イーデンブルク子爵家の三男として生まれたジェームズ・ガーフィールドは今年25歳になった。
そして、放蕩ぶりに見かねた親は家から叩き出して、ガーフィールドの名字を使うのを禁止した。
ガーフィールド家というのは、由緒正しい軍事の家系。司令官として騎兵を指揮して、どこまでも行くのだ。
そして、放蕩ぶりで追い出された私はジェームズではない。党員1万5863人の弱小政党『国家新党神州』で、党首けん広報官兼金庫番をしていた。常に1議席取れるか取れないかでキープをすることで私腹を肥やしていられたのだ。
なら簡単だ。それをやればい。幸い、追い出されるのはわかっていたからガーフィールド家から資金調達は出来ている。では始めよう、政党による金稼ぎを。
ー3年後ー
「何でこうなるんだ!?」
今、私は選挙結果の通知を受けていた。
上下院+貴族院があるのだが、この度の選挙で政党として初出馬をして、上院33議席中26議席、下院87議席中72議席を確保して圧倒的な勝利を掴んでしまった。
じりりりと電話が鳴る。
「はい。」
と電話に出たのが運の尽きだ。ひっきりなしに記者が質問をしてくる。
適当な政策とあやふやな目標に実現不可能なものを掲げたのに、大勝をしてしまった。公約をどうすればいいんだ?
ー公約ー
1 大規模財政出動、失業者を貧困層を無くす!
2 我が国は弱小である!隣国を追い抜く軍事力を!
3 生産技術の内部化!我が国は他の国に雇用を盗まれている!雇用を取り戻し、誇りを取り戻す!
4 農業国から工業国への転換!このままだと我が国は奴隷になるだろう!奴隷はあなたの子供かもしれない!
5 全国に鉄道網と舗装された道を!我が国では国民生活が第一!
6 国民一人に付き、毎日パンとたまごと肉か魚を!我が国は食生活が良くなく子供が貧弱だから弱い!
7 全国民に教育を!医療を!現在教育と医療は金持ちの特権である!我々はそれを許さない!
8 国民の税金を下げて、企業に減税を!
9 国民皆保険!国民年金の制定!
10 全国民に参政権を!
11 失業者や学生に福祉を!大学まで学生に手当を出す!
12 不平等条約の改正!
13 国家内の統一規格を制定!
14 係争地として奪われた国土を取り戻す!
15 所得倍増化!押しも押されぬ列強へ!
ー目標ー
我が党は実現可能かわかりませんが正しい政策を採用しています。
私があなた方なら我が党に入れます。
道なりは困難で泥水を啜り、ネズミを食うような激戦で有ろうとも我が党は国民の中の有志を求む!
我が政党は貴方達、今の国民ではなく100年後の今を見ている!子孫の代に奴隷になるか!今、立ち上がり戦うかは自由である!
自由の代価を100年後に支払うのか否かは自由である!我々は国家100年の計を元にして活動している!勇士であるならば骸を晒してもことを為すはずだ!
良くもまぁ、こんなひどい政策に投票したな。何一つ実行できないだろうが実行して、失敗して亡命すればまず良いだろう。
「まず、雇用対策として失業者を軍に入れる。軍にトラックやトラクターなどを配備してその失業者に道を作らせておけ。」
まぁ、妥当なラインの指示をする。だいたい予算なんかある訳がない。
「しかし、予算は?」
元大道芸人のライアン副党首が私に聞く。何で大道芸人何だ。こうなるのなら大道芸人ではなく大学の教授とかにしておけばよかった。勝つとは思わなかった畜生め!
「予算はこれだ。」
国家紙幣を出す。これはいわゆる不換紙幣であり、政府が好きなだけ刷れる。刷らないけど。
「それは?」
幹事長のゴシップ記者ジョージが私に聞いた。本当にひどいメンツだな。なぜ、国民がこの二人を当選させたのか理解ができん。
「これは何にも変換しない国家の信用のみで使われる新たな紙幣だ。」
紙幣にライヒと名付けた帝国という意味だ。
「これで、今の金本位制の紙幣を買う。つまり、市場の紙幣を更新する。この紙切れで金や銀と交換できる紙幣を取り戻すから実質国が持っている貴金属の量が増えるんだ。」
そして、信用が信用を生む永久機関だというと全員が理解してなさそうだ。よし!俺の案を潰せ!
「言ってる意味がわからないが、多分党首が言ってるなら正しいんだろう。早速官僚と学者を呼んできちんとした政策にまでしろ。」
(そこで、忠実さを出すな!ライアン!反対しろ!反対するんだ!)
