私と鋼鉄の少女   作:朧月夜(二次)/漆間鰯太郎(一次)

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サブタイ が おもい つかない


会議は踊り、私と少女はワルツを踊る

 帝国の中心である帝都には、その上下を分断するように大河があり、北と南を繋ぐようにいくつかの橋がある。その河は幅が15kmにも及び、川岸に立って向こう側を望むと、その果てしなさに絶句するほどである。

 それらは巨大な鋼鉄のつり橋で、無数の支柱を設ける事で完成されており、基本的には誰でも自由に通行することが出来きる広い大陸での物流の要となっている。

 だが帝都のある立地の関係上、戦略的な意味でもこの橋は生命線であると言えるが、しかしそれを軍だけで独占出来ない台所事情がこの国にはあった。

 

 それは元々帝都があった場所は、現在の場所よりも遥か東の沿岸よりにあったのだが、深海棲艦による被害を考慮し、元々は内陸の大きな貿易都市であった場所に遷都したのだ。

 その為、この都市の議会の承認によって作成された巨大な橋を全て防衛のためと接収するわけにもいかないのである。それはこの橋が前述の通り、貿易都市としての生命線であるからだ。

 かといって新たに建設するには時間的余裕もない。結果、現在の形に落ち着いているのだ。

 

 しかし内陸に帝都を移動するのは非常に問題がある。それは海運にダメージがあるということだ。

 この国はある程度の化石燃料や鉱物などの資源はそれなりに採掘が見込める。

 だが経済的な消費だけではなく、防衛にもその資源を割かなければならない現状であるから、海運による輸入も当然必要となる。

 

 その為に艦娘を要した輸送作戦を使う必要があるのだが、それが軸となり現在の位置に帝都を移したのだ。

 それは大陸を流れる大河が海にまで繋がっていることに起因する。

 それにより、帝都の最東部に海軍の基地が作られ、そこが国中にある鎮守府の総元締めである大本営海軍部だ。。

 その海軍部のある港を中心に、様々な輸送作戦が行われているのである。

 艦娘たちは大河を数百キロ下り、その後予定されいる海域へと航路をとる。

 それは沿岸に本拠地を構えるよりは圧倒的にロスが多いのだが、深海棲艦から襲撃に対して安全だ。

 その上、多少艦娘たちの苦労が増えたところでそれは問題ではないというのが政府の見解である。

 つまり政府側にとって艦娘は完全なる消耗品であるのだ。

 轟沈すればまた新たに建造すればいいという訳である。

 その是非はまた別として、である。

 

 そして今、国の鎮守府を束ね、海運の元締めである海軍部の一室で、とある会議が紛糾していた。

 その議題は正規軍の斥候部隊が深海棲艦の大規模な発生地点を観測したことについてである。

 

 そもそも深海棲艦の発生基準は解明されていないのだが、海軍の研究機関が開発した高深度熱探知装置により、とある海域の深海に、深海棲艦と思われる大群がいるという事が分かったのだ。

 基本、定期的に沿岸警備を担当する部隊が哨戒任務を行ってはいるが、それとは別に一般にはその存在が公開されていない斥候部隊が別口で哨戒を行っている。

 それは一般の部隊には配備されることが無い機密にあたる技術を使っているからだ。

 前述の高深度熱探知装置も当然それにあたる。

 そして、それは偶然見つかった。

 南方大陸と北方大陸の領海が交わる、所謂排他的経済水域と呼ばれる海域であった。

 

 そこで観測された熱反応の中に多数のflagshipと思われる戦艦タイプが複数確認されたのだ。

 flagshipと識別される深海棲艦は、艦娘の艦隊に強化改修を極限まで行ったとしても被害は免れないと言われる強敵である。

 それが複数いるとなれば放置できるはずがない。

 

 海軍部は近い未来に国家規模の大規模な輸送作戦を計画しているデリケートな時期であった。

 それは北方の大国との共同で行われ、この国の艦娘技術者をその国に技術指導の名目で貸与され、その代わりに多大な資源を見返りに提供される。

 そしてその後、両国間の安全な航路を確保するための一大軍事作戦へと繋がるのだ。

 これは長年距離を保っていた両国が、ここにきて友好条約を結び、西方国家に対抗するための布石とする目的がある。

 

 資源も技術も潤沢にある西方国家、それに比べ南方国家は技術に秀でているが人口が多いために資源が常に不足しており、北方は資源が潤沢でも技術的には他国から遅れているといわざるを得ない。

 これでは三すくみの状況に足りえない。ならば二つの陣営による睨みあいに持っていこうというのだ。つまりは冷戦構造である。

 

