小鬼殺しのウィッチャー   作:ごぶりん

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第3話

 怪物の痕跡を辿りながら深い森の奧へと進む。ひとたび足を踏みいれば其処は人間達の支配領域から外れた世界。如何に無力な存在か、この眼前に広がる自然がそう告げているような気がした。

 

 折れた木の枝。踏まれた草花。そして残された足跡。それらが合わさり剥き出しとなった地面が1つの道となって目的地を示している。

 

「……怪物達の通り道か」

 

 あの村で起きた略奪事件の数々。村人達が把握していない略奪もあっただろう。この草木を踏み均して完成した道を見れば相当な回数を往復してきたのが分かる。

 

「自分達が狙う獲物の数、持っている武力に蓄えている食料。そしてそれらを守っている砦と呼ぶには弱々しい柵の防御力。初めは慎重に斥候を出して情報収集に徹して、徐々に推し量るように略奪を開始した……」

 

 怪物達が作り上げた道を観察し、痕跡を追跡しながらこれまでに分かった事を整理する。

 この怪物は知能があり、集団で狩りを行う。つまり群れ統率している頭目が存在していてソイツが企てているに違いない。

 

「あの村を標的に定めて脅威を計り、容易いと理解した途端に村人を襲った。――段階が1つ繰り上がったな」

 

 これまでの家畜や備蓄の食料等の小さな成果ではなく人間という大きな成果があった。

 これで怪物達はよりいっそう大胆に攻撃性を増して村を襲うに違いない。

 それに女性が拐われてからは怪物は現れていない。日増しに増えていく被害が突然消えた。ありえない話だ。

 

「……二週間もあれば馬鹿でも襲撃の目処が立つ。群れをまとめている奴は慎重でいて臆病な性格だな」

 

 それとも統率するのに苦労しているのか、どちらにせよ分水嶺はとうに過ぎている。明日、いや今日にでも村を襲って喰らいつくしてもおかしくはない。

 

 そうなればどうなるか? 村は滅びて農民は根絶やしにされるだろう。勿論、報酬も無い。そしてその厄介種は辺りに飛び火していく。そうなればウィッチャーとしての誇りが、矜持が失われる。

 

「そうなる前に根城を見つけなければ」

 

 残された時間は少ない。足早に追跡をするが、疑問は泡のよう浮かんでくる。未知の怪物に対しての不安材料があるからなのかと自問自答する。

 

 いや、答えは分かっている。何故今になって現れたのか……だ。

 

 ウィッチャーとして長く怪物殺しをしてきた経験が告げている。この怪物は今まで何処にいたんだと。

 

「……考えたくはないな」

 

 ―――あらゆるモノが凍てつく世界『白き霜』

 ―――世界と世界が交わる大変動『天体の合』

 

 あの場にいた。そして見届けた。全てを終わらせた。その筈だ。だが、合点がいく。辻褄があう。

 

 あの時、世界は確かに交わった。だから……

 

「仕事に集中しろ」

 

 どこか腑に落ちない所があるのは認める。だが、よそごとを考えながら完遂できる程この稼業は優しくない。

 

 身を引き締める思いで自身に言い聞かせる。先ずは目の前の怪物退治。そのあとでイェネファーとトリスの力を借りよう。

 

 

 

 

 

「―――足跡はこの洞窟に続いている」

 

 本来ならば怪物に有効なオイルを使うのだが相手が未知の存在である以上、憶測で使用するのは危険がある。今回は霊薬の『猫の目』と『ペトリの魔法薬』を飲んでおこう。

 

 ―――全身を駆け巡る血管が膨張する感覚。人ならざる者のみが知覚する沸き上がる力の原水が体に染み渡り循環していく。

 

「―――」

 

 銀の長剣を抜き、暗闇が広がる洞窟に踏み込む。常人なら灯りなくして暗闇が支配する洞窟を進むのは困難だろう。だが、ウィッチャーにとってこの程度の暗闇は障害にはなりえない。

 

 魔力の宿った指先と幾多の怪物を屠ってきた銀の剣を携えてゲラルトは淀みなく怪物達の領域を踏みしめるように一歩一歩と進んでいった。


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