碇シンジは…もういないんだよ   作:5の名のつくもの

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今回は破のクライマックスで最後の話ですので、めちゃくちゃ長いです。普段の三倍はあると思います。

※文字数が多いので、視点変更がかなり多いです
※もう全部が大きく変わっています


絶望

「第二防衛ライン突破されます!」

 

「97,21,67…数え切れない数の砲台が消滅!」

 

NERV本部の指揮所は史上初と言えるぐらいの緊張感に支配されていた。これだけの空気にする要因は使徒出現しかないが、彼らは既に5回以上は経験している。ならば、職員達は良い意味で慣れているはずだ。使徒が現れたら、それにどう対応すればいいのかは実戦で染みついているだろうに。

 

しかし、その染みつきは効果を発揮することができなかった。なぜなら、今回の使徒は全てが規格外だったから。

 

メインモニターに映る使徒は浮遊して移動しており、無人砲台の攻撃をすべてATフィールドで防いでいる。これは何度も見せつけられてきたことだから気にしないでいい。しかし、反撃が凄まじ過ぎた。使徒は目を光らせたかと思えば、砲台ごと要塞や天然の壁の山を消し飛ばした。一度の攻撃で、一発で防衛ラインの殆どが消滅させられている。これほどまでの攻撃力は見たことも聞いたことも無い。

 

「第十の使徒…最強の拒絶タイプか。最終防衛ラインも持たぬだろうな。碇、最終戦闘命令を発出するぞ」

 

「あぁ、わかっている。エヴァンゲリオンは初号機と零号機の発進準備だ」

 

戦闘面の指揮権は葛城ミサトが委任される形で有しているが、彼女を以てしても指揮を執ることが難しい時は冬月が命令を下す。本当なら碇ゲンドウの仕事だろうが、彼は極めて抽象的な指示しか出さない。事実として、戦闘の指揮を表向きの右腕の冬月に任せ、自分はエヴァの発進準備の指示しか出さなかった。

 

「NERVに最終戦闘命令を発出する。今回の使徒は全ての面で過去の使徒を遥に凌駕している。よって、既定の戦闘員以外の非戦闘員は直ちに退避せよ。戦闘員は、最後まで戦ってもらう。エヴァンゲリオン初号機と零号機の発進を急げ」

 

冬月が命令を発出する間にも使徒はズンズン侵攻してくる。無人砲台が弾を撃ち尽くす勢いで射撃しているが、全て虚しく防がれている。そしてカウンターと言わんばかりに攻撃を受けて消し去られる。オペレーター達が注視する各々のモニター画面に表示される防衛ラインには一瞬で穴が開けられた。そして、あっという間に線は消えた。

 

最終防御ラインが食い破られたのだ。

 

「最終防衛ラインが壊滅!」

 

「ダメです!時間稼ぎすらできません!」

 

「MAGIは即刻退避することを推奨しています。三者一様にです」

 

NREVの中でも碇ゲンドウに並んでポーカーフェイスと言われる冬月が表情を崩した。その顔は苦悶に満ちており、誰よりも早く頭を回転させている。暫くして、彼から放たれた言葉は最悪を見越していた。

 

「やむを得んな…NERV本部での決戦に移るしかない。何でも構わん、とにかく早くエヴァを出撃させるんだ」

 

もう、ここまでやられたら死を覚悟しての戦いしかない。まだ使徒は本部まで到達していないから、少し早いのではないかと言われるだろう。職員の一定数は「悲観し過ぎだ」と喉まで言葉が出かけたが、冬月が正しいことを嫌程教えられる出来事が起こった。

 

最終防衛ラインを突破してNERV本部の近辺にまで侵攻した使徒は再び両目を光らせる。既に無人砲台の8割が壊滅しており、辛うじて生きている砲台は攻撃不能ななっている。使徒にとっての障害は何もないのに、なぜ攻撃をするのだ?

