ドラゴンボール()   作:yosui

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スラスラスラ〜っと


色づいた景色、動き出した時間

 気の感知の修行を始めて3ヶ月経った頃。孫悟天は地球に居る家族の気を感知しようとしたことがあった。母はともかく、兄や父の気ならばこの遠い遠い星からでも感知出来るのではないかと思ったからだ。しかし悟天の予想とは裏腹に、父や兄どころか師匠であるピッコロやベジータの気すら感じることができなかった。だがこの時の悟天は、自身の気の感知がまだまだだからだと思って気にする事はなかった。

 

 次に試したのはいよいよこのヤードラット星に来てから半年が経とうとしていた頃、もう殆ど瞬間移動をマスターしたと言っても良い頃だった。半年前から格段に気の感知能力が上がって自信を付けていた悟天は、早速地球の皆んなの気を感知しようと目を閉じて集中した。すると流石に何年も経って多少は気の性質が変わっていたが、兄である悟飯の気を感知することができたのだ。悟天はこれに舞い上がった。自分の成長を感じられた時ほど嬉しい事はない。

 

 しかし喜んでばかりもいられなかった。悟飯の気は感じられた、では他の皆んなはどうか? 父は? ピッコロは? ベジータは? 誰一人として感じない。その代わりに自分が知らない大きな気がもう一つだけぽつんと感じられるのだ。一体どういう事なのか。気を消した修行を延々とやっているのだろうか。そんなはずはない。少なくともベジータは毎日一度は自身の最大の力を出して修行するような人だったはずだ。

 

 悟天の背中に嫌な汗が流れた。

 

 残り数日の修行の間、悟天は毎日地球の皆んなの気を感知しようとしていた。だが相変わらず悟飯ともう一人以外に大きな気は感じられない。

 そしていよいよヤードラット星に来て半年が経ったこの日、彼は地球に帰ることを決めた。瞬間移動は完璧だと免許皆伝を言い渡されたからだ。

 

「お世話になりました」

「またいつでもくると良いよ」

「はい! みなさんお元気で!」

 

 乗ってきた宇宙船をホイポイカプセルに戻し、ヤードラット星人独特の衣装を身に纏って、その懐にカプセルを仕舞う。後は地球に居る悟飯の気を頼りに瞬間移動するだけだ。

 中指と人差し指を立て、額に当てて気の感知に集中する。すると、いつも感じている悟飯の気がなんだか小さく感じられた。と言うよりも段々と小さくなっていっている。まさか戦っているのか? そう考えていると、悟飯の気が急に膨れ上がった。恐らく気功波の類を撃ったのだろう。膨れ上がった気が急速に小さくなっていく。これ以上小さくなるとまずい。

 

「それでは皆さん、ありがとうございました!」

 

 次の瞬間、悟天の姿はヤードラット星から消え去った。

 

 

 目の前にエネルギー弾が迫っている。急な超展開に驚きつつも瞬時にスーパーサイヤ人になった孫悟天は、そのエネルギー弾を弾き飛ばした。悟飯の近くに瞬間移動できたと思ったのだが、違う場所に来てしまったのだろうか。いや、微かだが後ろから悟飯の気を感じる。つまり今目の前にいる奴らを悟飯はさっきの気功波で仕留めきれなかったと言うことだ。

 

 悟天はキッと目の前にいる二人組を睨みつけた。本来なら戦うことを想定していなかった人造人間17号と18号を。

 

 思っても見なかった光景がそこにはあった。町は瓦礫の山、ビルは崩れ、そこかしこで炎が上がっている。

 

「お前達がこれをやったのか?」

「そうだ。ところでお前は誰だ? せっかく孫悟飯を殺すところなんだ、邪魔しないでくれよ」

「嫌だ、と言ったら?」

 

 17号は肩をすくめ、右手を突き出した。

 

「お前も殺すだけだ」

 

 17号の手から無数のエネルギー弾が発射される。が、孫悟天は飛んできたそれらを流れるような動作で全て後方に弾いた。

 

「へー、やるな。お前」

「ちょっと17号。こいつの顔!」

「ん? あー、お前どこかで見たと思ったら、孫悟空か!」

 

 孫悟空という名前に後ろの悟飯が反応する。

 

「お、お父さん?」

 

 悟飯がもう少し状態が良ければ気付いただろうが、今はあまり目も見えてないらしい。そこまで弱っていたとは、と思いながらも否定の言葉を放つ悟天。

 

「残念だが俺は孫悟空じゃない。孫悟空の息子で、ここにいる孫悟飯の弟、孫悟天だ」

「息子? そうか、本人じゃなかったのか。そう言えば何年か前に死んだって聞いたな」

「そう言えばそうだったね。まあどっちにしろ全員殺すんだから問題ないよ」

 

 そう言っていやらしい笑みを見せる18号に対して、悟天は当たり前のようにこう言い放つ。

 

「無駄だ。お前らでは俺に勝つ事はできない」

「へー、言うじゃないか!」

 

