った!遺跡の中!入ってった!!!」

 

 明ちゃんがそう言う。

 その瞬間、俺はその扉へと走った。

 しかし、それよりも早く小さな影が俺の足を掴んで遺跡の扉へとダイブした。

 

 ら、ラミミ!!!

 咄嗟にその小さな影の正体を口にする。

 

「ごみさ~ん!!!」

「生きて帰ってきてね~!!!」

 

 そんな声が聞こえる。

 意識が混濁し、次第に微睡みの気配が―――。

 

 ◇■◇

 

 ………ッハ!

 意識が微睡みの靄を抜ける。

 ガバッと身体を起こし、俺は辺りを見回す。傍には小さな身体のラミミが倒れており、その更に少し遠くにペタンと地面に座り込んだボロがいた。

 

 ぼ、ぼろっ!

 俺はバタバタと慌てながら、ボロに近づく。

 す、すまん!俺が何か不自由な思いをさせたばっかりに!好きで飛んじまった訳じゃないんだろ!?大丈夫!俺はプレイヤーの中じゃ遺跡経験が豊富なんだ!すぐに出させてやる!どっかに出口が――、

 

 そう言ってボロを抱えようとした時、俺は異変に気付く。

 ボロが、ぶつぶつと何かを呟くように言葉を繋いでいるのだ。そして、それは…、

 

「あああ…違う違う…、僕のせいだ…、違う、違うんだ。すまないボロ…、君の思いを無駄にしてしまう…ああ、あああ、許してくれ…許してくれ……君にそう教えなかった僕が悪いんだ……なんてことを…僕はなんて許しがたい事を…!」

 

 ぼ、ろ……?

 ボロは顔を両手で覆い、何かへの悔恨を口にするように言葉を紡いでいる。その姿はあまりに似つかわしくなく、ボロの中に別の人格でも宿った様な気さえ…。

 

 俺がどんな言葉をかければいいのかと動揺していると、ボロはそこでようやく俺の存在に気付いたのか。こちらを見ると、瞳から涙を溢れさせてた。

 

「あ、ああ……ルー…、ルート…、ラミミ…すまない…許してくれ…君たちからボロを奪い去る僕を許してくれ…すまない…すまない……」

 

 何を、言ってるんだ…?

 お前はボロじゃないのか?まるで赤の他人の様な事を言うが、お前の姿形は間違いようも無くボロだ……。もしも、ボロじゃないというのならば、お前は…君はなんなんだ…?

 

 詰まりそうになる言葉を、どうにか吐き出す。

 

「ボロに、文明遺跡を見せてはいけなかったんだ…。ここは過去の場所…、僕を呼び覚ましてしまう忌々しい場所なんだ…。君は一度見たはずだ、思い出すんだ…。僕の過ちを…」

 

 涙を流すボロの小さな手が俺の額に触れる。

 その瞬間、今まではっきりしていなかった遺跡の記憶がぶり返す様に鮮明に思い出すことが出来る…。こ、これは…。

 

「ルート…君は遺跡での記憶を曖昧ながら覚えていたね…。あれは僕の仕業だ。心のどこかで僕を覚えていて欲しいという傲慢な魔法だ…。遺跡で会ったのだって一度だけでも君と会ってみたいという僕の我儘だ…しかし結局は…」

 

 そう、そうだ。思い出した。

 初めて文明遺跡に入った時、文ちゃんと明ちゃんと共に遺跡に足を踏み入れたあの場所で、俺は見たんだ。その場にいる筈のないボロを…。

 

 あのボロが、何故か神妙な顔をしていて、あの時こそ不思議にすら思わなかったが、今思えば何であんなところにボロが……?

 その途端、俺は目の前で泣き崩れるボロを見る。

 

 ま、まさか…あのボロは君だったのか?

