個性泥棒のヒーローアカデミア   作:M.T.

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ついにアイツがアレしてああなる回です。
面白いと思っていただけましたら高評価(特に)・お気に入り(特に)・感想等よろしくお願いします。


個性泥棒の仲間割れ

A組は、早速オールフォーワンや弔との最終決戦に備えて訓練をしていた。

 

「エンデヴァーんとこで学んだ『溜めて』『放つ』ソイツを一発だけじゃなく、汗の玉にして同時多発させる。それが新境地『クラスター』。これから俺の技は全て底上げさせる。あっためんのに時間食うが」

 

「ああ、だから冬服!!」

 

「暑くて体力削られっからどっち取るかだ」

 

爆豪が技を説明すると、追いかけっこに負け続けて頭がアフロヘアーになった緑谷が頷く。

すると、新しく覚醒した個性を使いこなす訓練をしていた紡が爆豪の前に現れて爆豪を指差す。

 

「大爆殺神ダイナマイト!アンタやりすぎ。さぁ緑谷、次はあたしと一緒に師匠直伝スパルタ訓練の時間だ」

 

「ひぇっ……」

 

紡が声をかけると、緑谷は黒鞭や浮遊の時のスノーホワイト直伝のスパルタ訓練を思い出して震え上がる。

すると、爆豪が紡に話しかける。

 

「おい糸巻、お前また何か掴んだんか」

 

「…まぁね」

 

爆豪が尋ねると、紡は頭を掻きながら返事をする。

 

「轟君も……何か雰囲気が今までとは違う」

 

緑谷がそう言って轟の方を振り向くと、轟は氷と炎を同時に操っていた。

 

「まだ掴みかけだけどな。右と左、体は一つ…ケホ、ゴホ」

 

轟は、そう言って咳をしながら個性のコントロールに励んでいた。

一方ベンチでは、座って休憩をしていた上鳴と峰田が話していた。

 

「総力戦っつってたけどさ」

 

「ん?」

 

「大将2人は今弱ってるんじゃんね?ギガントマキアも拘束して眠らせ続けてんだろ?見つかりゃ今度こそいけそーじゃね?」

 

上鳴が言うと、爆豪が口を挟む。

 

「ざっくり3点あめぇ」

 

「ん」

 

「3つも甘いの…?」

 

爆豪の発言に紡も頷くと、上鳴が若干驚き気味に尋ねる。

 

「まず1、多分見つかんねぇ。これまで脳無格納庫や死柄木のアジト…研究施設は見つかっても、オールマイトに敗北後奴自身の所在は掴めた事がねぇ。逃げ隠れるなら世界一なんだよ、あの顔金玉は」

 

「そうね。つーかそもそもそう簡単に見つかるならとっくに見つかってるよ。あたしさ、新しい技をダツゴクに試して梅干しの情報手に入れようとしたんだけど、得られるのは取引の内容だけで居場所とかは一切出てこなかった」

 

爆豪と紡が言うと、八百万が説明をする。

 

「2はそもそも前回の死柄木が不完全な状態だった…ですわね。こちらの甚大な戦力減を鑑みると五分と言えるか…」

 

「それ」

 

「んで…「3。戦いの火蓋を切るタイミングはアイツらが握ってる。アメリカ戦で個性は大分削られたと思うしラグドールの『サーチ』が残ってるかどうかはわかんないけど、『サーチ』を手に入れる前にあたしらがUSJや林間合宿の襲撃を受けたって事は、向こうはまだ情報源を持ってる可能性が高い。どのみち後手は必至。だからこそのヤケクソ人海戦術なわけ」おい」

 

爆豪が説明しようとすると、紡が爆豪のセリフを奪う。

 

「だからせめて出方を…動きを誘導できるように早速僕も捜索に出る」

 

「僕達、だろ」

 

緑谷が言うと、飯田が緑谷の頭にチョップをしながらツッコむ。

すると緑谷はキョロキョロしながら尋ねる。

 

「……そうだ、それで言うとーーーーー出歩いていいんだよね?」

 

