同盟上院小咄 アルフォンス・ナヴァロの同盟美食行脚   作:Kzhiro

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「自由惑星同盟が帝国に勝る点はいくつか存在する。一つに人民の自由の確かな保障、一つは憲章による人権の保障、一つは政治プロセスとしての民主主義の保障、そして…多様な文化の保障による人類の宝、料理文化の保障だ。(とある美食家)」


ハイネセンポリス特別区・三月兎亭のローストビーフディナー

立て込んでいた仕事がひと段落つき、私、アルフォンス・ナヴァロは久方ぶりにしっかりとした店で外食を取ろうと思い至った。

 

そこで同僚に「ハイネセンポリスでいい店はないか」とたずねてみたところ、三月兎亭(マーチ・ラビット)なる店を紹介してもらった。ゼリーサラダが絶品とのことである。食に目がないと自称する私にとっては久方ぶりに「当たり」の店であることを確信した。

 

職場から地下鉄と徒歩で20分ほど。民主共和政を掲げ、多彩な国からなる連邦である自由惑星同盟の首都に存在しているというには落ち着いた雰囲気を持つこの店は、高級軍人たちのお気に入りだという。あのグリーンヒル提督も家族を連れてよくここに来るという。

 

早速私は店に入る。内部の雰囲気もこれまた落ち着いた雰囲気で、家族連れやカップル、あるいはお一人様がちらほらと見える。私は窓際の席に腰掛け、メニューに手をかけた。

 

この時間帯はどうもディナーの時間帯であり、全地啓典民国風海鮮ディナーやハンバーグディナーといった趣向を凝らしたメニューがずらり、と並んでいた。

 

だが私はここは敢えて安いメニューを選ぶことにした。ローストビーフディナーである。意外とこういった安いメニューが当たりだったりするのだ。早速私はウェイターを呼び、ローストビーフディナーを注文した。久方ぶりの外食である。私は舌舐めずりをしたい衝動に駆られた。

 

大体10分あたりで食前酒が到着した。甘口のシードルである。甘いりんごのフレーバーと弾ける炭酸が胃をこれからの食事に向けて整える。使用しているりんごは…ガラティエ産だったりするのだろうか。私はあそこのシードルが好きなのだが。そうであったら嬉しいものだ。

 

続いて前菜が到着した。同僚が絶賛していたゼリーサラダだ。早速匙を入れ、つるんとした食感とゼラチンと野菜の相反する硬さ。そして野菜由来の新鮮な食感。確かにこれは同僚が絶賛する味わいだ。しっかりとこれを味わう。

 

食べ終わり、すぐさま次のメニューが来た。スープとパンである。コーンポタージュと石窯パンのセット。私は早速匙を手に取りスープを口に運ぶ。とうもろこしとコンソメが奏でる確かなハーモニー、優しい味わい。コーンポタージュはこうでなくてはいけない。本来スープにパンを浸すのは邪道だとか、マナー違反だと言われているが、ここは自由の国、自由の諸邦だ。そんなの知ったことか。第一、私は今一人で来ているのである。誰も咎めやしないだろう。私はパンを一欠片ちぎってスープに浸し、スプーンに乗せて口に放り込んだ。美味い。

 

そうしてコーンポタージュを楽しんでいたら、次の料理が来たようだ。メニューによれば魚料理、真鯛のソテータケミナカタ風である。シェフによればこの真鯛はハイネセンポリス近海で取れたそうだ。しかしタケミナカタ風とはここのシェフは意外と分かっているようだ。鯛はタケミナカタ風ソテーにすると意外にも美味かったりする。早速鯛を口につける。うん、やはり鯛は淡白だが美味い。しかし鯛、とりわけタケミナカタ風ともなるとサケ、とりわけ純米の奴が欲しくなってくる。

 

さて、いよいよメインディッシュ、主役の中の主役、肉料理、ローストビーフである。足取りも早く、その深い茶と赤のコントラストが美しいその牛肉の薄切りが乗った皿を、ウェイターが丁寧に机に置いた。私は早速フォークを手に取り、その輝く牛肉を突き刺し、口へと運ぶ。

私は自分の選択が正解であったことを確信した。噛めば噛むほど牛肉が持つジューシーな肉汁と共に旨味が溢れ出し、口内を潤していく。これまでの美食の道の中で牛肉は数多く食べてきたが、このローストビーフはそれに勝るとも劣らない料理であった。しっかりと噛み締めた後、嚥下した。

 

ここで私の脳髄に悪魔的な発想が迸った。私の視線の先にはこれからじっくりと味わおうと残しておいた石窯パンがまだ残っていたのである。

「石窯パンにこのローストビーフを乗せたらもっと上手くなるのではないか?」

単調な加法的発想ではあるが、私はそれを試さずにはいられなかった。パンに切れ込みを入れ、その切れ込みの中にローストビーフを何枚か突っ込み、出来た「それ」を思いっきり齧り付く。

美味い。石窯パンの芳香な風味と牛肉のジューシーな味わいが調和して、ただただ脳髄が美味いという情報で満たされる。もはや言葉など要らない。私はただただそれに齧り付き、ひとしきり肉料理を楽しんだ。

 

メインディッシュを楽しんだ後はデザートのジェラートとコーヒーで一息をつく。ジューシーな肉料理の後のジェラートは実に甘美な味わいで、清涼なひと時であった。

実に満たされたひと時であった。私はジェラートを食べ終わり、コーヒーを啜りながらそう思った。食というのはすなわち「満たす」至高のひと時であると言える。私はこのひと時がどの時間よりも大好きであった。

 

明日同僚に会ったらお礼を言ってやろう。私はカップをソーサーの上に置くと、勘定のためにゆっくりと立ち上がった。

 

三月兎亭のローストビーフディナー、評価をつけるとしたら5点中4.5点であろう。隠れた名店が、このハイネセンポリスの街に確かに存在した。


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