これは、とある超越者が最高のヒーローに至るまでの物語 作:玉箒
それでは本編どうぞ
「死ね」
「待ッ――「待ってッ!!!」
「―――鈴木くんッ!!ダメ!!!それは―――ダメだってッ!!!」
「…………」
お願いと言って自分のローブを引っ張る葉隠。チラリと自身の右後ろに立つ葉隠を見つめたまま動かない悟。マグネは心臓が鼓動を繰り返して目に見えるほど大量の汗が額を伝っていた。唐突に、フッと悟の右手の輝きが消えるのを見て葉隠の顔が晴れる。
「…………そうだな」
「!鈴木く――「死ねッ!!!」
悟の右手側からスピナーが剣を振りかぶる。えっ、と振り返る葉隠が身構える暇もなく、迫り来る刃物の束。
「(危険な賭けだが―――クラスメイトが死ねば動揺の一つもすんだろッ!!!)」
攻撃を仕掛けているのはスピナーであるのに、焦りが止まらない。一筋の望みにかけて剣を振りかざすが、
「―――あ?」
「……そうだな、殺してはダメだ、コイツらには――」
―――振りかざした剣の束が、悟の振りかざした右腕とぶつかり合い、縛っていたベルト等が引きちぎれバラバラに裂けて空中で分解する。分たれた幾本もの剣のうち一つを手に取り、
「―――ぎゃあぁぁぁぁああ゛あ゛ッ!!!!」
「―――え…?」
「………聞くことがあるからな」
スピナーに向けて剣を振り下ろす。胸元を切り裂かれたスピナーから鮮血が飛び悟とマグネ、そして葉隠を赤く染め上げる。何が起こったのか分からずに困惑する葉隠が震える手で自分の顔をなぞると指先にねちょりと何かがへばりつき、その後鼻の奥を突くような血生臭さを自覚する。
「は、ひッ、キャアァァアアアアアッ!!!!!」
「葉隠さん!!!もうやめて鈴木くん!!どうしたの!?さっきからおかしいよッ!!」
「鈴木くんッ!!!止まってくれッ!!!」
仲間達の静止の声も聞かずに左手でマグネの首を握りしめたまま、地面に倒れ伏し悶え苦しむスピナーの首元に手を伸ばし、同様に握りしめて持ち上げる。二人が自身の獲物を手放して、自身の首を握りしめる白骨化した手を引っ掻いて何とか逃れようとするがその力は増すばかりである。
「ピクシーボブッ!!」
「分かってるッ!!!鈴木くん悪いけど容赦はしないからね!!!」
「……ん?」
悟と葉隠を分担しつつ、悟とヴィランを覆い隠すように大地が捲り上がる。悟に土石流が振りかかり完全に彼の姿を消す。数名の生徒が体を震わせてへたり込み俯く葉隠の元へ駆け寄り安否を確認するが、ガクガクと震えて涙をこぼすだけである。
「ピクシーボブ!?す、鈴木くんは無事なんですか!?」
「えぇ、ちょっと手荒だけど土石流の中に彼を固めた。身動きは取れないだろうけど死には「質問に答えろ」……え?」
上空から声がして上を見上げる。空からぽたりぽたりとスピナーから未だに血が滴り落ちていた。
「貴様らの目的は何だ、五秒以内に答えろ、でなければ殺す」
「―――ば―――ご―――」
「……よく聞こえんな、どうだ。これで話せるか?」
ハァッ!と勢いよく息を吸い込むマグネ。ただあくまで手の力を抜くのはマグネの方だけで、答えるのが少し遅れたスピナーの喉は未だに力強く握りしめたままであった。
「ッ、ハァッ!はぁッ、ふぅッ、ば、爆豪ッ!!爆豪勝己って名前のガキよッ!!その子を回収しにきたッ!!嘘じゃ無いわッ!!!」
「敵の数は?」
「はち……あぁいえ、9人よ!!9人ッ!!」
「………そうか【
「ガッ―――」「グォ―――」
「……………」
