かの高尚な赤毛の魔法使い   作:ばたたたた

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クラブハウス・サンド

 

魔法薬学の授業が終わった後、ハリーやロン、ラベンダーが代わるがわる医務室に訪れた。

ハリーたちにはハグリッドの小屋に誘われていることを伝えられ、私の荷物を持ってきてくれたラベンダーには助走をつけたハグをされた。ハリーたちには後で合流すると言っておいた。私は手の出血で少し貧血になっていたので、もう少し寝てから行きたかったのだ。ラベンダーは首根っこを掴まれた猫のように、一瞬にしてマダム・ポンフリーに追い出されていた。

 

彼女と入れ違いになるように、泣いた跡がくっきりわかるネビルが保健室に入ってきた。彼女はへえ?とでも言いそうな冷たい目を向けた後、私にアイコンタクトした。彼は別に悪くないんだから威嚇するんじゃない。コクリと一回頷くと、彼女はふんと鼻を鳴らしてマダム・ポンフリーの手から逃れ、気取ったように肩に手を当てローブを直した後、保健室から出て行った。彼女の前世は猫か何かなのか?つーんとした様子で歩いて行った彼女からネビルに目を移すと、彼は怯えたようにまた涙を零し始めた。怖がられるような謂れはないんだけど…?

 

「あ、あの…ケイシー、手…」

「ああ、大丈夫だよ。ほら」

 

左手を開きひらひらとみせる。マダムのおかげで跡も残らなく完全に治療された。ぐーぱーして動かすのも問題ないことを見せると、彼は安心した様に溜息を洩らした。

 

「本当にごめん。僕のせいだ」

「いや、私が勝手にやったことだから謝る必要はないよ。それより―――私のこと、嫌いかな?」

「え、いや。そんなことない」

「なら、私に普通に接してほしい。私は君と仲良くなりたいんだ」

 

いちいち怯えられちゃ仲良くなれないだろう?と彼の手を両手で包む。

 

「頼むよ」

 

私は微笑んでネビルの顔を下から覗き込んだ。私は顔がいいのでこれで大半は堕ちる。

ネビルは顔を真っ赤にしたあと、眉根を下げてどうかな、と困ったような表情になった。

 

「あのね―――君、なんか雰囲気がすごい僕のおばあちゃんに似てるんだ」

 

私は我慢が出来ず吹き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

医務室のベッドでしばらく寝ていた時、誰かに優しく揺り起こされた。

 

「ん…?」

「スネイプ先生がお呼びですよ。もう体調は大丈夫ですか?」

「…ああ、もう大丈夫です」

 

欠伸をしながら立ち上がる。もう十分体調は良くなったし、今は丁度十三時手前ぐらいだ。昼食は食べ損ねたがあとで厨房にたかりに行こう。ブーツを履き、仕切りの向こうにいたスネイプに連れられ私たちは医務室から出た。

地下にある魔法薬学の教室に向かっているのか、スネイプはズンズンと階段を下りていく。私は少し遅れてついていった。

 

途中でフレッドとジョージにあった。スネイプを見て、その後ろを歩いている私を見た彼らは顔を見合わせた。私がスネイプに見えない位置でウゲェ、という顔をするとフレッドとジョージは笑って私の頭をひと撫でし、すれ違っていった。どうせ私が何かやらかしたと思われているんだろう。二階から地下まで、さらに昼食時だったこともあり、私とスネイプはすれ違う生徒生徒にジロジロと不躾な目線を向けられていた。私は肩を落とし不機嫌なふりをする。

 

やっと地下にたどり着き、魔法薬学の教室も近くなってきたころ、私は歩幅を変えスネイプの隣に着いた。

 

「何か言いたいことでも?」

「先ほどはなぜ回復呪文を拒んだ?おかげでポンフリーに嫌味を言われたのだが」

「ええ、あなたのヴァルネラ・サネントゥールだったら一発でしょうね―――なんて言われたんです?」

「あなたがケイシーの事をよく思っていないのは分かっているが、云々。で、理由は?」

 

薬学教室に滑り込んだ私たちは一応人がいないことを確認すると、スネイプは後ろ手でドアを閉め、もう片方の手でマフリアートをかけた。

 

「あなたが私に良くしちゃ困るんですよ。他のグリフィンドール生にやるみたいに理不尽にやってくれないと」

 

スネイプは一気に不機嫌な表情になった。ヤマアラシの針が手にぶっ刺さった生徒に対する薬学教授としての判断は正しかったし、スネイプとしては当たり前だったのかもしれないがそれではだめなのだ。グリフィンドール生に理不尽にきつく当たっている自覚はあるようで、スネイプは黙り込んだ。

 

「いいですか、私が幼少期ホグワーツにいたことはロンに知られてるんです」

 

ウィーズリー家の人は皆知っている。しかし他者に漏らせば家族全員私がウィーズリー家であるということを忘却の上、違う姓で学校に行くという脅しをしたため誰も漏らさないだろう。私が幼少期ホグワーツにかくまわれていたのは魔法省の判断でもあるので、マルフォイらめんどくさい人間に知られても被害はそんなにないはずだが、生徒の目の色が変わるかもしれないことを危惧して割と強めに脅しをかけておいた。実際に私の記憶が抜き取られていた過去はあるので子供たちは余程がない限り漏らさないだろう。閑話休題。

