千剣山らしき場所で寝てたら世界が滅んでいた   作:烏龍ハイボール

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約一週間ぶりですね

ちょっと今回は短いかもしれません

少し修正しました


第17話 森を抜けて

 

第3節 森を抜けて

 

 

 

ブリテン島の中央部に位置する都市キャメロットの郊外。穴を挟んでキャメロットのちょうど反対に位置する場所にそれは居た。

 

 

『私も奴等の様にお前達を利用した。許してくれとは言わない。全てが終わった後にでも祟りに来るがいい。私はそれを全て受け入れるよ』

 

 

眼下に広がる大穴を眺めながら周囲に響くのは誰かへと向けられた謝罪。それに呼応する様に穴の底から唸る様な音が聞こえる。その傍らには同伴していた人物が居た。

 

「気は済みましたか?公務の一環として出てきているのでそこまで長居は出来ませんよ」

 

『うん、ごめんね。こんな事に付き合わせて』

 

「構いません。此方もどうやら誓っていたようです。もう間違えない・・とね」

 

キャメロットに戻る帰路の最中で、彼女達は互いに情報の共有を行った。カルデアがブリテンに上陸した事。オベロンがカルデアと接触した事。そして、モースの活動が活発化した事。その呼び水となっている存在が活動を始めた事。

 

特に最後の2つに関しては同伴者の表情が曇るが、それも事前に話を進めていた事なので納得してもらうしかない。ただし、万が一の為に保険も確保しておきたい。

 

「剣士殿は今どちらに?」

 

『島中を散策している。でもノリッジには行く様に言ってあるらしいから大丈夫だと思うよ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

妖精達の里で一晩を過ごした藤丸たちは、森を抜けて街を幾つか経由した後にキャメロットを目指す事にした。しかし彼等の表情はやや険しくなっている。その原因は、これから交渉しなければならない女王にあった。オベロンより渡された歴史書、そこに記されていたブリテンを治める女王の正体、その名はモルガン。

 

 

 

汎人類史におけるブリテン滅亡の要因となった魔女の名であり、アーサー王の物語で重要な位置にいる人物である。ブリテンを愛し、ブリテンを統べる王になる事を願っていたが紆余曲折あった末に彼女の欲した物は消え去った。実際にはその凶行は彼女の伝説の中に含まれている一側面に過ぎないのだが、あまりにも有名になり過ぎた為に、モルガンと聞けば直ぐにアーサー王の終焉に至る物語が紐付けられる。

 

 

 

そんな人物が女王としてブリテンという島で国を得ている。異聞帯として存在するには十分すぎる程の要素だった。そしてモルガン程の魔術師であるならばロンゴミニアドの運用も可能だと言うのが、ダ・ヴィンチとキリシュタリアの意見だった。

 

 

 

宿を出た一行が里の入口まで向かうと、外の切り株にオベロンが座って待っていた。

 

 

 

「やあ、昨日は休めたかな?君達の事だから渡したら直ぐに出てくると思ったよ。それよりもこれから街を目指すんだろう?必要だと思って用意しておいたからぜひ使ってくれ」

 

 

 

オベロンは足元に置いてあったバッグを藤丸に投げ渡した。藤丸が中身を確認すると、地図とメモの書かれた紙。紙幣と硬貨が入ったポーチが出てきた。特に最後のお金に関しては数万円分ほど入っていた。

 

 

 

「オベロンさん。これは?」

 

 

 

「僕からのささやかなプレゼントさ。同じ流れ者の先達としてね」

 

 

 

オベロンは昨日は話さなかった自身の出自を彼等に話した。それは自身も此方の世界の住人ではなく、別の世界から流れてきた存在である事だった。

 

 

 

歴史書に書かれた彼が領主になる前、この世界にやって来て途方に暮れていたところを一人の妖精と出会いこの島で暮らしていく事になった。その際に住む所を提供され、その後持ち得る知識でブリテンを発展させた。初めは帰る方法も模索したが、気づいたら数千年も時間が経っており意外にこの世界での生活が楽しくなったので帰る事を辞めた。

 

 

 

「僕は君達を見て直ぐに気づいた。君達のその佇まいや対応がこの世界の妖精とは違ったからね。だからお節介を焼いたんだ。かつて僕自身がそうされたようにね」

 

 

 

「我々がこの世界を侵略するとは考えないのかい?」

 

 

 

「その時はこの国の女王や配下の者達が相手するだろうさ。もう僕は隠居してここの統治からは身を引いている。女王にも素性に関わらずに流れ者には手を差し伸べると話してあるからね」

 

 

 

そう豪語するオベロン。彼はかなり危ない橋を渡っている事になるが、問題ないのだろうか。その答えも彼自身の口から説明される。

 

 

 

