千剣山らしき場所で寝てたら世界が滅んでいた   作:烏龍ハイボール

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予告通り投稿します




第10話 自由とアドリブ

異邦者は尋ねた。

 

『何故、妖精を赦すのか?』

 

ダラ・アマデュラは、視線を異邦者から外して考えに耽る。瞬きをし、時折舌を出しては目の前の珍客から受けた質問の答えを探した。ダラ・アマデュラが答えを導く出すのに、しばし時を有した。そして出ててきたのが・・

 

『どうでもいいから』

 

果たしてこれは答えになっているのか。最初は嘆いている様にも聞こえたが一転してこれだった。異邦者は言葉の真意を測りかねていた。しかしその答えは、他ならぬダラ・アマデュラ自身から語られる。

 

『最初はただムカついていた。住まわせろと言った癖に約束を破った奴等の懺悔なんて聞くものか!とな。だがそこで生贄が落とされたのは想定外だった』

 

それはダラ・アマデュラが最初に抱いた怒り。約束を違えた者達に苛立った癇癪で、地表に向けて自身の力を流して多くの妖精が死んだ。だがそこで妖精達は生贄として一匹の妖精を落とした。

 

 

『その妖精は当時としては考えられないほど良い娘だった。自分の命で怒りを鎮めて欲しいと嘆願してきたのだ』

 

「それについてはさっきも聞いたさ。まさかあのオンナ(・・・)と同じ氏族からそんな奴が出てくるとは思わなかったよ。いや、こっちではその子が先達(・・・・・・)かな」

 

それは異邦者も目を丸くした出来事だった。彼は話に出てくる妖精、ビシキの元の種族である風の氏族にいた、これから出てくるであろう一人の妖精を知っている。その在り方と、それによって起きた出来事。主に悲劇を・・・。だからこそ、ビシキと言う存在は彼の好奇心を擽った。そんな絵に描いた様な妖精が居るのかと。

 

 

『我はその者に免じて奴等の行動を見逃した』

 

それから少しは平和だった。ほんの百年程だ。

 

『その次は苛立ちと言うより、呆れだった。コイツ等は学ばない。言っても無駄だったのだと。その時は我が眷属が対応したからそこまで印象にないが、少しイラッとした』

 

そこでダラ・アマデュラは一息つく。異邦者はその行動にある種の人間味を感じていた。目の前の化け物は見てくれは怪物そのものだが、受け答えや話し方に人の癖が出ていた。

 

『我が奴らを心底どうでもよく感じたのはその後の事だった。あるモノの死を見届け、新たな命を出迎えた我は酷く眠たかった。そこにまるで見越した様に奴等が現れた。無論、アレは偶然に偶然が重なっただけではあったが、疲れて眠り、少々苛立っていた我には十分だったのだろうよ。堪忍袋の緒が切れると人の子はよく言うが、龍になって初めて感じたよ』

 

「龍になった?」

 

異邦者は、ダラ・アマデュラの怒りの元凶の話よりも最後に出たカミングアウトの方が興味津々だった。

 

『あぁ。最近はその記憶も薄れてきているが私はかつて人だった。人の子で、人の世界を謳歌し、死した後にこの世界で産声をあげた。それが所謂前世と言う奴なのか、ただのまやかしかはさておき。我の、私の根幹には確かに人の倫理観や感性がある。それすらも薄れそうになる事もあるが・・・その人の心だったモノが妖精達に対する見方を変えたのだ。』

 

それはダラ・アマデュラがこれまで誰にも言わなかった。言う機会が無かった自身の最大の秘密。別に秘密にしていた訳では無いが、これを知る事になったのが他ならぬ異邦者であったのはなんの因果か。とにかく初めて誰かに己のルーツを図らずも語ったダラ・アマデュラだが、その事すらも既に気にしていない様に取れる。それだけの時間が過ぎたと言う事なのだろう。

 

そしてダラ・アマデュラは話を続けた。それは後に龍謳災として伝えられた大災害の中身。苛立っていたダラ・アマデュラの最後のひと押しをした妖精達は以後長期に渡り、分断される事になった。その末に感じた事が最初の問の答えでもある。

 

『私には奴等が風景と同化して見える様になった。元よりここまで大きくなれば既に風景とさして変わらない。だからどうでもいいと言った。無論、全てがそうではない事を眷属を通して知っている。だが・・・』

 

「それでも先入観が先に来てしまう。なるほどね。君も難儀な生を歩んでいる」

 

『・・・で?お前は誰だ?』

 

 

