千剣山らしき場所で寝てたら世界が滅んでいた 作:烏龍ハイボール
後、本編内に出てくる伏せ字■や△は基本的にそれぞれの記号で中身は統一です。つまり数話前に出てくた■■■の伏せ字は全部同じ言葉が入ります。これが分かれば主人公というかラスボスというか一応転生者の在り方や存在が分かると思います。
――第2節 上陸その2――
森の中で迷うカルデア一行の前に現れたオベロンと名乗る男。何処かの王族や貴族の様な装いに蝶の様な羽を背中に付けている。その姿はあのシェイクスピアが描いた妖精王オベロンを想像してしまう。
しかしながら急に現れたオベロンの登場に、藤丸達は警戒心を強めた。この男が先程の靄の生物を差し向けたのではないかと考えるのは当然の思考ではある。それを分かっているオベロンは
『まぁ、このタイミングで出てくると警戒されるのは分かっていたよ。どうかな?これから僕の住む集落に来ないかい?そこで少々情報交換をしようか。見た所、君達も異邦者の様だしね』
「何故、我々がここの者ではないと?それにいや、そうか。もしや妖精眼の力か。しかし異邦者とは?」
『違う世界、場所から流れ着く者達の事だよ。たまに居るんだよ。行き場を無くした者や帰る場所を無くした者が流れ着いてくる。何故ここに来るかは知らないけれど。それにしても妖精の持つ眼のことを知っているなんて、君は博識だね』
オベロンは答えた。が、その言葉が真実であるかの判断は下せなかった。情報の出処は彼の口頭であるからだ。しかし何も情報のないカルデアにとってはそのオベロンからの情報さえ貴重なモノだった。彼等は怪しいと思いながらもオベロンの後に付いていく事になった。またいつ何時、あの正体不明の敵に襲われるか分からないからだ。オベロンの居住地に向かう道中で、彼は藤丸達を襲撃した存在について話してくれた。
『君達を襲ったのはモースと呼称されるモノだ』
「モース・・・」
『そう。でも彼等の話をするには少し歴史の話をする事になるけれど良いかな?僕達妖精は今、現女王が定めた女王暦と言う暦を使っている。今は女王暦2017年で、17年前の女王暦2000年に【凶星】と呼ばれる大厄災が起きたんだ』
「凶星?」
オベロンは物語を諳んじる様に語りだす。
事の始まりは流星だった。
夜空に輝く赤い流星。地平線から昇って反対側へと沈んでいく様に空を横断するそれが日が昇る日中でも肉眼で視認できた。妖精達は疑問に感じた。
あれは何だろうと。
それから暫くして、この島の各地で野生生物が凶暴化して襲われる事件が頻発した。初めは生物だけだったけれど、時間が経つにつれて妖精達が発狂して他の妖精を襲う事件も耳にする様になった。事態を重く見た女王は調査を指示したが原因は分からず、半年の月日が流れた。
「日中に輝く星ですか?」
「俄に信じ難い話ではあるが、話の内容的にその流星が事件の根本なのだろうね」
事態が進んだのは調査を初めて半年たった頃だ。空に輝く流星が突然コースを変えて島で一番高い山の山頂に向かって落ちた。その旨を女王に報告すると直ぐに調査隊が編成された。調査隊が現地に向かうとそこには巨大な生物が寝ていたらしい。その生物は四肢の他に背中に翼を生やしていた。しかしその翼は変幻自在で様々な形に変化して調査隊に襲いかかった。
ある時は巨大な手の様に地面を叩き、またある時は一対の槍となって向かってくる。極めつけは耳を劈く爆音と共に飛び立ち、地面に向かって突っ込んで来る。
「四肢に翼とは我々も知る竜に似ているけれど」
「手や槍の様に形を変えるなんて現存する神話にもない生態だよ」
被害はどんどん拡大して調査隊は1名を残して全滅。生き残った妖精は自らが見てきた事を全て伝えて息絶えた。
