―side:Akari―
「―という訳でスペが
と私はチームルームに来たテイオー達にそう告げた。そう、我らがチームワルキューレに
「歓迎するよスペちゃん!」
「ありがとうございますテイオーさん!」
テイオーは勿論、ライスとマヤノも歓迎ムードで何よりだね。
「さて、今日のトレーニングに関してだけど…スペは此処に来るまでトレーニングの経験とかある?」
「はい、元トレーナーだったお母ちゃんからレースに向けてトレーニングを受けてました」
レースに関するトレーニングは一応経験済み、か…だけど問題はレースだけでない…ウイニングライブもだ。
「歌とダンスは?」
私の言葉にスペは記憶を辿った末に
「歌とダンスのトレーニングはしてなかったよお母ちゃん…」
と北海道にいる養母に向けてそう呟いた。
「経験なし、か…」
このままだと仮に3着以内に入ってウイニングライブをする事になった時、棒立ちで歌えてないって事にもなりかねない…嘗てはスクールアイドルのマネージャー兼実質的なコーチ役だった身としてそんな状況など流石に受け入れられない。
「よし、ならば歌とダンスのトレーニングもしないとね」
そんな事を話していた時だった。
「調子はどうだ?あかりさん」
沖野さんが私の元を尋ねてきた。
「まずまずといった感じかな。今日は新入りの娘が入ってきたし。スピカのみんなもレース"は"調子良いみたいだね」
「"は"って…おい、よく見たらその新入り、リギルの入団テストにいた…
そろそろ話を切り出さないと終わりそうにないかな…
「沖野さん、こうやってわざわざ尋ねてきたという事は何か頼みでも?」
「お前も知っているだろ?ウチのチームのウイニングライブの結果を」
「まともに歌えてたのがスズカだけのやつね」
「ウオッカとスカーレットは他の娘とぶつかったりするし…」
「ゴールドシップさんに至ってはマイペースすぎて…」
「何か他の娘達とは全く違う振り付けで踊ってたよね。あれってブレイクダンスだよね」
テイオー、ライス、マヤノが言う通りだ。テイオーのデビュー戦の前にゴルシ、ウオッカ、ダスカのデビュー戦があったから見たけどさ…あれ、他の娘達は困惑していたよ…レースはともかくウイニングライブが…ね…
「実を言うと俺はダンスに関しては教える程の知識と腕がなくてな。そこでお前さんの所のテイオーに歌とダンスのコーチを頼めないか?」
「私は別に構わないし、私も面倒を見る事ならできるし何だったらウチもダンス練習をするつもりだったけどテイオーはどう?」
「ボクも全然構わないけど…あかりさんは良いの?」
「まぁ、沖野さんとゴルシには世話になったからね」
「ならボクは良いよ」
私1人じゃキツいからテイオーがコーチ役になるのはほんと助かる。
「あかりちゃん、歌とダンスも出来るもんね」
「ライス達の歌やダンスレッスンはあかりお姉さまに見て貰ってるし」
「私もあかりさんの歌とダンス、見たいです!」
「スペ、貴女はトレーニングを受ける側だよ」
「そうでした!」
まぁ、μ'sのマネージャーをやってたり、彼女達が解散した後はアイドル研究部全体のマネージャーをやってたからね。ダンスの振り付けの確認とか諸々やってたし。
「じゃあ、善は急げという事で明日から始めよう。時間や場所は後でメッセージを送るから」
「ありがとう、助かる」
かくしてスピカとの合同ダンストレーニングが決行される事になった。
―side out―
あかり率いるチームワルキューレとの話が終わった後、沖野はチームスピカのチームルームへと戻ってきた。
チームルームにはトレーニングを終えて戻ってきたメンバーの姿があった。
「お前ら、明日から歌とダンスを重点的に鍛える」
「鍛えるってどーするんだよ?」
ウオッカの質問に沖野はこう答える。
「実はチームワルキューレと話をつけてきてな」
「チームワルキューレ?確かあのトウカイテイオーが所属しているチームよね?」