「女王にとってもある程度メリットはあるんだよ。妖精ってのは人間と違って文化の発展をさせる事が出来ない。だから外部からの流れ者は数少ない文明発展の起爆剤なんだよ。彼女が即位してからも今日に至るまでに何人かやって来た事がある」

 

 

 

と、彼は言うがにわかに信じ難い。故にオベロンは彼等に手書きの紙を渡したのだ。そこには地図に書かれている街の特徴が簡単に説明されている。中には丸や二重丸を付けられている街の名前も何箇所かあり、彼はそこに行けば人の痕跡を探せると言う。運が良ければまだ人がいるかも知れないとも付け加えた。その上で彼は一行を見送るために最後の言葉をかけた。

 

 

 

「とにかく僕がしがらみや垣根を越えて干渉できるのはここまでさ。ここからは君たち自身の足で進み、その目で見定めるんだ。この世界での君達の物語は始まったばかりだからね。行ってらっしゃい・・・・」

 

 

 

その最後は吹いた風にかき消されて聞こえなかったが、藤丸は彼が心から見送ってくれていると感じた。此方に手を振るオベロンの姿を背に彼等は森へと入っていく。暫くして後ろを振り向くと、そこに集落の姿はなくどこまでも続く森しか見えなかった。

 

 

 

「認識阻害。或いは世界の位階が異なる場所にあるか。理由はどうあれ、我らからあちらには二度と戻れそうにないな」

 

 

デュオスクロイのカストルは、森に向かい手を翳すが、何もない空間に反応するモノは無かった。諦めて森を南に向かって進む藤丸ら一行。その間に何度も襲撃を受けた。

 

 

 

 

 

 

彼等の前に現れるのは上陸後何度か戦ってきた謎のエネミー、モース。蛇型に加えて、新しく4足歩行の獣の様なシルエットも確認された。フォーメーションは変えず、カイニスとデュオスクロイが前衛を担ったが森を進むに連れて、その出現数が増えていく事に気づいた。まるで彼等を森から出さないように立ち塞がる様だ。

 

 

「チッ!倒しても倒してもキリがないぞ!」

 

悪態をつくカイニス。彼女の言う通りだった。

 

立ち回りが分かっていても間髪入れずに襲撃されれば、苛立ちを覚えてくる。そんな時、彼等の周りに赤く光る発光体が現れる。まるで電気が帯電している様に感じれるそれは、どんどん数が増えていき、同時に森の奥から足音が聞こえてくる。

 

「マスター!巨大な生体反応を確認しました!」

 

モース達も近づく足音に周囲を見渡し始める。やがて一斉に後ろを振り向くと、そこに巨大な影が現れた。生い茂る森の中である事に加えて、先程から発光する赤い物体のせいで薄暗くなっている森の中、獣の様に歩くその影は前足を振りかぶってモースを殴り付けた。

 

『グルゥガアアアアッ!!』

 

思わず耳を塞いでしまう程の咆哮は明確な敵意の現れであり、彼等カルデアに見向きもせずにどんどん集まってくるモースを潰していく。

 

「何だアイツは、我々など眼中にないと言うのか?」

 

「ならこれはチャンスだよ。モースを全て引き受けてくれるみたいだから。此方に狙いを定める前に離れよう」

 

「逃げろと言いたいか?ホムンクルス風情が!」

 

「未知の存在に無策で挑む事は愚か以外の何者でもない。カストロ、ここは武器をおさめて先に進むべきだ」

 

「そうですよ。兄様」

 

戦わずに退くことに怒りを顕にするカストルだったが、ポルクスに引きずられてキリシュタリア達の後に続く。一行が居なくなると、モースを全滅させた獣は目を血走らせて彼等の逃げた方向を見た。戦闘の最中でもカルデアの臭いを嗅ぎ分けていたのか、迷う事なく走り始めた。

 

時間にして十分程だろうか、直ぐに彼等の後ろ姿が見えてきた。先ず身構えたのは槍と盾を持つカイニスとカストロ。二人は、逃げる一行から反転して迫る獣に突撃する。それに驚いたポルクスは立ち止まって後ろを振り向く。

 

「兄様!?」

 

「ポルクス、我等は残るぞ。不本意とはいえ我等は喚ばれたのだ。ならば相応の役目を果たさねばなるまい」

 

「分かりました。では、マスター。ここは我等3人に任せて先に行ってください」

 

隣で並び立つカイニスはカストルを見ると不敵に笑い、彼を煽る。

 

「意外だな。てめえが人間の盾になって残るのかよ」

 

「ふん。どのみちあのまま来られては誰かが残らねばならん。それを出来るのは今は我等だけだ。理由は言わずとも分かるだろう?」

 

「あぁ。獣の癖に、俺達並に怒り狂ってやがる。奴の気に充てられて俺も怒りが爆発しそうだ」

 