無言で二人のヴィランを手放す悟。真っ逆さまに落ちていくマグネとスピナーを虎が何とか脇に抱えると上方から声がかかる。
「マンダレイ、今敵の言った情報を全体に共有しろ。私は私で動く、ではな」
「待ちなさい鈴木くん!!待ってッ!!ッ、あぁもう!!!」
宙に浮いたまま彼らの視界から消える悟。マンダレイの呼びかけにも答えずその場から消えてしまう。悪態を吐きながらも全体に情報を共有するマンダレイ。その間に、虎は念を込めてヴィラン達の意識を刈り取っていた。
「………我は生徒達の捜索兼ヴィランの討伐へ向かう。ピクシーボブよ、行くぞ。マンダレイは生徒達を施設まで誘導してくれ」
「えぇ、分かってるわ。貴方達、着いてき「できません!!!」
「あの状態の彼を放っておいて、逃げ帰るようなことはできないッ!!俺も連れて行ってください!!!」
「お、俺も「ふざけないでッ!!!」
マンダレイが怒号を上げる。プロヒーローの声に怯むA組の生徒達。余裕の無い表情でマンダレイが生徒達を睨みつける。
「今は友情がどうこう言ってる事態じゃ無いの!!分かるでしょう!!?貴方達の、生徒達の命運をかけた話をしているの!!!素人頭で情に流されてどうこうしようなんて考えないでッ!!!分かったらこっちに着いてきなさいッ!!!」
「で、できませんッ!!!私はクラスメイトに依然助けられたッ!!ここで引くわけにはいかないッ!!!」
「いい加減に……ッ!……ふぅ、ならばクラス委員長。貴方には別の指示を出します」
「べ、別の指示…?」
「(幸いここから施設まではそう遠く無いわね……)貴方はクラスメイトを率いて無事に施設まで走りイレイザーヘッド、ブラドキングと合流、その後指示を仰いで。私は生徒達の捜索に回る。……貴方よりも私の方が戦力的な意味合いでは上よ。これなら文句は無いでしょう」
「な!?し、しかし……」
マンダレイがジッと飯田を睨みつける。それに対して唇を噛み締めるだけで反論が出てこない。そんな彼を見かねてため息を吐くマンダレイ。
「……これ以上は時間の無駄よ。これが私の出せる最大限の折衷案。これ以上は譲歩できないわ。………ただ、そうね」
飯田の様子を見て仕方ないとテレパスを繋ぐ。
『皆に伝えます。もしヒーロー科A組、鈴木悟くんを見つけた場合は―――
―――……これでいいでしょう。A組クラス委員長、飯田天哉くん、クラスメイトのこと、頼んだわよ」
文句は無いだろうという瞳で飯田をジッと見つめる。悔しさを滲ませながらもゆっくりと頭を下げて、はいと頷く飯田であった。
―――鈴木悟くんを見つけた場合は―――止めてあげて。
「………なるほどな、どういう指示だそりゃあ、とも思ったが……納得だ」
「ハン、合法的にテメェをぶっ飛ばして良いって指示だよなこりゃ、オイ」
「……………」
爆豪と轟、彼らの目の前に広がるのは交戦の跡。木や地面にいくつもの切り傷が走り、巨大な大木が切断されて年輪が露わになっていた。そして、その光景を生み出した犯人であるムーンフィッシュはというと―――全ての歯を失い、地面に倒れていた。彼の隣に佇む悟の拳から血が滴り落ちる。
「……鈴木、お前……だよな……どうした」
「………爆豪、ヴィランの狙いはお前だ。早く避難しなければ」
「舐めプ野郎の言葉は届いてねぇらしいな……おいクソ髑髏ッ!!さっきのマンダレイのテレパスはどういう意味だオイ」
「【
爆豪が悟に向かって個性を使う。爆炎に飲み込まれ姿を消す悟。
「……おい」