ダイワスカーレットの言葉に沖野はそうだ、と答える。
「"皇帝"に憧れている彼女はチームリギルに入ってくると思ったのだけど聞いた事もなかったチームに入るなんて…」
そう呟くはチームリギルから移籍してきたサイレンススズカである。
「チームワルキューレのトレーナーはテイオーとは入学前の付き合いらしい。で、その頃なら2人でチームを結成しようと決めてたそうだ。そのチームワルキューレは
ミーティングも終わり、スズカは寮へ帰る。スズカの部屋は元々2人部屋だが、現在はスズカ1人となっている。
「ただいま戻りました」
「あぁ、おかえりスズカ。今ちょっと良いかな?」
出迎えた寮長のフジキセキの言葉にスズカははいと返す。
「実はね、編入生の部屋割りが君が使っている部屋に決まったんだけど良いかな?」
「はい、問題ありません」
「それと、その娘の事を気にかけてくれないかな?あの娘は何というか特殊な境遇らしくてね、昨日上京して来るまで他のウマ娘を"1度も"見た事がなかったそうだ」
「でも、ウマ娘ならその母親も…」
と言いかけたスズカはある事に気づいた。
ウマ娘ならその母親もウマ娘である…しかし、生まれた時や物心つく前に母親を亡くしている場合や孤児の場合はその限りではない。他のウマ娘を見た事がないという事はこの2つの内のどちらかに当てはまるという事だ。
「詳しい事は私も聞かされていない。でも、慣れない環境で色々戸惑ったりするかもしれないから…頼んだよ」
「はい、わかりました。それと、彼女の名前は…?」
「あぁ、彼女の名は―」
その頃、スペシャルウィークが帰宅した後もテイオーはあかりの元にいた。
「で、スペちゃんにも話すの?」
テイオーが言わんとしている事はあかりも分かっている。
「まぁ、その時が来たらね。ライスやマヤノと同じパターンだよ」
あかりの言葉にテイオーはそっか、と返したその時、あかりが密かに各地に配備したレーダーがジーオスの反応を捉えた。
「やれやれ、行かないとね」
「あかりさん、気をつけてね」
見送るテイオーにあかりは彼女の頭を撫でてこう答える。
「ありがとう、テイオー。行ってくる。テイオーもこんな時間だから寮に帰るんだよ」
あかりの言葉にテイオーは分かったよと返して寮に帰る。それを見たあかりはジーオスが出現した場所へ向かった。
一方、スペシャルウィークは寮に到着し、フジキセキから出迎えられた。
「実は君の部屋が決まったんだけど…二人部屋でも大丈夫かな?」
「はい、大丈夫です」
「これが部屋の合鍵。同室の娘もさっき帰ってきたばかりだから」
「挨拶しないとですね」
とスペシャルウィークは早速フジキセキに教えてもらった自分の部屋に向かう。
「此処が…」
唾を飲んだ後、スペシャルウィークはドアをノックする。
「はい、どうぞ」
その声を聞いたスペシャルウィークは
「し、失礼します!今日からこの部屋で一緒に過ごす事になったスペシャルウィークです宜しくお願いします!」
緊張で相手を見れないまま自己紹介した末に頭を下げた。
「は、はじめまして…あの頭を上げてください」
相手が緊張しているスペシャルウィークに苦笑いを浮かべながらも挨拶してそう言うとスペシャルウィークが頭を上げる。
「す、スズカさん!?あれ、ここスズカさんの部屋!?」
そう、スペシャルウィークのルームメイトサイレンススズカだったのだ。
「えぇ…もしかして寮長から何も聞いては…?」
スズカの言葉にスペシャルウィークは頷く。
実はこれはフジキセキとあかりによるサプライズである。
スペシャルウィークが入寮する寮には本来は2人部屋ながらもまだ1人しか入ってない部屋がいくつかあり、その中にスズカの部屋もあったのだ。フジキセキは前日のあかりとの話の中でスペシャルウィークがスズカに憧れていると聞いてこれだと思い、決めたらしい。
「あ、あの、ええと、私、スズカさんに憧れてるんです!」
