スライムは失われた過去に何を思うか   作:幻桜ユウ

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第四話 魔王達の宴

 少し時は過ぎ──

 

 

 「二人共。準備はできたか?」

 「大丈夫です」

 「問題ありません」

 

 

 リムルは後ろに控える二人に声を掛ける。後ろの二人はどちらも白い軍服を着ており、リムルがあげた抗魔の仮面を付けている。二人の内、女性の方は腰に刀を装備している。

 

 二人の準備が万端になったのを確認したリムルはソファーにて、マンガを読み漁っている堕落妖精(ラミリス)に目を向ける。ラミリスは真剣な表情で1ページ1ページを真面目に読んでいる。

 

 この野郎。これから本番だって言うのに何呑気にしてんだ。

 

 リムルは思わずそう悪態を吐きそうになったが、すんでの所で抑える。

 

 すると、空間に干渉する気配を感じ、執務室の入り口の方へと目を向ける。

 

 巨大な(悪趣味な)扉が現れ、扉が開き、緑髪のメイドが出てくる。

ミザリーである。

 

 リムル達はミザリーに案内され、魔王達の宴(ワルプルギス)の会場へと案内される。

 

 大きな円卓が部屋の真ん中に設置してあり、リムルが入ってきた方とは逆の方にはギィ・クリムゾンが座っていた。ラミリスはその隣の席に座る。

 

 リムルもギィと対面の席に座り、真正面を見据える。

 

 

 《シエル。目の前の奴は?》

 《はい。名をギィ・クリムゾン。この世界において、『調停者』の役割を担っている悪魔です。あのヴェルダナーヴァと知己の関係にもあります。強さは確実に覚醒魔王の中でもトップクラスですが、主様(マスター)の足下にも及びません》

 《そ、そっか》

 

 

 リムルはシエルの言葉に苦笑しつつ、解析能力を使わずにギィを見る。

 

 (明らかに強いと思うんだけどな)

 

 シエルに思念で読み取られない程度でそう思っていると、次々と魔王達が入ってくる。

 

 ダグリュール。バレンタイン。ディーノ。フレイ。レオン。クレイマン。ミリム。

 

 クレイマンがミリムを殴るという一悶着があったが、リムルは冷静に事を見据える。

 

 

 《なあ、シエル。ミリムさあ、操られてないよな?》

 《そうですね。首飾りに操りの呪法を込めているようですが、全く意味を為していませんね》

 

 

 茶番じゃねぇか。

 

 リムルはそう確信した。この時点において既にクレイマンは敗北を喫したも同然。

 

 そんなこともつゆ知らず、二つ名通りの道化のように熱弁を振るい始めるクレイマン。言葉の端々に精神干渉を込めているようだが。シエルがいる俺には全く意味がない。

 

 俺が円卓を蹴り飛ばして、話をぶった斬ろうとしたその時──

 

 

 「あら、遅れてしまったようね。会議の最中にごめんなさいね」

 「何故私がこんな所に……」

 

 

 ギィの後ろの扉から、二人の女性が現れた。その二人が纏うオーラは誰の目にも明らかであろう。

 

 

 「遅いぞ、ヴェルザード。もう会議は始まっているぞ。というか、何故ルドラの所にいるはずのお前がいるんだ」

 「姉さんに無理矢理連れてこられたのよ。『面白い事があるから来なさい。拒否権は無いわ』って」

 「まあまあそんな怒らないで、ヴェルグリンド」

 

 

 世界最強の竜種二人がこの場に現れた。いきなりの竜種二人の登場に場にいた者全員が驚いた。事前に知っていたギィとレオン。ギィの従者であるミザリーとレイン。そして、リムルの五人を除いて。

 

 クレイマンは焦る。自分の独壇場に突如として乱入者が現れたのだ。この空気では演説を始める気にはならない。

 

 ちなみに絶賛操られている(フリをしている)ミリムも思わず目を見開いている。幸い誰にも気づかれていないが。

 

 そんな中、リムルは席を立ち上がり、竜種二人の元へと歩く。

 

 勿論竜種二人は言うまでもなく、他の魔王達もリムルに気づく。

 

 いよいよ、リムルがヴェルザード達の前に立つと。部屋が異様な空気に包まれる。あのギィですら、何も口出ししない。その空気の中、一番最初に口を開いたのはヴェルザードだった。

 

 

 「これはリムル様。本日もご機嫌麗しゅう」

 「どこで覚えてきたんだよ、それ。まさか、お前もヴェルドラと一緒にマンガ読んでいるのか?」

 「ふふっ。あの子ったら、私に色々勧めてくれたんですよ。どれも興味深い物でしたわ」

 「(さてはマンガに興味を持たせて逃げるつもりだな、アイツ)」

 

 

 二人の軽快な会話に魔王達は驚く。あのギィですら、だ。というか、議題に上がっていた人物が竜種と仲良くしているのだ。驚かざるを得ない。もう何人かはクレイマンの最期を悟った。クレイマン本人は違うが。

 

 更なる驚愕をもう一人の竜種が投下する。

 

 

 「リムル様。こちらにどうぞ」

 

 

 ヴェルグリンドは椅子に座り、膝をポンポンと叩く。

 

 それは座れという意思表示だろうか? するわけないだろう。

 

 

 「あら、ヴェルグリンド。そういうのは姉である私の役目ではなくて?」

 「さあ? 何のことやら。弟を甘やかすのに姉か妹は関係ありまして?」

 

 

 ヴェルザードとヴェルグリンドの間に火花が散る。まるでシュナとシオンを見ているようだ。しかも二人は竜種であるだけに、ぶつかり合うオーラは最早天変地異レベルである。

 

 というか、ぶっちゃけそれより無視できない内容が混ざっていた。ヴェルグリンドがリムルのことを弟と言ったのだ。すなわちそれが意味することは──

 

 

 「落ち着け、二人共。今は人型なんだ。誰の膝にも乗らん」

 「『今』という事は、いつかはして貰えるので?」

 「……まぁ、それぐらいなら」

 「「言質は取りましたよ! では、会議の続きをどうぞ。私達のことは気にせずに」」

 

 

 無理に決まってるだろ!!

 

 奇しくも竜種以外の全員がそう思った。

 

 

 「さて、仕切り直しだ。クレイマン、お前も魔王なら力で示してみろ。俺の事を気に食わないなら、精神干渉なんて回りくどいことなんてせずに、な?」

 「くっ、このっ! 下等なスライム風情が!」

 「口よりも手を動かすべきだな。俺は最早、お前を殺す事しか頭にはない」

 

 

 リムルは指を鳴らし、『空間拡張』と『干渉不可』の結界を張る。ご丁寧にリムルの配下とクレイマン配下、そしてミリムも入れて。

 

 

 「さあ、ここがお前の墓場だ。覚悟しろよ」

 

 

 俺はクロベエに作ってもらった三つ孔が空いている刀を持つ。

 

 

 「行くぞ。ユウキ、シズさん」

 

 

 

 

 


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