もふもふ幼女拾ったので一緒に暮らすことにしました   作:夏瀬 縁

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TSっていいよね。
祝50話。
これを最後に暫く更新ストップします。
あとがきのようなものがあるので最後まで是非。





影狼‘‘くん’’騒動

 

 

もぞもぞ、もぞもぞ。

布団の中で手足を動かした。

 

朝というのはなんだか面倒なもののようで、それは私にとってもそうだった。

んーっと手足をめいっぱい広げて、布団の中で大の字に伸びる。

 

さて、今日は何をしようか。

霊夢さんと一緒に過ごし始めてから、楽しいことが尽きなくて毎日楽しい。

チルノちゃんや大妖精ちゃんとも仲良くなれたし、橙ちゃんとはよく野良猫を探しに歩く。

思えば最近は小鈴ちゃんとか阿求ちゃんとは遊んでいないかもしれない。

 

最近は寺子屋終わったらすぐ帰るからなぁ。

 

天井をぼーっと見つめて思った。

よし、と気合を入れて起き上がる。

 

 

 

そこまでで、私の爽やかな気分は終わりを告げた。

 

 

 

 

「むにゃ…れーむー、さけぇ…」

 

「…んんぅ…」

 

ごちゃごちゃな部屋。

至る所に酒瓶やら酒樽やら、汚れたお皿や箸が散乱している。

 

「う…ええ…?」

 

文字通り言葉を失った。

汚れているのもそのはず、昨日はここ博麗神社でそこそこ大きな規模の宴会が行われていたからである。

 

でも、でもである。

 

あまりにも汚れすぎたこの空間に、私は言葉を失った。

片付けが苦手な妹紅さんの部屋でもこうはなっている所を見たことがない。

 

「えい、えい」

 

「ふがっ」

 

部屋の中央で何やら寝言を言いながら、おへそを出して寝ている魔理沙さんをつんつんしてみた。

 

…起きる気配は微塵も感じない。

 

これには私の元気なしっぽもへたり気味。

せっかく昨日ふわふわにしたのに、何故か寝癖がぴょこぴょこはねている。

それになんだか喉に違和感を感じる。

 

ああ、最高の朝を迎えたと思えば、なんだか上手く行かない朝だったみたい。

 

どれもこれも全部全部全部、魔理沙さんと霊夢さんのせいに違いない。

はぁ、とため息ひとつ、私は洗面台に向かった。

 

…早くおとーさんに飛びついてなでなでしてもらおう。

そうでもしないとやってられない。

ふんす、こんどは力を込めた。

 

 

 

障子をがらりと開けてみれば、外は相変わらずの景色だった。

ひんやりした空気に、元気な鳥たち。

 

森ばかりだけど、私はこの光景が好きだった。

勿論、おとーさんとふたりで暮らしていたあの家も大好きだけど、やっぱり純粋に綺麗だと感じる。

 

縁側を裸足でぺたぺた、洗面台へ。

 

まずは顔を洗う。

昨日予め組んでおいた、桶の中の水が私を見つめた。

 

「…つめたっ…あれ?」

 

強烈な違和感を感じて顔を上げた。

ばしゃっと水が辺りに飛び散る。

 

「あー、あー、…ええ?」

 

声が、ちょっとだけ、低い?

鏡の私も、心做しか顔がしゅっとしている感じが。

 

「…まいっか」

 

気のせいだろう。

うん、そうに違いない。

 

さて、御手洗いこう。

私は早くおとーさんに会いたくて仕方がないのだ。

こんなところで時間をくっている暇はない。

 

私はしっかりとした足取りで、厠の引き戸を開けた。

 

そして気づいた。

というより、気づいてしまった。

 

「おとーーさぁーーん!!?」

 

 

「んあっ…?」

 

金髪の少女が、もぞっと動いて半目を開けた。

と思うと、再び眠りについてしまった。

 

 

 

『ない』はずのものが『ある』。

私は今日、影狼‘くん'になってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、性別が反転してた、と」

 

「うう…、わたし、このままだったらどうしよう…」

 

ちゃぶ台に顔をつけて、潰れている少女が1人。

いや、今正確に言えば、少年だろうか。

 

朝ご飯を準備していたら突然聞こえた、影狼の悲鳴。

というより叫び。

 

そしてその数秒後に遅れてやってきた、どたどたと言った足音。

なんだなんだと顔だけ縁側に向けてみれば、涙目の影狼が一直線にこちらに来ているところだった。

 

『おとーさん!!