 深海棲艦は世界共通の敵である。その認識は各国の足並みは揃っているといえよう。

 しかしいずれその脅威は取り除かれると考えられている。

 それは希望的観測でしかないといわざるを得ないが、よしんば脅威が無くなったとしたら、各国首脳は国策として艦娘の技術を自らの国へフィードバックすることを目論んでいるのだ。

 

 なぜなら各国がそれぞれ開発しその技術を競い合うコンピューターの演算処理能力に、艦娘の自立した知能を搭載したらどうなるか。それは素人が考えても答えは簡単だろう。

 見た目は少女であるが、その能力は凄まじい戦闘能力を有する艦娘たち。

 その小柄な身体に高性能な頭脳を搭載することが出来たなら、弾道の軌道が予想できる弾道ミサイルよりも恐ろしいだろう。

 近年のミサイル防衛の技術については、各国ともに高い水準にあるのだ。それは地上と衛星による連携により、瞬時に座標を特定し、迎撃することが可能となっている。

 

 だが艦娘たちはどうだろうか。

 彼女たちは搭載された装備を普段は消しておくことができる。

 つまりは普通の人間のように行動ができるのだ。

 加えて彼女たちに国境なども関係ない。それはほとんどの国が海岸線に面しているからだ。

 艦娘たちは自在に海面上を移動できる。

 それにより彼女たちはどこからでも対象の国へと侵入が容易なのだ。

 あとは考えなくてもわかるだろう。

 

 まして彼女たちは基本的に軍人の気質を踏襲している。

 それでも人間に近い感情を有している部分については懸念があるが、コンピューター制御にすることで支配できる問題であると考えられている。

 完全に支配できる高出力の人型兵器――その彼女たちがもし核兵器を隠し持ったまま自爆テロを行えば、証拠が残らないままにその国の重要なポイントを破壊できるのだ。

 そう考えると、なんて恐ろしく、なんて便利な兵器なのだろうか。

 ましてコストも通常兵器に比べると圧倒的にローコストであると言える。

 まさに究極の兵器である。

 

 もちろん民間レベルにその技術をダウンロードすれば経済的にも相当の発展を見込める点も見逃せないのであるが。

 少なくとも大昔から現在まで、軍事的なイニシアチブを取れる事が、国際社会での発言力が強くなるのはもはや常識なのだ。

 ならば有事が終わればいつまでもそんな未知の技術を放っておく訳がないのは道理だろう。

 当然艦娘たちだけではなく、深海棲艦にもそれが当てはまる。

 

 そんな未来構想がある中で、その輸送作戦が頓挫してもおかしくない問題が発見されのだ。

 そこで帝国上層部は、この脅威の殲滅作戦を最高の優先度で実行を命じた。

 

 しかし会議はいつまで経っても終わる気配はなく、それはやがて軍の中で水面下に対立している二つの派閥による権力闘争の色が濃くなってきたのだった。

 ひとつはこの帝国の軍の統合参謀本部からの出向組。そしてもうひとつは生え抜きの海軍士官たち海軍部の首脳陣だ。

 

 基本的に統合参謀本部は陸海空軍の一番上に位置し、その長を全ての軍のトップである皇帝がいるとされているが、実際は陸軍の力が強い。

 ただしその権力は強大であるから、基本、総参謀の命令権は強すぎるほどである。

 しかし近年、軍の中での重要度は圧倒的に海軍が占めていると言えよう。

 それは世界中の経済を疲弊させている要因、深海棲艦のせいである。

 

 海中から神出鬼没でやってくる深海棲艦たちを排除するには、陸軍では到底太刀うち出来ない。

 そこで海軍が率いる艦娘が防衛にあたるわけだ。加えて契約している各地の鎮守府の防衛もある。

 各国の目下の敵は深海棲艦であり、隣国との小競り合いに力を割く余裕などない。

 結果、海軍の発言力は日に日に優ってきているのは当然であろう。

 

 そう言う訳で国家元首ラインの派閥と、海軍のラインの派閥による主導権争いが事あるごとに起こるのだ。

 統合参謀本部の本音としては艦娘関係の管理管轄を陸軍の元へと移動したいう物があり、海軍側はそれを絶対に阻止したいという両者の思惑がそこには見えかくれしている。

 その為、今回の深海棲艦の大規模討伐作戦のイニシアチブをどちらが取るかで揉めに揉めているのであった。

 なんともお粗末な物であるが、いつの時代も組織には権力闘争はつきものなのであろう。

 

 そしてその割を一番喰うのはいつも下っ端なのである。

 当然、民間レベルで軍と契約をしている各鎮守府もそれに当たる。

 

 ――――当たるのだ。

 

 それは契約の条項の中に、国の危機際した場合、出兵の義務が生じるという条項があるからだ。

 そして世の流れは無情にも状況は変化している。確実に。

 それは佐々木にとっても関係のない話では無かったのだった。

 

 彼がそれを望んでいないにしても、である。

 

 

 

 ◇◆◆◇

 

 

 

 

 何というかここも騒がしくなったものだ。

 それは暁と響以外の艦娘であり、彼女たちの妹だという雷と電がやってきたからだ。

 女三人寄ればかしましい等と言うが、四人いるならどうなってしまうのか?