「この程度で止まるかよアイツが、構えろや。どう見ても普通じゃなかったろうが。次が来る」
「……まぁな―――ガッ!?」
背後から首を掴まれる轟と爆豪。彼らの背後に転移していた悟が容赦無く二人を締め上げる。無言で個性を使い体の周りに魔法陣を展開する悟。
「…………」
「―――テ―――メ―――」
「―――待―――」
光の粒子となってその場から消える二人の体。上げていた腕を下ろし、次の獲物を探してその場から消える悟であった。
―――あちらに感じるな。数は……3。
個性により生命体の存在を感知した悟がそちらは向かう。無心で、そちらへ足を動かす。
―――残る敵は6。まだ回収していない人間は蛙吹、麗日、障子―――……と、そしてB組。早くしなければ。
…………………。
……。
「梅雨ちゃん?カァイイ呼び方!私もそう呼ぶね」
「やめて。そう呼んで欲しいのはお友達になりたい人だけなの」
麗日を退避させて自身も逃げようと身を引く蛙吹を追い詰めるトガ。蛙吹の長い髪を注射器で刺し、木に張りつける。
「じゃあ私もお友達ね!やったぁ!」
「ッ!」
顔を紅潮させて興奮気味に蛙吹に近づくが身動きの取れない蛙吹が顔を引き攣らせる。
「血ぃ出てるねぇお友達の梅雨ちゃん。カァイイねぇ。血って私大好きだよ!」
「離れてッ!!」
先に退避していた麗日が蛙吹の下まで引き返す。声に反応してトガが躊躇無くナイフを振るうが身を手前に引いて回避すると、ガンヘッド直伝のマーシャルアーツで渡我を他に伏せる麗日。身動きが取れないように手首を引っ張り首を後ろから押さえつける。
「お茶子ちゃん……あなたも素敵。私と同じ匂いがする」
「好きな人がいますよね?」
「!?」
不利な状況であるというのに笑顔をたやさずに頬を赤らめて自身の背に立つお茶子に語りかける。
「そしてその人みたくなりたいって思ってますよね。分かるんです、乙女だもん」
「(何……この人………!?)」
ゾッと鳥肌が立つ。一方的に捲し立てるトガの息が荒くなっていきどんどんと顔が赤くなっていく。興奮気味に汗が流れて口角が上がっていく。
「好きな人と同じになりたいよね。当然だよね」
「同じもの身につけちゃったりしちゃうよね。でもだんだん満足できなくなっちゃうよね」
「その人そのものになりたくなっちゃうよね。しょうがないよねぇ」
「貴方の好みはどんな人?私はボロボロで血の香りがする人が大好きです」
「……だから最後はいっつも切り刻むの。ねぇお茶子ちゃん楽しいねぇ…!恋バナ楽しいねぇ!」
「痛ッ!!?」
「チゥチゥ……チゥチゥチゥチゥ……」
トガの言葉に圧倒されて飲み込まれていると太ももに痛みが走り、そちらに目を向けると注射器の針が刺さっていた。尋常では無い量の血が瞬く間に抜き取られていきクラッと目眩がして拘束が緩む。
「麗日!?」「っ、とぉ」
ボロボロの緑谷を抱えた障子がその光景を目にし声をかけると麗日の拘束から解放されて身を引くトガ。後ろを振り返りながら声をかける。
「…人が増えたので殺されるのは嫌だから……バイバイ」
「何だそれは」
「え―――カハッ―――」
「うぉ!?」
「きゃ!」
大地が揺らぐ。地面に亀裂が入り転びそうになる障子と蛙吹。いったい何が、と視線を上げると先程のヴィランの頭を鷲掴みにして地面に叩きつけている悟の姿があった。
「す、鈴木ちゃん!?な、何してるの!!」
蛙吹の困惑した言葉など聞こえてないようでゆっくりとヴィランの顔を持ち上げるとポタポタと血が顔面から滴り落ちていた。
