ハーメルンでは初投稿。
pixivメインで活動しているfantasiaと申します。
よろしくお願い致します。

今回のはpixivでも公開しているエイシンフラッシュのSSとなります。
内容は読んでみてご判断下さいませ。

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Tomorrow never knows

 

私がトレーナーさんを男性として意識するようになったのはいつからだろう。

気が付いたら無意識に目で追っていたし、他のウマ娘と楽しげに話す姿を見ているだけで胸に黒い靄が溢れた。

日に日に強く、深く、眩く焦がれていくこの気持ち。

何気ない毎日の中で、少しずつ紡がれていく気持ちの積み重ね。

ミルフィーユの様に、甘く、そして蕩けるような。

 

彼のどこが好き、と聞かれたら全部と即答出来るくらい。

私の為に毎日遅くまで頑張ってくれてる所。

ふとした瞬間に子供みたいな無邪気な笑顔を魅せてくれる所。

陽だまりのような優しさを持っている所。

上げようと思えば、30分は余裕で語れそう。

それ位、彼が好き。

 

休日にお出かけした時に、私の方が身体能力高いのに人間の女性の様に歩道側を歩かせてくれた事もそうだ。

些細な事かもしれないけど、そういう小さな優しさは万の言葉を投げかけられるより嬉しい。

 

恋情に灼かれていた私は、つい先日トレーナーさんに告白をした。

本当に告白するかどうか間際まで悩んでいた。

 

もし断られたらどうしよう。

私をただの教え子としてしか見ていなかったらどうしよう。

 

私の脳裏に最悪の状況が鮮明に映される度に、身体が震えた。

本当に泣きそうにもなった。

 

嫌われたくない。離れて欲しくない。

 

でも、それ以上に私の中には金剛石よりも硬く揺るがない意思があった。

 

私だけのモノにしたい。

私だけを見ていて欲しい。

私以外に触れないで欲しい。

私だけに愛を囁いて欲しい。

 

無限に溢れてくる私の希求の願いは、弱腰になっていた私の背中を強く押してくれた。

 

───そして、私は告白した。

 

結果は失敗だった。

既にトレーナーさんには彼女さんがいた。

最初から私が入る隙間なんて無かった。

 

私は一瞬にして、視界が真っ暗になった。

今まで積み重ねてきたモノが、壊れていく音が聞こえた。

口角が歪んでいき、歪な笑顔を生み出す。

もう、体裁とか気にする余裕なんて無かった。

 

ただ、悲しかった。

ただ、悔しかった。

 

彼を想う気持ちは誰にも負けていないのに。

でも、私は失敗した。

無情にも私に背を向けて去っていく彼の背中を目で追っていた。

私は彼を追う事も許されなかった。

手を伸ばして背中を捕まえようとしたけれど、掴んだのは虚だけだった。

空回りする私の手は、何も無い場所を彷徨う。

そして、それが無意味だと気付くと、糸が切れたように脱力した。

 

私の口が小さく震えて、彼の背中が歪んでいく。

思わず声が出そうになって、両手で塞ぐけれど隙間から引き攣る声が漏れてくる。

私の声でその歩みを止めれたらいいのに、と叶わない希望に縋って。

 

全てが終わった。

私の胸に宿していた仄かな想いも。

ベッドに横になりながら、彼を想っていた事も。

私の命より大事だったこの恋心も。

 

 

私の身体から力が抜けて、地面に落ちた。

 

もう手が届かない。

 

もう叶わない。

 

もう······振り向いてくれない。

 

私は感情が壊れるように泣き崩れた。

もう抑え切れなかった。

ただ、泣くしか出来なかった。

 

 

 

──その日、私の初恋は終わった。

 

 

☆☆☆☆☆☆☆

 

 

それからの私は生きる屍のようだった。

希望もない。願望もない。夢もない。

欲が完全に欠落して、ただ無為に生きていた。

 

スマートファルコンさんが毎日のように心配や気を遣ってくれたけど、気にかける事も無かった。

表面上は、いつものように振舞っていたけど私の胸の中は空っぽだった。

 

