ドラゴンに転生したけど、不便はないです   作:カチカチチーズ

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 お久しぶりです!
 まずは説明をば、更新が止まっていたのはひとえにワクチン接種による反応でダウンしていたり、仕事も忙しく何度か修羅場があったりとなかなか執筆する機会がなかったというのが主な要因であったり、古戦場であったり、原神であったり、と様々な要因がありこうして時間がかかってしまいました。
 お待たせしまい、申し訳ないと思っております。



彼らは思い想う

●─────〇

 

 

 

 満天の星空。

 どこまでもどこまでも続く夜空に浮かぶのは青白い月。

 それより発せられる月光はその身に浴びる怪物ら魔性の存在への慈愛の光とも言うべきもの、それを浴びながら思索に耽る者が一体いた。

 この箱庭に点在する大樹海の内の一つ、〈ベイラの大樹海〉と呼称されるこの大樹海。その大半が無数の木々で覆われている中で数少ない岩肌が露出している大きくはないが決して小さいとは呼べない、岩山の中腹で腰かけていた。

 黒く染められた司祭服に身を包んだヘラジカの頭蓋を持つ怪物。屍の呪術師(リッチ・シャーマン)最高位階(ハイエロファント)にまで達した彼の名はケルゥス。

 ■■の冠を掴んだ彼は同格の悪魔との戦いによって、その両腕を肩口ほどから失い、結果としてこの樹海の、この岩山の内部にて潜んでいた純血の竜種である彼の眷属によって保護されていた。ケルゥスは怪物として高位であり、未熟な竜種、例えそれが純血種であったとしてもそれなりに苦戦する事無く殺すことができたであろうが、彼は紳士であるが故にその未熟な竜種に礼として知恵を授けていた。

 今は竜種が眠りについたが故に手隙となり、一体この岩山で佇んでいた。

 無論、夜風に浴びていたかったなどという事ではない。

 ましてや、星見を楽しんでいたわけでもなく、ノスタルジックに浸っているわけでもない。彼の眼球が存在しない伽藍の眼窩に浮かぶおどろおどろしい赤い光をまるで、目を細めるかのように細めさせ彼はこの大樹海の彼方を睨みつけていた。

 

 

『…………エルフどもめ』

 

 

 頭蓋より漏れ出た声は苦々しさを孕んだもので、その視線には敵意と疑問が混じっていた。

 エルフ。それは人類種の中でも代表的な種族の一つであり、主としてこの箱庭に点在する樹海に居を構えている種族であり、当然この〈ベイラの大樹海〉にもその集落が存在していた。いや、集落などという規模ではない。

 エルフ有数の大都市〈グリンブルスティ〉。賢人都市の異名を持つ様々な魔道具と儀式魔術を創り出してきた城塞都市とも言うべき都市がこの〈ベイラの大樹海〉には存在する。その名は彼ら人類種だけでなく、ケルゥスら怪物側にも轟いていた。

 なぜなら、数代前の〈魔王〉が嘗て〈グリンブルスティ〉で生まれた〈賢者〉とその者が考案した魔王討滅の大魔術儀式を内包した魔道具で討たれたのだ。もちろん、並大抵の魔術師ではそんなことはできやしない。だが、それを成した者がいたのなら、話は別だ。

 大いなる力を有した存在、魔術師の〈勇者〉である〈賢者〉は魔力を有する人類種であるならどの種族からであろうとも誕生するが、それがエルフ、更には〈グリンブルスティ〉の生まれであるのなら話は別となる。〈魔王〉の眷属であろうがなかろうが、その話を知れば多くの力持つ怪物らは〈賢者〉を、〈グリンブルスティ〉を滅ぼそうとするだろう。

 だが、今のいままで、彼は繁栄を築いている。それは何故か……

 

 

『奴らがあの竜を、彼を知らない筈はない。ベイラは奴らの庭だ……せっかくの竜種、放っておくとは思えないが─────』

 

 

 ケルゥスはそんなエルフらと今も足元、その更に下、この岩山の地下で眠る彼との繋がりについて思考を回していく。

 そもそも、都合が良過ぎるのだ。

 確かに、自分が意識を失っても害を及ぼせるような存在がいないであろう場所にランダムで、あらかじめ目星をつけていた土地へと転移する様にしていたが、だからと言って転移し意識を失っているところを箱入り、もとい穴倉入りの竜種が放った眷属に拾われる?それはどこか作為的にすらケルゥスには感じられたが、

 

 

