スマホの機種変更やら、剣盾どハマり絶賛厳選中で遅くなった感が否めないが、不思議と罪悪感とか後悔はないんだ…
〈 唯斗先輩…まったく似合ってませんね! 〉
「……は?」
場に不相応の満面の笑みで、文字を綴ったスケッチブックを見せる樹。想像もしなかった返答に、唯斗は固まる。
そんな様子を想像通り、とでも言いたげにニコリと笑みを浮かべ、樹は再度視線をスケッチブックに向け、筆を動かす。
〈 悪者のマネ、ぜんぜん似合ってないですよ? 〉
「い、いや…全然、一切合切、微塵も、例えトーゴーの魂を賭けたとしても真似なんかじゃないから。自称………影で極悪非道で悪逆無道、強悪非道な大逆無道と称された唯斗くんだから。自称………とある界隈では鉄血にして熱血にして冷血と噂された鬼勇者だから」
〈 全部自称…! 〉
冷静を装って取り繕うも、樹の巧みな話術――もとい、幼稚な唯斗の返答で呆れられる。彼女の姉たる風を叩きのめした後なのに、違和感しか覚えない飄々とした態度。友好的すぎて、罠すら疑ってしまうほどだ。
罠なら罠で、受け入れるつもりだ。事実、それだけの事をやった自覚は痛いほどある。だがどう考えても、樹は普段通りの対応しかしていない。
「…何が目的だよ?」
努めて冷たい声をイメージし、暗に関わるなとの意を込めて突き放す。
樹はこてん、と首を傾げた後に考える様な素振りをみせ、ゆっくりとスケッチブックに文字を刻む。
〈 不器用でさみしがり屋な人に会いに来ました 〉
「…?……多分、人違いだぞ?」
〈 自覚なし!? 〉
素の反応で返され、逆に樹が驚く。
残念ながら、唯斗は己の客観視に関してはミジンコにも劣る。彼は本能八割理性二割で生きているに等しい生態だ。ド直球な言葉をぶつけないと察しない、己に関しては何処までも鈍感な質だった。
ちょっとだけ洒落た言い方をしたが、何も察して貰えなかった事実に樹は慄いた。
〈 不器用でさみしがり屋な人に会いに来ました …唯斗先輩に会いに来ました 〉
「なんで書き直したんだ…?」
〈 シャラップです!! 〉
「お、おう…」
それは太いマーカーペンで殴り書かれた字だった。
樹はほんのちょっとだけイラッとした。本当に少しだけ、無意識にスケッチブックが軽く歪むくらい手に力を入れる程度のイラッだ。
唯斗は珍しく察した。理由は皆目見当もつかないが、取り敢えず逆らったら駄目な雰囲気は感じていた。
「……樹は怒ってないのか?俺、先輩のことボコッてきたばかりなんだけどさ」
〈 お姉ちゃんと唯斗先輩の喧嘩はいつも通りじゃないですか 〉
「いや…違うだろ。俺と先輩は喧嘩することはあっても、暴力だけは………あれ?あの先輩…めちゃくちゃ暴力に走ってね?俺、殴られたし蹴られたぞ…?キャメルクラッチで背骨が軋んだんですけど…?意味わかんねぇ、俺は煽ってるだけなのに…」
〈 自業自得でけんさくしてください 〉
もう五~六発は殴っても良かったのではないかと思った。勿論、今から引き返して殴り掛かったりなどしないが。
〈 とにかく! 〉
バンッ、と足を踏み出し、樹は予め書いていたであろうページを捲り見せる。
〈 別に仲直りして、だなんて言いません 〉
「……?」
ならば何をしに来たのか。安直な疑問が唯斗の頭に浮かび、樹はその答えを示すようにページを捲る。
〈 強制されてする仲直りなんて、ニセモノですから。 私は…ただ少しだけ、あなたに自分を大切にして欲しいだけなんです…!〉
「…カッコイイセリフだな、おい。なんかの漫画のパクリか?」
〈 わたしです! 〉
「本当にカッコイイこと
「っ!…っ!…ッ!!」
何かを思い付いたのか、樹は一心不乱にペンを振るい頬を緩ませる。まるでイタズラを思い付いた子供か、将また思わぬ喜びについニヤリと微笑してしまったかの様だ。
筆を止めた樹は奇しくも、某駄菓子馬鹿を連想させるドヤ顔を晒し、バーンと効果音が付きそうなほど堂々と文字の羅列を公開する。
〈 君の瞳に乾杯だぜ! 〉
「途端にカッコ良さが消え失せたな…」
「っ!?」
樹の思い浮かぶ中で最もカッコイイ台詞だったのだが、想像に反して不評。頭の中では『そんなバカなっ!?』と衝撃を言葉にして叫んでいる。
少女漫画脳の彼女は、この世に存在するイケメン達は皆同様にその台詞を言っていると思っていた。
そんなイタい言葉も、せめて樹が高身長系イケメンな英国紳士だったのであればまだ似合っていた可能性も無きにしも非ずだった。だが現実は異なり、とてもじゃないが、中学一年生のドヤ顔を添えた
「…自分を、大切に…か。俺ほど自己保身に走るヤツもなかなかいないと思うけどな」