毎日のようにトレーナー室で顔を合わせる彼を見ても何も思わなかった。何も感じなかった。

私の顔を見る度に顔を暗くしていたけど、気に掛ける事も無かった。

少し前まで、あんなに彼を好きだったのに絶対零度の牙に噛まれたように冷えきっていた。

 

そんな毎日をただ過ごしていた。

 

本音を言うなら、死にたかった。

あの想いを遂げれないなら、生きていても仕方が無かった。

 

でも、私は無様に生きていた。

 

勝負に負けたのに。

 

全てを失ったのに。

 

私は黄昏に沈む太陽を眺めながら問いかけた。

 

 

────なんで、私は生きているの?

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

それから5年が経った。

私のあまりの豹変ぶりに両親は彼を早く忘れられるようにと、婚約者を見つけて私は結婚した。

相手の方に失礼極まりないと思うけど、相手に対して彼に抱いたような恋情を抱く事は無かった。

でも、とても良い人だった。

荒んでいた私には勿体ない位の方だった。

 

彼のおかげで、私は少しずつ前の私を取り戻しつつあった。

でも、それでも恋心を抱けなかった。

相手と結婚するにあたり、祖国に帰国していた私はとある日に相手に。

 

「フラッシュ、たまには日本に戻ってみたらどうだ?」

 

と促された。

私は正直戻りたくは無かったが、あれから五年以上経過し、私の中であの想いは少し風化しつつあった。

その気持ちを整理して、一歩でも前に進めるならと私はその言葉を受け入れ、単身日本に戻ってきた。

 

久々の日本は、あの頃とあまり変化は無かった。

私は思い出深いトレセン学園を訪ねて、たづなさんや秋川理事長、ルドルフ会長とお話させて貰ったり色々便宜を測ってもくれた。

あの頃の友人とも、偶然道端で出会ったりもした。

私と同室だったスマートファルコンさんとも偶然出会い、彼女は夢であったウマドルになり今では大人気だという。

私はそんな友人を誇らしく思った。

 

比べて私はどうだろうか。

完璧なプランを組むのに執着していた過去の私はもう霧散していた。

秒刻みの完璧な予定表は、あの想いと共に風化しつつあった。

 

 

スマートファルコンさんは夢を叶えた。

なら私は?

 

私はスマートファルコンさんと別れて、ホテルに戻った。

 

私は未だに何もなし得ていない自分自身が嫌いになりそうだった。

眩く翔ぶ彼女の姿は、私の心を軋ませた。

 

☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

私はホテルを出て、トレセン学園付近の河川敷に一人座っていた。

 

何か理由があった訳ではない。

何か目的があった訳ではない。

でも、過去の私が遺した軌跡の轍が足を向けさせたのかも知れない。

正直、この場所には来たくなかった。

かつての私が歩んだ場所には、彼の幻が遺っているからだ。

前に進む為の旅行なのに、これでは本末転倒ではないか。

でも、私の身体はここに導いた。

何かを探すように、何かを得る為に。

今更何を求めるのだろう、と私は口の端を歪ませた。

 

周りを見回してみる。

あの頃と何も変わらない。全然変わらない。水面から聞こえる安寧の歌も、私の耳を過ぎていく星の息吹の声も。何も変わらない。

 

あれほど好きだった場所なのに、色褪せて映る。刻の旅を終えたポートレートの様に。

私の瞳に描かれる風景は、不協和音を奏でていた。

 

──いや、違う。私が変わったせいだ。

 

私は多分、まだ引きずっている。

私は多分、まだ忘れられていない。

 

私の軌跡を歩くという事は、必然的に彼の影が刻まれている。

瞳に映るかつての私は、当たり前の様に彼を連れてくる。

私の胸が鈍く痛む。過去の私も本当に意地悪が過ぎる。

 

そもそも、そういう道を、そういう場所を選んだ私のミスなのかもしれない。

過去の機械仕掛けの私は霧のように消えたんだと。

でも、偶には良いかなと思う。

もう日本に来る事は無いから、最後くらい過去の私と一緒に歩くのも悪くないのかもしれない。

 