話が一段落した所で、ダラ・アマデュラは逆に異邦者へと尋ねる。元を正せば異邦者は質問された側であり、彼が話について行けずに中断させた事で世界の歴史の勉強へと脱線したのだ。それを戻したダラ・アマデュラは口を開けて鋭利な牙を見せつける。

 

『お前の要望通りに質問には答えた。次はお前だぞ。忘れかけていたが、虫の居所が悪いんだ』

 

「随分と急だね。そもそも何でそんなに不機嫌なんだい?」

 

『脱皮が近いんだよ。我の脱皮は少し特殊でな、脱皮前はストレスが異常な位溜まるんだよ。おかげで脱皮の度に私はイライラしている』

 

「一人称が不安定なのも、感情が冷めたりするのもそれが原因か」

 

一周回って冷静になった所で異邦者は、ダラ・アマデュラの身体の表面がヒビ割れているのを見た。これだけの身体では、破れかけの皮すらも硬くなっている。

 

『で?何者なんだ?』

 

「敗北者だよ。自分の目的の為に世界を壊したオレは、最後の最後で希望を手にした星に倒された。その結果、底のない穴を落ち続けていた・・・筈だった」

 

『それでここに落ちてきた訳か・・・』

 

ダラ・アマデュラは、彼の乗る岩場の周りをぐるりと回りながら自称敗北者を観察する。彼の纏う力はある種の呪い。だがそれも微かに感じる程度。それは環境が違うからか、流れ着いた末に残った残滓だからなのかは定かではないが、不思議な気配である事に変わりない。そこはダラ・アマデュラの関心を引く。

 

『不思議な気配だが、かなり薄いな。今にも消えそうだ』

 

「オレは発生の仕方が特殊なだけだよ。今は核が傷付いて死にかけさ」

 

彼は話の中で様々な表情を見せてきた。言葉では悪態をつくがその表情は笑顔になったり、彼が歪んでいる事はその行動から見て取れる。しかし異邦者が気付くと、目の前にダラ・アマデュラの顔が無かった。周りでその身体らしき長い胴体が動いており、ややあって、彼の前に巨大な腕が現れて握る手が開かれる。そこから光る結晶がバラバラと落ちてきて異邦者の前に小さな山を作り出した。そうして再び身体が動くと、ようやく顔が姿を見せる。それだけで北欧神話のヨルムンガンドを思わせる体躯の持ち主である事を認識させた。

 

異邦者はその結晶の一つを手に取る。

 

手に取る前から感じていたが、結晶から魔力にも似た力が流れているのを感じ取れた。これら全てが大容量の魔力タンクとでもいうべきだろうか。

 

『それは龍結晶。この島にある特殊な結晶でこの地に眠る龍の力が蓄積されたものだ。それで少しは足しになるだろう』

 

「何故そこまでするんだ?お前にメリットは無いだろう」

 

『さてな。それをどう受け取るかはお前次第さ。それよりもそれを持って私の頭に乗れ。何時までも我の本居に居させる気は無い』

 

やはり情緒不安定なダラ・アマデュラは一人称が安定せず、頭部に並ぶ刃が小刻みに震えている。頭を下げて岩場と高さを合わせる。この性急な流れについて行けないが、下手に怒らせると後が面倒に感じた異邦者は一先ず言う事を聞く事にした。持てるだけ龍結晶を抱えて頭に乗るとその頭がゆっくりと動き始めた。ダラ・アマデュラの頭の上から流れる景色はまさに絶景だった。上を見れば薄暗い空が僅かに見えるが、現状では握りこぶし位のサイズ感しかない。そして現在登っている縦穴も、ダラ・アマデュラが身体を伸ばしてもスペースに余裕が出来ている。そこを異邦者が落ちないように蛇行しながら上がっていく。

 

 

 

月夜を背に地上へと上がってきたダラ・アマデュラは身体を器用に動かして穴の近くに建てられた祭壇の横に頭を寄せた。異邦者が頭から飛び降りると、祭壇を見下ろす位置で彼を見た。

 

 

『さて、我のお節介もここまでだ。後は何処へでも行くが良い。そのまま野垂れ死のうと私には関係ない』

 

そこまで話した所で、異邦者は此方に近づく気配を感じる。何れも目の前の巨龍には届かないが、かつて見た呪いにも匹敵する事は認識できた。

 

『義母よ。それはナンだ?』

 

『そこの不審な男は誰ですか?』

 

吹き上げる突風と共にやって来たのは白と黒、2匹の竜。片方は虫の様な羽を持つ竜で、彼の記憶には引っかからない見た事のない種類だった。だがもう一方は異邦者の記憶にも刻まれている。身体のサイズこそ違うし細部のデザインもかつて見た姿とは異なるが大枠は一致している。