〈 でも、最近の唯斗先輩は変です 〉
「変って…俺と一番程遠い言葉だな」
〈 むしろ双子レベルで同一ですよ… 〉
「俺が変なんじゃない。周りのヤツらがズレてやがるんだよ。トーゴーとか煮干し中毒者とか。最近なんか雌豚を名乗るヤベー奴も出てきたし」
〈 類友って知ってます? 〉
まさに類は友を呼ぶ、だった。樹は割と自分も含まれている事に気が付かないまま、知り合い全員から変人と扱われる先輩に呆れを孕んだ眼差しを向けた。
「………」
いつも通りの会話を楽しいと感じる反面、樹に対して形容し難い
勇者部で樹と夏凜にだけ隠していた『真実』――『満開』の後遺症について彼女が知ったら、どんな反応をするのだろうか。
姉のように怒るか、東郷のように絶句するのか。もしかしたら、友奈のように諦めず希望に縋るのかもしれない。
最悪なのは、絶望してしまうことだ。
今の犬吠埼風は『絶望』に溺れている。其れ故に、後先を顧みず大赦に復讐しようとした。
結局、唯斗は何も解らない。
判断が出来ないから、何が正しく、後悔のない選択なのかが解らない。
全てを樹に伝えるべきか。伝えたとして、自分は彼女に何が出来るのか。人は蔓延る『不明』を極度に恐れる。唯斗もまた、不確定事項を酷く嫌い、思考も行動も鈍り曇る。
隠すのが最善なのか。
だが、隠された分だけ識った際の負の感情は肥大化する。――いや、それならばもう
既に――最初から、勇者には『満開』や『勇者』という"役割り"について伏せられていた点が多過ぎた。『満開』について単に使えば強くなる、とだけ説明されて、その時の唯斗は確かに
恥ずべきは、それをまったく活かしていない事だ。
最初に疑った。
本当に『満開』は使い続けるだけで強くなれる機能なのか。その時に頭に浮かんだ先代の勇者についても、きっとただの妄想ではなく、微かに残っていた記憶が自分自身も把握出来ないまま整理されて、導き出した一種の『答え』だったのだろう。
(遅すぎるだろ…)
識るのも、報せるのも、理解するのも、気が付くもの、全ては後悔の後だ。本当に遅い。いっそ自分は何も悪くないと自己保身に走りたくなるくらい、遅すぎた。
――ああ、いっその事…何も考えずに全てを打ち明けようか。
一瞬でもそう思い、大切な後輩を蔑ろにした。それが罪悪感を駆り立て、余計に判断を鈍らせる。
〈 また難しい顔してる… 〉
「ばっか、お前…思慮深さが俺の魅力なんだよ。あの山田くんに負けないほどのミステリアス・ヒューマンなのさ」
〈 また山田さん…? 〉
「……ごめん、訂正する。俺如きが全世界思慮深さコンテスト第一位を二十回連続制覇した山田くんには敵う訳がない…!くっ…!山田くんの昼御飯用カップラーメン選び計一週間記録を見せられたら、俺なんて夏凜と煮干しの関係くらい浅はかだとしか思えない!!」
〈 ただの"ゆーじゅーふだん" ですよ!?〉
「ふっ、それこそ浅はかな考えだな」
〈 イラッ…! 〉
本当に、変わらない
――そして其の『平穏』もまた、崩れるのはいつも
もしかしたら、あの日――『勇者部』が本当の意味で『勇者』になった日と同じかのかもしれない。続くと思っていた日常が唐突に終わりを告げるように、
――ドゴォォォォォン
「っ!な、なんだ!?」
響くは轟音。何かが砕け、その後にまた続けて鳴らされる破壊音。遠い視界の先、四国を『外』と頒つ『壁』は瓦礫と砂埃を舞わせる。
動揺する唯斗の腕を樹が引き、同じく慌てた様子でスマホの画面を唯斗へ向ける。
「…っ!」
「なんだよ…これ!?」
立て続けに鼓膜を激しく揺らすのは、スマホから鳴らされる
勝手に起動された勇者アプリ。その画面にはバーテックスが襲来した際に紅く表示される『樹海化警報』の文字――ではなく、『
其れが如何に異常事態なのか、『特別』の文字を見れば直ぐに理解出来る。
「っ…!」
状況を把握する暇もなく、四国を囲む壁の先から光と花弁の波が津波のように流れる。もう見ることは無いと思っていた、『樹海化』の現象だ。
「なんだよ!何が起こってるんだよ…!!」
今まで聞いたことの無いほど、切迫した唯斗の声。いつも、何だかんだで勝利をもぎ取ってくる彼の動揺は、樹にも感染した。
やがて光は世界を飲み込み、樹海を顕現させる。
――――――――――――――――――――
「…い、樹…やべぇよ。俺のスマホ、バグったんだけど…」
「っ!っ!!」
樹は首を横に振るい、暗に現実を見ろと告げる。
勇者アプリ。その機能の一つには、マップがある。樹海と現実における同アプリ保有者の位置情報と、打倒すべく神敵バーテックスの位置。