 

そんなの無駄だろう。

 

いいや違う。使徒は最後の障害を取り除くために攻撃をした。

 

オペレーターが報告する前に葛城ミサトが状況を把握した。

 

「うそ…でしょ。20層を超える特殊装甲板を全部一撃で焼き切った!?これじゃ、こここまで一直線じゃない!」

 

「使徒、侵入してきます!」

 

やはり、最強の拒絶は格が違った。使徒の中で本部にまで侵入しようとしたのは、プリズム状の使徒だけである。こいつはATフィールドを応用したドリル掘削で器用に穴を開けようとしていた。しかし、今の使徒は通常の攻撃で穴を作ることを選んだ。分厚くて硬い特殊装甲版が何重にもなっているのに、それを全て溶か切ったのである。地上には大穴が開き、使徒が通るには十分すぎる大きさだ。この穴から本部まで、使徒が一直線に降りてくることが予想された。

 

まさに絶望しかない。

 

その時。

 

なんだかよく分からないが、朗報?が飛び込む。

 

「なんで…弐号機が出撃してるの」

 

「弐号機の出撃命令は出ていません…誰が弐号機を」

 

本部内のどこかで作業をしていた職員から「エヴァ弐号機が出撃している」との報告が入った。準備をしている初号機と零号機よりも早く出てくれている。これなら何とか迎撃できる。しかし、いったい誰が乗っている?正規パイロットのアスカは第九の使徒に蝕まれたことで、現在は入院中である。よって、弐号機を操れる者はいない。

 

その答えを誰も見出せないかに思われたが、冬月は分かっていた。

 

「やはり…君が動くか。1人で時間稼ぎを買って出てくれたことには感謝しよう。イスカリオテのマリアよ」

 

 

 

~弐号機~

 

地下格納庫から専用のケーブルカーで本部のある階層に立っているエヴァ弐号機。プラグ内では侵入してきた使徒を睨む少女が1人いた。

 

「さっすが、先生は国際条約を無視して動くだけはある。弐号機を万全な状態で置いてくれるなんてね。そんじゃ、いっちょやりますか」

 

持参してきたサブマシンガンを手に持って動き出す。使徒はこちらを把握しているようで、向こうは戦闘態勢に入っていた。地上にいた時は体を細めていたが、侵入するのと同時に体を大きく広げていたのだ。布のようなものをヒラヒラさせてもいる。そんなことは気にする暇はない。まずは小手調べだ。

 

「ありゃ~全く効かない。近づいて一気に決めるしかなさそうね」

 

予想していたが、射撃は全て無効化される。基本的に使徒は近接で倒す敵だ。早々と手に持っているサブマシンガンを放棄して、また別の武器を取り出す。これもまた、エヴァ用の銃器なのだが、下部に銃剣が備え付けられている。これなら、射撃戦と近接戦を同時並行させることが可能だ。

 

「せめて、彼が来るまでの時間稼ぎはさせてもらいますよっと」

 

勢いよく使徒に向かって走り出した弐号機。使徒だって負けじと多重ATフィールドを展開して近寄らせない。いくら使徒と言えども、人類の技術と底力を舐めないでもらいたい。弐号機は、使徒へ大きく跳ぶ。そして、銃剣を思いっきり突き刺さそうと動いた。

 

「やっば!」

 

多重ATフィールドの何枚かは破ったが、なんせ数が多い。ただでさえ絶対防御の名を誇るATフィールドが重ねられているため、勢いをつけても全部を破ることは叶わなかった。その隙を見逃さずに、使徒は至近距離で超強力な砲撃をしてくる。本能的に危機を察したパイロットは素早く回避行動に移るも、至近弾の衝撃波で吹っ飛ばされた。

 

無抵抗で風に飛ばされる落ち葉のように舞った弐号機は瓦礫の上に叩き付けられる。

 

「いったた…ちょっ!近い!」

 

物理的に叩き付けられた衝撃とフィードバックの痛みに耐えようとしたら、直上に使徒が迫っていた。なんという行動の早さだろうか。使徒は確実に弐号機を屠るためにATフィールドを攻撃に転用して、物理的に押しつぶそうとしてくる。それを間一髪で避けるを繰り返すしかない。笑えないぐらいに、使徒が異常に強すぎる。エヴァでやっと使徒と対等に戦えると思っていたら、使徒はエヴァを圧倒する力を見せつけて来やがった。

 

瓦礫と瓦礫を飛び跳ねての回避に一辺倒の弐号機。誰がどう見ても劣勢だ。何とか起死回生の策を披露したい。まず、一番手っ取り早いのは初号機と零号機を追加投入することだが、使徒が本部へ直接侵入した混乱で作業は遅延している。まだ間に合わない。

 

「しゃーないか。弐号機には申し訳ないけど、無茶するわよ」

 

プラグ内で立った少女は大きく息を吸ってから、力強く言い放った。

 

「モード反転…ザ・ビースト!!