「な゛……ナ゛、ニ゛ィ……あ゛、な゛だ……ッ!?」
「……何だそれは……殺すけど、自分は殺されたく、無い……死ぬ覚悟も無い、楽しみたいだけの、屑、が………調子に―――」
「ほんまにアカンッて鈴木くん!!それ以上は―――」
「乗るなあッ!!!!」
「うォ!?や、止めろ鈴木ッ!!!どうしたんだ!!?一線を超えてしまうぞッ!!?」
「やめて鈴木くんッ!!!」
再び地が揺れる。トガの顔面が地面と激突して辺りに血が飛び散る。後頭部を押さえつける悟が今度は髪の毛を掴んで持ち上げると悟の手からトガがぶら下がり顔面が血だらけになっていた。後頭部で結んでいた髪が解けて長髪が垂れ下がり、白目を剥き口をぽっかりと開けて何かを呟くが彼に祈りは届かない。
「や………め……ゆ……ひへ……」
「……やめて、許して………その言葉を無視して相手を殺すのが貴様ら―――」
「やめろッ!!鈴木ッ!!それ以上やったら―――」
「ヴィランだろうがあッ!!!」
渾身の力で再度地面に向かってトガの頭部を叩き込むために、腕を振りかぶったが、
「―――む!?」
「―――ッ、梅雨ちゃん!」
「ごめんなさい鈴木ちゃん!!ケロォ!!」
地面へ拳を振り下ろすよりも早く悟の体に触れた麗日が無重力化を施し蛙吹が悟の身体に飛び蹴りを当てる。抵抗を失った肉体が森の茂みの中へと消えていくとトガの安否を確認する蛙吹。
「ねぇアナタ!無事!?意識はある!?」
「……か……は、は………ガッ……」
「……マズイな、頭をやられてるかもしれない。適切な場所へ運ばないと危ないぞ」
「ッ、障子くん!障子くんが来た方って施設の方だよね!?私が運ぶから早くここから―――」
「……すまないがそれはできない」
「!?な、なんで……」
障子の背後から木々のなぎ倒される音がする。そして雄叫び、大きな魔獣のようなソレが暗い森の中に鳴り響く。
「な、何今の……!?」
「クソ!もう来たのか!!ここから離れるぞ!!こっちだ!!!」
「え!?な、何!?何が来たん!!?」
何者かの叫び声が鳴り響く闇とは真逆の方向へ走り出す。道から逸れて暗闇の木陰に隠れて息を殺す4人。背中にトガを背負った麗日が小さい声で障子に再度質問する。
「ね、ねぇ………な、何がきたん……!?」
「……ダークシャドウだ」
障子がそう言った瞬間に間近まで近づいていた音の主が正体を表す。ダークシャドウと聞いて意味を理解してなかった二人が、現れた巨影に目を見開く。
「オォォオオオオォぉぉお゛オオおお゛オ゛オ゛ッ゛!!!!」
「止…まれ……!!ダークシャドウッ!!!」
「……………」
暗闇の中から舞い戻った悟が巨大化したダークシャドウと対面する。その光景を見て焦る麗日と蛙吹。
「な、何あれ!?アレが常闇くんのダークシャドウ……!?」
「ダークシャドウは暗闇で強化される……!暴走を必死に抑え込んでいたが、俺がヴィランに襲撃され付いた傷がキッカケでああなった……!」
「あぁなった……って、それ鈴木くんにぶつけてええの!?」
「分からん!!ただ……この場で何とか出来る奴は悟しかいないだろうッ!!」
「そ、それは……ッ!そうやろうけど………」
「というか、どうしちゃったのよ鈴木ちゃん……!?明らかに様子がおかしいじゃない!!」
「ッ、逃げろおッ!!!鈴木ィイイッ!!!」
「………【
常闇が叫び、ダークシャドウが腕を振りかぶる。無心で魔法を発動させる悟。
「【
「うぉ!?」
「うわ!」