唯斗が現実逃避を始めた要因の一つは、
その殆どはバーテックスの下位的存在、通称『星屑』と呼称される、白色の袋のような身体に触手と巨大な口のような器官が備わっている生物だ。
その夥しい量と縦横無尽に宙を舞う姿は、遠目で見た蛆を連想させ、唯斗の吐き気と現実逃避に拍車をかける。
「い、いや…だって、流石にバグだろ…?じゃなければ、
「っ…!?」
溢れ出た『星屑』の反応と、奥で浮遊し神樹へと進行するバーテックス。東郷美森は
其れはまるで――
「〜〜っ!クソ…ッ!やるしかないか…」
左手首のオンシジュームを象った5段階ゲージに目を向け、
先日のバーテックス戦や、先程までの風との戦い。その影響で、既に唯斗は『満開』が可能となっている。後は覚悟を決め、叫ぶだけだ。
ふと、不安に表情を曇らせる後輩を見る。
まだ何も知らない彼女。彼女ならばきっと、例え察していたとしても唯斗を信じ、共に『満開』をしてくれるだろう。
故に、唯斗は――
「樹。友奈達と合流してろ」
「っ!?……!」
先輩はどうするのか、と視線が問い掛ける。きっと、彼女は戦う意思が固まっている。元から強い友奈と違い、樹は敢えて強く在ろうとする者。だからこそ、樹は間違いなく
「…俺はトーゴーを回収してくる。あいつ、遠距離特化なのに前線に居たらダメだろ」
そんなのは言い訳だ。そんなのは建前だ。
唯斗は鈍くない。現状で、最もこの状態を起こした可能性が高いのは――明らかに東郷美森だ。
だからこそ逢いに行く。
再び無表情を貼り付けて、やはり
「………」
「そんな心配そうな顔するなよ。……もう落ち着いた。樹のおかげでな!今心配するべきは、俺に殴られてわんわん泣いてる姉だろ?」
「………?」
ジト目で、『誰のせいだ』と問い詰められる。責めてる、と言うよりは普段の夏凜や風に似たツッコミ。
樹は変わった。勇者部の面々が変わらず己を突き通し続ける中、犬吠埼樹は"自分"を固めて、更に弱さを強さで補った。
誰よりも強く成った彼女は、誰よりも成長した。
「――じゃあ、
それは仕舞われた『記憶』と一致した"言葉"。
以前――喪失した記憶の中で微かに感じた、覚悟を帯びたセリフ。自己犠牲の覚悟ではなく、
(……
地を蹴り、白い化物の波に向かって叫ぶ――
「満開!!」
空に、オンシジュームが狂い咲き誇る。
記憶が無くとも――郡唯斗は
だから、敢えて飾る。
過去を勝手に想像して、今より強い自分を自己暗示し反映する。強く在るのは、
東郷のヤバさを知ったキミ!改めて問おうじゃないか。誰がヒロインだい?
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結城友奈(順調に好感度稼ぎ中)
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東郷美森(病み病みの実の能力者)
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犬吠埼風(順調に好感度落とし中)
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犬吠埼樹(まだ芽生えない恋心)
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にぼっしー(時間経過で結婚確定女)
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乃木園子(雌豚お嬢様)
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三ノ輪銀(一番まともな相棒ちゃん)
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あにっしー(めがーね)
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山田くん(選ぶな。決して選ぶな)
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やっぱりハーレムダルぅぅオゥ!!
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イカの姿フライ(メインヒロイン)
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その他(感想にくだちぃ)