「ある程度は。麗日君の演説を受けてヒーロー科と避難民の接触も緩和されたからな」

 

飯田が説明している後ろでは、麗日が演説を思い出して顔を赤くしていた。

 

「……結局、追いつめても追いつめてもオールフォーワンは笑ってんのな…」

 

上鳴は、爆豪達の話を聞いて厄介な相手だと認識を改めた。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

その頃、葉隠は森を出歩いていた。

郡訝・蛇腔戦が終わってから元気がなかったクラスメイトに声をかける為だった。

すると、震えた女性の声が聞こえてくる。

 

「やるしかないのよ…あの人が再び“指示”を出してきた。大丈夫…これまで通り、傍受されていても民間の日常に取れるよう暗号化してあるわ。ここなら監視の死角になるんでしょ…!?大丈夫よ。神野まで…ちゃんとオールフォーワンの言う通りできてたじゃない!」

 

そう言って女性は、切羽詰まった様子で誰かに詰め寄る。

 

 

 

「やらなきゃ私達が殺されてしまうの!優雅!」

 

富裕層と思われる男女の前に立っていたのは、涙を流して歯を食いしばっている青山だった。

青山を説得していたのは、青山の両親だった。

 

「入学間もない頃うまくあの人の要望に応えたじゃない!!合宿でも誰にもバレずに居場所を教えられたじゃない!」

 

「ママン…パパン…でも…僕…!」

 

「私達だって…一度だって好きでやったことはないわ!けれど…もう遅いのよ、遅すぎるの…!!」

 

青山は無理だと言おうとしたが、母親は青山の肩を掴んで説得する。

それを聞いた葉隠は、USJや林間合宿での事件を思い出し、信じられない様子で震えていた。

 

「私達はあなたにただ…幸せを掴んで欲しかった。個性を持たず生まれたあなたが“皆”から外れないように…!!皆と一緒に夢を追えるように…!!」

 

「こうなる事がわかっていたなら…しなかった…!絶対に…!!オールフォーワンに個性を貰うなんて…!!」

 

「私達は…もう関わってしまった、関わってしまったらもう…オールフォーワンからは逃げられないのよ!」

 

「ーーーー!」

 

両親から説得された青山は、ボロボロと涙を零す。

会話を聞いていた葉隠は、誰かにその事を話さなければと走り出す。

すると、青山が涙を流しながら口を開く。

 

「ずっと、苦しかった。絶対に疑われないように…振舞ってきたよ…罪悪感に潰されるから…無理矢理気丈に振舞ってたよ…神野で…オールフォーワンが捕まった時、卑しくも…勘違いをしてしまったんだよ。これで皆と…一緒にーー…って…」

 

「ああ優雅…!!許してちょうだい、愚かな私達を許して…!!優雅!」

 

母親が必死に青山を説得すると、青山は地面に膝をついて泣き出す。

 

「僕、ママンとパパンを守りたくて…!死なせたくなくて…!!」

 

「優雅、お願い…!私達を助けて…!!優雅…!!」

 

するとその時、何かが動く音が聞こえる。

母親が振り向くと、そこには緑谷と葉隠がいた。

 

「…!あの… 何か…葉隠さんから聞いて…今…内通者が、えと…青山君が…」

 

「何の話かしら、何かとんでもない聞き間違いでも!?」

 

「緑谷君」

 

緑谷が口を開くと、青山の両親は誤魔化そうとする。

すると、青山は絶望の表情を浮かべた顔を緑谷に向ける。

 

「緑谷君…」

 

「青山君。僕、青山君だけ浮かない顔のままだったから、何かあるのかと思って…探しに来たんだ…」

 

緑谷が言うと、絶望と罪悪感に押し潰された青山は話し始める。

 

「…USJも」

 

「優雅!!」

 

「合宿も、僕が手引きした。緑谷君、僕はクズの(ヴィラン)だ」

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

その頃、連合のアジトでは。

 

「友達ねぇ……それ、バレたらこちらがマズくなるんじゃねーの?」

 

