千剣山らしき場所で寝てたら世界が滅んでいた   作:烏龍ハイボール

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今回は前回の後書きにある通り、時間が進んでおります。その間に何があったかは追々語ることになるでしょう。





※こよみで間違いがあったので修正しました。


第8話 南の孤島より 

ゆるされよ

 

ゆるされよ

 

我らの怠惰をゆるされよ

 

 

ゆるされよ

 

ゆるされよ

 

我らの嫉妬をゆるされよ

 

 

ゆるされよ

 

ゆるされよ

 

我らの傲慢をゆるされよ

 

 

 

責務を放棄し、無に放たれた妖精達

 

比べられ、持たぬ物を欲しがった妖精達

 

辨えず、大地を踏み荒らした妖精達

 

 

 

 

 

 

怒りの雨が降り、大地は血にまみれた

 

我らに贖罪の余地はない

 

我らに明日はない

 

 

 

 

 

ですが、忘れないでください

 

災いの後には希望が残っています

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

妖精歴6000年

 

楽園の地の南端には一つの島があった。楽園の地からまるで引き剥がされた様に存在する島の名前はブリテン。楽園の地と運河によって切り離された孤島で現在の領主が名前の命名者である。そして、楽園の地におけるもう一つの楽園とも呼ばれていた。

 

 

楽園と呼ばれるその島の中は活気に溢れている。ある者は漁業で生計を立て、ある者は狩猟で獲れた小動物の肉を売り捌く。行き交う妖精達は、人間の様な(・・・・・)生活様式で生きていた。その中でも最も発展しているのが、島の中央にある街、キャメロット。巨大な大穴に背を向ける形で建てられた城塞都市は背後に穴、三方を高い城壁で囲まれ鉄壁の守りを誇る戦闘を想定された造りをしている。

 

そのキャメロットの中で、穴に近い立地で立つ一軒の屋敷がある。ここはこのキャメロットを含めたブリテンの主が住む言わば城である。

 

その屋敷の奥にある執務室の中で、領主である一人の男が積み上がった紙の束と日夜、格闘していた。

 

「あ゛ー!面倒臭い!やっぱりこいつらはバカばっかりだな!」

 

 

彼の下にあがってくるのはその殆どが嘆願書ばかり。たまに報告書も見えるが中身は悲惨の一言。まともな報告書は更に希少で中々お目にかかれない。あればラッキー程度の感覚だ。

 

「そのバカを領民として認めたのは領主様ご本人では?」

 

領主のこぼす愚痴に答えるのは、彼の傍らに控える執事。

 

領主曰く、この島に溢れ返るバカの中でまともな部類に入るバカであり、自身が疎まれていると分かっていながらもそばを離れない生粋のバカ。

 

 

 

「分かっているさ。何しろ最初は単なる労働力が欲しかっただけだからな。しかしこれが思いの外、使えなかった。だから慌てて計画を変更して寄り道をする事になったんだぞ。常識を教えるのに二百年。生活を馴染ませるのに二百年。街の建設に至っては五百年!よく我慢した方だろう?褒めていいぞ」

 

「褒めません。褒めたら罵倒されます」

 

コントの様なやり取りをする主従。この屋敷でかなりの頻度で見られる光景である。

 

 

「お前、頭いいな?」

 

「バカにしてます?」

 

領主は椅子に背を預けるように寄り掛かると執事の方に顔を向ける。基本的に表情の変わらず分かりづらい妖精であるが、今だけは領主への不満を浮かべているのがわかる。

 

「さぁてね。どっちだろうか。あ、今いいことを思いついた!今日から一匹ずつバカ共をあの穴に落とそうか?神様への供物と要らないバカを掃除出来る。こう言うのを竜人族は【一石二鳥】って言うんだろう?」

 

「一つの石で二羽の鳥を撃ち落とす。現実的では無いですね。そもそも我々と竜人族は数千年前の接触以後、出会った事はありませんよ。何処でその様な言葉を知ったのですか?」

 

執事は、領主の言う諺と呼ばれる例えを非現実的だと言って切り捨てた。代わりに彼がその言葉を知った経緯が気になり、尋ねてみた。

 

「博識な友人(・・)さ。ちょうど今日、ここに来る事になっている。そろそろ街に到着する頃だと思うけど・・・」

 

あの方(・・・)ですね。分かりました。お迎えにあがりますね」

 

「おっ!気が利くね。よろしく頼むよ」

 

「少しは進めていてください。やってなかったら怒ります」

 

