目指す場所は高くても   作:クロイツェルスター

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駆け抜けたその先へ

 4:00――起床。

 身支度を整え、運動前の準備を開始。

 完了後、ルームメイトを起こさないように静かに、けれど速やかに部屋を後にしてコースへと向かいます。

 最近になってわかってきたことなのですが、ルームメイトであるニシノフラワーは意外と寝付きがよく、少しの物音程度では目を覚ましません。

 それに甘えて雑な行動を取ることはしたくないため、やはり慎重に音を立てないよう行動し、今日も無事に退室ミッションを完遂する。

 

 5:00――簡易ミーティング。

 既に集まっていたチームのサポートメンバーたちと共に、訓練内容の確認及び体調チェックが行われる。

 こういう事が徹底されている辺りが、このチーム【リゲル】の評価に繋がっているのだろうと推測。

 サポートメンバーは全員がウマ娘であり、かつては日本及び海外のレースで活躍――或いは故障や病気によって競争から身を引いた方たちが殆どです。

 彼女たちのサポートに対する安心感は、実感が籠もっているという点も大きいのではないかと推測。

 ただ、気になる点があるとすれば、サポートメンバーの内の何人か――数人ほど、私でさえ昔から知っている非常に有名な海外ウマ娘に似た人物が見受けられます。

 トレーナーの人脈の広さに感心しつつ、今日の予定を含めた打ち合わせを行っていきます。

 

 6:00――訓練追加。

 訓練の合間に受ける質問や状態観察の結果に対し、訓練量の増大が提案される。

 鍛錬の量が増えることは素直に喜ばしく、少しだけ心拍の上昇を確認。早く坂路を走れるようになりたいと思います。

 短めのダートとはいえ、久しぶりにコースを走れたのは存外に興奮したらしく、興奮から熱量増大。クールダウンに苦労しました。

 

 7:00――訓練後の入念なケア。

 運動強度の確認及び慎重な負荷増大に対しての評価判定。その後、脚部のアイシングを含めたケアを実施。

 簡易診断では脚部の状態は非常に安定してきているとの判断が下される。ただし、坂路訓練は当面の間は禁止であるという予定に変更無し。残念です。

 

 12:30――昼食後に知人と歓談。

 トレーナーの指示により、規定の栄養を摂取……予定されていた昼食をしっかりと食べる。

 今日は久しぶりに顔を合わせたライスシャワーと同席。最近は少し元気がなさそうに思えていましたが、今日はどこか楽しそうにしていたように思えます。

 食後の水分補給の間に彼女を観察していると、やけに慌てた様子で顔を真っ赤にしてしまった。

 風邪でも引いたのですかと尋ねようとしましたが、“直感”が働き、口に出す前に思い止まることに成功。

 ごまかすように表情筋を行使し、微笑みを浮かべることで不自然さを隠蔽。上手くいったのか、ライスは顔を更に真っ赤にしてうつむいていた。

 平生の様子からすると体調不良も疑われる様子です。レースを控えている身として、ライスは体調の管理をしっかりとしたほうがいいように思えました。

 

 16:00――新規訓練施設へ移動。

 トウカイテイオー、サクラローレル、ビワハヤヒデ、ウイニングチケット他、数人と共に新規開設した施設へ向かい、訓練を開始。

 共に訓練を行った中では最も状態が安定していると判断され、代表として激流川上り(命名トウカイテイオー)に挑戦。あえなく流されてしまったのは非常に遺憾。次回こそは――。

 ちなみに、なぜか途中からやってきていたマヤノトップガンが軽々と川上りを成功させていたのには納得がいきません。彼女はいわゆる人魚ではなかったと思うのですが……。

 

 18:00――訓練完了と診察。

 本日のトレーニングを完了。訓練施設内にて様々な機器を使用しての診察が行われる。

 このリハビリテーションを目的とした施設にはウマ娘の治療や診察を行える人材が多く在籍している。

 そうした人たちの協力を得ながら訓練を行えているという実感が、復帰を目指すウマ娘たちに安心感を憶えさせるのだろう。

 

 

 

 ――という内容が記されたレポートという名の報告書を眺める。

 一度紙面から視線を外し、それを届けに来た当人へと向ける。

 彼女の表情には特に感情らしい感情は浮かんでおらず、以前から抱いていた機械のような印象は変わらないままだ。

 ただ、機械も使用され続けることで無二の物へと変質していくこともある。

 彼女――ミホノブルボンは、この文面からもわかるように多彩な感情をありのままに表現することが苦手なだけなのだろう。

 

「とりあえず、順調に訓練を行えていることは喜ばしいと思うよ。ただ、焦りは禁物だ」

 

 彼女の故障の遠因――或いは原因そのものは、明らかに限界を超えたスパルタ訓練にあると踏んでいる。

 あのハードトレーニングの効果は疑う余地はないし、彼女はその身を以て訓練の効果に対する証明を行ったと言えるがーー。

 

「君は確かにハードなトレーニングによって類い希な競走能力を得た。けれど、どれだけ頑丈だろうと限界値というものは存在しているんだ」

 

