FGO 異世界特異点a AiEn奇縁戦争 東京   作:聖杯に選ばれたライター(■■■■)

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幕間 休題されど休まらず、閑話は星や羊のように

 ――線路を走っていた電車(トロッコ)が制御不能になってしまった。

 このままだと、前方で点検している五人の作業員が轢かれてしまう。電車は猛スピードだ。彼らに避難する猶予はない。

 そして貴方は今、その線路の分岐器の目の前にいる。貴方がすぐにレバーを引けば、電車の進行方向が切り替わり、五人の作業員は助かる。

 しかし、切り替え先の線路では、一人の作業員が点検作業を行っている。電車は猛スピードだ。その作業員にも避難する猶予はない。切り替えれば、その作業員が轢かれて死んでしまう。

 今、五人を助けるために貴方が出来ることはレバーを引くことだけだ。他の策を取る猶予はないし、作業員たちの人となりを知らない貴方は、それを判断材料にすることはできない。

 今、貴方が迫られているのは純粋に、五人を見殺しにするか、五人を助けるために一人を殺すか。そういう選択だ。

 貴方ならどうするだろうか? そして、その選択を正しいと思うだろうか?

 

 ――これは、有名な『トロッコ問題』*1 に少しだけ手を加えたものだ。

 この問題が問うているのは、「大勢のために一人を犠牲にすること」の倫理学的な是非だ。

 よく、前提となる状況にケチをつけたり、全員を助ける方法を考える者も目にするが、それはこの場合、“逃避”だろう。

 問題に対して、諦めずに工夫して理想を求め続けることは大切だと思う。しかし、これはそういうことを問うているのではないのだ。

 ただ純粋に、「大勢のために一人を犠牲にすること」の是非を問うているのだ。

 

 ヒトが生きる上で直面する問題に、必ずしも最も理想的な答えが用意されているとは限らない。

 その答えに辿り着けるだけの猶予が、必ずしもその時にあるとは限らない。

 その時点で出来得る“理想的でない最善策”を選ばざるを得ないこともある。

 ――そうではないだろうか?

 例えば、“経済”か“医療”か、という問題のような。

 どう振り分けても犠牲者が出る、死者が出ることは想像に難くない問題は確かにあるはずだ。

 

 それでも。いや、だからこそ。

 俺はこうなった。俺はこうなったのに……。

 結局、俺はあの時、一人を預け多数を守りに行く選択をした。

 やはり足りなかった。逃避でしかなった。

 俺は弱い。ヒトの弱さに愚かさに、悲しみ転じて憤ろうと、嫌悪し憎み軽蔑しようと、ヒトである身を越えられず。ただ一匹の畜生なれば。ヒトという名の畜生なれば。

 俺は俺を許さない。俺は俺を嫌悪する。俺は俺に〓〓と言う。

 そうして俺は生きている――。

 

 眠りの言の葉にひそまない、日本の羊を数えるならば、東京の夜空に輝く星の、瞬く音も聞こえるでしょう。

 それでも眠りはやっては来ない。今日も私は眠れない。頭を胸を心を体を、苦痛が宿り棲み家にしても、私に休まる場所などなくて、地獄が私の()むところ。

 羽毛の布団じゃ軽いみたい。苦痛を積んで重ねたおも(思・重)い。苦しみだけが私を倒し、すく(救・掬・巣食)って眠りに運ぶのでしょう。それでも私は地獄にいるの。寝ても覚めても地獄にいるの。地獄が私の棲むところ。

 俺〓〓、俺〓〓、俺〓〓、俺〓〓。俺〓〓、俺〓〓、俺〓〓、俺〓〓――。

 

 

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【休載のお知らせ】

 

 

 誠に勝手ながら、本日よりしばらくの間、休載させて頂きます。

 再開につきましては、決まり次第、下記のTwitterアカウントにてご報告させて頂く予定です。

 

聖杯に選ばれたライター(■■■■) @20200815_AiEn

 https://twitter.com/20200815_AiEn

 

 申し訳ございませんが、連載再開までお待ち頂けるとうれしく思います。

 

 

 また、原作『Fate/Grand Order』では現在、期間限定イベント「カルデア・サマーアドベンチャー! ~夢追う少年と夢見る少女~」が開催されております。

 二〇二一年九月二九日(水)、正午十二時五十九分までの限定イベントですので、そちらも存分にお楽しみ頂ければうれしく思います。

 

「カルデア・サマーアドベンチャー! ~夢追う少年と夢見る少女~ | イベント特設ページ」

 https://www.fate-go.jp/event/2021-summer2021-4bsi3n/

 

 

二〇二一年 九月一六日      

聖杯に選ばれたライター(■■■■)

 

*1
『トロッコ問題』:イギリスのPhilippa Ruth Footが1967年に提唱した倫理学的な問題。以後、多くの思考実験が行われており、創作のテーマなどとして用いられることも多い。


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