ヒラヒラと手を振って見送る領主に、執事はそう言い残して部屋を出た。カツカツと廊下を歩く音が遠退くと、領主は机に積まれた紙束を横に押し出して盛大にぶち撒けた。

 

「やってられるか!こんなのゴミだよ!ゴ・ミ!こんな中から宝を探すなんて時間の無駄さ!」

 

 

そう言って机に突っ伏す領主。彼はとうとう職務を放棄して遊び始める。それを帰ってきた執事が見つけた時、領主宅の近くにいた妖精達は雷が落ちたと錯覚したそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここに来るのも久し振りだが、大分変わったな」

 

キャメロットの城壁内。

 

銀色の髪に紺色のワンピースを着こなす少女がいた。首からはペンダントを提げ、手にはお土産だろうか、布を被せた籠を持っている。

 

彼女の名はニア。

 

キャメロットにはとあるお使いでやって来た。その相手とはブリテンの領主様。来る時には迎えを寄越すと言うあの領主に非ざる対応であったので特に期待はしていなかったが、屋敷のある方角から馬型の妖精に引かれた馬車がやって来た。御者の乗る位置に燕尾服の妖精が乗っているのを見て、たまには本当の事を言うのだと感心していた。

 

「お待たせして申し訳ございません。ニア様。お客人をお迎えするのに此方が遅れて来るとは・・・」

 

「良いんだよバトラー。これも全てあの領主が悪いんだ」

 

領主の執事妖精バトラーは、ニアの言葉に首を横に振る。

 

「いえ、それを汲んでこそで御座います。では、足は用意して有りますので此方へ・・・」

 

バトラーはニアを馬車へ誘導しようとするが、他ならぬ彼女自身に止められる。

 

「いや、今日は歩いて行こう。道すがら世間話に花を咲かせるのも悪くない。それに屋敷もそこまで遠くはないだろう?」

 

「ニア様がそう仰るなら、私めもお付き合い致しましょう」

 

「うん。頼むよ」

 

バトラーは馬車を引く馬の妖精に帰るように伝えると、二匹の妖精は馬車を引いて来た道を戻っていく。二人は屋敷への道のりを歩き始める。

 

 

街をゆっくりと歩いていくニアとバトラー。ニアは周りの風景を見て、感嘆の声を出す。

 

「前に来たときは城壁すら無かったからビックリしたよ。よくここまで発展したね。前なら海岸まで見えたのに・・・」

 

「それもこれも領主様のカリスマと知恵、その下で動く妖精達の働きがあってこそです。特にここ百年の躍進は凄まじいです。それは我々の歴史を見れば明らかです」

 

バトラーは街の発展を己の事の様に喜んでいる。それはこの島が今日に至るまでに様々な出来事が起きてきた事に起因している。その始まりは何と行っても、

 

 

「全ての始まりは四千年前、世界を襲った大災害か」

 

「【龍謳災】。世界を大きく変えてしまった大厄災と聞いていますが?ニア様はよくご存知なのですよね?」

 

「まぁね。これでも歴史家だし、専門もちょうどその頃さ。今回は特別に私の研究成果を教えてあげよう」

 

 

そう言ってニアは語りだした。

 

 

 

 

 

 

 

 

4000年前

 

龍謳災の始まりは遥か北方の北の地からだった。突如大地が大きな口を開け、多くの命が地に呑まれた。大地は大きく揺れ、北の地を皮切りに島を縦断する様に口が現れては命が吸われて行った。後に発見された南北を横断する峡谷はこの時生まれたとされている。

 

この時、ブリテン島はまだ本土と陸続きだったが、南部を震源とする大地震が発生。陸続きだった大地は引き裂かれて現在のブリテン島と本土に分断される事になった。その後数日に渡り世界から太陽の光が失われ、赤い雨が吹き荒れたそうだ。

 

そして、南の地に住んでいた妖精達はその殆どが島に取り残され、航路が確立する迄の二千年に渡って島の中で生き抜く事になった。初めは泳いで脱出しようとした妖精もいたが、海から隆起した壁が妖精達の渡航を阻んだ。

 

それは別名、死の壁と呼ばれており、不用意に近づく物を焼き尽くす燃える壁であった。壁は3500年前頃まで消える事は無かったが、年代によって少しずつ形を変えていたそうだ。

 

 

3500年前

 

死の壁が消えると今度は壁の残滓であるガラスの海が誕生した。これもまた彼等の妖精の行く手を阻む災害だった。

 