「ま、眩し……!」
森の一角を白く染め上げる巨大な光が彼らの視界を奪う。目を瞑っても隙間から流れ込んでくる光にいっそう眉間の皺を深める麗日達。耳からは先ほどまでうるさかったダークシャドウの音がピタリと止み、悟が転移魔法を使うときに鳴る特有の音が聞こえてきた。光が収まり麗日がゆっくりと目を開くと―――
「ッ……うぅ…… ―――え?あ!ちょっ!!」
「フンッ!!」
麗日の背中からトガを引っ張り上げ自身の後ろへ投げ飛ばす悟。力を失った肉体がドサッと鈍い音を立てて地面に落ちると、視線を鋭くして悟に怒鳴る麗日。
「鈴木くんッ!!どうしたの!!?鈴木くんそんな感じちゃうやん!!?」
「鈴木ちゃん!!落ち着いてッ!!!何があったの!!!?」
「…………動かれると面倒だな、仕方ない」
悟が何か呟いた瞬間、彼からおぞましい波動を感じる。心臓を鷲掴みにされているような恐怖が肉体を支配して指一本動かすことすら許さない。ガチガチと歯を鳴らしてクラスメイトを見上げる麗日。悟が魔法を発動すると、何の抵抗も見せずに転移される四人であった。
「………いない、ということは―――仲間が近くにいるな」
後ろを振り向くといつのまにかトガの姿が消えていた。
「おい!トガ!無事、じゃねぇけどお前生きてんのか!?オイ!!」
「………う…………あ………」
「(クソがッ!!あの鳥頭の奴追いかけりゃあ生徒の一人や二人くらい共倒れ狙えるかとも思ってたが………あんなヤベェ奴とは思ってもなかった!鈴木悟!)………おい!聞こえてんだろ黒霧!トガが限界だ!回収しろッ!!」
『……何がありました?』
「あの生徒だよ!鈴木悟!!テレビで見た体育祭んときのアイツとは別人だったぞ!何なんだアイツ!?」
『……そうですか……やはり……分かりました。回収地点に向かいます。あなたもなるべく早く帰還して下さい』
「分かっ――
―――コンプレスが、突如目の前に現れた骸に反射的に手を伸ばす。二人の腕が交差するようにすれ違うが明らかに悟の方が、比較するまでも無く早かった。スローモーションで時間が流れる。俺は間に合わない、そう理解するのに時間は要らず、自身に伸びる手を見つめながら、自身の顔面に悟の手が覆い被さり―――
「―――ハアッ!!ハッ、ハッ、ハぁッ!!ふ、ふぅッ!!お、おい!トガッ!!お前動けたのか!!!」
ピタリと、コンプレスの前に飛び出た麗日の姿に驚いた悟が動きを止めた、その一瞬。ここしか無いとそのまま腕を伸ばして悟に触れたコンプレスが個性を発動して悟を飴玉サイズに超圧縮して拳の中に仕舞い込む。自身の背中から、目の前に飛び出た麗日―――もとい、渡我を回収すると彼女の身体がドロッと溶けて元の姿へ戻りぐったりと寝込む。
「………す、ずき……さ、とる……って………いう、ん、ですか………」
「バカッ!!喋んなお前ッ!!死にかけだろ「良い……」……は?」
「す、ごい……です……血…が、ない……のに……ぷんぷん……におう、ん、で……す……!血な゛ま゛、ぐさいん゛でずッ゛!!ぎずひどづな゛い゛の゛に゛ィイ゛ッッッ、ぎずだら゛げな゛ん゛でずッ!!!い゛い゛ね゛ぇ゛!!い゛い゛ね゛エ゛!!カァ゛い゛イ゛ネ゛エ゛ッッ!!!」
「………どいつもこいつも、頭狂ってやがんなぁ……思ったより元気そうなのはいいことだが……」
一安心、かは分からないがトガと、一番の脅威である悟を捉えたことに一旦心を落ち着かせて回収地点に急ぐコンプレス。だが、
「―――ぬぉ!?こりゃあ……クソッ!!負けたのか
