小説家になろうで連載されている「シャングリラ・フロンティア〜クソゲーハンター、神ゲーに挑まんとす〜」の二次創作です。

何も知らずにラブ・クロックをプレイした高校生の話です。

二次創作ですが、元ネタを知らなくても楽しめると思います。

私は、何も知らずにドキ〇キ文芸部をしたとき、ジャンルを知らずに橘さん家ノ〇性事情を読んだ時の感情を詰め込みました。

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小説家になろうで連載されている「シャングリラ・フロンティア〜クソゲーハンター、神ゲーに挑まんとす〜」の二次創作です。

何も知らずにラブ・クロックをプレイした高校生の話です。

二次創作ですが、元ネタを知らなくても楽しめると思います。

私は、何も知らずにドキ〇キ文芸部をしたとき、ジャンルを知らずに橘さん家ノ〇性事情を読んだ時の感情を詰め込みました。


ピザ嫌いは幼馴染ルートを所望する

ピザ嫌いは幼馴染ルートを所望する

 

「あー夏休みだし、なんかゲームでも買うかなー。」

 

斉田御影は趣味がフルダイブVRゲームの高校生である。

そんな彼は夏休みということもあり、新しいゲームを探しにゲームショップへやってきた。

 

「やっぱシャンフロ人気だなー。」

 

売り切れた棚を横目に見つつ、彼は目的の場所にやってきた。

 

「あったあった。」

 

ワゴンセール品である。

御影はバイトをしていないので、ワゴンセール品に度々お世話になっている。

 

「なんかよさそうなのないかなー。あっ、スリリング・ファーム。除けておこう。」

 

ワゴンセール品ということもあり、御影は何度かはずれを引いたことがある。スリリング・ファームもそのうちのひとつだ。

しかし、ワゴンセール品の中にはなぜか人気作品が混ざっていたりすることもあり、彼はワゴンをあさることがやめられない。

 

「やっぱり人気作は入ってないよなー。……うん?」

 

ふと彼が見つけたのは、

 

「ラブ・クロック?」

 

ギャルゲーだ。

御影はオフラインアクションゲームをメインで遊ぶがギャルゲーをしないわけではない。むしろ好きな方といえるだろう。ただ高校生としてギャルゲーを購入するのが気恥ずかしいということもあり、あまり買わない。なんかパッケージがエッチだし。

 

「た、たまには別ジャンルもありかな。」

 

一人で言い訳しつつ、彼はセルフレジに向かった。

 

 

 

 

 

「パッケージを見た感じ、はずれじゃなさそうだな。」

 

家に帰ったら、すぐに封を外し、説明書を読む。

 

(なるほど、普通の学園ものか。魔法とかバトルとかミニゲームとかもないしシンプルでいいな。……え、ヒロイン12人!! めっちゃいるじゃん。これはお買い得やな。)

 

当たりの予感にワクワクし、御影はすぐにVRヘッドセットを立ち上げた。

 

……ちなみに彼は、初期プレイ時にネットのレビューとネタバレは見ない派であった。

 

 

 

 

……

 

「起きてー“御影”。もう学校始まるよー。」

 

 

リアルネームで登録したのでわかっていたが、突然名前を呼ばれてドキッとする。VRゲームで最も革新を起こしたのはギャルゲーというのも納得だ。これは“沼”だ。

 

内心ドキドキしながら薄っすら目を開けると、

 

――美少女がいた。

 

キャラデザは2次元寄りでデフォルメチック。ぱっちりとした目に、ふわふわした茶髪。

いつまでも寝ている主人公に対し、困っている顔がめっちゃ“いい”。

 

期待以上のキャラクターデザインに戸惑っていると、

 

“ピコン!!” :起きる/寝たふり/二度寝

 

視界に選択肢が出てきた。

 

技術が発展したとはいえ、大抵のゲームではストーリーから外れた行動は対応してない。そのため、VRギャルゲーでは選択肢を表示し、それに沿ったロールプレイをするのが常識だ。シャンフロは特殊な例である。

 

(やっべ、想像以上に可愛いな。で、選択肢か。寝たふりして揺すってほしい欲もあるが、ここは普通に“起きる”かな。)

 

VRだから漏らせる欲望がよぎりつつ、

 

「ああ、おはよう。」

 

普通にロールプレイ。

御影のロールプレイ技術は普通であった。

 