そう言ってカイニスは赤いオーラを吹き出しながら迫る獣に槍を振るった。対する獣も全身から吹き出る様なオーラを纏いカイニスに向かって前足で殴りかかる。両者の爪と槍がぶつかって大きな衝撃波を生む。その隙をついたカストルは獣の腹部を蹴り上げて打ち上げる。身体が持ち上がり力緩んだ瞬間をカイニスは逃さなかった。手に持つ盾で獣の爪を弾くと、ガラ空きの顔を槍で突く。

 

「喰らいな!」

 

しかし、その攻撃を獣は牙で咥える事で防いでみると頭を振ってカイニスを吹き飛ばす。

 

「なっ!?芸達者な奴だぜ、全く」

 

「感心する暇はないぞ。次だ!行くぞ、ポルクス!」

 

「はい。兄様!」

 

木々を薙ぎ倒しながら、獣と2体の英霊の戦いはここから更に激しさを増していく。

 

 

 

 

 

一方でカイニス達を殿として残した藤丸達は無事に森を突破した。外に出た彼等はカイニス達が残った理由をキリシュタリアに聞いた。

 

「恐らくは彼等の直感だろう。あの獣の周りに滞留していた謎の赤い光を見てからカイニスも苛立っていた。可能性の域は出ないが、感情を支配する類いの呪術を施されていたか、そう言う要素を含んだ存在だろう。それも怒りで感情を塗り潰す様な何か。あの二人はそれでもそれに耐えられると判断したんだろう」

 

結局の所、自分達の常識が通じず前例の無い事だらけなのでいくら考えても明確な答えは出てこない。それでもタイミングが良すぎたのは確かだった。

 

「これはオベロンの罠かな。我等に施しを与えて油断した隙を襲撃させる」

 

「でもこの様な事は私達も過去に経験がありました。だからある程度警戒もしていた。数千年もこの世界にいて、支配者として君臨もしていた彼がこんな単調なモノで仕掛けてくるとは・・」

 

少し雑に感じた。それがマシュの感想だった。伊達に数多くの特異点を修復してきた訳ではない。そこでの経験は、彼等の判断基準としても大いに役に立っていた。ただしいつまでも立ち止まっていられない。彼等は選択を迫られた。ここで二人が追いつくのを待つか。先に進み続けるか。

 

藤丸は、二人が来るのを待とうと提案するが、キリシュタリアは先に進むべきであると進言する。それは少しでも時間が惜しいという事と、自身のサーヴァントや喚ばれてきたディオスクロイ達を信じていると言う意味でもあった。背を預けて戦う仲間を信じてほしい。キリシュタリアのその思いを聞き、藤丸も先に進む事を決める。それでもと彼等は拾った板に魔術でメーッセージを残してその場に残して来た。二人が追いつけば必ず見つけてくれると信じて。

 

 

森を出た後、南部を目指して進む一行は馬車を引く馬型の妖精と出会った。自分達の正体を隠して接触した藤丸達はその妖精から、その上で彼の現代で言う乗り合いのタクシーの様な仕事をしている事を聞くことが出来た。その上で彼の走る道すがらに目的の一つである街がある事を聞けた一行は、料金を支払ってその街まで連れて行って貰える事になった。既に先客が一人乗っているらしく、後ろから乗った藤丸達。そこには座席に横になってフードを被った妖精?が杖を持ちながら眠っていた。起こさない様にそっと動く彼等だが、いざ馬車が動き始めた時、車輪が大きな石を踏んだらしく馬車が大きく揺れた。

 

その勢いで寝ていた妖精?も大きく飛び跳ねて座席から落ちてしまう。

 

「ぶへっ!ち、ちょっと何なんですか!びっくりしたじゃないですか!」

 

マヌケな声を上げてしまう妖精。痛みから飛び起きた人物。フードがずれ落ちた事でその顔が顕になるが、それを見た藤丸達の顔が驚きに変わる。

 

「へ?」

 

「ア、アルトリア!?」

 

姿は違うがその顔は正しくカルデアにも召喚された騎士王アルトリア・ペンドラゴンその人であった。そんな驚く彼等の声が聞こえたのか、妖精は藤丸達を見た。

 

「え?何で私の名前を知っているんですか?と言うか、あなた方は誰ですか?」

 

こてんと首を傾げたアルトリア。この巡り合わせが彼等の冒険にどんな一面を見出すのか。それはまだ誰も知らない。

 

 

 

 




特に説明はなし。
 
アンケート用の小話の作りに取りかかれなかったのでそちらは今しばらくお待ち下さい。

謎の獣

怒り狂いながらカルデア一行を襲撃した。

その気に当てられると、怒りに支配されそうになるので、少しでも耐性があると思われるカイニスとカストルが殿を努めた。その怒りの発生源は不明。





どうも、お久しぶりです。一年と少し更新をサボりました。

2月から更新再開します。

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