『……だが、彼はそういう腹芸は得意じゃないだろう』

 

 

 ましてや、エルフなどの普通知っているであろう情報を知らないなど、常識知らずどころではない。

 そんな存在とエルフに繋がりがあるか?否、無いだろう。

 確かにケルゥスは会ってまだ数日程度しか経っていないし、会話もほとんど授業だけで互いに何か絆を、信頼関係を深めているとは彼自身感じていない。だが、それでもケルゥスはあの未熟な竜種が自分を陥れようとしている様には見えなかった。

 

 

『何か、隠しているのは分かるがね』

 

 

 

 その隠し事も決して自分に不都合のあるようなモノではないだろう。気にはなるが、それはそれ。どうせ、もう少しすれば別れる関係なのだ。

 関係を深める理由などどこにもない。

 だが

 

 

『……知らねばならない。この違和感を、この作為的にも感じれるこの状況を』

 

 

 肘先までに再構築がされていく失ったはずの両腕を軽く確かめるように振ってから、ケルゥスは最後にその先ほどまで睨んでいたエルフの都市〈グリンブルスティ〉があるであろう方向から夜空に輝く青白い月を睨みつけ、岩山を下っていった。

 

 

 

●─────〇

 

 

 

 瞼を降ろし微睡み周囲の眷属であるガーゴイルらも主の眠りを妨げぬ様に洞窟から坑道へと移動し動きを止め静かにしている中で一体静かに乃木真士はその閉じていた瞼を僅かに開けて起き上がることなくゆったりとその視線だけを動かして洞窟内を見渡し始めた。

 先にも言ったようにガーゴイルやゴーレムは既に坑道へと移動し、その動きを止めており彼自身身じろぐこともなく洞窟内は静寂ばかりが広がっていた。

 そんな中、ゆったりと彼は洞窟内を見回し、あることに気が付いた。

 ケルゥスの姿がどこにもないのだ。普段、こうして寝ている時には拾って連れてきた時に寝させていた石のテーブルに腰かけていたのだがどういうわけか、今夜に限ってはそこにいないのだ。

 無論、だからどうしたという話だが。

 

 

『(まあ、そういう時もあるだろう)』

 

 

 別段、一々気にする事でもなく乃木真士はケルゥスがどこにいるのか、と一瞬考えたがすぐに夜風でも浴びているのだろうと考え思考の片隅へと追いやり、嫌に鮮明になってきた思考が睡眠に戻るのを妨害し始めた為に軽く鼻を鳴らしつつひとまず、瞼を閉じて至高の海へと没頭していく。

 

 

『(……ケルゥスの授業というか講義はまあ、分からないモノはあったがそれでも分かり易くはあったな……まあ、それはともかく今日一できつかったのはあの結晶が魔術というか、俺には無用の長物ってのだな)』

 

 

 考えるのは今日の講義の際に聞いた、この洞窟内で存在感を主張していた結晶群、精霊晶とこの世界で呼ばれる結晶の事。よくある御約束とでもいいのか、転生した人間がなんとなく拾っておいたモノや見かけたモノが実はすごいモノで自分の異世界での生活に大いに役立つという展開であったが、どうやら神は微笑んで、いやこの箱庭における管理者であるシステムはそう甘くは無かったようだ。

 確かに魔術には使う事の出来るモノではあったが、それはあくまでエルフなどが行う儀式で使うぐらい。彼らの魔術をケルゥスが修めているという都合の良いこともなく、結果として精霊晶は彼の役には立つことはなく、かと言って無用の長物だからと八つ当たり気味に破壊することも出来ない。

 

 

『(魔術の勉強か……ある程度の基礎は教えてもらいはしたが、この辺はいろいろ考えていくしかないな………精霊晶もいずれ、エルフと友好的な関係を結んだら使えばいいし………)』

 

 

 そんないつ来るかもわからない皮算用を彼はしながら軽く欠伸を噛み殺しては、身体を動かしていく。ドラゴンとなって早数日であるが、いまだに寝方が慣れていないのだろう・人間の頃よりもはるかに長く太くなった首を動かし、丁度いい寝方を試行錯誤していき思考を少しずつ浅く浅く変えていく。

 既に思考は複雑な事からどうでもいいような事に切り替わっており、それに伴って消えていた睡魔が戻り始めていく。

 そうして、洞窟の外、坑道よりも外である森のどこかから微かに獣の遠吠えが耳に聴こえた頃には彼の意識は落ちていっていた…………。

 

 

 

●─────〇


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