「······フラッシュか?」

 

ふと私の後ろから名前を呼ばれた。

物思いに更けていた私の意識を現実に引き戻したその声は聞き覚えがあるモノだった。

 

──神様は本当に残酷だ·····

 

かつての私の全てだった。

彼の為ならこの命捨てても構わないと本気で思えた。

彼をどれだけ好きだったか。

彼をどれだけ愛していたか。

彼という存在が、私にどれだけ照らしてくれたか。導いてくれたか。

 

彼が居たから、私は間違わなかった。

彼が居たから、私は迷わなかった。

 

彼とは実らなかったが、それ自体には後悔は無かった。

勇気を振り絞って口に出せたから。

 

───でも······ここに呼ぶ事ないじゃない······

 

忘れようとしたのに。

その為に来たのに。

 

私の胸に淡く蘇るかつての幸福の残滓は、私の瞳を少し潤ませていた。

悔しい。悔しい。悔しい。

こんなんじゃ、来た意味がない。

 

でも、私にも意地はある。

これも未だに躊躇う私に対する神の試練だ、と思う事にしよう。

私はそう決めると、ゆっくり後ろを振り向く。

私の瞳には、少し歳を重ねてはいたが間違いなく『私の全て』が佇んでいた。

 

「······トレーナー······さん」

 

私の震える口から漏れた私の初恋。

姿を見ただけで、一気に揺らぎそうだった。

私は必死に自分を押さえつけて、いつも通りに接しようと胸に手を当てた。

自然と手に力が込められた。少し痛んだ。

 

「······会わない内にまた美人になったな」

 

「ふふっ······あの時私を振った事を今頃後悔とかしてたりしますか?」

 

私の精一杯の反抗。

貴方が私を捨てたのだから後悔して下さい、と口にしそうだったけど胸に押し込んだ。

 

「手厳しいな······でも、あの頃のフラッシュも美人だったのは間違いなかったから当然と言えばそうかもしれないな」

 

そう苦笑いしながら、彼は私の横に腰掛けた。

久々に見る彼の横顔は、歳を重ねた今も全く変わっていなかった。

年相応に皺などは少し増えていたが、彼の眩い瞳はあの頃のまま。

本当に変わらない。憎らしいほど変わらない。

あれだけ私が変わったのに、何で。何で。何で。

私は頭を過ぎる靄を消すように、頭を振った。

 

「本当に久しぶりですね。お元気にしてましたか?」

 

「あぁ、元気だけが取り柄だからな。フラッシュも元気そうで安心したよ」

 

そう言いながら、頭を軽く掻く彼。

なんか、私達だけ過去に戻ったような、淡い錯覚を感じた。

 

「こんな所で油売っていて大丈夫なんですか?彼女さんに叱られますよ?」

 

私の胸に鈍い痛みが走る。まただ。

少し位、私の痛みを理解してくれないかな?と意地悪しようとした罰にしては重すぎる。

かつての私が、永き眠りから目を覚まそうとしていた。

 

「あー······彼女とは別れたんだ」

 

「······ぇ·········?」

 

予想だにしなかった事が返ってきた。

彼を捨てるとか、私には理解出来なかった。

あれだけ私が恋焦がれた相手を捨てるなんて。

巫山戯るな。巫山戯るな。なんで彼を振るんだ。

私が必死に手を伸ばしても得られなかった宝物に掴んだ挙句に捨てるなんて。

私はそんな人に負けたのか。

悔しくて堪らなかった。

 

でも───

 

私の昏い底に座っていた悪魔は、私に囁きかけてきた。

私にはもう───抗う術は無かった。

 

「もう二年位前になるな。それ以来ずっと独り身だよ」

 

「······そうですか」

 

───今なら彼は

 

「俺の事はどうでもいいんだ。それよりフラッシュはもう結婚してるんだったな」

 

「はい」

 

───私の事を

 

「旦那さんが本当に羨ましいわ。こんな美人さんを嫁に貰えるなんてな」

 

「ふふっ······人妻を口説くんですか?」

 

───受け入れてくれるのかな?