「待ちなさいッ!!」
木から木へと飛び移っていたコンプレスが大地の揺れにより振動する木に何とか捕まり後方を見るとプッシーキャッツの三人がこちらを追いかけていた。追いつかれてたまるかと何とか前へ前へ進むがその距離はだんだんと縮まり、プッシーキャッツがコンプレスの背後へ着くと虎が地を蹴り宙へ飛び上がる。
「ラァアッ!!!」
「うぐぉッ!!?」
背中から虎の拳を喰らって地へ叩き落とされる。ガサガサと木々の中を突き進みながら地面とぶつかりゴロゴロと地を転がる。コンプレスの手から離れたトガが地面とバウンドして同様に地面へ転がり落ちていた。
「逃がさんぞヴィラン連合……ッ!未だ連絡の付かないラグドールについて教えてもらおうか……!!」
「クソッ………タレがぁ……!!」
「ピクシーボブッ!!」「了解!!!」
マンダレイの合図と同時に個性を発動するピクシーボブ。土石流が発生してコンプレスに襲いかかるが、
「ぬっ!?危ないッ!!」
「ちょ!?」「きゃあ!!」
虎が森の奥に一瞬光る青白い炎を見て嫌な予感を覚え、二人をかかえその場を飛び退く。倒れているコンプレスの頭上を通り熱波を轟かせながら森の中を燃やす青い炎が泥を焼き尽くす。
「ザマァねぇな、ちゃんと爆豪は回収したのか」
「爆豪じゃねぇがコイツで勘弁しろッ!!」
ポケットからつまめるサイズのガラス玉のようなものを荼毘に向かって投げるコンプレス。パシッと片手でキャッチした荼毘がジッとソレを見つめつつ質問する。
「…………コイツは?」
「鈴木悟ッ!!爆豪よかよっぽどヴィラン向きだッ!!ソイツでいいだろ!!」
「!?…飴玉……鈴木悟……どういうことだ!!!」
「……フン、まぁいい。だったら……後はゴミ掃除だなッ!!!」
困惑するプッシーキャッツを置いてけぼりにして話を進めるヴィランが、両手に炎をためて一気に噴出する。逃げ場の無い広範囲の豪炎に身構えるプッシーキャッツ。
「任せてッ!!」
両手を地面につけるピクシーボブ。正面に壁を貼りつつ自身の周囲のみを陥没させると、頭上を炎が通り過ぎる。数秒間炎が燃え盛り、勢いが止まると今度は足場を隆起させて元に戻す。辺りを見回すとそこには―――
「―――バカな」
「そん、な……」
―――何も、無かった。
―――つで―――よかっ―――あやし―――。
……なんだ…………視界が……音……耳……なんだ……
―――うしたんでしょ―――死んじゃった―――。
……死んだ?……俺が……死ぬって………いや……音が……
――ったく、手間かけてこれか―――んとうにしんだんじゃねぇのかコイツ。
「………ん……あ………?」
「あ!起きた!!目ぇ覚めましたか?元気ですか?元気ですか?調子はいいですか?」
「え?あ……はい…………?大丈……夫?です……あ?」
「………んー、弔くん。何か様子おかしいです。血が無いです。匂いません」
―――弔?どこかで聞いたような……
「よぉ、最近ぶりだな……鈴木悟、だっけか」
「!?……死柄木、弔………って、ここどこだ……」
辺りを見回す悟。そこには見覚えの無い人間ばかり。目が覚める、という初めて経験する感覚、そこに広がっていたのは薄暗いバーのような部屋。見た目から"そういう輩"と分かるいかにもな人間が複数いた。
「俺たちの基地、ってまぁ言わなくても分かることだろうけどな。にしても、随分雰囲気変わったなぁお前」
「………?……誰だお前―――いや、まぁ死柄木の仲間、というだけか」
