ボクには双子の妹がいる。ボクと間反対で活発な子。いつでもクラスの中心に居て、憧れな的のような人。あの活発さは一体誰に似たのだろうかと毎度考えてしまう。両親はどちらも妹のように活発な人ではないんだよね。
妹とは双子の割にあんまり似ていない。さっきも言った通り性格は真逆だしね。唯一、ボクたちの共通点は髪色だ。これは両親からの遺伝だろうけど…妹もボクも茶髪より少し濃い髪色をしている。
だからボクたち双子にとって幼い頃が髪色だけが自分たちが双子だと証明できる一つの証拠だった。それ以外には何も似ていないのだからね。
小学校の頃はまだ妹と話すこともあったけど中学に上がってからはほとんど話すこともなくなった。お互いに家でも話すことはなくなった。顔を合わせても一言や二言ぐらいしか会話を交わすことをしない。別にボクは妹の人生に干渉する気はないから…そのまま妹と話す事をしてこなかった。
お互いの進路のことなんて一度も話して来なかったボクたちが同じ高校に行くことになるとは思いもしなかった。それに高度育成高等学校は国が管理する高校であるために入学も簡単なものではない。そんな高校に双子が揃って入学出来るとは思いもしなかった。
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ボクも今日から高度育成高等学校に通うことになる。
入学初日に遅刻するわけにもいかないので、いつもだったらギリギリに家を出るけど少し早く家を出た。
入学式も二時間もすれば終わりを告げた。生徒会長の堀北学さんは少し怖そうな人だなと思った以外に入学式の感想はなかった。
自分の割り当てられた教室(1年B組)に着くとボクは自分の席を確認して席に着いた。鞄から本を取り出して暇つぶしに読んでいると…ボクの席に男子生徒が近づいてきた。
「何か用ですか?」
「…お前の隣の席、空いてるか?」
横を見るとそこには…世間一般ではイケメンと思えるような男子生徒が立っていた。この人との面識は少なくともないと記憶しているけど。
「空いてるんじゃないですか。見る限り誰も座っていませんしね」
「何の本読んでいるんだ?」
「これは…恋愛小説ですね」
「どんな話なんだ?」
「簡単に説明すると一人の男と一人の女がお互いに惹かれあいながら障害を乗り越えて幸せになる物語ですかね」
在り来たりな話のように見えて在り来たりな話じゃない。本は著者によって生み出されるから著者によって同じストーリーでも全然違う。人の感情を繊細に描写する人が居れば常人では発送出来ないようなストーリーを作る人もいるしね。
「よく恋愛小説とか読むのか?」
「…暇な時は読みますよ。よく休みに読んでいると没頭し過ぎちゃって…朝から晩まで読んでいることもあったりしますね」
「そうなのか…おすすめの本とかあるのか?」
「おすすめの本ですか……本は読む人によって感想が違うから…ボクが良いと思っても君にとって面白い本か分からないよ」
「それはそうだが…やっぱり本を読んでいる奴がおすすめする本の方が俺が選ぶより良いだろう」
「そこまで言うなら…じゃあ」
その後、ボクは隣に腰を下ろしていた男子生徒に自分がおすすめする本を長々と話してしまった。自分が思っていたよりも長々と話してしまったようで気付いた時にはもう教師と思われる女性が教卓に立ち、SHRが始まろうとしていた。
やはり女性は教師だったようでこの学校について懇切丁寧に説明をしてくれた。やっぱりこの学校は普通の高校とは違うらしい。高校生に月10万円をタダで渡してくれるなんて普通じゃあり得ないと言っても良いんじゃないだろうか。教師の話を聞く限り、10万は現金じゃなく端末にポイントとして配布されるらしい。
そしてそのポイントを使えばどんな物でも買えると言っていた。その『どんな物』とはどこまでのことを言っているのかな。その区切りが分からない以上、何とも言えないがもしかしたら普通の学校ではあり得ないことが出来るのかもしれない。
そんな事を頭の片隅で考えていると…活発そうな女子生がクラス中に届く声で問いかけた。
「まだ私たちはお互いのことをあんまり知らないからまずが自己紹介でもするのはどうかな?」
その問いかけに反応する者がいたり、それを静かに見守っているボクのような人間に分かれた。ボクの隣に座っている男子生徒もボクと同じで静かに状況を見極めている。
そして自己紹介が始まり、少し経つとボクの番が回って来てしまった。面倒だからやらなくても良いじゃないかと頭によぎったがそれはさすがにクラスの不意気を悪くしてしまうだろうから止めることにした。
ボクは席から立ち上がり自己紹介を始めた。
「ボクの名前は櫛田桜と言います。好きなものは特にありません。これからよろしくお願いします」
「うん。よろしくね」
さっき自己紹介を提案した女子生徒が立ち上がり返事した。その後も自己紹介は続いた。隣の男子生徒の名前が神崎隆二だと知ったのは彼が自己紹介をした時だった。