あの火事を境に、ヒトの皮を被った獣たちの蠱毒となったペテルヘイム高校。
 その一室はいつからか、誰が呼び始めたのかは知らない。『レストラン』と呼ばれていた。
 アクの強いオリキャラとズィマーを巡り合わせたかった。

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ペテルヘイムのコック

 あの火事を境に、ヒトの皮を被った獣たちの蠱毒となったペテルヘイム高校。

 その一室はいつからか、誰が呼び始めたのかは知らない。『レストラン』と呼ばれていた。

 

 その調理室の主は三度のノックで姿を現す。要求するものは死人。扉の前に放置された死人は暗い部屋に飲み込まれ、気付けば扉の前には料理が並んでいる。

 主に肉料理、けして誰もその出自を問わない。

 

――

 

「……知ってる。」

 

 先日、天災が去ったチェルノボーグで学生らしきウルサス人が発見された。彼女はボロボロの制服を着ていたことから、学生、それもあの高校に居たものだと考えられた。

 そこでドクターはウルサス学生自治団のメンバーを招き、彼女について見覚えなどないか尋ねたのだ。

 まずはイースチナ、ロサに聞いていたのだが、彼女らは知らず。今日はズィマーの日だった。

 

「そうか……。無理はしなくていい。彼女について知っていることを教えてほしい。」

 

 ドクターはズィマーの顔色を伺う。発見された彼女の顔写真を見せた時から、ズィマーの顔は伏せがちになっていた。

 それは彼女とズィマーの間には何かしらの関係性があることを示していた。それも、あまり喜ばしくはない関係性が。

 

「こいつは……」

 

――

 

 二度目の火事の後、良心を繋ぎ止める最後の糸が切れた学生たちは狂気の渦に飲まれていた。しかし同時期に高校の周囲のレユニオンの姿が見えなくなっていることも幾人かの生徒によって確認されていた。

 イースチナらはどさくさに紛れてロサを仲間に引き入れ、チェルノボーグからの脱出計画を模索していた。

 

「……やはり食料が足りませんね。」

 

 イースチナたちには高校の外の状況はわからない。最悪直近の都市である龍門まで歩くことを考えると現状の食糧では足りないことがわかっていた。

 

「高校でこれ以上食料を探すのは難しいですし、もう都市内で探しながら移動することにしましょうか……。」

 

 このレユニオンの蜂起に伴って逃げ出した人たちが置いていった食糧が何かしら残っていることも考えられた。それに加えてこの高校で足踏みしている間も食糧は減っていく。

 しかし、できるだけ食料を集めてから高校を出たいのも当然の考えだった。

 

「ねえ、アンナ。もしかしたら食糧を分けてくれる人が居るかも。」

 

 イースチナの呟きを聞いていたのか、グムが突拍子もないことを言った。当然、イースチナは困惑する。

 

「食糧を……分けてくれる?こんな状況で?」

「うん。わたしも噂に聞いただけなんだけど、食糧庫から一番遠くの部屋にレストランがあるんだって。」

 

 イースチナは頭を押さえて天を仰ぐ。この高校にレストランなんて、どう考えたって夢物語だ。それに食糧庫から一番遠いところなんて、まともな方法で食品が手に入る訳がない。

 

「あー!アンナ、信じてないでしょ!」

 

 少し大袈裟な身振りにグムは頬を膨らます。

 

「全く信じてない訳ではないですよ。でも、あまりに現実味がなかったものですから。……でもそうですね、火のないところに煙は立ちませんし、一度行ってみましょうか。」

 

――

 

 イースチナたちは比較的旧食糧庫に近いところに居を構えている。そのため、道中の安全を考えてズィマーがグムの案内でそのレストランを探すことになった。

 

 旧食料庫から最も離れたこの地域はとてもひっそりとしている。食料の供給が不足し、廊下にはもう動けなくなった生徒か、もう動かなくなった生徒しか居ない。

 いくつか確認した教室にも、ひっそりと座り込んだまま死を待つ生徒たちしか居なかった。

 この様子に最初は案内人として先陣を切っていたグムも、いつの間にかズィマーの袖を掴んで背に隠れてしまった。

 

「それで……ここがその『レストラン』か。」

 

 本当にあるとは思わなかった。そんな様子でズィマーは呟く。東棟の最上階、その突き当たりの部屋は確かに『レストラン(ресторан)』と書いてあった。

 扉にはバッグが付いていて、そこには手書きで書かれたメニューがある。

 

「メニューまであるのか。」

 

 メニューを開くと最初に書いてあるのはこの店のルールだった。

 

「代金は水と……死体?」

 

 レストランのメニューには場違いな二文字。しかしそこには確かに『死体』と書いてあった。ズィマーの脳裏に不安がよぎる。

 

