雷電将軍のおっぱいを揉みたい   作:八重堂の狂気

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はた迷惑な男②

その日、蛍はモンド城の住人からある頼み事を引き受けた。なんでも、ここ最近、誓いの岬にて変態が出没しているらしい。誓いの岬はカップル達の聖地だ。変態はそんな場所に出没しては奇行を繰り返している。だから、どうにかして排除して欲しい、と。そして蛍とパイモンは件の場所である誓いの岬に訪れたのだが…。

 

「おっぱい‼︎」

 

「おっぱい‼︎」

 

「おっぱい‼︎」

 

誓いの岬でおっぱいを連呼する変態がいた。彼は背中で腕を組み、胸を大きく張って、大声で叫んでいる明らかにヤベー奴がいた。蛍は心の底から近寄りたくないなと思ったが依頼なので仕方がなく、彼の背後に近づくと声をかけた。

 

「あの「おっぱい‼︎」

 

「話を「おっぱい‼︎」

 

「聞い「おっぱい‼︎」

 

しかし、蛍の声は男の声によってかき消された。恐るべきおっぱいの力。取り付く島もなかった。パイモンは呆れた様子で言った。

 

「ムム、どうやらコイツよりも大きな声を出さないと聞こえないみたいだぞ」

 

「パイモン、代わりにやってくれる?」

 

「えー、オイラそんなに大きな声出せないぞ」

 

「あとで飴あげるよ」

 

「よし、オイラに任せろ‼︎」

 

パイモンは自信満々に胸を張って言った。そして大きな声で話かけたのだが

 

「おい、おま「おっぱい‼︎」

 

「オイラ達の「おっぱい‼︎」

 

「なんで聞こ「おっぱい‼︎」

 

「おっぱい‼︎」

 

「ハァ…ハァ…ダメだ。オイラにはお手上げだ」

 

パイモンは息切れをしながら言った。

 

「仕方がない」

 

蛍は精一杯声を張って叫んだ。

 

「おっ「私の話を聞けぇー‼︎」

 

そう言うと男は腕を解き、静かに振り返った。年齢は25歳くらいの見た目で、背はそこそこ高く、モンド人ではあまり見られない黒髪黒目、そして真っ白のスーツの上に白のコートが印象的な男であった。彼は蛍とパイモンの顔を見つめると、僅かに目を見開きながらも、柔かな笑みを浮かべて言った。

 

「やぁ、こんにちは。私は冒険者のシンシだ。君達はなに者かな?」

 

「私は蛍、こっちは……非常食のパイモン」

 

「誰が非常食だ!」

 

蛍の常套句。パイモンはそれにツッコミながらも、シンシの方を向いて言った。

 

「それよりもお前。公然で変なことを叫ぶなよ。みんなが迷惑してるぞ!」

 

「変なこと?おっぱいは女性なら誰にでも付いている器官だろう。変なことではないし、二人にも付いていますよ」

 

そう言うと蛍はシンシを睨んだ。下ネタはメタ的にNGである。連呼すると崩壊以上の圧力がテイワットの大陸に降り注ぐ事になろう。ただ、シンシは笑いながら言った。

 

「悪かった。悪かった。お詫びに良いことを教えてあげよう。知ってるかな?時速60キロで移動している時手を伸ばしたらDカップのおっぱいと同じになるらしい。おっぱいに困っていたら試してみると良い」

 

風神バルバトス様万歳の豆知識である。ただ、パイモンと蛍は呆れたように顔を見合わせて言った。

 

「コイツ、やっぱりヤベー奴だ。ぶっ倒そうぜ」

 

「そうだね」

 

そして蛍は剣を手にしようとしたが、シンシは慌てたように言った。

 

「ちょっと待てくれ。暴力は反対だ。それに私は神の目を持っている。君はなかなかに強そうだし、もし戦いになればお互いに無事では済まないだろう」

 

