春休み明けで気が緩んだサンラクサンが、ヒロインちゃんと付き合ってるのをうっかりクラスメイトに気付かれる話。高三設定。


※小説家になろうで硬梨菜氏が連載中の小説「シャングリラ・フロンティア〜クソゲーハンター、神ゲーに挑まんとす〜」の二次創作作品です。
※投稿者の過去作「壊れないように、離さないように」と同一ユニバースのつもりで書いています。過去作必読要素は特に無いので、無理に読まなくても問題ないと思います。

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こういうシチュエーションが大好きなので書きました。


主題:楽玲による交際バレ即興曲

 季節は巡り、桜が咲く春が訪れる。年度が変わっても俺の生活には特に変わりはない。いや、一つ変わった。クラス替えで玲さんと同じクラスになった。嬉しくはあるが、付き合ってる事がバレないように立ち回る機会も増える。気を付けないとな、と思っていた。

 

 そう。思って()()のだ。なぜ過去形なのか、それを語るには俺の記憶を遡らねばならない。忘れもしない、あれは数分前の正午のこと―――

 

 

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 始業日に俺達高校生に与えられたプログラムは、正午の時点で終わりを迎える。多少顔ぶれの変わったクラスメイト達は我先にと教室を出ていった。逆に残ってダベっている連中もいる。その中には数週間前と変わらない顔ぶれも何人かいる。雑ピとか。

 

「楽郎、ゲーセン行かね?」

「悪いが今日は直帰の予定なんでな」

「ん、オッケー」

 

 生憎今日は一刻も早く家に帰りたいくらいの気分だ。許せザッピー。速やかに支度を済ませて席を立つ。玲さんの方を見ると、こちらもクラスメイトと談笑している。と思ったらちょうど終わったところらしい。

 

 

()()()()()()()

「ふぇ?あ、はい!」

 

 

 玲さんは赤ら顔で俺に振り向き、喜色満面に浮かべて立ち上がる。瞬間、いくつかの事が同時に発生した。

 教室内の喧騒は水を打ったように静まり返る。十数人分の視線が俺に突き刺さる。体育会系ズが無言で扉を封鎖する。そして俺は己の致命的失敗(ファンブル)を悟った。

 

 前々から怪しまれてはいた。だがその疑惑は都度否定してきた。そんな二人が一緒に帰ろうとして、あまつさえ名前呼び。そう、俺はこの時まで、学校では「斎賀さん」呼びで徹していたのだ。そりゃあ、

 

 

「ひ づ と め ら く ろ う クン?」

(こうもなるよな…)

 

 背後からかかる声に恐る恐る振り向けば、雑ピが息のかかる距離までって近っ!バカな、俺に気付かせずに背後を取った、だと…!?いやまぁ一般男子高校生が気付くほうがおかしいけども。

 

 

「聞き間違いか?今、『玲さん、帰ろっか』と聞こえたんだが…?」

「聞き間違いだろ?俺は今……えーっと…『礼賛、蚊、廊下』と言ったんだよ…我が家は、あー…宗教上の理由で蚊を崇めていてだな…」

 

 

 声が震えている。握った手に汗がにじむ。というか言い訳の前に雑ピのポエムネタを擦って論点をずらしにかかるべきだった。その方がまだ生存の可能性があっただろうに、こんな悪あがき以下のクソ言い換えで反撃の機を逸してしまった。プレミは連鎖する、坂を転がり落ちるように…!

 

 

「そうか、続けていいぞ楽郎。そのまま俺達を納得させられれば、帰してやっても 「できるかぁ!!」 ならば拘束する!斎賀さんも重要参考人故、任意同行を願う!」

「くっ…!お、俺のことは良い、せめてれ、斎賀さんだけは…!」

「彼女を守るナイト気分か、いい度胸だな!なおのこと許せん!」

「グワーッ!」

 

はい回想終わり。

 

 

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 そして今に至る。流石にあの言い訳から続けるのは無理筋が過ぎる。何だよ蚊を崇める宗教ってピンポイントすぎんだろ。母さんでも入らんわ。

 俺は現在、教室のど真ん中で椅子に座らされ、上から肩を抑えつけられている。完全に身動きが取れない姿勢だ。玲さんは隣の席で女子に囲まれている。前の席に座る雑ピが俺に真剣そうな眼差しを向けてきた。

 

「なあ楽郎、俺はお前のこと友達だと思ってる。友達が付き合ったってんならさ、祝ってやりたいんだよ。だからさ……そろそろ認めな?」

「祝いたいんならまず待遇の改善を要求する」

「嘘つき罪の罰なので却下する」

 

 ぐぬぬ。流石にコレ以上の言い訳は苦しい。認めるしか、ないか……!

