かぐや様の弟   作:花宮@

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三話 『お弁当』

 

「はぁ……もうこんな時間。お昼食べる時間あるかなぁ……」

 

四宮かずまのお昼は遅い。毎日毎日生徒会の仕事に追われているのだ。庶務の仕事も雑用となんら変わらない役割だ。故に、お昼は必然的に遅くなる。だが、それを大変、と思ったことは一度もなかった。姉の為、とさえ思ってしまえばこんな仕事重荷でもなんでもなかったからだ。そんなことを思いつつ、生徒室の扉を開けると……

 

 

「ハンバーグって熱々の肉汁が出まくるのも美味しいですけど常温だと美味しさがぎゅ~っと全部閉じ込めちゃった!って感じがしてまたいいですね」

 

 

「ふっ。よしこれも食え!」

 

 

そんな白銀と藤原の声が聞こえてきた。そんな2人を尻目にかずまは白銀のお弁当を何気なく見て……そして動揺した。かずまが知る昼食は専属料理人により休み時間に出来たてが届けられる。栄養バランスはもちろん、旬の食材を基軸とした調和の取れた弁当――それがかずまの知る弁当である。しかし、白銀の弁当を見て胸がざわついた。

 

 

白銀の弁当には煮物、赤ウインナー、だし巻き卵、ハンバーグ、梅干し、そしてふりかけ。普通の家庭なら一度は見たことがあるもの。だが、かずまもかぐやも普通の家庭では育っていない。故に、食べてみたい、とそう思った。

 

 

「お疲れ様でーす。会長に藤原先輩」

 

 

「ああ、かずまも今から昼か?」

 

 

「はい。にしても会長はまだ食べてなかったんですね」

 

 

「ああ、ちょっと仕事が多くてな。こんな時間になってしまったてわけさ」

 

 

そんな説明をしながらも白銀は弁当を食べ進めるのを見てかずまは戸惑った。ここで食べたいと言えば弁当を分けてくれるかもしれない。しかし、残り時間も結構ギリギリな上、そんな悠長なことを言っている場合ではなかった。

 

 

「(明日はどうにか……)」

 

 

仕事がギリギリで終わらなかったらいいな、と思いながらかずまは弁当を食べ進めた。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

翌日の昼休み。珍しく仕事が早めに終わり、テンションが上がりながら生徒室へと入った。今日こそは……!と思いながら弁当を開けるのと同時に扉が開いた。そこにはーー

 

 

「あ、会長に姉様!お疲れ様でーす。今日もお弁当ですか?」

 

 

「ああ、そうだが?」

 

 

「ちょうどよかった!なら、おかず交換しません?」

 

 

(え……?)

 

 

 

突然の言葉にかぐやは動揺した。当然だろう。何せ、これからすることをかずまに先回りされたのだから。

 

 

 

「え……?いや、俺はいいけど……そんな弁当に返せるものが……」

 

 

「えー、いいですよ。そのウィンナーで!俺こういう弁当憧れてたんです!代わりに天ぷらあげますからー!」

 

 

そんなかずまの願いに白銀は戸惑った。天ぷらの代わりがウィンナーで本当にいいのか?と考えてしまう。本人はいいと言っていたが……

 

 

「待ちなさい。かずま。天ぷらとウィンナーでは釣り合わないでしょう?会長も困ってます」

 

 

そこでかぐやは助け舟を出した……のではなく、これは嫉妬心からだ。自分は白銀のウィンナーを食べていないのに弟に先を越されたくないというかぐやの嫉妬だ。だが、結果として白銀からしたら助かったのだ。流石にウィンナーと引き換えに天ぷらを貰うのは気が引けたからだ。

 

 

「えー、姉様それはウィンナーに失礼だよー」

 

 

だが、かずまは一歩も引かない。普段のかずまなら姉の言うことは基本的になんでも聞くが食べ物だけは別だ。ピリピリとした張り詰めた空気に白銀は戸惑った。たかがウィンナーでここまでの空気になるなんて思ってもみなかったからだ。

 

 

「あれ〜?みなさんお早いですね〜」

 

 

そんな空気を変えるかのように、藤原が入ってきた。しかし、藤原が入ってきたところで先までのピリピリとした空気は変わってはいない。それどころかーー

 

 

「あ、そういえば!会長作ってきてくれたんですか?」

 