 

そんなわけで、ロンはもしかしたら『私とスネイプが幼少期仲が良かったかもしれない(少なくとも普通に接する位には)』といういらん勘ぐりをする可能性がある。そういう考えで動かれた場合、賢者の石を狙っているのがスネイプであるという疑念に至ったとき、情報を共有してもらえないかもしれない。それを除いてもハリーとロンにとってのスネイプの株は地を這うどころかマントル辺りまで潜っているので信用度はかなり落ちるだろう。

 

「今日のハリーへの強い当たり…何を考えていたのかは知りませんが、ハリーにはあなたの正体を知らせないつもりなんでしょう?絶対ヘイトを買いますよ。その時私とあなたが普通の関係だったら都合が悪いんです。表面上だけでも仲悪くしないと」

 

別に私とスネイプは特段仲良かったりはしないが、グリフィンドール生の中ではいい方かもしれない。子供のころの訓練のエゲツナサは未だ許していないし心のしこりとして残っているが、私だってスネイプを嫌いだとは思っていない。

 

「先ほどの授業だって一回も注意や減点をしなかったでしょう。これからはバンバンしちゃってくださいね」

 

テーブルに身体を預けながら言う。スネイプが不機嫌に鼻を鳴らし、自身の机へと歩みを進めた。

 

「それで、そちらのご用件は?」

「…クィレルの経歴だ。マグル学の教職を退いて闇の魔術に対する防衛術を教えるまでのことを調べてみたが、あまり情報は出なかった。一応読んでおけ。」

「分かりました」

 

何枚かの紙が手渡される。私はそれを二つ折りにして教科書に挟んだ。

するとスネイプは少しためらった後、また口を開いた。

 

「それと、これはダンブルドアからだが…なるべくクィレルと接触するようにとのことだ」

「なるほど。大丈夫ですよ、自分の身を危険にさらすほど接触しませんから。」

 

そこらへんの加減は弁えてます、と言うとスネイプはもっと不機嫌そうな顔になった。

 

「精々うまくやることですな」

「勿論」

 

そう言って部屋を出て行こうとすると、言い忘れたことがあったので顔をドアの隙間から出す。

 

「そういえば私今日、貶すところがないくらい上手く調合できていたでしょう」

 

ニヤッと笑うと、スネイプがだからどうしたと片眉を上げた。

 

「家にいる間ずっと魔法薬学を勉強していたんですが――――これからは態度面でしか注意できなさそうですね。多分私、先生より才能ありますよ」

「…教師への不適切な態度で、グリフィンドール一点減点」

「その調子」

 

手をひらひらさせてその場を後にする。

ドアを閉める直前の一瞬、スネイプが口角を少し上げたような気がして、私は上機嫌で厨房へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やあ、ハリー、ロン」

「やあ、ケイシー…って、何食べてるの?」

「クラブハウス・サンドイッチさ。厨房にいる屋敷しもべに作ってもらったんだ」

 

昼食を食べ損ねたからね、と言うと二人はああと納得してハグリッドの小屋へと足を進めた。

まばゆいほどの晴天の中、私たちはハグリッドの小屋へと続く丘を下りる。私はもぐもぐとサンドイッチを食べながら二人についていく。木製の小屋が禁じられた森の端にあり、戸口には石弓と防寒用の長靴が置いてあった。木板のドアを叩くと、大柄の男が中から現れた。

 

「さがれ、ファング。さがれ」

 

ハグリッドは巨大な黒のボアーハウンド・ファングの首輪を押さえながら私たちを招き入れた。ロンが私の方を見て顔を引きつらせる。そうか―――ファングの事をすっかり忘れていた。青ざめながら私はハグリッドの家に入った。

 

「くつろいでくれや」

 

ハグリッドがファングを放す。一目散にファングが飛び掛かった来たのをさっと躱すと、ファングは後ろの掃除用具に音を立てて突っ込んだ。悪いことをしたかなと一瞬思ったがケロッとしたファングに対し木製のバケツが見るも無残な姿に変わっていたのでその感情は捨て去った。マトモに受けていたら私の肋骨が二、三本逝っていただろう。

 

ハリーが私たちの事を紹介すると、私たちをちらと見てウィーズリー家の子かい、え?と言った。私の方を見て失言を気を付けているようで、どもりながら続ける。

 

「えー、あー、お前さんの双子の兄貴たちを森から追っ払うのに俺は人生の半分を費やしているようなもんだ」

 

頼むから私をちらちら見ながらしどろもどろにならないでくれ。小さい頃の私を知っているのでそういうことに関しては気を付けろと言われているはずだが、そんな怪しさ満点で果たして大丈夫なのか。

 

ハグリッドがロックケーキを差し出そうとしてくるが、私はサンドイッチがあるからと言って断った。原作、汽車の中でロンが言っていたことのパクリだが助かった。この後ロックケーキで歯を痛めたハリーとロンになじられるハメになったが、彼らは無事ハグリッドの小屋でグリンゴッツの盗難についての記事の切り抜きを見つけていたので良しとしよう。




少ないですがキリが良かったので。
昨日が20日だったので今日が21日です。

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