当時、女王はこの問題に頭を抱えていた。被害の報告は日に日に増加傾向にあり、調査隊と接触してからその生物は幾度となく地上に降りてくる様になった。しかし対策をしようにも全てが謎で解決の糸口が見えない。そんな日々が続いたある日、とうとうその生物は女王の住まう都市の近くまでやって来た。防衛の為に出た兵士達は軒並み倒され、都市が丸裸になろうとしている中で、ある吉報が伝えられた。
それは件の生物の撃退に成功した事だ。それを成したのは妖精達の中でも領主に任命された牙の氏族とたまたま都市に立ち寄っていた流浪の剣士。二人はその生物と正面からぶつかり、剣士の一太刀が四肢の一本を断ち切った。それを見ていた者達は喝采に溢れた。これまで為す術もなかった相手に攻撃を入れられたからだ。
更に牙の氏族は生物が怯んだ所にすかさず追撃を仕掛け、頭部と翼に傷を付けた。突然降りかかった痛みに堪らず倒れ込む生物は、地面をのたうち回るが直ぐにヨロヨロと身体を起こすとそのまま飛び去った。それ以後、空に赤い流星を見ることは今の所無い。
『この事はまたたく間に島中に伝えられ、件の二人は英雄と呼ばれる様になった』
「でもまだモースの話は出てきていない。つまりその物語には続きがある訳だ」
『そう。彼等は確かに怪物を撃退して島に平和が戻った。英雄譚としてはそこで幕引きなんだろうけれど、それで終わらないのが現実だ』
牙の氏族と流浪の剣士による怪物退治から一年。
一つの怪物騒ぎが起きた。それが現代におけるモースが確認された最初の事例だった。
発見者は狩りに出ていた妖精で、一緒に来ていた仲間の一人が急に苦しみだしたそうだ。やがてその妖精の全身から黒い靄が吹き出て、生来の身体の輪郭が無くなり地面から生える様な怪物に姿を変えた。怪物が他の妖精に触れると、触れられた妖精も怪物と同じ姿になり、その数を増やしていく。怖くなった妖精はその場から逃げ出してこの出来事を伝えると早速征伐軍が編成されて現地へと派遣された。
モースと女王軍の戦いは凄惨だったと言う。触れればまたたく間に浸食されて敵になってしまう。そうなる前に殺せと、接敵した妖精を殺す者が出ると直ぐにそれが全軍に広がり、余計に被害が大きくなる。最終的にモースと女王の軍勢は他ならぬ女王自身の手で焼き払われた。
「自らの兵士を女王自ら!?」
『この森を出て南に向かうと街があるけれど、その道中に大きなクレーターが見えてくるよ。そこが戦いの舞台となった地だ』
「焼き払われたとは、具体的にどういう手段で?」
マシュはオベロンに軍勢を焼いた方法を尋ねたが、彼はその言葉に笑みを浮かべて聞き返した。
『おや、そこが気になるかい?あまり欲を出さないほうがいいよ。変に勘繰られて騒ぎになるからね』
「えっ?あっ!す、すいません」
『まぁ、僕はその辺に関しては、気にしていないからいいよ。実はその手段に関してはいくつか説があるけれど、一つだけ共通している特徴があった。それはね・・・・』
女王による攻撃の際、天から眩い光が降り注いだそうだよ
「「「・・・・」」」
オベロンの語ったその言葉は、彼等が最も欲している情報の一つだった。
空から降りてくる光。
ロンゴミニアドの光。
ブリテン異聞帯の王による攻撃。彼等の中で情報が繋がった。しかし、
「今の話を聞くに、その女王の攻撃でもモースは消しきれなかったんだね」
『そうだよ。確かに大量発生は防げたけれど、以降も小規模ながら毎月モースの話は出てきている。モースの正体が変質した妖精であることは分かったけれど、その原因は不明なままだ。件の生物の襲来はモース出現の呼び水に過ぎないとする考えもある』
そこまで説明を終えると、一行は開けた空間に出てきた。そこは巨大な木々に囲まれたお伽噺の様な世界。その木には通路が設けられ、ツリーハウスが幾つも存在している。藤丸やマシュの視線があちこちに目移りする中、オベロンは彼等に向かって振り返る。