 

「あはは、流石に人妻口説いたら駄目だろ」

 

「·········」

 

私は彼に身体を寄せた。

私の頭が彼の肩に寄りかかる。

少し顔が赤くなる彼は、何処か落ち着かない様子だ。

本当に可愛い。本当に素敵だ。

もう抑えるなんて出来ない。

 

「ふ、フラッシュ!?」

 

「トレーナーさん······今なら······私を受け入れてくれますか?」

 

彼の瞳を覗きこむ。

あの頃と変わらない輝火を帯びた私の愛した宝石。

私の全て。私の宝石。私の宝物。

 

「な······」

 

「私はトレーナーさんが私の傍に居てくれるなら······全てを捨てれますよ」

 

「か、からかうのはよしてくれ」

 

私は大真面目です。

私はゆっくり彼の顔に近付いて、そのまま彼の惑う気持ちに重ねた。

軽い鳥の求愛のような短いもの。

でも、私の気持ちが少しでも伝わったら良いなと思う。

ゆっくり顔を離しながら、私は再度重ねた。

 

「私は本気ですよ」

 

「············」

 

「トレーナーさんが私を受け入れてくれるなら······私は全てを捨てて貴方の傍に寄り添います」

 

「············」

 

「私は······貴方以外には興味はありません。持ちたくもありません」

 

私は彼の手に手をゆっくり重ねた。

少し温かい。彼の気持ちが少しでも火照ってくれてるなら勇気出した意味があるのに、と思う。

彼の手を少し握った。

少しビクッと震えたけど、構わなかった。

 

「私は貴方以外愛せません」

 

「······本気か?」

 

私が冗談でこんな事言うと思われていたようで、少し胸が痛みます。

少し頬が膨らみ、彼を少し睨みつけます。

彼が苦手だと零していた私の仕草。

難攻不落の城を過分なく攻め落とすならば。

体裁なんか必要、ない。

 

「私が冗談で言うと思いますか?」

 

「······すまん。フラッシュは言わないな」

 

「はい。絶対に言いません」

 

「······本当に······それで良いのか······?」

 

「はい」

その先を聞くのが怖かった。本当に怖かった。

自分から言い出したのに。本当に身勝手だ。

身体が震えそうだったけど。耳を塞ぎたかったけど。

例え駄目だったとしても、それを受け入れないといけない。でも、怖い。どうしようもなく怖い。

ねぇ、何か言って下さい。何も言わないで下さい。

怖い。怖い。怖い。怖いよ。怖いよ。

お願いします、神様。これ以上試練与えないで。

これで駄目と言われたら······もう立ち直れなくなっちゃう。

お願い。お願い。お願い。お願い。お願い。お願い。お願い。

 

 

「······解った······なら、フラッシュの背中の荷物俺も半分持つよ」

 

「·········」

 

私は彼に抱きつきました。

やっと受け入れてくれた。やっと想いは遂げられた。これが夢なら覚めないで欲しかった。例え夢でも構わない。

 

でも、この胸の高鳴りも。凍えた心を溶かす温かい息吹も。何もかもが現実なんだと、私の本能に、脳裏に教えてくれた。

やっと手に入った。やっと私だけの人になった。胸から溢れてくる幸光の奔流は私の身体を導く。

勢い余って、彼は後ろに倒れますが、私は離す気はありません。

彼の少し厚い胸に顔を擦り、彼の温もりを感じます。

私が欲しかったのはこれです。これなんです。あぁ、本当に溺れてしまいそう。

ゆっくり溢れる私の溶けた雪は、幸せに包まれた私の顔を伝っていきました。

 

例え人に指を差されようと。

例えそれが禁忌であっても。

 

私は全てを受け入れて、この人と歩いていきます。

もう迷ったり、しません。

 

───もう離しませんよ

 

───ずっと永遠に······貴方を愛し続けます


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