 

「ごめん、玲さん。俺が口を滑らせたばっかりに……」

「い、いえそんな…!遅かれ早かれ、知られてたと思うので…」

 

 そう言ってくれてありがたい。だったらもう認めてしまおう。ただし――雑ピに一泡吹かせてから。

 

「そういや暁ハート先生、裏垢の執筆も随分順調そうじゃないっすか…」

「なッ!?」

 

 俺の反撃に雑ピの表情が固まる。ハッ馬鹿め!お前のポエム(からかいネタ)を楽しみにしている奴がこの学校に何人いると思ってやがる。アカウント変えたくらいで逃げ果せられると思うなよ!

 

「ポエムの雰囲気は変えられても、書き方の癖は中々抜けないようだな!そうだろう『黄昏ティアー』先生よぉ!」

「ぬ゛っ…………がっ……!!」

「んでお察しの通り、俺と玲さんは去年末に付き合った」

「なあ今の暴露に何か意味あったか!?せめてお前への追求を回避しようみたいな意図があってこそだろうがよ!!」

「友達なんだろ?道連れになってくれよ」

「縁切ってもいいか~~~!?」

 

 やーいやーいざまみろー。男子連中は思い思いに端末で俺が口にした名前を検索し始めている。それでも俺を押さえつける重みは揺るがない。自我無い系ロボットかお前は。

 

『お、あったアカウント』

『どれどれ・・・へー暁ハート先生と違って結構アンニュイな感じ』

『なるほど、こういうのを書くために別アカウントを用意したのか』

『書き方とポエムの雰囲気が合ってなくね?』

『暁ハート先生、こっちもフォローしとくぜ』

 

「おいお前らやめろ!今は楽郎が先だろ!…とにかく!認めたんなら結構!別室で更に詰問させてもらう!おら立て!」

「人の上着を拘束具に使うのやめない?傷んだらどうしてくれる」

「しょうがないだろ。他に使えそうなのないんだから」

 

 こうして、俺を含む男子生徒は別室に移動していく。玲さんは俺と同じように女子生徒にいろいろ聞かれるだろうが、俺に出来ることは祈るしか無い。玲さんがボロを出さない乱数を祈るしか。……うーん少なからず不安。

 

 

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 空き教室に移った。俺+雑ピ+クラスメイトの男子四名は、適当に用意した椅子に座っているが、俺だけ後ろ手に回され、手首に上着を巻きつけて拘束状態。頑張れば抜けるかもしれないが、ここで暴れてもデメリットしかない。早いとこ解放されたいもんだ。

 

「静粛に。被告人。我々はお前に幾つか聞きたいことがある」

「もう気分は良くなりましたか黄昏ティアー裁判長」

「被告人は質問にのみ答えるように!」

 

 そういうお前は随分()えているようだな、なんつって。

 

「で、聞きたいことってなんだよ」

「そう焦るな。まずは確認だ」

 

 咳払いが一つ。

 

「被告人陽務楽郎。斎賀さんと付き合っているのは事実か?」

「ああそうだよ」

 

「いつごろから?」

「去年末」

 

「告白はどちらから?」

「黙秘権を行使する」

「許可できない」

 

 末法の世。

 

「……玲さんから」

「被告人、嘘を吐くな」

「嘘じゃないんだが」

 

 連中、教室の隅に固まってヒソヒソ。

 

『な……斎賀さん…………惚れた……?接点…………』

『……JGE…一緒………………、シャンフロ…………?』

『俺…シャンフロ…………だけど…、フレンド……………女子……………………』

『………知りよう…無い……。楽郎…運……………んだろ』

『斎賀さ……彼女………読モ……?………ラック強者……程がある……』

 

 ぽつぽつと断片的に聞こえてくるが、なんか俺と玲さんの接点を探っているのだろうか。正直、玲さんとの巡り合わせは岩巻さんの後押しがかなり大きいからなぁ…。お前らもクソゲーをやってみれば何かわかるかもしれないぜ?『便秘』に来ないか?ボコボコにしてやる。

 

 何らかの結論が出たのか、連中が戻ってきた。

 

「とりあえずは信じてやろう。夜道には気を付けることだな」

「殺意ダダ漏れじゃねえか」

 

 そんなんじゃ天誅してくださいと言ってるようなもの…多分伝わらないから胸に閉まっとこう。伝わったらそれはそれで困るし。

 

「な、なぁ…陽務、だっけ?」

 

 雑ピ以外から声がかかる。見覚えが無いな。去年は別のクラスだったか?