荼毘が尋ねると、オールフォーワンは笑みを浮かべながら答える。

 

「ならないよ。君はーーーー100円ライターが点かなくなったらどうするかね?彼らが成功すれば嬉しい、ダメだったら『あぁダメだったか』と落胆し、次のルートに思いを馳せるだけだ。正しく“使い捨ての道具”でしかない、少しでも場を愉しませてくれれば万々歳さ」

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

青山が真相を話すと、両親は青山を連れて逃げる。

 

「優雅、逃げるんだ!!」

 

緑谷と葉隠は、青山を追おうとする。

 

「待っ…!!」

 

すると青山は、両親に連れられながら口を開く。

 

「ーーーあの置き手紙で…君が僕と同じ無個性だったと知った時…僕は…何もかもに絶望したんだ!!」

 

「やめろ青山君!!」

 

青山が泣き叫びながらネビルレーザーを放つと緑谷がワンフォーオールを発動して青山を止めようとしたが、葉隠が緑谷の前に立ってレーザーを屈折させた。

 

「私の体は…光を屈折させる性質がある。…皆死んじゃっててもおかしくなったんだよ……日本中が…おかしくなっちゃったんだよ…何考えて教室にいたの!!?寮で皆と暮らしていたの!?ねぇ、青山君!!!」

 

「違うんだ!!優雅はーーーー」

 

葉隠が泣きながら青山を問い詰めると、青山の両親が泣きながら青山を庇おうとする。

すると緑谷が黒鞭で青山と青山の両親を拘束してその場を収める。

 

「青山君、葉隠さんは……君が……これ以上人を傷つけないように…してくれたんだ…!!もう…やめよう…!!こんなの…もう、やめよう…!」

 

緑谷は、涙を流しながら青山を組み伏せて説得した。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

その後青山と青山の両親は拘束されて視聴覚室に監禁され、警察が教師陣に事情を話した。

 

「…なるほど、個性を与えてもらい…支配されるに至ったと…付与は約10年前か…今無事という事は、ナガンの様な裏切ったら爆発する仕掛けは無いようだが…」

 

「できれば…君達は下がっていなさい」

 

そう言って校長が振り向くと、入り口にA組が集まっていた。

 

「下がってられる道理がねェよ…!!」

 

上鳴が言い、他のクラスメイトも驚きを隠し切れず泣いている者もいた。

 

「……葉隠さんが見つけてなかったら……何するつもりだったんだ…!!」

 

「青山…!!嘘だって言えよ…!!」

 

「…テメェも元無個性だとは…世の中狭ぇな」

 

尾白が青山を責め、切島も青山に向かって叫ぶ。

爆豪は、青山に向かって冷静に呟いていた。

 

「………」

 

すると、紡が珍しく目を見開いて前に出てくる。

 

「……おい青山。アンタ、自分が何したかわかってんの?USJで相澤先生や13号先生、オールマイトが大怪我したのも…林間合宿で皆が命の危険に晒されて、爆豪は攫われて、ラグドールは個性を失ったのも…アンタが手引きしたからだよな?」

 

「……」

 

「うん。だったらさ、あたし達の事ずっと騙してたって事になるな?」

 

「……」

 

「違うの!!優雅は悪くない!!」

 

紡が問い詰めると青山は黙って頷き、両親が青山を庇おうとした。

 

「…はは、そうだよな、悪くないよな。うん、わかってるよ。脅されてたんだもん、あたしの人生と家族を奪った奴に加担してもそれは、仕方のない事だよなぁ…ははっ……ははは…あははははははははは…!!」

 

「糸巻…」

 

紡は、何を思ったのか突然ケタケタと笑い始めた。

クラスメイトや教師陣は、急に笑い出した紡を気が動転しているのかと思い心配する。

だが、その直後だった。

 

「はは………ふざけんな!!!」

 

「「「!!」」」

 

紡は、血相を変えて青山に殴りかかる。

するとプレゼントマイクが紡を押さえつけて止めた。

 

『やめろ糸巻!!』

 

