気が付けば稲妻実装前日、しかもタルタリヤの誕生日じゃないか!!
と言う訳で突貫工事で仕上げてヘッドスライディングで滑り込み。
変な所あったらすまぬ。
※タルタリヤのキャラスト・伝説任務の内容に若干触れてます。タルタリヤを仲間にしていない場合でも伝説任務をやってから見るのをおススメします※
稲妻、それは雷神バアルが統治する現在鎖国中の国だ。
その稲妻へもうすぐ向かう事が出来ると聞いた俺達は急遽支度を整え始めた。
万葉から聞き及んだ情報からして、雷神との衝突は避けられないと判断した俺達は様々な武器や聖遺物、そして天賦の強化を進めた。
天然樹脂も余すことなく利用し、天賦本を大量に掻き集め、武器の突破素材を片っ端から回収して行った。その結果――――
「と、言う訳でモラが無くなりました」
「それを俺に伝えてどうするんだい相棒?」
モラ。それは様々な事に用いられる貨幣だ。
物の売買を始めとして武器の鍛造、鉱石の加工、武器・聖遺物や天賦の強化などなど……。
その用途は幅広く、とにかく物凄い量を要求される。それがモラだ。
稲妻に向けて準備を進めた俺達に立ちはだかったモラ不足と言う壁。その現実を前に死んだような目をする俺の前に居るのは
彼は彼で目にハイライトが入って居ないのだが、以前面倒を見た(見させられたとも言う)彼の弟であるテウセルへの態度や、彼の性格的にファデュイは向いていないんだろうなぁ……と思って居たら、いつの間にか俺自身に興味を持ったタルタリヤが旅に同行してくるようになっていた。
それで良いのか執行官。
「タルタリヤなら前みたいにモラくれないかなって」
「相棒は俺の事を何だと思ってるんだい? それに、俺も今は北国銀行に顔を出し辛くてさ。お金関係の事だと力になれないと思うよ?」
以前の様にお遣いを頼まれて渡されたモラを値切りでちょろまかす事は出来ない様だ。
まぁ、何となく分かって居た事だけれども。
「それはそうと最近耳にした話なんだけど、どうやら市場で聖遺物の取引幅が広がったらしいよ」
「……それはどこ情報?」
「いきなり目の色変えたね。この情報だったら、この前璃月をこっそり散歩してたら拾えたよ?」
「そうなんだ……。最近秘境しか潜って無かったからなぁ」
「君の収集癖は相変わらずだね」
どうやら俺達が血眼で聖遺物をかき集めた所為か、今まで取引出来なかった聖遺物も売買出来るようになっていたらしい。最高ランクの聖遺物は未だ取引する事は出来ない様だけど、その一個下までの聖遺物なら普通に売れる様だ。
「よし、じゃあ早速換金してこよう」
「あ、あいぼ――――」
大量の聖遺物を抱えた俺は、タルタリヤが何か言おうとしたのにも気付かずに全速力で璃月の換金所へと向かって行くのだった。
◇ ◇ ◇
「す、凄い……。こんなに大量のモラが……」
「お帰り相棒。その様子だと上々な結果だったようだね」
換金を終えて戻ってくると、タルタリヤは釣りをしながら待っていてくれたようだった。
大量のモラを得てホクホク顔の俺に気が付くと釣りを切り上げてスッと立ち上がる。
「これなら前以上に強化が捗りそうだ。教えてくれてありがとうタルタリヤ」
「お安い御用さ。……一応確認しておくけど、強化用の聖遺物は残してあるんだよね?」
「?」
「?」
ふと発されたタルタリヤの言葉を頭が理解するのを拒んだせいで思わず鳩みたいな表情になる。
それに釣られて首を傾げるタルタリヤだったが、何かを察したのか右手で顔を覆う。
その光景で理解を拒んでいた頭がようやく現実を受け入れ始めた。
「強化用の聖遺物無くなった……」
両手両膝を地面に突いて、無情に突きつけられる現実に打ちひしがれる。
考えてみれば……いや、考えなくても分かるはずだった。聖遺物を売ってモラを手に入れれば、売った分だけ聖遺物は減って行くと言う単純な事実に……!!