 

「俺は去年、斎賀さんと同じクラスだった。気にはなってた。美人だもんな。だからって、陽務に別に思うところはないんだ。告白するほどの好意も勇気も無かったし。だけど、これだけは聞かせてほしい」

「前フリで質問の内容分かったわ。それを聞いて正直に答える奴いたら正気じゃないぞ」

 

 

「………斎賀さんと……どこまで行った?」

 

 

 こ、こいつ、強行しやがった!質問した男子生徒と俺以外が席を立ち、そいつに詰め寄る。

 

『流石にそれは聞いたらダメだろ!』

『そうだそうだ!』

『デリカシー足りてねえぞ!』

『で、でもよお!お前らだって気になるだろ!?ここに来てる時点でノーとは言わせねーぞ!』

 

『『『『………』』』』

 

 猿どもめ。さてどーする?さっきも言ったがバカ正直に答えてやる義理はない。人を本気で騙すなら最低でも――

 

『嘘っぽい嘘と、嘘っぽい真実と、真実っぽい嘘を用意する』

 

 だったな。覚えてるぜペンシルゴン。そうだな…よし。目の前で軽い取っ組み合いが勃発してるが、構わず口を開く。

 

「大したことないから言うけど、俺と玲さんの間にそーゆーのはねーよ。俺達は清いお付き合いを心掛けてるんでな」

「いやそれは嘘だろ」

「楽郎、お前の口に綺麗事なんて似合わないぞ?」

 

 はっ倒すぞ。

 

「斎賀さんとデートして、何とも思わずにいられるのは無理だろ」

「玲さんを物理的にどうこうしようって方がよっぽど無理だ。玲さんは腕っぷしが滅茶苦茶強い。下手に襲いかかってみろ。腕の関節外された上に骨砕かれるぞ」

「えっ……そんなに?」

「確か前にSNSに上がってた動画でも、ナンパ野郎の肩外してたような…」

 

 そうそう。これについては疑う余地は無い。少なくともあの動画を見た奴にとっては周知の事実だからな。骨砕くは盛ったが。…いやでも出来そうだな。

 

「つー訳だ。第一、付き合って三ヶ月目なんて、まだまだ相手の人となりを理解しようとしてる段階だからな、そういうのはナシだナシ」

「…そんなもんなのか?」

「なんか雑誌で見たことある気がする。一般的にはそうらしいぞ」

「そうか…………」

 

 第三者からの援護射撃で、質問をした輩は鉾を収めたようだ。よしよし乗り切ったな。

 

 

「こんなところか。もう聞くことはないか?………無いな?これにて詰問は終了とする!――さて楽郎」

 

 軽く締めくくり雑ピが近づいてくる。お?やるか??

 

「おめでとう」

「…お?」

「正直、友達に彼女が出来たの初めてだから、うまく言葉が出てこないけどさ…祝いたいって気持ちは本当なんだよ。だからまあ、おめでとう。」

 

『良かったな陽務!』

『幸せになるんだぞ!』

『斎賀さん泣かせたら許さねえからな!』

『お前は何様だよ』

 

 ん~~、素直に祝福されると少しむずがゆい。しかしまぁ、悪い気はしないな。いつの間にか外されていた拘束具(俺の上着)を抱えて立ち上がる。

 

「今後どうなるかはわからんが、玲さんを悲しませないように努力するつもりだ。それはそうと―――いい雰囲気にしとけば俺が仕返ししないとでも?」

『『『『頼む!こいつで勘弁してくれ!!』』』』

「え!?俺!?」

 

 美しいまでの心変わりの早さ。満場一致でスケープゴートにされた雑ピへの一抹の憐憫はあるが、それはそれ、これはこれだ。『やられる前にやり返せ。やられたら手酷くやり返せ』が鯖癌及び幕末流であるからして、こうも好き勝手されてすごすご引き下がるなんてとてもとても。そうは問屋が卸さないぞ。

 

 

「よろしい 「よろしくねぇ!」 これより黄昏ティアー先生のポエム朗読会を始める!」

『『『『ウェーイ!』』』』

「ンアアアアァアァァア゛ア゛ア゛ア゛!!!!」

 

 男子生徒達に拘束され、人間の擬態が暴かれた化け物みたいな悲鳴を上げる雑ピをよそに、俺は端末を操作し始める―――!

 

……

…………

 

 あくは ほろびた!




書き方の癖で別名義バレする小説家は実在するので、何もおかしいことはありませんことよ?(一次創作者の方向を見ながら)

後これはどうでもいいことですが、サンラクサンの発言はちゃーんとペンシルゴンの言葉の通りです。


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