ある、私に、お…お…、、とにかくあっちゃいけないのが!!』

 

状況が理解できない俺に、耳をぺたりとへたらせ、さらに見たことがないほどにしっぽの元気がない影狼が訴えながら飛び込んできた。

 

 

それで事情を聞いて、今に至る。

要約すれば、朝起きたら性別が反転してしまっていたらしい。

にわかに信じ難いが、まぁ、それを見る訳にも行かない。

 

ひとまず影狼を信じることにした。

 

「幸い、このことを知っているのは俺と影狼だけなんだよね?」

 

突っ伏した影狼が頷くように頭を動かして肯定した。

それならばやりやすい。

 

「影狼、急ごう。

みんなに知られる前に解決策を探そう」

 

「…ぐすっ…うん」

 

 

こうして俺と影狼は朝ご飯をちゃぶ台に並べ、メモを残して博麗神社を飛び出した。

いつもより早い外出。

 

あのころの朝の散歩を思い出した。

今と昔ではあまり変わらないが、ひとつ変わったことといえば、そんなに悠長なことではないということだけらしかった。

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ、布都なら奥に…」

 

「ありがとうございます、聖さん」

 

尋ねてみれば、にこにこといつも通りの聖さんが対応してくれた。

俺と影狼はとりあえず、命蓮寺に来ていた。

 

昨日は宴会。

 

色んな人が来ていたが、命蓮寺の住人も来ていたはずだ。

そしてその中でも最もイタズラ好き、というより何かしでかす人物がいた。

 

「お、今泉じゃないか。昨日ぶりだな〜!」

 

「おはよう、布都」

 

この小さくも、溌剌とした少女。

物部布都である。

 

普段はみんなと一緒に修行の日々を送っている。

経験上、だいたいのやらかしはこの子が原因なことが多い。

 

高価な皿を割ったり、家の障子を破壊したりと俺が被った被害は数え切れない。

しかし、この子は決して悪い子では無いのだ。

わざとじゃないのはもちろんの事、きちんと謝罪して、障子の張り替えを手伝ってくれたり、一緒にお皿を選んでくれたりとアフターケアをしてくれる。

 

いつも元気で、母を失った直後の沈んだ俺によく話しかけてくれた。

その時は苦しい日々の中で、ささやかな助けになっていたのは、確実に布都の元気で平和なお話の数々だった。

 

「おお、影狼のやつも。

で、なんのようだ?珍しいな」

 

「ええと、その…」

 

「昨日の宴会で布都って何してた?

なんか食べ物とかに混ぜ物とかして遊んでない?」

 

なんというか説明しずらそうな影狼に助け舟を出す。

 

「あっははは!面白いことを言うな!

誰かの食べ物に混ぜ物をして何が面白いんだ!

博麗神社では私は『きち丸』を追いかけてて、そんな暇はなかったんだ」

 

「きち丸?」

 

影狼がオウム返しに聞き返す。

うむ、と得意気な布都。

 

「昨日、布都がいきなり連れて帰ってきたんです。

虎柄の猫のことでして…」

 

「うむうむ!きち丸はいい猫なんだ!

聖も捕まえるのを手伝ってくれて、直ぐに捕まえられたんだ!」

 

「…なるほど」

 

「ああでも、決して無理に連れてこようとした訳では無いぞ!

ちゃんと本人の意志を聞いて、一緒に住みたいと言ったから連れてきたのだ」

 

「…布都が餌付けしたんです」

 

俺と影狼は顔を見合せた。

どうやら推理は失敗したみたいだ。

 

俺たちは頷きあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ?性転換の魔法?なんでそんなものを…」

 

「言わなきゃダメ、かい?」

 

はぁ、とため息をつき、魔導書を読みつつもしっかりと聞いてくれているこの少女。

紅魔館の大図書館こと、パチュリーだ。

 

「影狼が久しぶりに来たかと思えば、保護者まで…。

ただ事じゃないようね」

 

「魔法に詳しいパチュリーさんなら知ってると思って…」

 

「まったく、そんな『助けて』みたいな顔しなくても、調べてあげるわよ。

こあ〜、手伝って〜!」

 

どこかの本棚の裏から、はーいと元気な返事が返ってきた。

 

「貸しひとつ、ということでどう?」

 

パチュリーが初めて魔導書から目を離して、薄く微笑んだ。

ははは、俺はかわいた笑みしか出せなかった。

 