 それが今の鎮守府の状況という訳である。

 そして私はそれとはまた別の心労めいたものに苛まれている。それは――――

 

「だから司令官っ、暁型っていうのはね……ってちゃんと聞いてるの? ってもう! ぽろぽろカスをこぼしてるし。もーしょうがないなぁ! 雷が拭いてあげるから大人しくしててよねっ!」

「大丈夫だって。私は子供じゃないのだから……」

「言ってる傍からこぼしてるじゃない! いいからじっとしててよね!」

「ああ、うん……はい」

 

 ここは私の執務室で、私は司令官のはずだ。

 だのに何故か私は駆逐艦である雷に事あるごとに世話を焼かれ、そしてその様はまるで私の母親のようである。

 元々30年と少しの人生を歩んでいた私である。

 その私が、実の娘だと言ってもおかしくないような娘にこうして世話を焼かれているのだ。

 

 たしかに私は今、3時のおやつを呼ばれており、カスをこぼしてしまった。

 けれどもこれは、百田夫人が持ってきてくれた差し入れのせいなのだ。

 今私が食べているこれは、小麦粉に膨らし粉を入れて揚げた物に黒砂糖をたっぷりと塗した揚げドーナツのようなもので、私の生前の常識でいう所の”さーたあんだぎー”の様なものだ。

 そりゃこぼすだろう。ぱさぱさしてるから。

 何というかこのぱさぱさ感がいいのだ。一緒に飲んでいる玄米茶がまたいい組み合わせである。

 そんなことはどうでもいい。

 とにかくこれは決して私がだらしない子供だからなのではなく、このお菓子がそういう仕様なのだと彼女に言いたい。

 

 いや、言ったところで「はいはい、わかったから」と何というか”やれやれ、仕方ないわね”的なニュアンスであしらわれるのだろうな。

 これはもう今朝から続くこのやり取りで私は学習してしまった。

 

 そもそも何故こんな状況になっているかであるが、それは4人に増えた私の鎮守府所属の艦娘たちが、何やら私のいないところで話し合ったらしく、”秘書艦”という役割を不公平なく決めたとのことで、毎朝被らないようなローテーションで彼女たちはここへ詰めているのだ。

 

 とはいえ今の私の仕事のほとんどが、艦娘を派遣する遠征についての書類であったり、またはこの鎮守府の決裁書類であったりと事務仕事ばかりなのだ。

 なので別に秘書とやらがいなくてもそれほど困りはしないのだ。

 

 村長からも村人の総意であると、鎮守府の仕事だけに専念してほしいと言われているので、私はこうしている訳である。

 それは私が昼間から村の中をうろうろしていると、もし突然深海棲艦に襲われたら対処できないだろうという懸念を持たれ、村人が不安になるからだという。

 確かにそうなのかもしれないけれど、どこか寂しいものがあったりもする。

 しかし私が入植したころに比べ、今は相当に人口が増えているから、昔の様にはいかないのだろう。

 

 それはさておき、秘書がついた私は、少しばかり窮屈だなァと内心ぼやいていたのだった。

 

 因みに彼女たちはそれぞれ個性があり、暁はお姉さんぶりたいが、やってる事は子供染みていたりするう。響はクールな装いなのだが、実は激情家でもあり寂しがりでもある。

 雷は何というかその強気な発言が目を引くが、私にしてることは世話女房のようで、何ともややこしい。そして電は――――内気だがまじめな頑張り屋さんってところか。見てて非常に和む。

 

 外見的特徴の話になるが、雷と電は驚くほどにそっくりで、まるで双子の姉妹なんだというレベルで似ている。

 特に背格好はほとんど一緒であるし、どちらも同じ栗色の髪色をしているのだ。

 ただ雷は肩ほどで切りそろえられてあり、電は雷より長い髪を後ろで結っていたりするので、そこで彼女達を見分けるのが分かりやすいかもしれない。

 