 

プラグ内は赤く染まり、何やら、とんでもないことが起こることをひしひしと感じさせる。それを裏付けるように、パイロットはもがき苦しみ始めた。体をねじらせて、歯を食いしばって苦痛に耐えている。少女の目は不気味に光り、表情も鋭くなる。

 

まさに…獰猛な獣だ。

 

「あぁ!ごめんね…でも、ここでやらないと!いけないから!」

 

 

~指揮所~

 

弐号機の異様さは指揮所でも確認出来ていた。

 

「弐号機に何が起こっているの」

 

「噂程度に聞いていたことがある。ユーロNERVの最新型エヴァにはエヴァ本来の姿を引き出す(むき出しにする)システムがあるって。欧州の冗談か何かだと思っていたけど、まさか本当だったとはね」

 

「まったく…本当に無茶をする」

 

弐号機は二足歩行から猛獣と同じ四足歩行となる。両手両足で力強く地面を掴み、跳びかかろうとしている。先までの華麗な動きとは真反対の力によるゴリ押し。獲物を見つけた猛獣はひたすらに食らいくだけだ。飛びかかるのと同時に、片方の手で全力殴りをする。1回殴るだけで、多重ATフィールドが気持ちよく割れていった。なんとまぁ、銃剣の時より素早く且つ多く割っているぞ。エヴァ本来の姿を使うことで、こんな簡単に使徒の防御を崩せるのか。

 

「あれだけの力を引き出す、何らかの代償があるわ。パイロットには、到底耐えることができない苦痛が襲っているはずよ。それを無視できるだけの覚悟と心が無ければ、まぁ無理ね。あのパイロットには敬服しましょう」

 

人を捨てたエヴァ弐号機の戦いに指揮所の職員は圧倒されるしかなかった。そして、皆が一様に弐号機を操る者へ尊敬の念を抱いていた。

 

だが、それも一気に悲嘆に突き落とされることになる。

 

「いかんな…」

 

ATフィールドを叩き割る弐号機に向かって、使徒はヒラヒラさせていた布を変形させて、その先には拳を作り出す。何をするかと思えば、拳を弐号機に飛ばした。力押しをするしかない弐号機は使徒の眼前に立つため、もろに攻撃を受けてしまう。ただ殴られる程度で済めばよかったが、現実は極めて残酷なのが当たり前だ。

 

「うっ…」

 

殴られるのではなく、拳に貫かれた弐号機。左腕を失い頭部の右側を削られる。失って、削られた部分からは赤い液体が噴出している。エヴァが人造人間であることを思い出させてくれる光景。この凄惨な光景には、思わず顔を背けてしまう職員がいた。

 

大ダメージを受けたから、ここで撤退しても誰も文句を言わない。それでも、弐号機は戦闘続行の意思を行動で表す。本部との通信は最初から切られているので、双方での意思伝達ができない。だから、動きで意思を伝えるしかなかった。使徒にリベンジするエヴァ弐号機。いくらなんでも無茶の無茶が過ぎるだろうに。どれだけ強力な攻撃でも、同じことが二度も通じることはあり得ない。むしろ、先と全く同じ方法で返り討ちにされてしまった。

 

「どうして…どうして。なんで、そうまでして戦うの」

 

今度は腹部をえぐられた。まさに、コテンパンにやられてしまっていて、どれだけ戦闘意欲があろうとも、これ以上は無理。戦いたくても、エヴァ自体が動かず、パイロットもボロボロなのだ。あんな怪物を相手して「よくぞここまで持ってくれた」と奮闘を称賛すべきである。

 

その奮闘を無駄にはしない。

 