 キィ、と不意に扉が開く。扉の隙間から顔が覗く。ズィマーより少し下から見上げるように見つめる。

 

「……ご注文は?」

「……オマエが店主か?」

「……ご注文は?」

 

 ズィマーは突然出てきた女生徒に少し驚いたが、平静を装って尋ねる。しかし店主と思しき女生徒は意に介さず注文を聞き返した。

 ズィマーはどう交渉に入ろうかと考えていると、女生徒は待たずに扉を閉めようとする。

 

「……注文がなければ、早くどこかに行ってください。仕事の邪魔です。」

 

 扉が閉まる。気付いたズィマーはとっさに足を差し込んだ。

 

「待て、どうして代金が死体なんだ。」

 

 不誠実な態度に苛立ちを隠せないズィマーは、少し声を荒らげる。交渉も何もない、単純に疑問をぶつける形になってしまった。

 女生徒は変わらぬ瞳でズィマーを見つめた。

 

「……それは問わないルールですが、どうしても知りたいですか?」

「ああ。」

「……どうぞ。」

 

 予想外にあっさりと女生徒は扉を開く。

 拍子抜けな様子ではあったが、それに従ってズィマーとグムは部屋に入った。

 部屋の中はとても暗い。気を取り直したズィマーは警戒を怠らずに女生徒に付いていく。

 

「……生臭い。」

 

 ズィマーにとっても、グムにとっても嫌な匂いだった。この高校に来てから絶えることのない異臭。

 しかし、死体が運び込まれているならば不思議ではない臭いだった。

 

「……ランプを点けるわ。」

 

 女生徒の足音が少し離れ、カチリ、と部屋がぼんやり赤く照らされる。

 

「うっ…。」「ひぅ。」

 

 ぼんやりと暗闇の中に人の脚が浮かび上がる。六、八と逆さに吊られた脚にはがらんどうの胴がついていた。部屋の隅には骨が積み上がり、赤く染まった箱が並ぶ。

 

「見ての通り。……死体は代金じゃないわ。食材よ。」

 

 なんの悪びれる様子もなく、女生徒は告げる。

 

「あなた達も料理が食べたければ、そこらから死体を拾っておいでなさい。水もお忘れなく。鮮度の保証はあなた方にお願いするわ。」

 

「オマエッ!」

 

 女生徒のなんら罪悪感も感じていない態度を耐えかねたズィマーが女生徒の胸ぐらを掴み上げる。

 

「オ、オマエはっ!ヒトの尊厳をなんだとっ!」

「ヒト?美味しいわね。それに、ここらじゃ一番手に入る食材だもの。仕方ないわ。」

「ぐっ……。」

 

 言葉に詰まる。ズィマーにとってこの高校の飢餓状態は無関係では居られなかった。

 言葉に詰まるズィマーとは対照的に女生徒は興奮したように言葉を続ける。

 

「このレストランの開業は一度目の火事、二度目の火事以降は大盛況で大変だったわ。でも、その分私はたらふく食べられて満足よ。あなたも食べていく?お水ぐらいならおまけしてあげるわ。そこのお嬢さんなんてとても美味しそう。最近はみんな痩せこけて美味しくないのよ――うぐっ!」

 

 あまりにも狂った言葉。そしてグムに対する害意。気づいたらズィマーは女生徒を投げ捨てていた。

 息を荒げ、その拳を血が出るほどに握り締めて怒りを鎮める。

 しかし女生徒はなぜズィマーが怒っているのか、訳がわからないといった様子だった。

 

「酷いわ、腕を折ったらど――」

「黙れ!」

 

 ぴしゃりと女生徒の言葉を遮る。訳がわかっていなかった女生徒も、あまりの剣幕に口をつぐむ。

 ズィマーは踵を返す。これ以上ここに居れば喧嘩になることは避けられない。それだけ価値観が異なる相手であることがズィマーには嫌でも理解できた。

 

「帰ろう。ここには食料はない。交渉もだ。」

「うん……。」

 

 ズィマーとグムは怒りと恐怖に震える手をつなぎ、部屋を出た。

 

――

 

「……わかったな。アイツが何者か。」

 

「あ、ああ……。」

 

 ドクターは良くない話になることはわかっていたはずだった。しかし、ズィマーにとって他人である彼女の話はなんの配慮もなく、包み隠すこともない残酷な話だった。

 

「言っとくがアタシはアイツのことが好きじゃない。適当な人事を頼むぜ。」

 

 ズィマーはドクターの了解を待たずに席を立つ。

 ドクターも引き止めはしなかった。















最初のポエムだけ投稿しようと思ったら字数制限に引っかかりました。


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