ロクでなし魔術講師と人喰い妖怪   作:路傍

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氷精の戦利品。あるいは男の敗北

ナイトバード男爵家。

その地下室に手足を縄で縛られた『チルノの戦利品』がいた。

 

「なんでオレがこんな目に…」

 

ジン=ガニスである。

彼はフェジテで『天の智慧研究会』が起こしたテロ事件で、水色の髪をした小さい少女を襲った結果拘束されて、牢の中に放置されていたのだ。しかも、その少女たちのごっこ遊びに付き合わされながら。

 

「よし、次は囚われのお姫様ごっこやろ!」

「じゃあ、私は悪の帝王をやるのだー」

「待て!オレに何をやらせるつもりだ!黙って近づいてくんじゃねぇ!手に持ってる猿轡はどういう意味だ〜!」

 

〜少女着せ替え中〜

 

「ふふっ、よくぞ来たな。か弱き氷精よ」

「ふんっ!あたいはさいきょーだからな!」

「んむー!んむー!」(外せー!外せー!)

 

悪の帝王ルーミア(演じてるだけです)と、姫を救い出しに来た勇者役のチルノ。そして攫われた姫役のジン=ガニス。

ジンにはこれほどまでにない屈辱であった。

…おそらくこれ以上の屈辱を受けることはこれから一生ないであろうほどの。

 

絶妙に合っていない金髪のカツラに、顔に描かれた子供の落書き…もとい化粧。そして気持ち悪さを醸し出す明らかにサイズの合っていない女児用のドレス。すね毛はもちろん処理されず、ヒゲすら生えたままの姿は誰が見ようと気持ち悪い、そう判断するであろう醜態であった。

 

「あくのていおうっ!姫を返せっ!」

「下郎、この私に命令するか…まぁそれも一興だな。力づくで姫を取り返してみせよ!」

 

その状態で姫はない。絶対にない。

この状態を人に見られたらジン=ガニスは割と本気で死にたくなるような格好だ。もうジンは抵抗する気力すら失いつつあった。

 

「では、行こうか『夜符 ナイトバード』」

「じゃあ、あたいは自機だ!」

(何だ?あんな魔術初めて見たぞ?)

 

そんな状態のジンですらスペルカードには興味を示した。

(どういう術式だ?全く分からん。しかし無駄が多いな…観賞用みたいな魔術だ)

あながち間違いではない推測を行うジン。

この後リグルが帰って来てからの第一声で気持ち悪いと言われて心を抉られることになるが、今はただ批評こそすれその弾幕ごっこの美しさに感銘を受けていた。

 

「ふんっ!これで終わりだ。『闇符 ディマーケーション』」

「あっ!一回休m」ピチューン

 

被弾して弾け飛んだチルノ。肉片などが飛び散るようなものではないが、弾け飛んだ。そう表現するほかない状況であった。

(おいおい!仲間殺しかよ!しかも何でもないような顔してやがる…イカれてるぜ)

ジンは戦慄した。自分を凍らせて捕まえた仲間をなんでもないように殺して平然としている幼い少女のような外見をした化け物に。

(だが、所詮は子供だ。魔法を出す口を封じればどうとでも…)

そんな考えをしていたジンだったが

 

「あぁ、そうそう。」

いつのまにか

 

「あなたが逃げようとしたら」

目の前にいた少女の

 

「遠慮なく足の先から頭のてっぺんまで」

紅い瞳と目が合った。そして、

 

「骨の一片も残さずに喰ってあげるから、よろしく」

…背筋も凍るような声がその背中を貫いた。

 

 

 

 

 

 

「で、あなた『天の智慧研究会』の魔術師であってるんでしょ?」

 

ルチアーノ家との会談の後、情報を蟲達の話から入手していたリグルはジン=ガニスを使って蟲の情報だけでは不十分だった『天の智慧研究会』の情報を入手しようと思っていた。しかし、

 

「オレだって!オレだってなぁ!好きでこんな格好してんじゃねぇんだよぉ!」

「その話はもう終わりだって!さっさと話して!!」

 

屋敷に戻ってきたリグルの心無い一言「えっ、気持ち悪っ。誰それ」がジンの心をえぐったことで話がもつれていた…

 

「落ち着いた?」

「…あぁ。着替えさせてくれてありがとよ。が、残念だったな!天の智慧研究会についてしゃべるわけねぇだろこのガキ!」

「別にいいけど。」

「…は?いいのか?」

 

天の智慧研究会について尋問されると思っていたジンだったがリグルはジンの縄をほどいて解放しようとしていた。

 

「ちょ、ちょっと待て。いいのか?お前らの上司とかに怒られんだろ?」

「ん?もしかして殺処分(ルーミアのおなか)コース?それなら腕によりをかけて焼き串にするけど」

「こいつはあんまり美味しそうじゃないけど頑張って食べるのかー」

 

すでに包丁の準備を始めたミスティアと嬉しそうにしているルーミア。

それをみたジンは

 

「お、おいまて!オレにゃまだ利用価値とかあるだろ!そ、そうだ!制約(ギアス)だ!制約(ギアス)を結べば!」

(こんなところで死んでいられるかっての!)

 

「ふーん。じゃあそれ結ぼっか」(ほんとは蟲の巣を体に埋め込もうと思ってたんだけど…)

(ミスった!こいつらに乗せられて言っちまった!)

 

しかし、実際命は助かったのだから儲けものだろう。

…蟲の巣を埋め込まれて余命数週間になって体を蟲達に喰い破られるよりかは。

 

「それじゃあ制約(ギアス)の内容は――――にしようかな。」

「嘘だろ…」

 

兎にも角にもジンの命は少しは伸びたようだった。




常識は持っていても良識を持たないリグル。
妖怪だから仕方ないね!

(主に)ルーミア視点だけでいい?

  • 人狩行こうぜ!(ルーミア)
  • いや、焼鳥撲滅も見せろ(ミスティア)
  • パーフェクト算数教室を開こう(チルノ)
  • 一番常識持ってるやつで(リグル)

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