英国産の悪魔憑き   作:夭嘉

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水の都へ

サラと彼女の恋人であるシャープ指揮官にディナーをご馳走された後、私とアザゼルはまたブリッジに連れられてくる。

 

そこには、レジェンドの面々が揃っていた。

 

 

「紹介するわ。メアリーとアザゼルよ。今日からチームに加わるの。」

「お前ら……カップルか?」

「そうだけど?」

 

 

ミック・ロリーと呼ばれた男が、気持ち悪そうに私達を見る。

 

ミック・ロリーとネイト・ヘイウッド、ザリ・トマズは初対面だ。ロリーとトマズはよく分かってないようだけど、ヘイウッドは私とアザゼルを訝しげに見る。

 

 

「アザゼルって、堕天使のアザゼル?」

「悪魔だよ♡」

「文献じゃ元天使って、」

「悪魔だ。」

「ネイト、悪魔なのよ。」

「サラまで……」

 

 

本人が悪魔だと言うんだから、アザゼルは悪魔だ。

 

 

「私達は魔物を捕まえるのを手伝いに来たの。ジョンと同じくらい詳しいから、遠慮なく言ってね。」

「ジョンとはどういう関係なの?」

「メイは友人だ。」

「違う、同業者ってだけ。」

「そういうことだ。よろしく頼む。」

『談笑中、失礼します。新たな逃亡者を検知しました。』

 

 

ウェーブライダーの人工知能が、新しい魔物を見つけたらしい。

 

 

『場所は、1453年のヴェネチアです。』

「メイ」

「ん?」

「早速任務よ。覚悟は?」

「もちろん!」

「オーケー!ギデオン!1453年に向かって!」

 

 

亜空間に入り、レジェンド達は任務の準備にかかった。

 

私もサラに連れられて、衣装部屋に入る。サイズを測られ、人工知能のギデオンが衣装を作ってくれた。ルネサンス期の服を着て、私も一緒に船を降りる。

 

今回組むのは、風のトーテム所持者のザリ・トマズだ。

 

 

「メアリー、その方が魔術師っぽいわよ。」

「ありがとう、ミス・トマズ。」

「ザリでいいわ。」

「あれ……?」

「どうしたの?」

「アザゼルは?」

 

 

アザゼルがいつの間にかいなくなってて、ザリも周りを見渡す。

 

彼の気配もなく、ザリがサラに連絡してくれた。

 

 

「サラ、アザゼルは?」

『一度地獄へ行くそうよ。』

「なんで!?」

『さぁね。挨拶が何とかって言ってたわ。そういうことだから、メアリー。ダーリンがいなくてもきっちり仕事しなさいよ。』

「………チッ」

『今舌打ちした?』

「何でもないです。」

 

 

通信が終わり、私は空笑いする。

 

まだサラのことをよく知らないけど、怒らせちゃいけない人というのはよく分かった。ジョンでさえ口を閉じるのは恐れ入る。あの捻くれジョンを黙らせるなんて、ヤバイ。

 

でも、アザゼルがいないなんてやる気が出ない。

 

………サボろうかな。

 

 

「メアリー、逃げようって思ったでしょう?」

「バレた?」

「ちょっと…やめてよ。愛=やる気なんて、どんな方程式よ。」

「ごめーん!ちゃんとやるからトーテムから手を離して?」

 

 

アザゼルの言う挨拶とは、恐らく地獄のビッグ3への挨拶だろう。こっちのアースの地獄では、サタンとベリアル、ベルゼブブが仕切っている。彼がこの世界の悪魔じゃないとはいえ、挨拶は必要だ。

 

私は、どのアースのサタンとも相容れない。

 

アザゼルさえいればいいから、私には関係ない。

 

 

「着いたわ。」

「おお…!水の都!」

「この年にビザンツ帝国、つまり東ローマ帝国が滅亡して、ギリシャの学者達がヴェネチアに亡命したそうよ。」

「へぇ。」

「ギデオンによれば、本来ならその学者達はここに留まらずフィレンツェに移るはずだけど、どういうわけかまだヴェネチアにいるそうなの。」

 

 

魔物のせいで歴史とは違うことが起こったから、ギデオンが探知したということらしい。

 

私とザリは運河沿いに歩き、私は魔力を探す。

 

 

「何か見つけた?」

「全然。」

「ねぇ、これって……」

 

 

ザリは橋の袂に近付き、白い糸を見つける。

 

その白い糸はネバネバしていて、日陰である橋の袂に張り巡らされていた。運河の町で湿気が多く、白い糸を出す生き物は限られる。

 

 

「蜘蛛の糸だね。」

「でも、蜘蛛で歴史が変わるかしら……?」

「普通の蜘蛛ならあり得ないね。」

「サラ、逃亡者かもしれないわ。」

 

 

サラに連絡を取り、ザリが目の前の状況を説明する。ジョン以外は、みんな理解していないようだった。蜘蛛というワードに、ジョンは私と同じ魔物を想像した。

 

 

『アラクネだな。』

『アラクネ?』

「ギリシャ神話でアテナの怒りを買って、蜘蛛にされたの。」

『アラクネは首を吊って自害したが、アテナはそれを許さず、アラクネを蜘蛛にして呪ったという話だ。』

 

 

承認欲求が強く、自己顕示欲も強い魔物だ。何を考えているか分からない。簡単には終わらなさそうだ。

 

 

「気を付けて。憎しみが強い魔物だから、追っていると分かったら、」

『なぁ、アラクネってどんな姿なんだ……?』

 

 

ヘイウッドの声が弱々しく聴こえてくる。

 

 

「呪いだから、蜘蛛女を想像して。」

『ネイト、どうした?』

『まずい……』

「え?」

「ネイト?」

 

 

次の瞬間、彼の悲鳴が聴こえて応答がなくなった。

 

どうやら、アラクネが目の前に現れたらしい。

 

 

『メアリーとザリ!一番近いあんた達がネイトを追い掛けて!私達もすぐに向かうわ!』

「了解、キャプテン。メアリー、何してるの?」

「黒魔術。」

『メイ!それは使うな!!』

「ジョンうるさい。」

 

 

通信機を外して、手の中で風と火を使って壊す。ザリが通信機を着けてるし、別に必要ないだろう。ジョンの保護者面には腹が立つ。

 

 

「行こ。」

「黒魔術って便利ね。」

 

 

魔力の気配を追い、私はアラクネを探す。

 

嫌な予感がする。

 

憎しみや怒り、負の感情は力を増幅させる。地獄の鉄則だ。アラクネは魔物だけど、悪魔寄りの魔物になる。

 

面倒なことになりそうだ。

 

 


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