「やっと起きた~。朝ごはん作ったから早くリビングに来てね。」

「うん、わかった。」

 

“ピッ” :2階に向かう

 

行動が表示される。

指示に従い美少女のあとについて行きながら、じっと見つめると、

 

“ピンッ”という音とともにステータスが表示される。

 

名前:大坂ありさ

関係:幼馴染、ご近所

好感度:2/5

説明:一人暮らしの主人公の世話を焼く幼馴染。明るく元気で、主人公に対する好感度は初期状態で高い。

 

ちなみに好感度は基本0からスタートである。

 

(なるほど、幼馴染ね。定番だな。)

 

御影はちょろい男なので、もう心が傾き始めていた。

 

(まあ、8割決定だけど、まだ、他のヒロイン全員見てからだな。うん。)

 

内心何の意味もない釈明をしつつ、ゲームを進めた。

 

 

 

 

 

 

「なるほどね。」

 

とりあえず、“はじめから”プレイして3時間ほど経ち、おおよそゲームの流れがわかってきた。

 

ゲーム自体はシンプルなギャルゲーである。時々現れる選択肢に沿ったロールプレイをして、各ヒロインの好感度を変化させる。特徴的な点は、ラブ・“クロック”というタイトルだからなのか、視界の左上に1から12の時計が表示されていることだろう。この数字はストーリーの進行度を表していて、6になるとどうやらヒロインが確定するようだ。

 

つまり、ストーリー前半でヒロインの好感度を稼ぎ、後半でハッピーエンドになるよう選択肢を選べば良いようだ。

 

「ありさルートで確定だけど、他のヒロインもすごくいいんだよなー。」

 

御影の中で、“ラブ・クロック”というゲームの評価は現時点で非常に高い。

 

彼のVRギャルゲーの評価基準は、キャラクター・ストーリー・モーションの3つだ。

 

キャラクターは、見た目、性格といった基礎的な部分だ。ここが駄目だとギャルゲーだろうが漫画だろうが面白さが半減する。もしくはギャグ化する。

 

ストーリーは、主人公との関係性の変化とその過程である。関係性が両想いに、交際になる過程にプレイヤーはドキドキするのだ。バッドエンドは考えないものとする。

 

モーションは、VRの特徴的なものである。VRギャルゲーはロールプレイが非常に重要になる。だからこそ没入しているとき、ふと現実に戻すようなものは忌み嫌われるのだ。

モーションが角ついていたり、変に動いたりするとストーリーに没入できず、途中で熱が冷め、つまらなくなることが多いのだ。

 

そして彼の中では、キャラクター:4/5、ストーリー:3/5、モーション:4/5である。

5に届かないのは、神ギャルゲー:AI‘s Songと比較してしまうからだ。

 

「久々に大当たりだな、これ。ていうかありさ可愛すぎだろほんと。明日第4章さっさと進めよ。」

 

そう言って御影はログアウトし、ゲームの世界から現実に戻った。

 

「うわっ、もう10時かよ。どうしよっかな、お腹すいたな。ピザの配達でも頼むか。」

 

 

 

 

 

 

御影は順調に、ありさルートを進めてた。

 

「ねえ、今日は晩御飯、外食にしない?」

 

“ピコン!!” :寿司/イタリアン/インドカレー

 

選択肢だ。

 

(どうしようかな。ここはやっぱりオシャレなイタリアンかな。そういえば、委員長がパスタの話してたし、何かのフラグかも。)

 

「イタリアンなんてどうかな?」

「うん! そうしよっか!」

 

笑顔で返答。どうやら当たりだったようだ。好感度も上がってるし。

 

御影は視界の矢印に従い、イタリアンに向かった。

あっ、店の前でローディング。

 

 

 

 

 

 

「どれにしよっか?」

「どれもおいしそうだね!」

 

メニューを開く。メニューには、ドリア、パスタ、ピザが表示されている。

これも選べるようだ。

これは好感度にそこまで影響しないだろう。というわけでパスタを選択。

 

「ご注文お伺いします。」

「あ、パスタで。」

「私はピザでお願いします!」

 

(え、好感度ちょっと下がった? ありさはピザが好きだったのかな?)