『さて、改めてようこそ客人よ。ここは僕、オベロンが取りまとめる西の森の隠れ里だ。あまり大層なもてなしはできないかもしれないが歓迎するよ』
現地に住む妖精のオベロン。彼の招きでカルデア一行は宿にありつくことが出来た。
――第2節 上陸その3――
『・・・・・・』
曇天の曇り空の下、嵐が吹き荒れる山の山頂でそれは無残な姿を晒していた。四肢は一本欠け、頭部から翼にかけて三本線の傷が入っている。
傷口から赤い粒子が漏れ出て、呼吸をする度に胸部が大きく動く。時折、唸り声を上げているが身体を動かす気は無いようだ。
『まだ傷は痛む様だな』
そこにやって来たのは小柄な少女。その首にはお気に入りの首飾りがかけられている。寝ていた存在は慌てて顔を上げようとするが、少女はそれを手で制した。
『無理をするな。十数年前の傷とはいえ、未だに癒えぬ傷だ』
少女が傍らに近づくとその頭を撫でる。
『だが、こんなお願いをする私を許してくれ。君に最後のお願いに来た』
『・・・・!?』
その言葉に、閉じていた眼が一気に開かれた。そして徐々に細くなり少女の姿を見る。
『達者でな』
その言葉を聞くと、寝ていた存在は重い身体を持ち上げる。常人であれば鼓膜が破れるほどの咆哮を行うと翼を細めて粒子を噴出した。そのまま飛び立っていった。
少女一人になると足元に無数に転がる結晶を見つけ、その一つを拾い上げる。結晶には斑点が浮かび、僅かに黒ずんでいる。
『・・・・ままならないな』
「その姿は久しぶりに見ましたよ」
『ビシキか。早速やりあったと聞いたが?』
そこに現れたのはローブのフードを脱いだビシキだった。その衣類は少しだけ汚れており、戦闘を行ってきたのが直ぐに分かった。
「あんなのは戦いではないですよ。それよりもさっき貴方の配下とすれ違いましたが、良かったのですか?確か未だ全快でなかった筈です」
『ほら、これを見ろ』
少女の姿をした何者かは持っていた結晶をビシキへと投げ渡す。受け取った彼女はそれを見た瞬間に意味を察した。
「状況は分かりました。では彼を?」
『あぁ。オックスフォードになるか、ノリッジになるか。どちらにせよ始まりを告げる事に変わりはない』
少女はそう言葉を残すと先程飛び立った存在と同じ様に空へと跳び上がって去っていく。その姿が見えなくなると、ビシキは今一度、手の内にある結晶を見る。既に黒ずみは全体に回り始め、ドス黒いオーラを放っていた。
「ふん」
ビシキは力を込めて結晶を握り潰した。結晶の欠片は吹き付ける突風に煽られて大気中に霧散した。
「皺寄せが起きている様ですね。急かし過ぎた事は反省しましょう」
独り言を呟くビシキ。彼女の背後、吹き荒れる嵐の奥が蠢き大きな双眸が彼女を見下ろしていた。
所変わり、隠れ里。
オベロンから宿を紹介してもらった一行は、この世界に関する事を調べようとした。まず探したのは歴史書である。
オベロンに頼んで彼の邸宅にあった書物の中からこの世界の歴史を記した本を見つけた藤丸は、他数冊の本と共に彼から借り受けた。かなり恥ずかしがって貸し出すのを渋っていたが、ややあって承諾してくれた。他にも伝記や物語は沢山あったが、こと歴史に関する類の書物少なく、見つけられたのは【ニア】と言う歴史家が編纂した物だけだった。
持ち帰ると既に皆揃っていた。そこで借りた本を眺めながら軽い報告を行う事になった。
「先ずは彼、オベロンだけれど。どうやらかなりの人気者らしい。それはその歴史書にも書いてある通りにね」
藤丸が持ってきた歴史に関する書物は妖精史伝と呼ばれる古事記の様な古い文献の第3巻と女王の歩みと呼ばれる2冊。何れも執筆者は【ニア】と呼ばれる人物。性別は不明なので、彼と呼称しよう。