モラに目が眩んだ俺はその事実に気が付けなかった。今まで過剰に余っていた聖遺物を有効活用出来るとウキウキ気分で換金してしまった結果がこの有様か……。
「いや、まぁ……そう落ち込むなよ相棒。聖遺物ならまた集め直せばいいだろ? 俺も秘境攻略に付き合うからさ」
「……そう、だね」
タルタリヤに慰められるが、正直完全に立ち直るにはもう少し時間が掛かりそうだ。
稲妻へ行けば新たな秘境に新聖遺物が眠っているかも知れない。それを考えるとどうしてもため息が漏れてしまう。
「はぁ……」
「割と重症だな……。そうだ」
ちょいちょい、とタルタリヤに突かれてそちらを向くと、彼は先程まで魚を釣っていた竿を俺に渡して来た。
「折角だ、一緒に釣りでもして気晴らしと行こうじゃ無いか」
そう言うと彼はもう一本の釣竿で早速釣りを始める。
それにつられて俺も隣に座って釣りを始めた。
「……懐かしいな。こうして誰かと釣りをするのは」
釣りを始めてしばらくはタルタリヤも俺も無言のまま釣りに集中していた。だが時が経っても魚は現れず、俺に少し眠気が襲ってきた頃合いを見計らって彼は口を開いた。
「故郷のスネージナヤだと湖なんかは軒並み凍ってたからね。水面に貼った氷に穴を開けてそこに釣り糸を垂らしながらじっと待つんだ。身体の芯まで凍えそうな寒さと、いつ掛かるかも分からない魚を待ち続けるのは、戦いと通ずるものが有る。ただひたすらに神経を張り詰めて機が熟した瞬間、その一瞬を逃さず捕らえる。そんな感じで、釣りは鍛錬としても実に有意義なんだ」
「そ、そうなんだ」
いつになく饒舌に話を弾ませるタルタリヤ。
氷上釣りを戦闘の為の鍛錬として生かすその言動は、常に戦いを欲する彼らしさを感じられた。それと同時に、眠気に襲われ退屈そうにしていた俺を気遣ってくれていると言う彼の優しさも。
「そうなると、さっきまでの俺はタルタリヤにとって隙だらけも同然だったね」
「あぁ。拍子抜けするくらい隙ばかりだったよ。次は気を付けてくれよ?」
「勿論」
俺とタルタリヤは互いに軽口を叩き合う。
魚は未だにその影すら見せてくれないが、今はその時間がありがたかった。
「……隙と言えば、タルタリヤはいつも元素爆発を撃つ時に『隙を見せるのはほんの一瞬だ!!』って言うよね。でも戦いの最中に一瞬でも隙を見せたら危ないんじゃない?」
俺は前々から疑問に思って居た事を口にする。
生粋の武人らしいタルタリヤが口にするには少し疑問の残る口上だ。
それを聞いたタルタリヤは少しばつが悪そうに頭を掻く。
「あぁ、それか……。『その隙は誘い出す為の罠だよ』みたいな感じで相手を煽ろうとしたんだけど、中々上手い言い回しを思いつかなくてね。結果的に『一瞬の隙も突けない様じゃ、まだまだだね』見たいな感じであの口上にしたんだけど……ダメだったかな?」
「そう言う事だったんだ」
今までの疑問が解消されてスッと腑に落ちる。
そう考えるとあの口上も中々悪くないのかもしれない。
「いや、良いと思うよ。中々皮肉が効いてると思う」
「そうか……!! ハハッ、君のお墨付きまで貰えたなら大丈夫そうだ!!」
自身の口上を褒められたタルタリヤは快活に笑う。
それからも俺達は他愛ない話を続けた。最初は気分転換にと始めた釣りだったが、その頃には魚が釣れるかどうかは大した問題じゃ無くなっていた。
「―――おっと、もう昼過ぎか。相棒、腹は減ってないかい?」
「ん、そう言われると確かに」
朝から聖遺物の換金→釣りと来たお陰でお腹が減り始めていた。
それに気付いたタルタリヤは、待ってましたとばかりに釣竿を脇に置いて弓を構えた。
「そうか!! なら、手っ取り早く飯にしよう。少し待っててくれよ……」
そう言うとタルタリヤは、つがえた矢を水面に向けて一息に解き放つ。
綺麗に湖へと吸い込まれた矢は悠々と泳いでいた魚を見事に射抜いてみせた。
「よし、成功だ!!」
どうやら今放った矢には釣り糸を括りつけていた様で、タルタリヤは矢が魚を射抜いたのと同時に糸を引っ張り上げる。見た目からは想像も付かない程に鍛え上げられた彼の肉体、そこから発される剛力は、暴れ回る魚など意にも返さずに空中へと引きずりだした。
「相棒、キャッチ、キャッチ!!」
「え? あ、うん。……よっと」
余りにも一瞬の出来事過ぎて茫然としていた所で声を掛けられる。
ようやく意識が戻って来た頃には、お膳立てされた様に魚が手の中へと吸い込まれていた。
……これで弓が一番苦手とか本気?