神の目。それは神に認められた極小数の人間が持つ外付けの魔力器官であり、所有者は神の目を通して元素力を引き出し導くことができた。だが、パイモンから見て、シンシは神の目を持っていたとしても、そこまで強そうには見えなかった。

 

「ふん、そんなこと言って、変態の神の目なんて大したことないんだろう」

 

それ故に腕を組んで偉そうにしたのだが、彼が指を鳴らした瞬間、パイモンと蛍は砂鉄の剣に囲まれた。

 

「ぎょえええ⁉︎囲まれたぞおぉぉ‼︎」

 

パイモンは慌てふためきながら叫んだ。ただ、場慣れしている蛍は冷静であり、落ち着いた口調で言った。

 

「別に敵意があってここに来たわけじゃない。ただ、ここは恋人達が集まる場所だから、そこでおっぱいって叫ぶのはやめて欲しいだけなの」

 

「なるほど。ただ、ここは誓いの岬だ。そこで想人のおっぱいの事を想いながら誓いを叫ぶのに何が悪い?」

 

その問いにパイモンが答えた。

 

「そうだけど、周りのことを考えろよ。恋人の聖地でおっぱいなんて叫ばれたら雰囲気が台無しだぞ!お前も好きな人と一緒にいる時に変な事を叫ぶ奴が近くにいたら嫌だろう」

 

「まぁ、そうだな。ならば提案がある。君達は見たところ旅人のようだね」

 

「そうだけど」

 

「ならば私と取引をしないかね?私は己が誓いを成就させるために、稲妻に向かわなければならない。だが、そこは遠く海の果てにある島国で、しかも近年は荒れ狂う雷雲に囲まれて並の船では難破してしまうのだよ。だから、もし旅の途中で稲妻に行く手立てが見つかったら、私も同行させてほしい」

 

稲妻。それはこの世界の国の一つであり、いずれ旅人が巡る場所に含まれていた。だから、その条件は決して難しくはないものであったが、確認半分、好奇心半分で尋ねてみた。

 

「ちなみに、その誓いはなんなの?」

 

「稲妻を統べる雷神バアル。またの名は雷電将軍のおっぱいを揉む事だ」

 

「……正気?」

 

「勿論だとも。私はその願いを抱いたとき、この神の目を手に入れたのさ」

 

シンシはそう言って紫電の光を灯す神の目を見せつけた。神の目は人が人生の最も険しい分岐点にて、その渇望が極致となった時に与えられると聞いている。しかし、その願いはあまりにも歪で狂っていた。

 

「この世界は何かおかしい…」

 

蛍は強い疑念に抱いたが、パイモンが呆れたように言った。

 

「いや、アイツの頭がおかしいだけだぞ」

 

パイモンの言う通りである。彼は変態のシンシ。常識は通用しない。彼の全ての行動は最終的に雷電将軍のおっぱいを揉むこと、そして願わくばエッチな事をしたり、イチャイチャすることに帰結する。それ故にシンシは再度尋ねた。

 

「それでどうなのかな?私に協力してくれるのか、それとも私の誓いを妨げる敵となるのか?」

 

「良いけど、どうやって伝えれば良い?」

 

「なに、私はいつもここで叫んでいる。だから渡航手段を見つけた時は呼びに来てくれたら良い」

 

「それなら協力する意味ないよね?」

 

蛍はじっとシンシを睨んだ。ここでおっぱいと叫びながら居座られたら本末転倒である。

シンシは冗談めいた笑みを浮かべながら言った。

 

「無論、冗談だ。まぁ、私も無謀に動いているわけではない。時がくれば会い見えることになる。その時に連絡手段は教えるさ」

 

そして、シンシは蛍の横を通り過ぎて、そのままどこかへ立ち去った。変態のシンシ。彼はあまねく世界を旅してきた旅人やパイモンから見ても、まさしく変人であった。ふざけているのか、本気なのか、強いのか、掴みどころがない男だった。それ故にパイモンは彼の後姿を見つめながら言った。

 

「結局なんだったんだ、アイツ?」

 


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