 

まさか食べ物で好感度が変化するとは思ってもいなかった御影だが、次の食事イベントでピザを選べば好感度が上がるだろうと気を取り直す。あとリアルと食の好みとが一緒でちょっと嬉しい。

 

「このピザおいしいよ! はい、あーん。」

「え、まじかよ! ……あーん。おいしいな!」

「そうだよね、えへへ。」

 

突然のイチャイチャイベントに5割増しキモイ笑顔の御影は、次も絶対ピザを選ぼうと決心するのであった。

 

そして当然、ありさのピザを見る表情が不自然なほど笑っていることは気付かなかった。

 

 

 

 

 

 

ついに御影は第9章へ突入した。第9章のイベントはバッドエンド、グッドエンド、ハッピーエンドを決める大きな分岐点。告白イベントである。

 

場所は屋上。

御影は告白する側であるので、ありさがやってくるのを今か今かと待っている。

……視界にやってくる時間は表示されているが。

そして

ガチャリと、

 

「御影~。こんなところに呼び出してどうしたの?」

 

 

“ピコン!!” :告白する

 

選択肢が現れた。

もちろん確定イベントなので、“告白する”しか選べない。

 

「……よしっ!! 実は、その、ずっと前から好きでした!!」

 

VRとはいえ、やはり告白シーンは恥ずかしいものである。

しかし御影は告白した。なぜなら好感度が5/5だからだ。

 

データに基づく絶対の自信を持った告白。

もはや彼の頭の中は成功した後のことしか考えてなかった。

 

 

「……そっか。」

 

だからこそ、

 

「私。」

 

想像もつかなかった。

 

「御影のこと、嫌いじゃないよ。でも!!」

 

まさか、

 

「でも!! 私もうピザの魅力の虜になってしまったの……」

 

 

――ピザに寝取られるだなんて

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「は?」

「私ね。来月で日本を離れるの。」

 

 

 

「は?」

「イタリアに行くの。」

 

 

 

「は?」

「そして、イタリアでピザ修行するの。」

 

 

 

「は?」

「だからごめんなさい!! もうあなたとは一緒に入れない。」

 

 

 

「は?」

「ピザ、留学なの。」

 

 

 

 

 

 

 

すぅーー

 

 

 

 

「は?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「は?」

 

御影はログアウトし、現実に戻った。しかし、頭は現実に追い付いていなかった。

 

頭の機能がほとんど停止した御影はとりあえず、何か食べようと思い冷蔵庫へ。

冷蔵庫を開け、物色していると、

 

ふと、昨日のピザの残りが

 

バタンッ!!

 

 

 

 

「っああああああああああああああああ!!!! 何で振られたんだよ!!!!!!  ピザって何なんだよおおお!!!!! ピザって、ピザって、おまそれは無いだろうがよオオオオ!!!!! しかも何でヒロイン全員イタリア行ってんだよ!!!!! ダース単位で留学してんじゃねええええ!!!! 何が『ピザ、留学なの』何だよそんな決め台詞いらねええええんだよ!!!!!」

 

 

残りもののピザによって現実に戻された御影は発狂した。

普通なら病院に行くことを勧められる程度には狂っていたが、あいにく両親は共働き、近所に家もないので、彼の叫びは誰にも認識されなかった。

 

「はあはあはあ、何なんだよ、ピザって。何なんだよ。」

 

叫び疲れて正気に戻ってきた御影はとりあえず携帯端末を起動し、攻略サイトへ。

 

_____

注意:このゲームは非常に難易度が高く、一度SNSで大炎上しています。つまり、世間一般ではクソゲーと呼ばれるゲームです。高度な時間管理能力を持った方、ピザが大好きな方のみ攻略サイトを利用しつつ、プレイすることをお勧めします。

_____

 

読んどきゃ良かった攻略サイト。

しかしすでに遅かった。

 

とりあえず、御影はサイトに目を通す。

 

 

……

 

どうやらこれはクソゲーらしい。最初から説明されていたが。

シナリオもキャラも世界観も問題ない。しかし、ハッピーエンドにたどり着くことが非常に困難である点が非常にクソなのである。

 

そもそもターゲットのヒロインとデート中に、別のヒロインと遭遇するとピザ行き。

特に何もしなくてもピザ行き。

しかも告白シーンまでは、食事イベントでピザを選ぶと好感度が上がる仕様。

また、ターゲットのヒロインがピザを食べた時点でピザ確。

 

まずストーリー前半では、ターゲットのヒロインには必ずピザを食べさせたらだめだそうな。昼食夕食デリバリーイベントでは、イタリアンとピザ屋は絶対回避しないといけない。