 私は当初、二人の違いに気付かずに呼び間違えたものだが、その度にレディーに対して失礼であると暁にお小言を貰い、雷電姉妹には非難の目で見られた。

 まあ名前を間違うのは失礼なことであるが、私みたいに出会ってから日が浅いということは考慮してほしいものだと独り言ちる。

 

 そう言えば私が元々住んでいた海沿いの家はまだ残してあるけれど、今は私もこの鎮守府の宿舎に住んでいる。

 それは緊急事態に対応するためという事柄もあるが、実際はここの食堂のおかげで食事に頭を悩ませなくて済むという事もある。

 私の知らないうちに村の中で色々と取り決めがされたらしく、かなりの村人がこの鎮守府で働くようになっていたのだ。

 おかげで私は自分の仕事だけに集中できることもあり、それは素直に嬉しい。

 何というか恩ばかり増えていくのでそこは困ってしまうけれども。

 それと暁たちの強い希望もあった。司令官なのに鎮守府にいないなんて言語道断であるとそれはそれは勇ましく言われたものだ。たしかにそうかもしれないな。

 

 しかし他の鎮守府と比べれば、ここにいる人数などたかが知れている。

 何故ならここには私と暁たち4人、それと住み込みで働く村の人たち位しかいないのだから。

 他の鎮守府など100名近い艦娘がいるらしいから、ここの少なさが良くわかるだろう。

 あまり多くても私には把握しきれないだろうから別に構いやしないのだが。 

 

 私は暁たちが寝泊りしている部屋の横にある小部屋を貰っているのだが(執務室と無線室に近いため)、夜になると暁たち4人は今まで出来なかった姉妹団欒を楽しんでおり、その声が非常に大きいのだ。

 最初は微笑ましいとは思っていたのだが、毎日になると少し辛い。

 もうこの執務室のソファで寝泊まりしてもいいのではないかと思うほどには。

 

 そんなことを言えば、あるものは怒り、あるものは涙目で私を責めてくるのだろうからしないのだが。

 でも今後、さらに艦娘たちが増えたとしたらと考えたらうすら寒いものを感じる。

 

 そう、まるで女子高にやってきた男性の教育実習生とはこういう気持ちなのではないか。

 確実に女社会になるだろうこの鎮守府の未来を思うと、私は少しばかり逃げ出したいなんて思ったり思わなかったりする。

 なんというかまあ、途方に暮れつつ書類に判子を捺す私であったのだ。

 

「ほらもう、司令官元気ないじゃない? 大丈夫? どこか痛い? そんなんじゃダメよぉ!」

「あ、はい……」

 

 とにかく私は非常に憂鬱なのだ。

 

 

 ◇◆◆◇

 

 

「司令官さん、お茶が入ったのです」

「ん……ありがとう電」

 

 今日の秘書艦は電のようだ。

 私が書類と睨めっこをしていたら、今日何度目かのお茶を淹れてくれた。

 ただお盆を胸に抱いたまま、私の左肩のあたりから顔を少しだけ伸ばして私の手元を覗き込んでいる。 なんだかぷるぷる震えているのは、身長と共に座高も高い私であるから、小さい彼女は背伸びでもしているのだろう。

 

「ん、何か気になるのかい?」

「あ、いえ、その、覗いてごめんなさいなのです……」

「いや別に、覗かれて困るものは無いけれど……気になるのかい?」

「はい、いや! えっと、その、はいなのです……」

 

 電は何やら慌てた様子で私の横から机の前まで走って行った。

 何ともすばしっこいものだ。

 

 私が先ほどから読んでいたのは”遠征”に関わる書類だ。

 遠征とは帝国から依頼される長距離輸送などの事である。

 今や世界中の海に安全などないと言ってもいいだろう。

 その為に輸送もしながら深海棲艦を排除できる艦娘たちがそれぞれの国の海運を担っているという事だ。

 

 私は一つ考えがある。

 それはまだこの周囲の海域がそれほど危険ではない事があり(いずれはそうじゃないにしても)、ならば今のうちに駆逐艦で出来る遠征を色々してみようという考えだ。

 それに便乗してではないが、ついでに暁たちが所属していた鎮守府の艦娘たちの捜索活動も出来たらいいなという意味も込めて。

 

 4人となった我が鎮守府の艦娘であるが、彼女たちに言われたのだ。

 特に暁であるが、私たちを護ろうとしてくれる気持ちは理解しているし、嬉しいけれど、だからと言って自分たちに遠慮して新い建造などを躊躇などはしないでほしいと。

 