 

 俺の言葉に目の前のボロは頷いた。

 

「元々、僕とボロは同じ体で共にあった。しかし、ボロは幼い。この任をするには未だ幼すぎたんだ…。」

 

「この、任……?」

 

 俺が疑問符をつけた声を上げると、目の前のボロは辛そうに言葉を紡いだ。

 

「遺跡調停者さ…。遺跡は特殊な場所だ。管理が必要になる。その管理を僕らは行っていたんだ…」

 

 ま、待って…待ってくれ…。

 ら、ラミミを…ラミミを起こしてきていいか?俺一人じゃ…駄目だ。ラミミがいないと、あいつがあいつこそが…。

 

「…駄目なんだ。ルート…これは君に話すべきなんだ…」

 

 は、話すべきってなんだよ。

 な、なぁ、一体どういうことだ?確かにボロは特別だった。普通の奴らと違って、空は飛べるわ、最近じゃ食欲も多いわ、色々と規格外だったが……。

 

「そうか…食欲が…。ボロは本能で察知していたのかもしれないな…こうなるかもしれないという事を…」

 

 悲しそうにそう口にするボロを見て、俺は混乱する。

 わ、訳が分からない…!どういうことだ!?意味が分からない!理解が出来ない!

 もしも君が遺跡調停者なら、なぜ共にあった筈のボロは腹を空かせてマップを彷徨っていた?なぜそんなに後悔している様に話す!?何をそこまで怖がるんだ?!

 

「…幼い故に調停者の任は出来ない。そう考えた僕はボロを外界へと逃がした。意識を切り離し、僕と全く同じ身体を与えて…」

 

 それが、マップを彷徨っていた理由…?

 じゃ、じゃあどうしてボロに遺跡を見せてはいけなかったんだ?なぜ、君はそんな後悔しているんだ?

 

 俺の言葉に、遺跡調停者は辛そうな顔を更に歪ませる。

 

「遺跡調停者の性だ…。遺跡を見れば、本能で思い出してしまう。ここに帰らねば、と……そして、一度でも遺跡に戻れば、ボロはもうそちらに戻る事は叶わない…」

 

 

 ―――…は?

 お、おいおいおいおいおいおい…。何言ってんだ…戻る事は叶わない…?だって君がボロをあっちに送ってくれたんだろ…?それならもう一度あっちに送ってくれれば…。

 

「無理なんだ…。エネルギーが足りないんだ…。きっと、ボロはこうなることを心のどこかで予期していた。だから沢山食べてエネルギーを蓄え、もしもの事があった時にそれで対処しようとしたのだろう…」

 

「だ、だったらそれで…!」

 

「足りないんだ…。外界の食はエネルギーの補給に向かない…。あれはあくまで娯楽…土台無理な話なんだ…」

 

 視界が歪む。

 世界が歪む。

 至る場所が大きく歪みだし、もうどうなっても良いと―――。

 

「る、ルート!!駄目だ、意志を保て!ここは君とラミミの精神状態が大きく作用する遺跡だ!ラミミが眠っている以上、君が意志を保つんだ!ルート!」

 

 わ、分かってる。分かってる…で、でも…。

 ボロは遺跡調停者…?

 もう一緒に過ごす事は出来ない…?

 エネルギーが足りない…?

 

 あの子の笑顔はどこへ行くんだ。

 あの子の手はもう握ることが出来ないのか?

 なにより、何も知らないままのラミミはどうすればいい?

 

 意志が揺れる。

 何も知りたくない。

 訳が分からない。

 これは、どこまでがイベントなんだ…?

 

「こうなると、分かっていたのに…。僕は、僕は……ああっ……、時間がきてしまう…」

 

 遺跡調停者がそう言うと、直ぐ傍に小さなブラックホールの様な丸い穴が出現する。

 それは少しずつ大きく、そして、何もかもを飲み込む様に引力すら伴って……。

 

「……すまない…。こんな形で別れたくなかった……僕はどれ程の償いをすれば…」

 

 ち、違う…君は、君は悪くない。

 た、ただ、俺の意志が弱くて……どう、どうすれば…

 ああ、いやだ…。どうすればこの状況を打破できる…?どうすれば…どうすれば…。

 

 臆病な少年のように蹲り、思考を巡らす俺を見て、遺跡調停者は片手で目を抑える。

 

「ルート、君はこのまま戻ってしまえば…きっと気に病んでしまう。耐えられない。だから、この場に関わった者の記憶を消す……。どうか許してくれ……弱く、醜く、傲慢な僕をどうか……」

 