「エヴァ初号機と零号機が出ます!」

 

発進準備を完了した初号機と零号機を大急ぎで出てきた。使徒と対面するように出撃した初号機と零号機は、使徒の前に満身創痍の弐号機の所へ駆けつける。ここまで時間を稼いでくれた英雄を見捨てるわけがない。

 

 

~シンジ~

 

弐号機の元へ寄ったシンジは優しく弐号機を抱き上げて、綾波の零号機に託す。彼女に託す時に近距離通信で弐号機パイロットへ語りかけた。

 

「ご苦労様…後は僕がやるから休んでね。見ているがいいよ…神の儀式を。綾波、弐号機とパイロットをできる限り遠い所に避難させるんだ。彼女には特等席で見てもらおう」

 

「わかった」

 

(何を…する気なんだい。君は…)

 

「なに、大したことではないよ。僕と綾波で儀式をするだけさ」

 

追及する時間を与えられない。弐号機は零号機によって、まだマシだと言える安全な所まで運ばれていく。これ以上を戦うことはできないから、運ばれてしまっても文句も何も言えない。それでも、彼が何をするのかが気になって仕方がなかった。

 

「『百聞は一見に如かず』ってね」

 

零号機が弐号機を運ぶためには、どうしても初号機が囮となる必要がある。シンジは敢えて目立つように大きく動き回り始めた。この動きには、使徒も初号機に釘付けにならざるを得ず、初号機をロックオンした。ただし、シンジは使徒に近づくことは極めて危険であることを理解しているため、ちゃんと一定の距離を保っている。あの使徒も無制限に腕を飛ばせるわけではないようで、この距離では砲撃で対応してきた。

 

「うわっと。すごい威力だな」

 

シンジは技術で劣っていても、誰にも負けない潤沢な経験がある。経験で培った先読みと分析で砲撃を避けていく。しかし、避けた先での爆発の衝撃波によって、大きく姿勢を崩されてしまった。地面に不時着するも、すぐに体勢を立て直す。そのまま使徒の接近に備えたが、予想よりも使徒が速い。これではいけない。なぜなら、さっきの弐号機と同じような構図となってしまったからだ。

 

この距離では、近距離では、あの悪魔の近距離攻撃が放たれるのだ。

 

「直前の動きを見れば…避けられるはず」

 

シンジは使徒の動きをよく見て攻撃タイミングを予測する。そして、回避行動をとる。あの攻撃はほんの少しだが、一旦貯める動作を挟む。それを見れば、回避すべき瞬間を逃さないことができる。間一髪の文字が不適当に思えるぐらい、ギリギリで攻撃を避ける。その動きは決して華麗とは表現できないが、非常に上手い。指揮所の者たちは先と違う形で驚かされた。素人で技術が無くても、経験があれば戦えるのだと。初号機パイロットはそれを教えてくれる、良い教材と言えよう。この動きを何度も何度も繰り返していれば、あの使徒の攻略の糸口が見えてくる。どんなに強い使徒でも、何かしらの弱点が存在する事実があったんだ。この使徒も例外ではないと信じたい。

 

誰もがシンジの大奮闘に期待していた。

 

それでも、絶望は何度も飽きることなくやって来る。

 

「ぐふっ!」

 

初号機は二本の腕で胸部と腹部を貫かれてしまった。なんと言うことだ。幾度も回避に成功していたシンジが避けられなかった。いや、シンジはちゃんと回避行動をとっていた。そう、とっていたのだが、それを使徒が上回った結界がこれ。奴はATフィールドを初号機前面に押し立て、それを腕で掴んでゼロ距離まで迫る。後は空いていた布で同じ攻撃を行う。いくらなんでも、ゼロ距離のゼロ距離に近づかれてしまうと、回避することは不可能だった。

 

人を捨てた弐号機とは違って初号機は通常のエヴァ。パイロットは致命的な傷を負って動けなくなる。初号機はグッタリとしてしまい、己を貫く腕を引き抜くことすらできない

 

シンジは血を吐き出す。彼は生命の非常に微妙なラインにいる。

 

使徒は初号機が沈黙したのを確認すると、適当にぶん投げた。

 

(シンジ君っ!レイ、急いで!)