彼が記した歴史書。妖精史伝の3巻にてオベロンの記述があった。そこにはオベロンによるブリテンの統治の様子が描かれている。そう、ここで彼等は知ることになったのだが、現在彼等の居る島の名前はブリテン島。その命名者がオベロンであった。
彼の統治の元、3000年もの間発展と衰退を繰り返してきた妖精史。彼が後継者に譲り渡した後、隠居生活を始めたことまで書かれている。まさに彼は島の歴史を知る生き証人だった。中身も彼の功績を持上げ賛美する内容がいくつかあり、持ち出しを渋った理由を何となく察する事が出来た。
「妖精が我々と異なる時間を生きる事は聞いていたが、彼はその中でも長命だったな。この本が正しければ彼は少なくとも6千年以上生きている事になる。」
「それか襲名制で世代交代を行っているか。どちらにせよ彼がこの異聞帯における賢人の類であるのは間違いない。ここに住む妖精達からも慕われている様だ」
「皆さん、オベロンさんがいれば何も問題はないと言っていましたね」
「本当に人気者だったね」
「だが、少し気になった事がある」
皆が話し合いをする中で、キリシュタリアは何か引っ掛かりを覚えていた。
「これまでの異聞帯攻略がどんなものだったかは報告書を見てきたからあらましは知っている。その上で立香とマシュに聞きたい。これまで、これほどに纏まった情報をこんなに早く手に入れられたかな?」
「それはつまり・・・」
「あのオベロンが信用ならないって言ってる様なもんだぜ。まぁ、俺も怪しいとは思ってはいるが・・・」
「彼の言う事は概ねこの本に書いてある通りだった。しかしそれ故に、私は彼が嘘をついている可能性を考えている。一先ずは、この本から情報を得て今後の調査や攻略に役立てるが、心の片隅に今の事をしまっておいてもらいたい」
彼の忠告もさる事ながら、今日一日集落を調査した情報を纏める作業を続けていった。そんな彼等の様子を部屋のインテリアの影から覗く虫が居たことに彼等は気付けなかった。
「へぇ。彼、中々鋭いね。前は見た事が無かったけれど、これもイレギュラー故か。アイツも好きに動いていたし、それのせいかな。俺の知る世界とは根本から違うからこそ、こっちも面白い。元の脚本が意味をなさないならアドリブを入れるしかないもんな」
生い茂る木々の上、夜空を一望出来る場所で星空を見上げるオベロン。手には黒ずんだひし形結晶が握られ、それをくるくると回しながら様々な事を思案する。
「戦力の分断は戦術の初歩だ。悪く思うなよカルデア」
アカン、作っているとキリ様が勝手に動いていく。
そんな事を感じるこの頃です。
オベロン
敵に塩を送っているのか、罠にかけているのか。どっちだろう
隠れ里
オベロンが隠居用に作った場所。様々な氏族の妖精が集まる。
謎の生物
凶星の現況。・・・・特異個体
NGシーン
「ふん」
ビシキは力を込めて結晶を握り潰した。結晶の欠片は吹き付ける突風に煽られて大気中に霧散した。いくつかの欠片は彼女の手に刺さり、鮮血が滴り落ちた。
「皺寄せが起きている様ですね。急かし過ぎた事は反省しましょう」
独り言を呟くビシキ。彼女の背後、吹き荒れる嵐の奥が蠢き大きな双眸が彼女を見下ろしていた。しかし何処かに落ち着きが無く、オロオロと慌てている様にも見える。そのせいで周囲に地震が発生し、それに気づいたビシキは後ろを向いて宥めた。
「あの・・・大丈夫ですから。心配そうな顔をしないでください。せっかく決まったのに地震が起きて揺れてます」
『だ、だってビシキがケガした!』
「いえ大丈夫ですから。それよりも義母さんが動くほうが周りの被害が大きくなります」
次回は土曜日になるかも。