千恋*万花 〜桜の約束〜   作:紅葉555

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85話 雪音の本音、その想い

 

 鬼のみんなが残していた技術の一つ、唯一平行世界へと移動することが出来るモノ。

 

 この世界には様々な世界がある。例えば自分が歩いていて、目の前にA、B、C、と五つの扉があるとする。そしてAに入るとAへと続く世界があり、Bへと進むとBが続く世界がある。

 

 人生の数ある選択肢の中で、その選択肢の数だけ平行世界は存在している。それを証明したのがあの技術。

 

 つまり……ボクが今いるこの世界もどこかの平行世界。

 

 元々ボクがいた世界では…………蓮太君は早々に死んでしまってた。

 

 調べて見た感じだと、蓮太君は穂織に訪れた後、最初の祟り神戦の時に一緒にいた男の人を庇って死んでしまってた。つまり、ボクが穂織に来た時には既に。

 

 次の世界では、蓮太君は違う選択肢を選んでいた。祟り神と戦うのではなく、男の人と逃げることを選んでいた。だけど……逃げきることが出来ずにそのままやられてしまってた。

 

 そしてその次の世界では、初めてのお祓いの時、一時離脱した蓮太君が茉子ちゃん達を助けることが出来なくて、三人は死亡。残された蓮太君は絶望の中祟り神に抵抗することなくそのまま……

 

 その次もその次も、蓮太君は惨劇を回避する度に別の理由によって何度も何度も殺されていた。

 

 繰り返す絶望の世界を跨いで移動していく中で、ボクが確信したことはどんな世界も蓮太君が中心となって穂織の未来が繰り返し変えられていってるということ。

 

 どんなに些細な選択でも、蓮太君か行動を変えるとその未来が大きく変わってる。試しにボクが些細な行動を変えたとしても、その先は大して変わらずに同じ未来に統合された。

 

 つまり、蓮太君だけが「行動一つで未来を変えられる」。しかしその度に別の最後が待っている。まるで、蓮太君の歩む道を塞ぐように。

 

 しかも驚いたのが……あんなに成功していた世界ですら、蓮太君はみんなを守れなくて死亡してしまった事。ボクが見てきた世界は全て最終的にあの結果に繋がっていたと考えると……なんだか……

 

 ボクは変えたい。幸せをつかみきれなかった蓮太君から、笑顔でいっぱいの蓮太君が見られるように。

 

 その為にこの世界に来たんだ。

 

 だからこそ、まずは打開策を考えなきゃいけない。一番は蓮太君が死なないこと。全ての選択で蓮太君が未来を変えてしまう以上は、どんな選択をしようともそれが間違いだとは決めつけることが出来ない。だからまずは蓮太君が死なないようにすること。これが第一。

 

 次に重要なのは茉子ちゃん。

 

 不思議なことにどの世界線でも、蓮太君は引き寄せられるかのように茉子ちゃんと仲良くなっていく。色んな世界で蓮太君は別の人を好きになったりしてしまっても、茉子ちゃんは絶対蓮太君を好きになるし、蓮太君が強くなる理由のほとんどに茉子ちゃんが絡んでいる。

 

 その理由はわからないけど、きっと蓮太君にとって茉子ちゃんは、茉子ちゃんにとって蓮太君は互いに必要な、かけがえのない存在なんだと思う。

 

 次点で重要なのは……多分レナちゃん。

 

 彼女は「ある理由」で怨念……妖の葉に対しての適正が高い。つまり、聖なる力を持ってる芳乃ちゃんでも抵抗できないレベルの呪詛に対しても、その力に対抗することが出来る。

 

 現にあの最悪の結末から逃げることが出来たのはレナちゃんのおかげ。

 

 そして……特殊な存在なのが将臣君。

 

 彼はきっと、蓮太君と共に生きることで特別な存在へと昇華する。何故なら予言の十一の希望の中で、最も潜在能力が高い。

 

 将臣君は常に誰かを守る為に強くなり続けている。きっと、蓮太君がいなかったら将臣君が中心になってたんじゃないかな。そんな彼が最も輝く瞬間は蓮太君の隣にいる時、蓮太君を想った時は無類の強さを発揮するし、何故か最高の連携の動きが可能になっている。

 

 芳乃ちゃんは……正直わからない。

 

 彼女は数ある世界で、常に酷い最後を迎えている。誰かが死ぬ度に心を折られ、絶望し、自害する。

 

 彼女が殺される事のなかった世界の最後は、決まって芳乃ちゃんの自害で終わっていた。

 

 だからこそなのか、彼女は日々の努力を怠らない。常に誰かを巻き込まないように振る舞っていたのは正解なのかもしれなかった。それも蓮太君と将臣君によって変えられてしまったけど……きっと彼女がもっと人に頼っていたのなら、数え切れないほどの犠牲者の上で彼女は死んでいただろうと思う。

 

 きっと、彼女を救うことが出来るのは、蓮太君………………じゃなくて、将臣君。

 

 わからないけどね。

 

 でも……気になるのは、何故かこの世界では芳乃ちゃんが蓮太君の事を好きになっていること。そんなことは別の世界ではなかった。

 

 彼女は基本的に恋を知らないまま亡くなってしまっていて、一つ前の世界でのみ将臣君と結ばれた。

 

 けど、その先は……事実上、将臣君と結ばれてしまったことで破滅を呼んだ。この言い方は……ちょっとダメだったかな。でも、将臣君の身体の中に怨念が入り込んだ後に、その魂の中に怨念が潜んだいたのは事実。将臣君と結ばれなかったからこそ、何故か強力になった祟り神が出現しなかったのも事実。

 

 つまり芳乃ちゃんと将臣君が結ばれた先が存在する条件が、この世界のように将臣君が祟り神に対しての致命傷を与えない事。

 

 けど、その世界の先は何故か芳乃ちゃんは蓮太君のことを好きになる。

 

 ……頭が痛くなっちゃった。

 

 ボク、普段は悩まないからなぁ……こんなのは苦手なのに。

 

 でも、やっぱりまずやってみなきゃと思うのは、蓮太君の説得かな。

 

 蓮太君が鬼の歴史、過去を知った時に紅鬼は何か細工をしていた。多分見せた過去は真実を見せたんだと思うけど……明らかに蓮太君の様子が変わってしまった。それに、紅鬼は蓮太君の心を壊そうしているから、もしかしたら芽生えてしまっていた邪の心を刺激してしまったのかもしれない。

 

 鬼の力の覚醒に失敗していると、邪の心がその身を支配する。それを促進させてしまったのなら……蓮太君自身が世界の崩壊の中心になっちゃうから、それだけは阻止しないと。

 

 その為には……ボクの力を使ってでも邪の心をかき消そう。

 

 ……芝居とはいえ色々と面倒な関係になっちゃったからなぁ。やっぱり敵サイドで初めて巡り会うのはまずかったかな? でも…………もう今更だね。

 

 そろそろ蓮太君の部屋に着く……

 

 よし、絶対に助けるからね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 お兄ちゃん。

 


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