 

通信でミサトの絶叫が聞こえるが、肝心のレイは弐号機を安全圏に逃がしていた。どう急いでも、救助も本部防衛も全てに間に合わない。初号機が沈黙し、弐号機は満身創痍。零号機は健在なれど、間に合わない。

 

総じて絶体絶命の状況にあるのは言うまでもない。

 

この機を逃すはずがなく、使徒は指揮所がある本部のピラミッド型の建物に向かって砲撃を行った。NERV本部は地上での迎撃を基本とした思想をしていたため、指揮所が入っている建物を要塞として頑強に作っていない。砲撃の直撃を受け、建物はコンガリと焼かれた。中の指揮所はメインモニター等の主要な設備が使用不可能になる。幸運にも、職員は大なり小なりの傷を負いつつも、なんとか生き残っている。それでも、今が大ピンチであることに変わりはない。使徒は零号機を後で倒せるとでも思っているのか、それとも眼中にないのか。こちらまで迫りくる。

 

残骸と化した指揮所まで、使徒の絶望の宅配がやってくる。

 

「痛いな…でも、これでいい。犠牲なくして僕の完全な覚醒はならない」

 

非常灯だけがプラグ内を支配している。そんな中で胸部と腹部の痛みを耐えながら、少年は口角を大きく上げて笑う。血が出そうになるので安易に声は出さない。

 

「さぁ…始めようか。儀式を!」

 

同時期のミサト達は何をしていたのか。

 

機能を喪失した指揮所から避難し、外に出ていたミサト達は迫る使徒に動けないでいた。恐れの思いはとうに消え去り、各々が絶望を受け入れようとしている。その中、ミサトは常時身に着けている十字架のネックレスを掴んで離さない。

 

「ここで…終わりかな」

 

「万策尽きたわね…レイは間に合いそうもない」

 

誰もが終わりを覚悟した。しかし、携帯式のコンピューターを指揮所から持ち出していた伊吹マヤが驚嘆の声を上げる。その声は使徒に対するものではなくて、誰も予想しなかったイレギュラーに対してであった。

 

「しょ、初号機が動き始めました。その、再起動を…しました。パイロット及び初号機の状況は全部が解析不能です。エラーコードすら出ません」

 

この報告に皆が驚いた。何か鈍い音がしたかと思って、目の前を見れば使徒を鷲掴みにする初号機がいる。その初号機は頭上に光の輪を浮かべ、赤い目をしている。暴走の時にする目でも何でもない。こんな初号機がいるのか。分析しようにも、全てのコンピューターがエラーすら出せない。まさに、これが本当の解析不能と言えようて。

 

完全に油断していた使徒は一切の身動きを取れない。初号機に反撃したくても、対面できない以上は何もできないのだ。この状態がずっと維持されることはなく、初号機は使徒を投げ返した。

 

「シンジ君…あなたは何をしているの!」

 

「何って…僕は僕のするべきことをしているだけですよ。使徒の殲滅です」

 

「それはそうかもしれないけど…おかしいわよ!何が起こっているの!?」

 

「そのご質問に答える余裕はないので、僕は行きますね。ミサトさん…見ていてください。ニアサードインパクトを」

 

シンジが乗る初号機は歩み出す。その先では、弐号機を逃がしていた零号機が使徒を磔にしていた。零号機のレイだって、ATフィールドを展開することができる。展開したATフィールドを応用し、それを磔として使用する。

 

「綾波、少しだけ離れて」

 

零号機は少しだけ自分の位置をずらした。それを確認したのか、初号機は光線を放った。もちろん、これは通常のエヴァではできない攻撃である。放たれた光線は使徒に直撃し、使徒をなぞって切る。綺麗なまでに使徒は真っ二つに割れ、人間の肋骨に似ている部位が粉々になった。この肋骨が砕けることで、使徒の心臓たるコアが明らかになる。完全に沈黙した使徒を零号機は磔にしままで、絶対に逃がさない。この行動を「油断禁物だから」と表現すれば良いのだろうが、真なる目的を鑑みると、恐ろしくダークで笑えない。

 

第十の使徒は…神への生贄となるのだから。

 