また後半から確定告白シーンまでは秒単位で店を選択しないと自動的にイタリアンかピザ屋が選択されるとか。最悪だ。

他にもヒロイン同士でかちあわせないように、ピザ追放キャラに対してさりげなく新しいイタリアンのお店の情報を伝えないといけないんだとか。もちろん秒単位で、だ。

 

正直何を言ってるのかわからない。そもそもなんでピザなのかもわからない。

 

とりあえずわかったことは、“ラブ・クロック”のクロックは、秒単位のプレイをするという意味であること。ピザ屋のマスコットキャラのモデルが、社長ということだ。

 

「なんだろう。たまにクソゲーやったことあるけど、これは、上げてから落とすプロセスが凶悪すぎるな。」

 

とはいえ御影は、ありさハッピーエンドを見たいのだ。ピザに負けるわけにはいかないのである。

 

でも、

 

「でも、今日だけはAI‘sSongするぅ。サツキちゃんで癒されるぅ。」

 

 

御影は立ち直るために、神ギャルゲーで英気を養う(浮気をする)のであった。

 

 

 

 

 

 

翌朝

 

「おっしゃおらああああ!!!! ピザでも何でもかかってこいや!!!!!」

 

本当はちょっとピザがトラウマな御影は、再びラブ・クロックの世界へ向かった。

 

 

 

……

 

再び、“はじめから”プレイを選択する。ラブ・クロックの時間管理は最初から始まってるのである。

しかも、ランダム要素が混じっているので、適宜タイミングの調整をする必要もあるのだ。乱数はクソである。

 

「絶対ありさルートクリアするからなああ!!!!」

 

誓いを胸に、いざ。

 

 

 

 

 

 

遅刻とは、すなわちピザである。

要するにプレイヤーはデートイベントで遅刻すると確定ピザ行きとなるのだ。

 

集合時間まであと30分。実はスキップできるのだが当然しない。この30分の間で、ありさ以外のヒロインをピザで誘導し、遭遇しないようにする必要があるのだ。

 

既にメールで9人は対処済み。しかし、ヤンデレと後輩だけは端末を持ってない。急げ。

 

自転車でダッシュ。ゲーム故道行く人はほとんどいない。ヤンデレの家に向かう。するとそこには出かける寸前のヤンデレが!!

 

“ピコン!!” :どこに行くの?/一緒に出掛けよう/大統領だ!!

 

このゲームは順調に進んでいると選択肢でリズムを狂わそうとしてくる。

……2,1!!

 

「やあ、日和さんじゃないか。今日はどこか行くの?」

「み、御影くん。実は………………。」

 

話半分に聞く。半分でチャートを作成。

 

話を聞くだけでヤンデレらしさが伝わってくる。非常にいいキャラだ。

でも御影は一番ヤンデレが嫌いだ。

 

主人公よりピザ選んでんじゃねえ

 

 

話を終えるとすぐに公園へ。後輩は確率3/4でランニングしている。急げ。

 

 

※確率はwiki有志による統計データに基づいています。

 

 

 

 

 

 

「ねえ御影くん? どこかいいお店知ってるかしら?」

 

“ピコン!!” :新しいイタリアンの広告を見たよ/ggrks/小百合なら知ってるかも

 

突然委員長に選択肢が。順調に進めていると途中からランダムイベントが発生する。

……3,2,1,0

 

「僕はあんまり詳しくないかな。小百合さんならそういうの詳しいと思うけど。」

 

ちなみにこのイベント、お嬢様こと小百合に、新しいイタリアンの話を事前にしておかないと確定ピザ留学である。

……wikiを作った偉大なる先駆者に感謝を。

 

 

 

 

 

 

ギャルゲー定番の修学旅行。行き先は京都。

そして、自由行動イベントでももちろん調整が必要だ。

 

「大仏凄かったね!」

「そうだね。」

 

現在、ありさとイベント進行中。今日も可愛い。

 

しかし、油断できない。自由行動ルートにはいくつかピザ屋が存在する。決してありさの視界に入れてはならない。

 

「次どこ行こっか?」

 

“ピコン!!” :○○寺/××神社/△堂/お土産屋-円楽-

 

正解は△堂だ。しかし、この選択肢は悩む必要がある。具体的には10秒。

 

……4,3,2「あっ、あんなところにグルグルピザ屋が!」あああああああああ!!!!