「ま、待て!待ってくれ!それだけは、それだけはやめてくれ!記憶を消す!!?違う、違う違う!そんなの必要ない!大丈夫だ…!大丈夫!俺がきっと君もボロも救う方法を考え―――」

 

 言葉を必死に並べる俺の意識は、そこでぷっつりと途絶えた。

 白目を剥いて前に倒れる俺を、涙を流してボロの姿をした調停者が抱える。そして、黒い穴の中へ優しく放った。

 

「……すまない…。すまない…。僕は……僕は……!」

 

 涙を流しながら、調停者はララミの身体を抱えようとする。

 しかし、

 

「やめろ」

 

 その気高き幼女は、抱えられようとした手を払い、バックステップを踏んだ。

 そして、辺りをぐるりと見渡し、最後に遺跡調停者を見た。

 

「ら、ラミミ…き、聞いてくれ…今すぐここから出ないと…」

 

「微睡む意識の中で、薄らと聞こえていたとも」

 

 ボロの姿をした遺跡調停者を、ラミミは強く抱いてそう言った。

 それを聞き、遺跡調停者は愕然とする。

 そして、ラミミは驚きを隠せない遺跡調停者に言うのだった……。

 

 

「私は―――」

 

 ◇■◇

 

「んぎゃ!」

 

「あ!ごみさん!」

「ごみ溜めさん!」

 

 あー、顔打ったわ。

 クソいてぇ……。

 

 頬に固い地面と砂を感じて、俺はむくりと起き上がった。

 すると、文ちゃんと明ちゃんが視界に映る。

 二人は心配そうに俺を顔を窺いながら、それでも興味津々という様に瞳を輝かせた。

 

「「どうだった!?遺跡の中!!」」

 

 …遺跡…?

 俺はなんのことだ、と二人に聞き返した。

 俺は遺跡に入った記憶なんてないし、まずなんでここにいるんだよ。

 

 俺の言葉を聞き、二人はショックを受けた様に地面へと転がった。

 

「そ、そんなぁ……」

「せっかく譲ったのに……」

 

 ああ?何言ってんだよ。お前ら。

 俺は訳が分からないと言った具合に立ち上がり、その場から離れた。さーて、家にでも帰りますかね。

 

 

 二人きりになった新世界の地面でうじうじと文と明は落ち込む。

 

「うぅ…ごみさん酷いよぉ…せっかく大変そうだったから譲ったのに…」

「本当だよぅ……」

 

 その言葉を発して直ぐ、二人に一つの疑問が降って沸く。

 

「……なんで大変そうって思ったんだっけ?」

「……あれ?確かに」

 

 そう言って直ぐに、二人は再びうじうじと地面に転がるのだった。

 

 ◇■◇

 

「おーい、帰りましたよ~」

 

 俺はそう言いながら、家へと入る。

 

 そしてコートを脱ぎ、そこらへんにほっぽりだす。

 

「…あれ?なんで俺コート着てんだ…?」

 

 いつもならば、コートなんて着やしない。

 戦闘が起きた時に邪魔になるし、動きを阻害しやすいからだ。……まぁいいか。出かける時はそういう気分だったんだろ。

 俺は適当にそう考えて、コタツに入る。

 

「……なんで俺こんな広いコタツ買ったんだ…?」

 

 再び降って沸いたような疑問。

 しかし、それを考え出す前に突然外から大声で誰かの歌声が聞こえた。俺はなんとなしに窓を開けて、街路を見る。

 

「じんぐるべーる!じんぐるべーる!すっずがぁなるぅ!!」

 

「おい、もうとっくに過ぎてんだろーが!!近所迷惑だ、黙れや!!」

 

 直ぐに他のプレイヤーから叱咤が飛び交い、歌は中断されて乱闘騒ぎが始まった。

 うぜぇ奴ばっかだなぁ、おい。さっさと牢獄行きなんねーかなぁ。

 

 俺は開いた窓を閉めて、再びコタツに入った。

 すると、

 

「……あ?目ぇ疲れてんのか?」

 

 何故か俺の目から涙が零れた。

 あぶねーあぶねー…、もしも泣いてるとこなんか他の奴に見られたら一生ネタにされる。

 

 良かった~。

 

 

 

 

 

 ――――俺、一人暮らしで。


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