「下処理しないと。雑味が出るからね」

 

初号機は使徒と零号機の所へ着くなり、使徒の頭部を殴ってぐちゃぐちゃに潰した。一部を除いて使徒には顔みたいなパーツが存在する。それは無残にも潰されて、見る影もなくなる。この躊躇のない動きには、シンジの覚悟が見えるだろう。さすがに規格外の使徒でも、頭部を破壊されてしまえば、ジ・エンド。使徒の殲滅は決定的となったのだが、ここで問題が生じる。

 

それは、使徒殲滅の方法だ。

 

「さぁ…綾波。契約の時だ」

 

「うん…碇君の天使になるために」

 

零号機は何を思ったのか、口を大きく開ける。そして、身を屈めて第十の使徒に覆い被さった。地上にいた者たちからは、何をしているのかを見知ることができない。辛うじて、何かを食べる動きだと思われるぐらいだ。数秒ほどして、零号機はムクっと起き上がる。その口で…コアを噛み締めていた。ここまで来たら、何をするのかは明白。皆のご想像の通り。口を思いっきり閉じ、第十の使徒のコアを食った。文字通りで、零号機はコアを食ったのである。クドイようだが、エヴァが使徒を食した。エヴァの運用の中に、「使徒を食して撃滅する」は当然ながら入っていない。もちろん、パイロットの現地判断で奇抜な戦いをすることがあるかもしれないが。それでも、こんな戦い方は誰も知らないし、考えたこともない。

 

零号機はコアをこぼさないよう、注意しながら飲みこむ。コア自体は小さいため、数回ほど噛めば簡単に飲み込むことができる。コアが全てを飲み込まれて、零号機に取り込まれた。その直後だった。零号機は全身を白色に輝かせはじめ、初号機と同じく頭上に光の輪を浮かべる。

 

なんだ…これは。

 

この異常事態を正確に理解できている者は誰一人としていない。あの碇ゲンドウでさえ、己のシナリオと全く違う現実に打ちひしがれていた。多少の誤差が生じることで、ある程度シナリオが狂うことは予想できていた。しかし、ここまで、大いに狂いに狂うなんて。ゲンドウは地に膝を立てて崩れるしかなかった。

 

そして、その横には、あの老人がいる。

 

「なぜだ…なぜ私のシナリオ通りにならない!」

 

「碇…お前は既に詰んでいたのだよ。碇シンジ君はお前が思っているような人間ではなかった。脆弱に設計されたはずの心は頑強に、自分の幸せをひたすらに追い求め続けるようになった。この意味では、お前と彼に親子の繋がりが見えるよ。だが、冷酷さと老獪さ、知恵と力、神たる資格など全てを彼は手にしている。お前には足りなかったのだ」

 

「冬月…そうか、最初からか」

 

「悪く思うなよ。本当の私は碇シンジ君の側近として働いている。昔に、この世界のシナリオは彼のものに変わった。まったく、やれやれだよ。なんせお前を欺くために、私は大変な苦労をして来たからな。ま、それも今日で終わる。お前も見ているがいいよ」

 

初号機と零号機はゆっくりと上昇し始める。それを追うようにして、職員は移動する。使徒だった残骸は完全に崩壊して、よく見られる赤い液体となった。しかし、その液体も零号機に取り込まれていった。一切の食べ残しを出さない。レイのもったいない精神には感服したくなる。しかし、実際のところは、おぞましいこの上ない。

 

生存した職員たちは、ボロボロの本部から非常用の避難設備を使って地上にまで上がる。地上は、今は亡き使徒の猛撃によって要塞設備から住居も全部が破壊されていた。それだけなら、別に特段驚くことはない。しかし、地上に這い上がった者達は目の前のことに驚くしかなかった。瓦礫が浮き上がっており、地上の全てが赤く照らされている。仮に今の時間帯が夕方だとしても、この赤い空間は異常に尽きる。

 

この赤色を生み出す下手人は上にある。

 

そう、空が赤くなっていたのだ。ある場所を中心として、周囲を赤く染まらせている。ある場所にはバウムクーヘンのように何重もの円が形成されていて、中心は異空間への門(扉)が開かれていた。この門(扉)がどこに繋がると言うのだろうか。