 

ランダムイベントだ。低確率でピザ屋が△堂への道に出現するとか。乱数。制作陣クリアさせる気ないよね。

 

卑怯なことに、選択肢が現れた場所からは、曲がり角で見えない位置にピザ屋が出現。

そもそも古風な街並みの京都の町に、ニッコリ社長のマスコットや、テカテカの特徴的なカラーの看板に違和感しかない。

 

「バキバキの条例違反じゃねーか。」

 

そう呟き、前セーブ地点へとロードするのであった。

 

ちなみにこのゲーム、章の最初にしかロードできないクソ仕様である。やり直しだ。

 

 

 

 

 

 

「ねえ、今日どこか食べに行こ「寿司にしよう!!!! ありさ!! 日本人ならやっぱり寿司でしょ!!!」

 

このゲームは秒単位でのロールが求められるが、一つ抜け道があり、食事イベント限定であるが、選択肢が完全に表示される前に選択肢を選ぶと確定でピザを回避できる。

 

……匿名希望のロックロールさん、ありがとうございました。めっちゃ効率いいですぅ。

 

「う、うん。じゃあお寿司にしようか。」

 

好感度が下がる。しかしこのゲーム。ピザ以外なら基本好感度が下がる仕様だ。クソが。

 

 

 

 

 

 

◇1

 

 

既にリアルでは1週間経った。タイムリープで世界を救うために戦っている気分だ。

 

しかし、もうそれもおしまいである。ついに御影は、ピザフラグを完全に回避し第9章にたどり着いた。あとは確定告白シーンまで切り抜けるだけである。もちろんその間の対処もすでに終わった。他のヒロインは、現在ピザ食って留学決心してるところだろう。

 

 

wikiによると告白イベントギリギリのタイミングで、学校にピザの配達がやってくるらしい。ので、事前にピザを家に届けてもらうように電話をし時間稼ぎをしないといけない。

控えめに言って頭おかしいのではないか思うが、何とかタイミングを合わせることに成功。

ちなみに1秒でもずれると電話がつながらない仕様だ。昼間から繁盛してんじゃねぇ。

 

カウントダウンが表示される 10秒

……3,2,1、

 

ガチャリ、

 

「御影~。こんなところに呼び出してどうしたの?」

 

“ピコン!!” :告白する

 

選択肢。

告白イベントだけはピザフラグを回避した場合、時間管理する必要がない。

つまり、終わったのだ。この長い長い闘いは。あとは、ありさのハッピーエンドを楽しむだけだ。

 

カウント10

もう必要ないとはいえ、やっぱり怖いので。

 

……3,2,1

 

「ずっとずっと、大坂ありさのことが大好きでした。

 

――僕と付き合ってください。」

 

 

ロールプレイではない。御影の心からの言葉。

そして、

 

 

「……うん、私も。あなたのことが好き。」

 

 

ありさの表情は見たことが無いほど、美しかった。

 

 

「私で良ければ、よろしくお願いします。」

 

 

 

 

 

ふぅーーーー。

 

 

 

全身から力が抜け、膝をつく。

 

 

「え!! どうしたの!! 大丈夫?」

 

「いや。なんかさ。OKもらって、力抜けちゃって、はは。」

 

「もう、なにそれ。……でも、私も何かふわふわした気分。」

 

「はははは、ハハハ。」

 

「何笑ってるの? もう。」

 

「いや、ありさは可愛いなと思って。」

 

「っ!! 揶揄わないでよ!!」

 

「本心なんだけどなぁ。本当に。」

 

 

 

 

“パパパパーン” :ありさハッピーエンドルートが確定しました。Congratulation!!  