「あ?寝起きで寝ぼけてんのか?さっき会っただろ」
「…………さっき……?」
さっき、と言われて、さっきを思い出す。記憶が途切れるという未知の経験に頭がついていかないが、それでも直前で自分は何をしていたのか何とか思い出そうとして―――
「……肝試しやって………そこの……トカゲの、人、と、サングラスの………あれ………相澤、先生に連絡して…………あ……?………おい」
「ん?なんだ?あ、お前の肩に手を置いてるのは、お前が何かしでかそうとしたら俺の個性で押さえ込むためね。そこんとこよろしく」
「そうじゃない。俺の記憶が曖昧なのも………お前たち誰かの仕業か?」
「は?………なんだ、お前本当に俺に対して見覚え無いのか?」
「……………」
「……おい、コイツのどこがヴィランっぽいんだ?ただの記憶障害のガキじゃねぇか」
「おっかしいわねぇ。私達襲ったときはもっとおっかない感じだったのだけれど………二重人格かしら?」
「ふざけんな!俺はコイツのせいでこんな大怪我負ったんだぞ!!忘れたとは言わせねぇからなオイ!!!」
自分を放置して言い争いをするヴィラン達。朧げだが彼らと交戦したような、気はする。何が目的で―――おそらく、連れ攫われたのだろうが―――自分を選んだのか。というか、ここはどこで何が狙いなのか。何も分からずに俯き、申し訳程度に両腕には雁字搦めに特注の手錠がつなげられていた。
「悟くん悟くん!!!」
「な、何だ……馴れ馴れしい……」
「好きな人はいますか!!」
「は?」
「いませんよね?そんな匂いです!好きな人を意識する乙女の匂いがしないのです!!」
「(乙女、って……俺男だし……なんだ、コイツ……てか、何があったんだ……包帯にガーゼ……夥しい傷跡だ……)」
「好きな人がいなくて安心しました!!鈴木くんはどんな人が好きですか?カァイイ子?綺麗な子?あ……」
バタンと体から力が抜けて横に倒れるトガ。悟がビックリして倒れ伏したトガをジッと見つめる。
「ったく、病み上がりなのに騒ぐからそーなるんだ!!大丈夫かトガちゃん!?このままのたれ死ねバーカ!!今病院に連れて行ってやるからな!?」
「(な、何だコイツ……?コイツの方がよっぽど二重人格じゃ無いか…!?)」
「離してください……今は悟くんとお話ししないといけないので……」
「(……話を聞いている限りでは俺が色々やったようだが……記憶が曖昧だ……な、んだ。モヤがかかったように……思い出せない……)」
「……質問がある」
「うるせー!!人質がしゃべってんじゃねーぞ!!何だ言ってみろ!!俺に分かる範囲で答えてやるからよ!!!」
「俺以外に誰か捕まったのか」
「あぁ!!」
「!!?誰だ!!!」
「お前だけだ!!!」
「は?」
「すまん間違えた!!」
「?俺だけなのか……?」
「あってるぜ!!!」
「…………」
「黙ってろトゥワイス。お前じゃ話が通じねぇ」
困惑する悟をみかねて死柄木が間に割り込む。互いにジッと視線をぶつけ合っていたが死柄木がにやっと口を曲げて口を開く。
「お前、やっぱすげぇ強ぇな」
「……だから俺を連れ去ったのか」
「あぁ違ぇ違ぇ、そこの手品師が仕事ミスってアドリブでお前連れてきただけだよ。ったく、注文したのは俺なのに業者の判断で差し替えられたらたまったもんじゃねぇぜ、本当に」
「オイオイ、だから謝ったじゃねぇか何度も。これ以上お小言聞くのはおじさん耳に堪えちゃうよ」
「事実だ。………んでよ、お前、やられたらやり返していいとか思う?」