ライアンに対してヤキモキしているとその場を制する声が出てきた。
「少しいいでしょうか?」
(元役人で不正をしていた疑惑で、懲戒免職をされたトーマスだ。小難しいこと言うやつならきっと俺の案を撤回させてくれるに違いない。俺はここで辞任をして退職金をもらって暮らすんだ。やれ!)
「確かに、この案はいいかも知れません。しかし‥‥」
(よしやれ!常識的に考えてありえないとか言え!)
「これですよ。まず、先に中央銀行を完全な国営化をしましょう。次に、この話が漏れる前に不正役人を一掃し、更に貴族に対する減税、庶民に対する減税などを行い、反発を抑えましょう。」
(何言ってるんだお前!そうじゃないだろう!)
「次に、国民が利用しやすいような国民鉄道や国民船の研究をさせて、これで出来た予算をどう国民に還元されるかを示しましょう。現在我が国の失業率は16.8%前後です。目に見える政策をしなければなりません。」
(お前ふざけるな!何を真面目にしてるんだ!潰せよ!)
俺は考えるフリをして、顎を触り水を飲む。
「公約を最初に見たときに、ずっと考えていました!我が国に必要な腹案を提出したときに貴族達や資本家に踏み躙られ、無罪の罪で懲戒免職にされたのを!私は党首に会うためにそういう運命だったのだと!」
(普通そりゃあ、実現不可能な理想案を掲げる怪しい公務員なんてクビにするだろ。)
「今の状況に合うように私になりに変えた政策です。」
出された資料が手元にくる。
ー資料ー
1 大規模財政出動、失業者を貧困層を無くす!
これに対しては、建築国債を使い公共工事によって失業者を吸収する。この公共工事はすべて国内企業と国内製品を使う。
2 我が国は弱小である!隣国を追い抜く軍事力を!
これには、1で回収できなかった失業者を軍に入れ国内製の武器を調達する。
3 生産技術の内部化!我が国は他の国に雇用を盗まれている!雇用を取り戻し、誇りを取り戻す!
1と2をすればやがて達成される。
4 農業国から工業国への転換!このままだと我が国は奴隷になるだろう!奴隷はあなたの子供かもしれない!
3が完了すれば達成される。
5 全国に鉄道網と舗装された道を!我が国では国民生活が第一!
1の事業はこれをやりましょう。
6 国民一人に付き、毎日パンとたまごと肉か魚を!我が国は食生活が良くなく子供が貧弱だから弱い!
公共事業の一部に国民食堂を作り、そこで一日一回を食べさせましょう。
7 全国民に教育を!医療を!現在教育と医療は金持ちの特権である!我々はそれを許さない!
無償の学校で、無償の食事を提供すれば国民は子供を学校に行かせるはず。医療費の即時無償は無理なので6割負担として、国民皆保険で積み立てる。
8 国民の税金を下げて、企業にも減税を!
減税をするための方策は不明。【党首が考えた不換紙幣なら可能】
9 国民皆保険!国民年金の制定!
いまだに年金は難しい、これは後で考えましょう。
10 全国民に参政権を!
教育が全てに行き届いてから。
11 失業者や学生に福祉を!大学まで学生に手当を出す!
これは即時できます。財源は国営化した中央銀行に吐き出させましょう。
12 不平等条約の改正!
軍事力などが高まってきたのなら、不平等条約は変えられると思います。
13 国家内の統一規格を制定!
公共事業などに全て規格をつけて、規格にあった工作機械などに補助金を付けましょう。
14 係争地として奪われた国土を取り戻す!
これは軍事力が高まってきたのなら相手が譲るはずです。
15 所得倍増化!押しも押されぬ列強へ!
すべてがなされればできます!