「私に?」
「はい!昨日のレースを現地で見たんです!そこでスズカさんの走りとライブを見て凄いなぁって。私、生でレースを見たのは初めてだったんです!」
面と言われてスズカは少し恥ずかしさを感じてはいた。
「私も負けてられない!私も夢を叶えるんだって!」
「夢…ですか?」
「はい!日本一のウマ娘になるって夢です!」
それからスペシャルウィークは生まれて直ぐに実母を亡くし、実母友人かつ元トレーナーである人間の養母に引き取られた事、死に際に実母が立派なウマ娘に育てて欲しいと遺言を残した事、そして日本一のウマ娘になる事で養母は実母との約束を果たせ、自分は2人に恩返しが出来ると語り、スズカはそれを静かに聞いてなんて立派な娘なんだ、と思っていた。そしてフジキセキが気にかけてやってほしいと言ったのも理解できた。
「…チームは決めましたか?」
「はい!チームワルキューレっていうチームです!あのレースの日にそのチームのトレーナーさん達に出会ってよくしてもらって…それに私の夢を笑わないどころか立派な目標だと言ってくれたんです!」
チームワルキューレ…その名を沖野から聞いた事を思い出した。
将来有望視されているトウカイテイオーと彼女と親交があったという新米トレーナーが立ち上げたチーム。スピカと同じく少人数のチームだ。
「スズカさん、私、頑張ります!」
スペシャルウィークの言葉に
「えぇ、私も頑張るわね。スペちゃん」
とスズカも笑みを浮かべるのだった。
一方、あかりはジーオスの反応が出た場所へと向かい、早速交戦していた。出現したのは普通のジェネラル級が2体…
「さてと、討伐も終わったし帰るとしますかな」
エルダーコンボイは素粒子コントロール装置で小さくしたジェネラル級2体の残骸を回収するとグランドブリッジを開いて基地へ戻った。
だが、その光景を目撃…否、監視していた存在がいた。
エルダーコンボイの腰辺りまでの大きさで目に当たる部分にはバイザーが付いている。
「此方、"ジャズ"。件の怪獣…ジーオスが何者かと交戦している。見た目から察するにコンボイタイプだ」
『了解。ひとまずは待機して』
「わかった」
"ジャズ"と名乗った彼…いや彼女はジーオスが出現したという報を聞いて駆けつけたのだが、到着した時にはエルダーコンボイとジェネラル級が交戦し始めたところだった。そして、上からの指示で様子見する事になったのだ。
「最近ジーオスの連中が現れても着いたら消えていたのは彼奴の仕業だったのか…」
『どうやらそうみたいね』
やがてエルダーコンボイとジーオスの戦いも終わり、エルダーコンボイはジーオスの亡骸を回収するとグランドブリッジで基地へと帰った。ジャズは現場へと足を踏み入れ、戦闘の痕跡を眺めつつジーオスの破片を拾う。
「奴の事だが…これからどうする?」
『此方の味方になるとは限らない…しばらくは様子見するしかないわ。今わかるのはジーオスと敵対している事、セイバートロン由来の技術を持つこと位ね。エネルギー反応はエネルゴンとは違う上にロストしたから探すのは困難…せめてグランドブリッジが繋がった先の座標がわかれば…しばらくはジーオスの反応を追って一緒に探すしかないわ。
後は数ヵ月前の各地で発生した
「あの頃からジーオスの出現頻度が今までより上がった…まさか、別の星から迷い混んで来たのか?」
『可能性は否定できないわね。とりあえず今日のところは帰ってきて』
彼女の言葉にジャズは了解、と返して通信を切ってビークルモードに変形し、トランステクターとの一体化を解除する。そして現れたのは人間態…いや"ウマ娘態"と呼ぶべきだろう。
「しかし、奴の気配…何処か似ている…」
ジャズの頭に浮かぶのは嘗て…"転生前"の上司だった存在。
「"オプティマス"に…」
彼は疑問を抱きながらもビークルモードへ戻り、"基地"への帰路につくのだった。
To be continue