 そこで私は自分自身のエゴイスティックな気持ちを、彼女たちに無意識に押し付けていたかもしれない事に気が付いた。

 確かに私はある一定レベル以上の感情を彼女たちに抱いている。

 それはこの世界に生まれ変った私と、過去に軍艦であった彼女たちという、ある種の前世の記憶を持っている暁たち。

 そこに私は強いシンパシーを感じ、そして無意識的に同朋のような気持ちでいたりする。

 それは私にとっての問題であり、それは彼女たちになんら関係はないのだ。

 

 それでも私は彼女たちと家族の様な親愛の情で結ばれているという思いは多少なりともあるし、彼女たちだってそこは否定しない。

 でも私はどこかで、今の位置から歩み始めたくはないという気持ちがあったらしい。

 もしかすると今のように彼女たちと関われなくなるかもしれない――そんな思いが、今いる面子でどうにかしてやろうという気持ちを産み、それを彼女たちに押し付けてしまったのだ。

 

 私は軍事についての知識は無い。あるとしてもあくまでも歴史で習う程度の物と、戦争映画で描写されている程度の物しか知らない。

 それはつまり全くのド素人という意味なのだ。

 そんな私に彼女たちは夜遅くまでレクチャーをしてくれた。

 

 駆逐艦は所詮、駆逐艦の役割しかできないのだと。

 速い脚で敵をかく乱しつつ魚雷を撃つ。あるいは敵を引きつけ戦艦などを動き易く立ち回る。

 夜間の隠密作戦なんかも彼女たちは得意だという。

 しかし足が速いということは、その分軽量であるということで、つまりは装甲が薄く壊れやすいということにつながる。

 

 つまりは様々な種類の軍艦は、それぞれに役割があり、それらが艦隊を組むことで素晴らしい成果を上げるように出来ているという事らしい。

 

 暁は私たちを心配してくれるのならば、艦隊を組める準備をしてほしいと言ったのだ。

 それが私たちを護るという事なんだと付け加えながら。

 

 その話を聞いて(あるいは説教)、私は思ったのだ。

 彼女たちと一方通行では無い絆を紡ぐために、私は色んな意味で学ばなければならないし、決断をしなければならないと。

 

 そんな訳で私は遠征をし、資材を貯めようと決めたのだ。

 建造についての書類を見たが、それなりの規模の建造を行うには、大量の資材がいるのだ。

 暁たちを沈めないために、強く大きな戦艦なんかを造りたいと私は思う。

 

「…………ふふっ」

 

 思わず私は自嘲する。そんな私を電は不思議そうに見ている。

 

「どうしたのですか? 司令官さん、急に笑ったりして。びっくりしたのです」

「ははっ、いやね、私は何というか箱入り娘を持った過保護な父親みたいだなと思ったんだ」

「はぁ……よく、わからないのです」

「分かられても困る。恥ずかしいからね。とりあえず電、お茶をもう一杯もらえるかい?」

「はい! なのです!」

 

 とにかく私はそうして前に進んでみる事にしたのだ。

 ベテランの司令官たちに聞かれたら、笑われるか呆れられる動機によって。

 

「なあ、電」

 

 私は机の上で両手を組み、少し”司令官”っぽいだろうポーズで彼女を見た。

 ごくりと息を飲む電。

 

「みんなで遠征、行ってくれるか? 何度も行ってもらう必要があるけれど」

 

 私がそう言うと、電は真剣な表情でこちらを見つめ、そして暫く黙った。

 そして顔をあげると、強く強く頷いた。

 

「ありがとう。忙しくなるけれど、きっと君らを護るからな」

「はい!」

 

 私と艦娘たちの距離。

 その正解はさっぱり分からないけれど、私は私のい場所を護るために前に進もう。

 小さくとも頼もしい彼女たちがいるのだから。

 共に戦う戦友――――実に素敵な響きだと思わないか。

 そして私は工廠へ行くと電に告げ、執務室を後にしたのだった。

 

 

 つづく

  




うん、全然話が進まない。すいませんねほんと。

まあゴールは見えているので長い目で読んでいただけたらと思います。

その関係で少し書き溜めを行いますので、次の投稿は週末を予定しています。


※修正

雷と電の特徴についての描写に誤りがあるとの指摘があり

雷も電も栗色の長い髪を後ろで結っていたりするので~



少し長くなりましたが、

 外見的特徴の話になるが、雷と電は驚くほどにそっくりで、まるで双子の姉妹なんだというレベルで似ている。
 特に背格好はほとんど一緒であるし、どちらも同じ栗色の髪色をしているのだ。
 ただ雷は肩ほどで切りそろえられてあり、電は雷より長い髪を後ろで結っていたりするので、そこで彼女達を見分けるのが分かりやすいかもしれない。

創作活動

捜索活動

10月15日 大本営表記を大本営海軍部に修正

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