 

「へぇ、少し違うけどアルビオンもいるのか。やっぱりここは・・・ブヘッ!」

 

異邦者は何かを言おうとしたが、黒い竜の尻尾による薙ぎ払いで祭壇から転げ落ちた。

 

『おい。何しているんだ』

 

『グッ!痛いぞ義母よ』

 

すかさずダラ・アマデュラがその大きい爪で黒い竜ことアルビオンを小突いた。ただ小突くとは言うが、その体格差では最早折檻の領域であり、本気で痛がるアルビオンの姿はとても珍しい。その横でやり取りを見ている白い竜こと眷属のビシキは、またやっていると呆れていた。

 

『奴が勝手に私の名を呼ぶから指導しただけだ。私はあの名を軽々しく赤の他人に呼ばれたくない』

 

事情を知らない者にとっては理不尽な話ではあるが、事情を知る故、それ以上の事をダラ・アマデュラもビシキも言わない。そこへ先ほど落とされた異邦者が、打った頭を抑えながら上がってくる。その顔は見るからに不機嫌になっており、痛む身体を震わせながらアルビオンへ猛抗議する。

 

「いきなり突き飛ばすな!危うく核が砕けて消え去るところだったぞ!」

 

『貴様が我が名を軽々しく呼ぶからだ。その名は親しい友や身内にしか許していない。どこの誰とも分からぬお前が呼ぶなどお門違いだ!』

 

双方の意見は決して間違っていない。いや、アルビオンの方が若干過剰であった事は否めないが、互いの言わんとする事は概ね正しかった。ただしそれは双方の主観だけで考えるならば、だ。今回は例外中の例外である。

 

方や異邦者であり、こちらの常識など一つも持ち合わせていない所からの流れ者。もう一方も自分でルールを敷いて生きている存在。彼等の言い分を全て聞き入れながら話を成立させるとなると、水と油ではなく固体と流体を混ぜ合わせるのと同義で意味がない。どちらか一方が擦り寄るしかないのだ。

 

「だから知らなかったと言っただろう。頭のネジが飛んでるんじゃないか!」

 

『言ったな。虫けら風情が・・・』

 

しかしながら両者の言い争いはヒートアップし、収集がつかなくなり始めていた。

 

「やめなさい!それでこちらのキメラめいた身体の男は誰ですか?」

 

一人と一匹の言い争い。そこに釘を刺したのは、これまで静観していた白い竜ビシキだった。彼女は人型に変化すると、言い争う両者の間に入って、異邦者を見る。突然割り込んできた彼女に、言い争いは微妙な空気が流れて終了した。どちらも譲らない子供の喧嘩。ビシキには、そうとしか映らなかった。

 

「あ~あ、興醒めだよ。やめだやめ。自分で言ってて虚しくなってきた。いいよ、名乗るよ。オレはヴォーティガーン。オベロン・ヴォーティガーン。滅びを望んだブリテンが生んだ意思。それが妖精王オベロンのカタチを成したモノにして終末装置」

 

 

「長いです。簡潔に話してください」

 

『終末装置?物騒だな、消すか』

 

『ねむ・・・』

 

異邦者、オベロン・ヴォーティガーンの名乗りに対する三者の反応は以上の通りである。

 

上から辛辣、殺意、無関心と散々な結果である。特にダラ・アマデュラは、欠伸をかいては寝ないように何とか踏ん張っている有様。特に彼は、ビシキの方を向いて嫌悪感を見せた。

 

「いちいち癪に障る奴等だ!」

 

「だから言ったじゃないですか。簡潔にと」

 

『彼はどうやら違う所からやって来たらしい。所謂、漂流者みたいな奴だ』

 

少しだけ復活したダラ・アマデュラはオベロンも交えて事の経緯の説明をした。彼が落ちてきて寝床で話をした事。その最中でオベロン自身からも彼の来歴を洗いざらい吐かせた。

 

ビシキが。

 

 

 

「死ね死ね死ね死ね。クソクソクソクソ」

 

 

 

 

方法は書かないが、オベロン・ヴォーティガーンにとって余程嫌な事だった様だ。彼は今、祭壇の端でイジケていた。それを無視してこの世界の強さ番付最上位の者達が緊急会議を行っている。ダラ・アマデュラも手に入った情報の濃さに眠気が吹き飛んで会議に参加している。オベロンの齎した情報。そこには彼らにとっても重要になりえる要素が幾つもあった。

 

「異聞帯、空想樹。そして、汎人類史ですか。俄には信じ難いですが・・・」

 

『かと言って鵜呑みにも出来ない。が、そもそも我らの世界が間違えていると言われるのがいただけない』

 