ガラスの海

 

正確にはガラスでは無いと言うのが最新の研究だが、今はこの名称で良いだろう。このガラスの海は、木造の船を容易に切り裂き、半透明故に見分ける事も不可能だった。ガラスの無い部分を見つけるのは困難で多くの命が失われた。

 

2000年前

 

潮の流れでガラスの海に割れ目が生まれ、船が通れる航路が確立された。この時、本土と島の妖精達は二千年ぶりに出会う事になった。

 

「後は君達の知っている通り、1000年前に現れた領主により、島の妖精は纏められ、妖精歴に類を見ない大発展を遂げたわけだ」

 

「えぇ。しかしながら、龍謳災。疑問の尽きない災害ですね」

 

「そうだろうね。当時の歴史を保有する竜人族なら真実を知っているかもしれないけれど、彼らは閉鎖的で外部との接触を嫌う。私もたまたま南部まで降りてきた者に出会えたけど、そんな事をするのはごく一部さ。運が良かった」

 

直に領主の屋敷に着こうかと言う所で、話はちょうど一区切りついた。そこでバトラーは別の話題を出した。それはニアの首から提げているペンダントについでだった。

 

「所でニア様。よろしければ教えて欲しいのですが、そのペンダントについてです。大変素晴らしい出来ですが、この辺りでは見たことの無いデザインだったので」

 

彼女のペンダントはブリテンには無い特別なデザインをしている。中央に寄り添う妖精ではない種族とそれを囲う蛇。ニアはペンダントを手に取る。

 

「これは私にとって大切な宝物だよ。もう会えることの無い者達から送られた繋がりさ」

 

ニアのペンダントを見る表情は何処か悲しそうではある。が、同時に愛しさも感じた。それに対してバトラーは短く一言、そうですかと返事をするばかりである。

 

 

領主の屋敷に到着したバトラーはニアを外で待たせると一足先に中へ入って行った。それから直ぐに雷が落ちる様な怒号が聞こえ、スッキリした顔のバトラーが入り口の扉を開けてニアを中へ入れる。中へ通されたニアは応接室に通されると屋敷のアルジを待つ事になった。しばらくして、頭にたんこぶを作った領主の男が入ってくる。彼はニアを見るとヘラヘラと笑いながら声をかける。

 

「やあ、待った?ごめんね。ウチの執事が五月蠅くてね」

 

「それを見るに、君が原因だと言うのは分かっている。色々と有るだろうが、始めようか。ブリテンの領主殿?」

 

「お手柔らかに頼むよ。歴史家さん」

 

 

 

 

 




ダラ・アマデュラ

ちゃんと本文に出ていたよ。何がとは言わないけれど


ニア(?????)

ブリテンでは歴史家の名で通っている。普段は本土にて過去の伝承の研究をしている。たまにブリテンに向かっては様々な歴史の更新を行っている。

ニアのペンダント
歴史家であるニアが首から下げているペンダント。寄り添う双子とその周りに蛇が回るデザインをしている。その入手経路は秘密。世界に一つだけしかない宝物。


楽園の大穴

楽園の地や南部の孤島など至る所に空いた巨大な穴。一度落ちれば死は確実で、一説には地獄の大口と呼ばれている。

龍謳災(りゅうおうさい)

竜人族の伝承

猛る龍帝、不朽不滅を謳い、世に変革を齎す災厄とならん


妖精歴10000年に起きた大災害。
この災害の前後で世界の地理情報は大きく変わったそうだ。その一つが各地に空いた大穴であり、峡谷である。
そしてそこから立ち直れる大自然





ブリテン

島の南部の更に南に生まれた孤島の名前。命名者は島を取り仕切る領主で、島に現れてから1000年間統治している。その間に起こった文明開化は驚異的で、ブリテン中央部に城塞都市キャメロットを建設するほどである。

ブリテン領主の男性
領民である妖精をバカ呼ばわりしている。最近の悩みはまともな書面が上がってこない事。ブリテン島における文明開化の立役者

誰かは分かっても突っ込んではいけない。それは単なるネタバレに繋がるからだ。彼がどの彼なのかはいつの彼なのかはまだ秘密。答えは神のみぞ知る。ここにいる理由や経路もちゃんと考えてあるので突発的ではないだろう。


バトラー
ブリテンの領主に仕える妖精



今回からかなり時代が進みました。とは言え元の暦では紀元前6000年頃。文明発展の秘訣は謎の領主様です。






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