 結局の所、あのトレーニングによって花開いたミホノブルボンの能力は、それを受け止めて取り込むことのできたブルボン生来の頑健さが大きな要因だったはずだ。

 その限界値が高かったから問題が起きなかっただけのこと。だからこそ、こうして一度故障が発覚してからは逆に不安定な状態を続けることに繋がっている。

 誰の、何が悪いとかそんな話ではない。単純に、彼女は機械などではなく、血の通った一人のウマ娘であるというだけのことなのだ。

 

「まずはしっかりと身体を作り直していこう。直ぐに元のような状態に戻ることは難しいだろう。だがそれは無理を通していい理由にはならないと俺は思っている。骨膜炎はもう見られないけど、他の故障を誘発していないとはまだ判断できないからね」

 

 骨や筋にダメージが蓄積されていることは間違いない。

 それらが急速に回復することは難しいが、故障のリスクを最小限に抑えた訓練というのは、このチームの――俺のトレーナーとしての至上命題なのだから。

 

「わかりました。それと、兼ねてから相談させていただいていたことについて回答を願います」

 

 少しばかり眉を下げて表情に感情を乗せたブルボンが問うてくる。

 それについてはもう、とっくに結論を出しているのでここで伝えても問題はないだろう。

 

「君のマスターからも頼まれてね。君を、ドリームトロフィーシリーズで輝かせてやってくれと――病床に臥す中、それでも君の将来を危惧しておられたよ」

「……はい」

 

 彼女のマスター……トレーナーは大病を患っていた。

 幸い一命は取り留めたが、予断は許されず、今後は治療に専念することになるだろう。

 そうなればトレーナーを続けることもできず、彼の信念の結晶とまで言われたミホノブルボンは所属を失うこととなってしまう。

 このチームに彼女がやってきた理由は、故障からの復帰を目指す上で最適な環境と判断されたこともあるが、もっとも大きな理由は彼女の今後を見据えてのものであることは間違いない。

 

「――ブルボン。俺は、君をドリームトロフィーシリーズへ挑戦させたい。化け物たちの闊歩する魔窟でも、君ならきっと勝てると俺は信じる。君がまだ走りたいと望むのなら、俺と……俺たちと一緒に挑戦しよう」

 

 故障を乗り越えて、夢の舞台へ挑む。

 それは、かつて自身が夢見たものであり、自身のトレーナーとして抱く最大目標でもある。

 決意を込めた言葉に、ブルボンはこれまで見たこともないような綺麗な――本当に、綺麗で優しい笑みを浮かべていた。

 

 

 

 □ □ □

 

 

 

 それは、私が望んでいた言葉そのものだった。

 マスターと共に鍛錬し、距離の不安さえも克服してクラシックに挑んだ。

 三冠制覇こそ為しえなかったけれど、それでもマスターと共に挑んだあの時間は無駄などではなかった。

 私の怪我は、決してマスターの“せい”などではない。それを証明したくて、けれど焦れば焦るほど怪我の状態は快復から遠のくばかりだった。

 そんな折り、病床に伏せているマスターからこのチーム【リゲル】の存在と、そのチームを率いるトレーナーの話を聞かされたのだ。

 まだ若手でありながら、トレセン学園所属のトレーナーとしては最古参に近く、マスターも昔から馴染みのある人物だという。

 信念を以てウマ娘に関わり続ける一流のトレーナーとして信頼できると――彼の元で、自分たちが歩んできた道が間違っていなかったと証明してくるといい。

 踏ん切りのつかない私に決意させるためにそんな言葉を口にしたマスターの顔には、これまで見たことのなかった笑みが浮かんでいた。

 私のマスターは彼だけだ。彼だけだった。けれど、だからこそ――。

 

「はい、私の新たなマスター。私は、私のマスターと共に作り上げた競争ウマ娘、ミホノブルボンです」

 

 あの人と共に鍛錬を重ね、作り上げた2冠ウマ娘――それが今の私だ。

 私は、それを誇る。そして、これからも示し続けていきたい。

 そしてそれは、私一人では決して為しえることができない難行であることは間違いない。

 それでも、この人とならばその道を歩き始めることができると確信しました。だからこれは、その宣言なのだ。

 

「新たなマスターと共に、新たなレースへと向かいたい。ですので、どうかこれからよろしくお願いします、私の新たなるマスター」

 

 再び歩み始めた先には叶えることができるかどうかもわからない大きな目的。

 けれど、それは当然のことだ。

 駆け抜けたその先へ何が待っているのかは、これからの日々が決める。

 マスターと共に、これまでをそうして過ごしてきた私は、これからも同じように新たなマスターと共に駆けていこう。

 

 

 

 

 

 




ジェミニ杯の受付が始まってしまいました。
追い込み型マヤノと万能型ブライアン、長距離スタミナおばけと化したミホノブルボンで頑張りたいと意気込んでおります。

ブルボンいいですよね、ブルボン。
セイウンスカイもいいですけど、ここはぐっと我慢。
個人的にはアイネスフウジンがピックアップされなくて安心しております。
きたら、生活費を消し飛ばして課金しかねない……。

そんなわけでアプリでブルボンの育成に励んでいる内に書きたくなった次第であります。

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