 

 

 

 

 

 

「終わった。」

 

御影は無事、ありさハッピーエンドを終わらせた。今は全身で余韻に浸っている。

全身に力が入らない。ただ別のものが全身を満たしている。それは、喜びとも悲しみとも違う何かだ。

 

「なんだろう、この感覚。出所した気分かな?」

 

断っておくと、もちろん御影に前科はない。いや、そんなことはどうでもいい。

 

「やばい、なんだろうこの感覚。……あっ、そういうことか。」

 

御影は気づく。

基本的にギャルゲーは確定された恋愛だ。だから、その告白シーンは重みがない。あくまでもストーリーの一部だ。

しかし、このラブ・クロックはどうだろうか。告白を受け入れてもらうまでの長い道のり、1秒でもずれるとやってくるピザの影。乱数でも突如ピザ。気が付けばピザ。失敗を、絶望を前提にしているようなゲームであった。

 

だがしかし、その険しい道のりこそが、告白シーンをより真剣に、芳醇なものにする。

たとえゲームであってもあの告白シーンは、御影の心の底から出た言葉だった。

 

上げて落とす。そこから最後にまた上げる。もしかして、

 

「おいおいおい。もしかして、ラブ・クロック、神ゲーなのか?」

 

 

 

「まあいいや、デリバリー頼むか。」

 

端末でデリバリーアプリを開き、注文履歴を見ると、

 

 

 

 

1週間前:△ピザを注文しましたああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!

 

 

 

「どう考えてもクソゲーじゃねええかあああああ!!!!! ピザって何なんだよおおおおおお!!!!! トラウマになったじゃねえかよおオオオ!!!!!!!!! 制作陣の頭ン中ピザでできてんのかよおおおおお!!!!!!!! だいたい何なんだよ京都にピザ屋出店してんじゃねええええ!!!!!!!! 告白シーン後もめっちゃビビってたわああああ!!!!!! 

 

 

 

 

二度と、

 

二度とやるかあああああああ!!!!!!

 

 

 

御影は怒り狂った。

 

その日も両親は家にいなかったが、偶然家の近くを通っていた通行人に通報され、警察がやってきてようやく落ち着いた。

 

 

 

警察には、振られたショックでおかしくなった高校生の扱いをされた。

 

「ピザがああああああああ!!! ピザがあああああああ!!」

「はいはい、そうだね。落ち着いてね。」

 

 

 

 

 

 

1か月が過ぎた。現在、御影はラブ・クロックありさハッピーエンドの同人を作成している。ラブ・クロックというゲームを体験せず、あの青春を体験させたい。被害者を減らしたい。

そういう思いで制作に励んでいる。

 

英語の授業中も頭の中でシナリオを考えるほど、真剣に

 

「えーじゃあ、この文章英語に直してー。佐々木。」

「はい、えーと、He is able to make pizza.」

 

ガンッ!!

 

「おいおいどうした斉田。」

「す、すみません。足が痙攣して……。」

「そ、そうか。」

 

しかし、1か月たってもピザのトラウマは消えてない。

いつ彼がトラウマを克服できるか、前途多難である。

 

 

 

 

おしまい

 

 

なお、その同人は思ったより人気が出た。敵役がピザ屋の社長の息子であったことが評価を上げたようだ。

 

 

 

_________

以下、バッドエンド?ルートです。◇1 から分岐します。大事なものを失う話です。

読まなくてもいいです。

 

 

 

◇BADENDルート

 

 

既にリアルでは1週間経った。タイムリープで世界を救うために戦っている気分だ。

 

しかし、もうそれもおしまいである。ついに御影は、ピザフラグを完全に回避し第9章にたどり着いた。あとは確定告白シーンまで切り抜けるだけである。

 

屋上で待つ。目の前にはありさが登場するまでのカウントダウンが。具体的には15秒。もう少し。もう少しだ。

 

……2,1

 

ガチャリと、

 

「御影~。こんなところに呼び出してどうしたの?」

 

“ピコン!!” :告白する

 

完璧だ。あと7秒。

……5,4,3,2,1,

 

 

「すみませーーーんんん!!!! グルグルピザでぇーーーすううう!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「は?」

 

「あっ、すみません。私です。」

 

 

 

「は?」

 

「あっ、どうもぉーーー。たっぷりチーズピザぁLサイズでぇーーーすう。」

 

 

 

「は?」

 

「はい、2000円でお願いします。」

 

 

 

「は?」

 

「お釣り300円でぇーーーすう。またのご利用ぉーーーお待ちしてまぁーーーすう。」

 

 

 

 

「ありがとうございました! 