「……そんなことは知らない」
「へぇ、そこは"復讐は何も生まない"とか、如何にもっぽいこと言うんじゃねぇのかよ」
「………知らない。ただ……分からない……どうでもいいだろそんなこと」
「はは、そうだな。どうでもいいやり取りだ……でよ、お前、そこのトカゲと………女の傷、お前がやったんだがそれについてはどう思ってる」
「―――」
頭を上げてチラリと二人を見る。スピナーは心底機嫌が悪そうに、胸に刻まれた大きな傷を見つめていた。トガはと言うと常時こちらを満面の笑みで見つめていた。
「…………」
「……オイ、ダンマリかよ。ヒーローを目指す人間が、私怨に駆られて拳を振る感想でも聞きたいもんだ「すまない」……あ?」
「……記憶が無いが、お前らが俺たちを―――おそらく襲撃し、俺を連れ去った………んだろう。それについての怒りは確かに存在する。だが……俺の体にこれといった外傷はない。そんな切羽詰まった状況でも無かった―――のかもしれないし………あぁいや、ダメだな。色々言葉を重ねたが、それとこれとは別問題ということを言いたかった。………今のところ、お前らを傷つけた正当な理由が見当たらない。多分、俺がお前らを攻撃するキッカケなんて………クラスメイトを傷つけられた怒りくらいしか考えられない。………お前らヴィランに言われるのは癪だが、私怨に駆られて攻撃するのは恥ずべき行為だ。それは……一人の人間として謝罪する。すまなかった」
「―――いいですいいです!!問題ありません!!!優しいねぇ優しいねぇ!!悟くんはカッコいいねぇ!!!」
「ハッ!スピナー、お前的にはどうなんだ?この答えは。ステインの意思を継ぐ、だろ?お前からしたら一回やっちまった奴はアウト、だったか?人はそう簡単に変わらないらしいしなぁ、ステイン的には」
「………チッ!!」
「本当にお手本みたいな優等生ねぇ、やっぱ連れてくる子間違ったんじゃない?」
顔を紅潮させて興奮気味に返答するトガ。舌打ちをして顔を逸らすスピナー。そんな彼を鼻で笑うコンプレス。困惑するマグネ。こうして見たら、ヴィランといっても何ら一般人と変わらない、は言い過ぎかもしれないがただの人間に見えてくる。
「……いい加減教えてくれないか。何故俺をここに連れてきた」
「だから言っただろさっき、手違いだって」
「………俺をどうする気だ」
『どうもしないさ、鈴木悟くん』
テレビから音声が流れる。意識をそちらへ向けると液晶に何者かが写っていたが画質の悪いソレにハッキリとは全体像が見えずモヤがかかったように姿を眩ましていた。
「………何者だ」
『ふふ、そんなに警戒しないでくれ。僕は君の味方だよ?鈴木悟くん』
「ふざけた、こと、を、ぬか、す……な…… ―――あ―――?」
―――鈴木悟くん。
「―――?(なんだ……?今のは……)」
『おやおや、目覚めたばかりでまだ本調子では無いかな?焦る必要は無い。僕は君に危害を加えようなんて気はさらさら無いのだからね。お話をしようじゃ無いか。君と話したかったんだ』
「…………貴様の名前は…」
『僕の名前かい?そうだね、本名、というわけでは無いが―――
―――オール・フォー・ワン、と呼ばれているよ。
ここで、大幅なルート変更
爆豪拉致から鈴木悟拉致へと切り替わります
本編とはどういう点で異なった展開になるのか
ちょっとそろそろ期末試験が始まって、実験とかも立て込むので少し間が空くと思います。
しばしの間お待ちいただければ
それではまた次回