アルビオンの憤りは最もである。自分達を否定されて怒りを覚えない者はそうそう居ない。それは自身の否定でしかないからだ。加えて疑問も尽きない。その中でも気になるのは・・・。

 

「そもそも、ここがただ剪定される世界ではない可能性もあります。そこのオベロンの言うケルヌンノス(・・・・・・)ですか?我らの先祖が殺す筈の神。そんな話は過去を遡っても聞いたこともありません」

 

そう。別の世界において後にブリテンとなる島の元になっている神の不在。妖精の存在に、彼等の悪事。他にも類似する点がいくつか見受けられるこの世界と、異聞帯ブリテンなる世界で異なった歴史の流れ。

 

既に死んでしまっているのか、何処かで生きているのか。それは誰も見たことがないので答える事が出来ない。唯一彼等の疑問を解決できる情報。それはその最初の妖精と会ったことのある存在、ダラ・アマデュラによって齎された。

 

『だが奴等は、遊んでいたら海になっていたと言って我の元に来た。そのケル某がどんな奴かは知らないが、オベロンの言う通りならこっちに来る前に殺して島にしている筈だろう?』

 

 

 

『何よりもこれまではただ生きるだけで良かったが、一つ目標が出来たな。我はこのまま消えるつもりはない。あちらが消しに来ると言うなら相手をするさ。たとえ敵がどんな存在であれな』

 

『グルゥシャアアアッ!!』

 

ダラ・アマデュラが天に向かって咆えた。同時に身体を覆っていた古い皮が剥がれ落ちていき、脱皮が始まる。身体を捻って無理矢理皮を剥がしていき、穴の中へ落ちて消えていく。ややくすんだ色から赤みがかった身体が姿を見せると再び天に向かって咆える。

 

『グルゥシャアアアンッ!!』

 

天を揺らすかの様な大咆哮。

 

「・・・・・」

 

その姿を側で見上げる復活したオベロン。彼の胸中は現在、ある好奇心が現れ始めていた。

 

「もしもここにアイツが、それか別のアイツ。いやアイツらも、来たら驚くだろうな。あんな化け物相手にどんな表情を見せるのか・・・。いつもの様に立ち向かうのかな?見てみたいよ。いい!いいねぇ、オレも最前列で見物したいよ!」

 

ここにブリテンはない。汎人類史もない。彼に与えられたのは自由である。ならばと彼は決めた。クランクアップしたキャストは、新しい役を得るために新しい世界へと足を踏み入れた。そこで与えられる役柄とは・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ところでオベロンさん。南の島にバカンスに行きませんか?」

 

『『(面倒事を押し付けにいったな)』』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ダラ・アマデュラ
情緒不安定。脱皮が近いので不機嫌。それらは念話と言うか言動にも出てくる。そして直ぐに眠くなる。つまりどういう事かといえば、やること成すことがメチャクチャになっていると言う事さ。因みに世界は残ってます。

アルビオン
虫嫌いのきっかけ。

ビシキ
変な奴がやって来たと思っている。虫さんから情報を引き出した。虫さんにバカンスを勧める。

虫さん
流れ着いて、結果的に助けられた。異聞帯ブリテンの情報を洗いざらい吐かされた。方法は言いたくないそうだ。彼は既に役目を終えた。此処からは彼の脚本にないアドリブである。故に彼は自由に生きる事にした。

空想樹(言葉だけ)
漸く出てきた

異聞帯(言葉だけ)
やっと出てきた。


殺される筈の神(ケル某)
ビクッ!?
悪寒を感じた。



(この世界の)有識者会議(ほぼ身内)


龍脈石

龍の力が蓄積した光る石ころ

龍結晶

龍脈石の上位互換で石ころではなく結晶化したモノ


龍脈のエネルギーの正体

マナです。

つまり龍結晶はマナが貯蔵されたタンク。

その粗悪品が龍脈石と言う設定





いやー、オベさんの口調が出来ているか非常に心配です。
この度、オベサンは自由になりました。
でもバカンスにホイホイ誘われると・・・

しかしながら妖精眼の持ち主なので、進んで受けた可能性もあります。全ては待ち人の為にみたいな。



次回は予定通り行けば日曜日、駄目なら月曜日ですね


あとアンケートありがとうございました

結果は両方見たいが大多数ですが、見たくない人も少なからず居るので、

ネタ話
本編
の2本同時投稿で出す事にしました。最新話が出ても、設定集とか脇道に逸れて本編は進まないんかい!と私自身が思った事もあるので、ネタ話は基本本編と同時にあげます。なので、アンケートのネタ話が出てくるのは9月末頃になると思います。

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