 

……ごめんね。何か話があるって言ってたけど。」

 

 

呆然とする御影。しかし、告白イベントシーンはスキップできない。一定時間操作されない場合は自動操作となるのである。

 

 

「――、――。」

 

 

「私。」

「御影のこと、嫌いじゃないよ。でも!!」

「でも!! 私もうピザの魅力の虜になってしまったの……」

「私ね。来月で日本を離れるの。」

「イタリアに行くの。」

「そして、イタリアでピザ修行するの。」

「だからごめんなさい!! もうあなたとは一緒に入れない。」

 

 

「ピザ、留学なの。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「は?」

 

 

 

 

 

 

「はあ、ピザ屋の店員。絶対中身人間だろ。タイミング決まりすぎだろ。」

 

ログアウトして現実に。今度は発狂しない。この1週間で御影は理性を身につけた。クソゲーは人を強くする。悟りの境地ともいえる。

 

「もう8時だし、なんか飯でも食べるか。……ピザ。頼むか。」

 

ピザに負け続け1週間。御影にとってピザは因縁の相手である。だからこそピザを食べるべきだと思った。自分でもちょっと何言ってるのかわからないけど。なんとなく、御影はそう思った。ごめんやっぱ意味わかんない。

 

「ピザ食って、今日で攻略完了だ。」

 

 

 

 

 

屋上にいる。もうすでに仕込みは終わっている。あとは、ありさがやってくるのを待つだけだ。

カウントダウン15

 

仕込みは想像以上簡単だった。家にピザを届けるように注文した。それだけだ。たったそれだけだが、この告白イベントを乗り越えるのには十分な時間稼ぎとなる。そもそもなんで学校にピザ屋がやってくるんだよ、とツッコミはしない。

 

もちろん油断はできない。

……2,1,0

 

ガチャリ、

 

「御影~。こんなところに呼び出してどうしたの?」

 

 

もう何回も聞いたセリフ。

 

“ピコン!!” :告白する

 

もう何回も見た選択肢。

 

カウント

3,2,1,0

 

「あなたのことがずっと前から大好きでした。」

 

――そして、

 

 

 

 

 

 

「はあ、終わっちゃった。」

 

御影は、ありさハッピーエンドをクリアした。

思ったよりも満足感がなかった。

 

その理由は、なんとなくわかっている。

 

 

「全くドキドキしなかった。」

 

ラブ・クロックはギャルゲーである。御影はありさとの関係を深めドキドキしてキュンキュンしたかったのである。

でも、いつからかクリアすることが目的になっていた。クリアすることで、ドキドキキュンキュンできると思ってた。

 

無理だった。

 

御影の目に映るのは、もう元気で世話焼きな幼馴染ではなく、ピザであった。

 

いつだってありさを通してピザを見ていた。それは、恨みなのか、怒りなのかわからない。多分恨みだろうが。

 

御影はその事実を認識したとき、さらなる虚無へと向かった。

 

 

 

 

BADEND

 

 

 

 

 




あとがき

いろいろ設定を考え、そこから物語を考えるって楽しいですよね。


AI‘s Song
……アイドル育成系ギャルゲー。ギャルゲーだけど、ヒロインは3人という珍しいゲーム。しかし、3人のヒロインに対し、シャンフロ級のAIを積むことによって、シナリオを超拡張。ほぼ人間と変わらないレベルで再現することでヒットしたゲーム。御影は無口だけど一定以上好感度を上げるとデレる神無さつきに心をキャッチされた。少子化を進める原因と揶揄されるほどの完成された神ゲーは、発売から2年経っても値段が下がらないほど。ちなみに御影くんは、福袋で当てた。


前書きの作品

Doki Doki Literature Club!
https://store.steampowered.com/app/698780/Doki_Doki_Literature_Club/

ドキドキ文芸部。友達に進められるがままに、プレイしたのだが…
プレイ配信動画みたいな反応しましたね。知らない人は調べずにプレイしてみては?ふふふ
心臓の弱いかたにはお勧めしません。



橘さん家ノ男性事情
http://karen.saiin.net/~mitosupa/

○○〇の金字塔とも呼ばれる伝説の同人誌。R-18なので注意。私はジャンルとか特に知らずに読んで、大ダメージを受けた。人によっては目覚めるのかも。
実は作者の みとすば Jinさんのサイトで一部公開している。
しかし、完全版は大体売り切れで、メ〇カリやヤ〇オクでたまに売っている。
完全版でなくとも楽しめ?ます。



Ifルートで、屋上でピザ配達の原付をスナイプを考えていたけど、さすがに世界観的にもおかしいので没に。
バッドエンドは朝7時に書いたやつなんで自分でも何言ってるかわからないです。



ありがとうございました。


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