「糸巻少女!!」

 

「あたしは…皆があたしを信じてくれたから、皆の事も信じる事ができた!!嫌な事全部打ち明けられた!!なのにアンタときたら…!!ふざけんなよチクショウ!!」

 

プレゼントマイクに押さえられた紡は、涙を流しながら叫んでいた。

 

『何つー馬鹿力だコイツ…!』

 

「無理もない。だが一旦落ち着きなさい糸巻君。これ以上暴れるなら下がっててもらうよ」

 

「……!!」

 

教師陣が紡を落ち着かせると、塚内が青山の父親に尋ねる。

 

「生憎まだ我々は秩序に生きようと踠いている。オールフォーワンについて知ってる事を洗いざらい喋ってもらう」

 

「知ってる事は…何もない。私達はただ…頼まれたら実行するだけだ。失敗すれば殺される。嘘をついても……殺される」

 

「どうやって?」

 

青山の父親がガタガタ震えながら言うと、塚内が再び尋ねる。

 

「…………見せられた。そうした人間が処分される様を…警察に逃げ込んだ者は…出所後に殺された…逃げられなかった…どこにいても居場所がバレる…必ず…死に追いやられる…!!言われた通りにしてどうなるか…優雅は知らなかった…!!ただ、誰にも勘付かれてはいけないとだけ…!!悪いのは私達だ…!!」

 

青山の父親が震えながら証言すると、青山が絶望の表情を浮かべて口を開く。

 

「自分が殺していたかもしれない人達と僕は、仲間の顔して笑い合った…笑い合えてしまったんだよ。同じ元無効性でオールフォーワンと戦う重圧を背負った彼を知って、自分の惨めさに絶望した。同じ人間に人生を狂わされた身で、(ヴィラン)だって周りから責められても立派にヒーローをやってる彼女を見て、自分の弱さに絶望した。彼等の心配より先に絶望した自分に…絶望したんだ。性根が…腐ってたんだよ。青山優雅は根っからの(ヴィラン)だったんだよ」

 

青山が言うと、緑谷が青山に向かって叫ぶ。

 

「じゃあ何で、合宿でかっちゃんと常闇君を助けようとしたんだよ!あの夜のチーズはオールフォーワンに言われてやったのかよ…!?違うだろ…!?あれは…僕が気付けなかった……!!SOSだったんだ…!だって、取り繕いもせずに泣いているのは…オールフォーワンの言う通りにできなかったからじゃあないだろう!?オールフォーワンに心を利用されても全ては明け渡さなかったヒーロを、僕は知ってる!心が圧し潰されただけだ!!」

 

「緑谷少年…!」

 

すると、ようやく落ち着いた紡が床にポタポタと涙を落としながら口を開く。

 

「………そんなに頼りないかよ」

 

「……え?」

 

紡は、涙を流しながら青山に訴える。

 

「ずっと黙ってたのは、あたし達をオールフォーワンに殺させたくなかったからでしょ…!?ふざけんなよ!!この期に及んで言いたくもない言葉並べて…!!勝手に遠ざけようとして…!!こんな事になる前に、あたし達を信じてほしかったよ!あたし達、クラスメイトでしょ!?友達でしょ!?」

 

「僕の事が…憎くて怒ってたんじゃないのか…?」

 

「…友達憎むバカがどこにいるんだよ。ただいつまでも小悪党面してるアンタにムカついて、ブン殴ってやりたくなっただけ」

 

紡が鼻をずびずび鳴らし涙を拭いながら言うと、青山はさらに涙を流す。

紡が青山に殴りかかる程怒っていたのは決して自分自身の為ではなく、青山を恨んでなどいなかった。

青山は、自分を恨んで当然の紡が自分の為に泣いて叱ったその時、心を動かされた。

すると、緑谷が青山に手を差し伸べる。

 

「罪を犯したら一生(ヴィラン)だなんて事はないんだ!この手を握ってくれ、青山君!君はまだ、ヒーローになれるんだから!!」

 

 

 

 

 


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