転生チートオリ主としての責務を全うしろ   作:ワナビノリナス

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特殊タグが使いこなせる気がしないので初投稿です。


鮮烈なる銀騎士

 ふざけているのか。そう、この一年間だ。今までの不可思議でただただ邪魔くさいだけのファンシーな敵に対して憤りと違和感を感じていた。だが、アレは平和ボケしてしまっていた我々を油断させる為の見た目で、こちらの戦力を測るために繰り出された冷徹なる偵察だったのだろう。

 

 もっとよく考えるべきだった。私達を分断させるつもりが透けて見えるような三つに別れた敵性反応にそれぞれが一人ずつ急行してこの有り様だ。

 

 まるで歯が立たない。脅威的なスピードと威力の拳打を繰り出してくる豚面の敵に、防戦を強いられながらも、なんとか当てた剣の手応え。それを確かめながら歯噛みする。自分の力ではヤツの命を絶つのは不可能だと冷静で無情な判断を下し。それでもと剣を構え、息も絶え絶えになりながら敵と対峙していた。

 

「このような子供に剣を持たせるとは……もはや救えぬな」

 

「……ヴァルキリーはこの星に降り立って堕落し切ってしまったのか? それとも別の思惑があるのか、一体何を考えている」

 

 何を言っている? この敵はコスモヴァルキリーについて何か知っているのか? 人ならざる豚面の顔でも見ればわかる程この敵は現状に対する落胆と失望と、そして私に対する哀れみを目に湛えている。

 

「実力の差は充分に思い知っただろう、ヴァルキリーの若き尖兵よ、今ここで背を向けて逃げるのならば追わぬと約束しよう」

 

「バカな……ことを言わないでください……っ! 私が逃げれば周りの人々を……っどうするつもりですか!」

 

「気丈だな……しかし哀れなものよ……それほどの若さで使命に殉じる気か。それとも、その意志はお前自身のものではないか?」

 

 コイツはどういう訳か、人の移動を制限する結界を張り、民間人をこの一帯に留めている。自分ひとりだけならば、エネルギーを使い果たすほどの出力を出し切れば結界を潜り抜け逃げることは出来る。敵の言葉を信じるなら追い討ちをかけてくることもないだろう。しかし、その結果、結界に取り残された民間人がどのような目に遭うかわからない。明らかに他の二人と分断されてしまっているため救援も望めない。

 

「コスモイエローと言ったな? 貴様の強敵に立ち向かう勇気に免じて周りの人間は見逃してやろう」

 

「ハァ……ハァ……どういうつもりですか?」

 

 苦虫を噛み潰したかのような苦渋の表情をしてそう提案する敵に対して思わず問いかけてしまった。

 

「やはり殺しは好まん。弱き者たる貴様を討つことすら遺憾ではあるが。ヴァルキリーの手の者は生かしておけぬ」

 

 その答えを聞いて私は混乱してしまった。私よりも遥かに強く、やろうと思えば私の存在ごと周りの人々を一蹴できるような敵が何故そこまで甘いと思われてもおかしくない譲歩をこちらにしてくるのだ? 

 

「…………最終通告だ、その命……惜しくはないのだな?」

 

 何か違和感がある。何か、この状況や敵の言動に矛盾のような重要な見落しがあるように思えてならないのに。決定的に情報が不足している。

 

「っ……一つだけ聞かせてください」

 

「なんだ? 冥土の土産に答えてやろう」

 

「……とても悔しいですが……ハァ、戦っていてわかります。あなたの強さは、生まれながらのものでは無い……はずです。その力、真摯に磨き上げてきた武の積み重ねとお見受けします。あなたがそれ程までに、強くなろうと思ったのは……ハァ、何故ですか?」

 

「……敵の言葉など信じられぬだろうが答えてやろう…………俺が力を求めたのは、理不尽な暴力によって奪われる命を救うためだ……」

 

「だったらッ何故こんな……ッ」

 

「聞くな。覚悟の上だとも……俺がいずれ地獄に堕ちる事ぐらい」

「……貴様の名はなんと言う?」

「……萌黄セイカ」

 

「そうか、俺は誓約によりオークとしか名乗れぬ。許せ」

「萌黄セイカ。その名を忘れはせぬぞ。ヴァルキリーの尖兵とはいえ力無き者のため敵に立ち向かった貴き戦士よ……! せめて苦しむことなく死ぬがいいッ!」

 

 ダメだ。この怪物は望んでこんなことをやっている訳じゃない。今ここで私が死んではいけない。死ぬのが怖いのはもちろんだ。だけど、この怪物は最後の一線を越えようとしている、そう思えてならない。死力を振り絞ってでも抗わなければ。

 

「この土壇場にして往生際の悪い……! 諦めなければ奇跡が訪れるとでも信じているのかッ! 命懸けで戦って! 圧倒的な力量差が覆せるのなら! この世に悲劇など起こり得るものかァ!」

 

 涙を流しながら猛攻を仕掛けてくる怪物の拳を捌きながら叫ぶ。

 

「オーク! 私が死んだら貴方は戻れなくなる! だから、ここで倒れるわけにはいきません……絶対に!」

 

 皮肉なことにも、今までの戦いの中で最も傷付き体力を消耗しているのに剣技の冴えは今までで最高だ。相手にも今までで一番の傷を負わせることにも成功した。だが、そこまでだった。

 

「俺を慮る慈悲深さ。ヴァルキリーの尖兵と侮ったこと、重ねて詫びようッ!」

「だが!」

「力無き優しさは時に何よりも残酷だ!」

「お前は強く、よく戦った! 辛いだろうッ! 苦しいのだろうッ! 大人しくその首を差し出せと言っているのだ!」

 

「……くっ! しまった!」

 

 私の剣は相手に届くこと無く、オークの攻勢によって手元から弾き飛ばされてしまい。そして、剣の転がった先に人が居ることに気付いた。その人物は仏頂面で地面に落ちた剣を見つめており。私は、もしかして彼が状況が理解できていないのかと思い

 

「逃げてください!」

 

 と叫んだ。自らが命の危機に瀕しているというのに気付けばそう叫んでいた。そして、その後おかしいと思った。一般人には認識すら出来ない、ましてや越えることも出来ない結界を越えてきたこの青年は一体何者? 私にトドメを刺そうとしていたオークも攻撃を止め青年に注目していた。

 

 彼は私の事を目を瞠目させて見つめた後、横目で涙を流す子供達を見やり視線を鋭く前に向けた。そして、力強い足取りで歩み出すと、まるでそれが自分の使命であるかのように私の剣を手に取り、目映い光と共に銀色の鎧を身に纏いオークの前に立ちはだかった。

 

 神話の一幕というと過言かもしれないが、それでも私はこの時、憧れにも似た感動と共に見上げた銀色のヒーローの背中を一生忘れることはないだろう。




強敵に悲しき過去があるの好き。

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