 

職員はお互いに怪我をした者を庇いながら、何とか安全だと思われる場所で落ち着く。その集団の一員のミサトは、今起こっていることの答えにたどり着いた。

 

「見たことがある…これを。あの日、私は南極で見た。セカンドインパクトを」

 

それを踏まえて、盟友のリツコが解説する。

 

「セカンドインパクトに次いで発生する三番目のインパクト。そう、サードインパクト。まさか、エヴァによって引き起こされるなんて考えなかったわ。人類に下される終末の宣告。世界が終わる…世界が滅ぶ時が来たようね」

 

「父さん…」

 

自分達では何もできない。怪我をした同僚を庇うオペレーター達、へたり込んで動けない伊吹マヤ女史、真っすぐ見ている赤木リツコ博士、十字架のネックレスを力強く掴んで己の父を想う葛城ミサト。各員で十人十色の反応をしていた。これを止めたくても、止めようがない。打つ手なし。

 

「これが…彼の望み。そう言うことだったのね…シンジ君」

 

別の場所では、少女が血だらけながらも冷静に観察していた。使徒にコテンパンにされて重傷を負っていても、絶対に見届けたかった。この喜劇の行く末を。

 

「あっちゃー。まずいことになったにゃ。まっさか、エヴァ初号機と零号機を使ってインパクトを起こすとは。さすがはゲンドウ君の息子だね。これは予想していなかった…今回は負けたよ、シンジ君。でも、私は諦めないから。ユイさんのために、君のために。私は君を救ってみせる。必ずね」

 

負傷と出血で強い倦怠感に襲われ、よろよろと地面に座り込む。

 

「やっぱ、匂いが違うからかなぁ」

 

サードを起こすのが使徒ではなく、エヴァとは。二度とインパクトを起こさせないために、使徒を撃滅する目的で建造されたエヴァ。それが今や、インパクトを起こそうとしている。こんなことが許されていいのだろうか?いや、許されるか許されないかの話ではないのだ。全ては自動的にプログラムされていたことだから。避けようにも、止めようにも何にもできない。太古から仕組まれしことからは逃れられない。この仕組まれたことに贅沢な装飾を追加したのが、老人と少年。

 

その老人は心からの喜びを表す大笑いを見せていた。

 

「これが彼の望んだニアサードインパクトだよ、碇。ネブカドネザルの鍵を使うことで、人を捨てて神となったシンジ君とエヴァ初号機の覚醒。第十の使徒を吸収して、神の側近たる天使となったレイ君とエヴァ零号機の覚醒。初号機と零号機が同時に覚醒することで、起こされるのが、彼のニアサードインパクトだよ!」

 

老人の横に物言わぬ者がいる。傍から見れば、ただの屍のようだ。

 

「シンジ君。君は休みなさい。サードインパクトは私と例の少年で、君を代理して遂行する。気がかりのレイ君とアスカ君も任せてもらう。君が帰ってくるまで預かるよ。だから、しっかりと休む。ちゃんと14年後に、私が迎えに行くからな」

 

2機のエヴァは仲良く向き合いながら昇る。門からは両機を引き上げるようにロープらしきものを垂らしている。

 

このまま引き上げられれば…全てが終わる。

 

世界が滅びる。

 

終末の時。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

初号機と零号機、両エヴァは赤い槍に貫かれて機能を停止した。

 

同時に、門は急速に閉められる。

 

空より、静かに降りて来る青いエヴァ。

 

「お休みシンジ君。君が目覚めるまでに、僕と先生が契約を進めておくからね。全ては君の幸せを願って」

 

続く




次回予告 ※次回からQです

眠りから目覚めたシンジ

起きたところは、全く自分が知らない所だった

周囲の人間から怨嗟の目で見られるも、シンジはニヒルに笑う

嘗ての保護者であった葛城ミサトと再会する

ミサトに厳しく詰められ、尋問を受ける

その時、迎えが来た

次回 新世紀エヴァンゲリオン 『遅すぎたんですよ…ミサトさん』

空白の14年の補完を含めたQまでの総復習的な話は必要ですか?

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