「さぁ早速調理と行こうか」
俺が魚を手渡すとタルタリヤは手早く調理を進め始める。その迷いのない鮮やかな手捌きは、彼が精通しているのは武芸だけではないという事を明瞭に物語って居るかのようだった。
「……これで良しと。待たせたね相棒。俺の得意料理……そのアレンジだ」
「わぁ……。タルタリヤって料理も得意なんだね」
「まあね。身体を作るためには食事も大切だ。本格的な料理人にも負けず劣らず、くらいには出来るつもりさ」
そう言ってタルタリヤは得意げに笑う。
早速差し出された料理を口にすると、魚の味わい深い旨味とそれを引き立たせるかのようなミントとドドリアンの爽やかな風味が口の中を突き抜けて行く。
魚の持つ生臭みを的確に取り除いた上に本来のレシピとは違うにも関わらず素材の味を見事に調和させ、引き立たせている。その見事なまでの一皿は瞬く間に俺の胃の中へと納まって行った。
「ふぅ……ごちそうさま。美味しかったよタルタリヤ」
「それは良かった。作った甲斐があるってものさ」
俺の食べっぷりを見守っていたタルタリヤはそう口にする。
今の彼が浮かべている笑顔は戦いの際に見せる相手を威圧するような獰猛な笑みとは違う。
以前、弟であるテウセルに見せていた、親愛の情を浮かべた温かな笑みだった。
強化分の聖遺物までも売ってしまった俺を励ます為にここまでしてくれるなんて。
俺にも兄が居たらこんな感じだったのだろうか?
―――そう考えると同時に、少しだけ胸がチクリと痛んだ。
「……ありがとう、タルタリヤ」
そうだ、項垂れている場合じゃない。
俺にはもう一度会わなきゃいけない
そのためにも、まずは稲妻へ向かわなきゃいけない。
「……いつもの相棒に戻ったみたいだね」
俺の表情を見たタルタリヤは満足げに頷く。
そして水元素で双剣を形成し、両手に構えた。
「近い内に稲妻に向かうんだろう? 丁度気合も腹も満たされただろうし、食後の
その様子を見て俺はフッと笑みを浮かべる。
「あぁ、そうだね」
俺も剣を構えて彼と対峙する。
油断出来ない相手、あえて敵に塩を送るような人物、ファデュイきっての戦闘狂。彼を指す様な言葉が幾つも思い浮かぶ。危険だと感じさせるような要素は幾らでもあるが、それでも憎めないような間柄にいつの間にか落ち着いていた。
それすらも彼の思惑通りか、それとも……案外彼もこの関係性を気に入っているのか。
互いに混じり気の無い笑みを浮かべながら、良い汗をかいた所で食後の運動を終えたのだった。
万葉君で吸い込んでタルタリヤで斬り刻むのは最高に気持ち良いって古事記にも書いてある。