 

「ああ、作ってきたぞ。一人や二人作るのにそんな手間は掛からないからな」

 

 

そんな空気を読めない会話にかずまはえーっと不満を漏らした。当然だろう。おかず交換は戸惑ってお弁当を作るのは手間が掛からないと言うのだから。どう見ても前者の方がメリットもあり白銀も普段と違うおかずも楽しめると言うのに。

 

 

 

「ずるーい。やっぱり交換しましょうよ〜!天ぷらが嫌なら松茸はどうです?」

 

 

「何で高級度が上がってるんだ!?」

 

 

 

驚く白銀にかずまは首を傾げる。元々、かずまには高級度なんて測っていないのだ。つまり、かずまにとって天ぷらも松茸も似たようなものである。

 

 

「ええ…」

 

 

そんな説明にドン引く白銀と、

 

 

(さようなら。藤原さん、絶交よ……)

 

 

 

そんな物騒なことを考えているかぐや。そしてーー

 

 

「ああ、会長の弁当美味しい〜!」

 

 

何も考えずに藤原は白銀が作った弁当を食べている。それを羨ましそうに見つめるかずまと軽蔑な目を見せるかぐや。そして次第にかずまははぁ……とため息を吐きそして……

 

 

 

「確か会長牡蠣好きでしたよね?それあげるんで」

 

 

「え?いや、ちょっと?」

 

 

確かに白銀は牡蠣が好物だ。しかし、そこまでしてウィンナーを食べたいのか、と白銀はそう思う。自分の弁当よりかずまの弁当やかぐやの弁当の方が圧倒的にボリュームもあるし、栄養バランスだってしっかりしているし、食べ応えだってある。だというのに……

 

 

 

「…はぁ、分かったよ、かずまがそこまで言うのなら……牡蠣とウィンナー交換してやらなくてもないぞ」

 

 

「本当に?会長太っ腹〜!」

 

 

 

太っ腹なのはそっちだろ、と白銀は心の中で突っ込みながらもおかずを交換した。その様子をかぐやは絶望し切った目で見ていた。

 

 

 

(かずま……貴方って子は……)

 

 

 

かぐやは純粋に羨ましく感じていた。藤原もかずまも自分のプライドとかそんなものはなくおねだりをしているのを見て嫉妬を感じていた。

 

 

「しまった!今日は部活連の会合の日ではないか、急いで食べないと!」

 

 

白銀はそう言って急いで弁当を口に入れる。ウィンナーが白銀の口に入りそうになった時、思わずかぐやは手を伸ばした。だけど……手を伸ばしたところで何の変化もなく、ただ食べられるだけだった。

 

 

「じゃあな!」

 

 

そう言って白銀は去っていく。

 

 

(私何やってるんだろ……?馬鹿みたい……)

 

 

 

だってかぐやが言おうとしたことをかずまに取られた挙句、何も発言することすら出来ずに白銀は去っていく。もはや自分が何をしたかったのかすら分からない……とかぐやが一人絶望していたときだ。

 

 

「かぐやさん、あ~~ん。……美味しいでしょ?」

 

 

突然、藤原がかぐやの口にウィンナーを入れたのだ。そんな藤原の行動に思わずかぐやは目を見張る。しかし、藤原は笑顔を崩さずそしてこう言った。

 

 

「一緒に食べよ?」

 

 

そんな藤原の言葉に思わずかぐやは藤原の肩を持ち、そしてこう言った。

 

 

「藤原さん…ごめんなさい。私はあなたのこと……誤解してました…あなたはちゃんと人よ」

 

 

「今まではなんだと思ってたんですか!?」

 

 

「姉様!藤原先輩は奇行な行動ばっかしてるからあんまり人っぽくないしたまに宇宙人かな……って思う時もあるけど、その言い方は酷いよ!」

 

 

 

そんなフォローしているようでフォローしていないかずまの言い分に藤原は叫ぶようにこう言った。

 

 

「かずまくんもかぐやさんも私のことなんだとおもってるんですか〜〜!?しかもかずまくんに関しては宇宙人!?酷い!」

 

 

「そんなことより藤原先輩。早く弁当食べちゃいましょう。お詫びに天ぷらあげるから……ね?」

 

 

そんなことを言いながらも三人はちゃんと弁当食べ切ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 


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