(トーマスがこっちをずっと見てくる。頷くしかない。)
ゆっくりと頷くとニコッと笑ってきた。こっちの感覚からすれば大変なことになるだろう。仕方がない。その責任を取って辞任しよう。
ー2年後ー
「なんで成功してるんだ!」
荒れ地だった土地に道路やダムを作り、農地に変え、港を拡充し運河を掘削した。大量の建築国債は金利分だけ毎年返される100年ものの国債。
「どうせ、ほかは‥‥。」
トラクターの名目で、戦車を作っているらしい。他にもトラック、タクシーや船に補助金を出して戦時には軍所属になるらしい。
工場も材木所にも補助金を出してこれらも軍所属になるらしい。ホテルや公園も補助金で作り、それらも戦時になったら軍施設になるらしい。
「国内企業の発達計画書?」
社債を中央銀行が買う?完全雇用、終身雇用体制の確保、重工業化計画?工業地帯に確保、農業の効率化による農地からの人々を計画的に失業をさせ、工業地帯を人為的に作り出す。
国土全体を重工業地帯として連結させることにより、工業の効率化、電力化、国家による企業資金の提供、鉄道と海により効率的にものを運ぶ。
輸出産業の振興、原料を他国から買い我が国の資源を守りつつ相対的な我が国の資源価値を上げる。
輸出により、摩擦が起きると予想されるが摩擦が起きないように原料は輸出国を中心に輸入する。
(これはさらに成功するのでは?よくわからんが。もう、首相として働きたくはないのだが。)
「トーマスを呼び出してくれ。」
どう難癖をつけようかと書類を見ていたらあることを思い出した。
「トーマス、そこにかけてくれ、この書類だが。」
トーマスは自信なさげにこちらを見ているいつもとの様子の違いになんだと思ったが、難癖をつけることにした。
「駄目だ!まずこんな都合がいい国はない!分かっているか?それに我が国にはマザーマシンを作れる工作機械は無い。わかるか?」
こうやって、トーマスを揺さぶるんだ。
「私もそう考えていました!流石は党首です!税、金融、市場改革に乗り出そうと思います!」
(税と金融の一体改革?何を言ってるんだコイツは!?)
「つまり、今は実質使われていない税などを廃止、更に参入を活性化する為の参入条件の緩和。そして、過度の競争や独占などを規制する法案。非効率な銀行などの廃統合、国内需要活性化計画をここに提言します!」
(何なんだよコイツ。本当にさ。)
「そうか、税をうまく集めれるのか?」
(よくわからないがなんでこんなにこの男はやる気があるんだ?)
「それがうまく行ってないのですよ。」
トーマスは困った顔をしている。
「源泉徴収をしてるのに集まらないのか。」
(そうか知らないがそうか。)
トーマスの顔が変わる。
「源泉徴収とは?」
(知らないのか?まぁ、別に説明するぐらいはいいだろう。)
「それはだな。」
給料から税金を天引きするシステム。これの話を聞くとトーマスは走り出した。何だあいつは?
ー3ヶ月後ー
戦車ができたそうで、呼ばれて見に行くと戦車があった。
トラクターに鉄板を取り付けて、砲が固定されている様な姿だ。これを自信を持って戦車だと言っているのか?
「まず、乗ってみてください。エンジンが中にあるので気をつけて下さい。」
(いや、エンジンを分けろよ。)
中に入ると吹き出す汗、サウナだ。鉄の棺桶だ。
「あのな、エンジンをまず分けろ。もう、俺の言うとおりに作れ!」
流石にこんな物に乗ってはいられない。
ー3ヶ月後ー
後方にエンジン室を作り仕切りを作らせた。砲は47mm砲を載せて、重装甲な戦車を作り出したのだ。
時速が11kmしか無いらしいが十分だ。車体は大きいのでエンジンが大型化するのにも耐えられるだろう。そのときには、もう首相を辞めてるだろうが。
銃も新しく作らせた。ボルトアクションライフルと型を見直して変更した。
オープンボルトのサブマシンガンも作らせたところで視察は終わりとなった。
そして、任期前に議会を解散をした。
最近はマスコミなども変わって、演説に来ている聴衆も何もかも変わってしまったと野次を飛ばす。このタイミングなら負けるはずだ!
「皆さん!我が党に一票を!」
(真面目に選挙活動をしないとライアンとかが殺しに来かねん。)
真面目に選挙を終えると再び、選挙結果を待った。
「何でだよ!」
また圧勝に次ぐ圧勝、上院33議席中31議席、下院87議席中83議席を確保して圧倒的な勝利を掴んでしまった。
「隣国の2個大隊が我が国の国境を越えてきています!」
(越境行為!?いや、まてここで弱腰をすれば、この人気も無くなるはずだ!)
「受け入れてやりたまえ。帰りたくなったら、彼らも帰るだろう。」
ほっとけと伝えてなにか考えが有る風なポーズを作り、送り出すこれで良い。
ー3時間後ー
「何故だ!」
件の大隊は隣国で革命が起きて逃げ出してきた亡命者の団体の先駆部隊だったらしく4個師団をこうして苦労せずに手に入れてしまった。
「もうどうにでもなれ!」
破れかぶれの気持ちになって戦争を開始せざるえなかった。
歴史に名を刻むジェームズの戦いはここに始まったばかりだ。