 

 

 

 

 

「中々見つかりませんね…」

 

「悪いね、君も忙しいだろうに」

 

「いえいえ、とんでもないです」

 

並んで歩く俺と影狼の上をふわふわと飛びながら、小悪魔は目当ての本がないか目を凝らす。

 

「あ、あれは?」

 

「ん?」

 

突然、影狼が指を指した。

小悪魔がすすすと飛んで、それを抜き取る。

 

『性に関する魔法書ー序ー』

 

ぱらぱらと小悪魔がページをめくる音だけが響く。

 

「どうやら、ちょっと違いそうですねぇ」

 

「…そっか」

 

がっくり、肩を落とした影狼。

中々見つからないで俺も影狼も焦ってきた。

 

もう別の場所を探そうと、再び小悪魔に背を向けたその時。

 

「あ、待ってください」

 

にやりといたずらっぽい笑いを浮かべた小悪魔。

 

「もしかしたら、解決するかもしれませんよ?」

 

その手には、1枚のメモ。

右下には、俺たちがよく知っている魔法使いのサインがーー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おーい、いるか?」

 

「こ、こんにちは」

 

しんとした空気に、留守かと思案。

 

「シャンハーイ」

 

あまり時間を経たずして、ひとり(?)の人形が俺たちを出迎えた。

 

俺たちは博麗神社に戻り、あの魔法使いを問いただそうとしたが、お茶を飲む霊夢しかそこには残っていなかった。

 

彼女曰く、あいつはアリスの家に行った、との事。

 

「どうしたの?こんなお昼に…。

あ、影狼ちゃん、いらっしゃい!」

 

この家の主、アリスが顔を出した。

影狼が遠慮気味に手を振り返す。

 

ああ、本当に可愛い。

そう呟いて俺たちを家の中に手招きした。

俺たちは大人しくそれに従ってついて行く。

すると、お目当ての人物が優雅に紅茶を口にしていた。

 

「よ。どうしたんだ?」

 

影狼を男の子、いや、男の娘にした犯人。

霧雨魔理沙である。

 

 

 

 

 

 

「ああー…、思い返せば食わせた気がしなくも、ないな」

 

「やっぱり!私どうなっちゃうの!?」

 

頭をぽりぽりとかいて、へへへと笑う魔理沙に、影狼が詰め寄った。

 

「まって、じゃあ今影狼ちゃんは、影狼'くん‘ってことなの?」

 

アリスが食い気味に言った。

影狼の代わりに俺が頷くと、なるほどなどとぶつぶつ呟いて、裁縫道具を出してなにか制作し始めた。

彼女の制作意欲を意図せずして刺激してしまったようだ。

 

「わたし、このままなの?」

 

「ん?大丈夫だぜ?

その辺の動物が食った時、だいたい24時間で戻ったから」

 

良かった良かった。

俺と影狼は二人一緒に息を大きく吐いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

こうして、影狼の性転換騒動は幕を閉じた。

 

安心して家に帰ろうとした俺と影狼。

しかし、影狼は魔理沙に呼び止められた。

 

「いやー、悪いな。

まだ妖怪のデータは取ってなかったからな」

 

最初はうきうきで帰ろうとしていた影狼の顔がみるみる青ざめる。

その目に涙まで溜まってきた。

 

「今日はいろいろ、調べさせて貰うぜ!」

 

 

 

「おとーさん、助けて…!」

 

切実な願い。

犯人を探すのと同じくらい時間をかけて魔理沙を説得し、影狼を救出するのに時間を費やすこととした。

 

 

 

 






長い間、ありがとございました。

正直、ここ最近は納得のいく文章がかけず、苦しい日々が続いていました。
番外編なんて需要があるのだろうか。
そんな疑問と共に生活していました。
過去の感想を読み返したり、ここ好きを見たりして感傷に浸っていました。

そんな時、ふと覗けば未だにお気に入り登録をしてくれる人、評価を押して行ってくれる人がまだいると、感動しました。

そのおかげで私は書き続けることが出来ました。
本当にありがとうございます。

これでしばらくお別れです。
このサイトには、東方Projectの素晴らしい二次創作が沢山あります。
段々とハーメルン内で影が薄くなっていっている東方Projectを盛り上げるという意味でも、是非、沢山読み漁ってください。

そして自分で書いてみてください。
「好き」は何よりも力になります。

幻想郷を、ずっとわくわくできる世界に。
これからもよろしくお願いします!!


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