 落ち着いた声でお前らでは勝てないと言う悟天にイラついたのか、18号が一息で距離を詰めてパンチを繰り出してきた。悟天は顔を少しずらしてそのパンチを避けると、18号の腹部を左手で薙ぎ払う。

 

「がっっ!?」

「18号!」

 

 あまりにも簡単にあしらわれた事で流石に焦ったのか、17号がいつもの余裕の態度を崩して18号に駆け寄っていった。

 悟天はここで17号と18号を倒そうと思えば簡単に倒すことができた。だが今はそれよりも先にする事があった、後ろにいる悟飯のことだ。何故だかわからないがさっきから気の減少が止まらない。このままだと死んでしまうのではないかと思うほどだ。

 

 17号と18号が離れている今の間に、悟天はくるりと後ろを振り向いて悟飯の体に手を当てて気を送る。これでひとまずは大丈夫だとは思うが安心はできない。悟天はついにうつ伏せで気絶したようになってしまった悟飯を肩に抱え、右手の指を額に当てて気を探る。とても、とても懐かしい気、自分たち兄弟の母の気を。

 

 

 そろそろ秋になろうかという頃、パオズ山には涼しげなそよ風が吹き、穏やかな時間が流れていた。このパオズ山のとある場所に孫家の家はひっそりと立っている。かつては賑やかだったこの家も、悟天が居なくなり、悟空が病死し、その後は悟飯さえも家を飛び出した事ですっかり静かになってしまった。そんな中、孫悟空の妻で悟飯と悟天の母であるチチは、彼女の父親である牛魔王の手を借りながらひっそりと生活していた。

 

「チチ、今日はお前が食べやすいようにスープを作っただ。ちょっとでいいから食べるだ」

「おっとう。ありがとうだ。だどもオラ、今日も食欲がねぇだよ」

「そんなこと言っとったらどんどん弱っちまうだ。せめてスープだけでも飲めねぇか?」

「なあ、おっとう。悟天ちゃんが居なくなって、悟空さも死んじまって、悟飯ちゃんももう何年も帰ってこねぇだ。もしかしたら悟飯ちゃんももうあの人造人間どもにやられちまってるかもしれねぇ。そしたらオラは、オラはもう何もねぇだ。だったらオラももう悟空さのところに……」

「ダメだ! 悟飯ちゃんはちゃーんと生きて帰ってくる! それを信じて待っててやるのが母親だべ! だから悟飯ちゃんが帰ってくるまで、気をしっかりもつだよ。チチ!」

 

 牛魔王のその言葉に薄く微笑みを浮かべはしたものの、チチからの返事はない。同年代の女性と比べてもすっかり老け込んでしまったその顔は、かつての快活さではなく儚さを感じるようになっていた。

 

 牛魔王の説得によりなんとか一口二口スープを飲んだチチ。そのチチを寝室へと送り、牛魔王は台所で後片付けをしていた。ガチャガチャとお皿を洗いながら先程のチチの様子を考える牛魔王。自分がずっとチチについててやれるわけじゃない、それにあの状態では自分より先になんてことも十分ありえた。もうチチをなんとかするには悟飯に帰ってきてもらうしかない。

 

 数年前に買った車で今度悟飯を探しに行こう。距離的に近くまでしか行けないが、それでも探さないよりはいい。そう考えている時だった。不意に玄関の扉がノックされたのだ。こんな山奥に来客とは珍しいどころではない。訪ねて来るものが皆死んでしまった今では、それこそ武天老師か悟飯ぐらいのものだ。

 牛魔王は歳をとって重くなってきた腰を上げて玄関へと向かい、扉を開けた。

 

 

 

「チチー!! チチー!」

 

 おっとうの声が聞こえる。さっき玄関の扉がノックされた音が聞こえたので、恐らく亀仙人様が来られたのだろう。亀仙人様は今では数少ない昔馴染みだ、体が弱っているとは言え一眼だけでも挨拶をしておきたかった。ゆっくりと起き上がり、玄関へと向かっていく。逆光でよく見えないが、おっとうの大きな背中がどことなく嬉しそうだった。

 

「チチ! チチ! ほら誰がきたと思う!」

「おっとう、声が大きいべ。亀仙人様ならこの前も来てくれたでねぇか」

「違う違う! 武天老師様じゃないべ、よく見てみろ!」

 

 ゆっくり、ゆっくり近づいて、おっとうの隣に来た時、誰が来たのかがようやくわかった。

 

「ご、悟空さ?」

「あー、皆んなそう言うんだもんなぁ。違うよお母さん」

 

 お母さん。その呼び方に、過去の思い出が一気にフラッシュバックする。悟飯と一緒に生まれてきて、悟空にそっくりだった次男の思い出が。

 

「もしかして……悟天ちゃんか?」

「アタリ! ただいま母さん、帰ってきたよ!」

「うぅ、悟天ちゃん、悟天ちゃーん!」

 

 孫悟天が帰ってきた。それだけでチチの見ていた灰色の景色は鮮やかに色づき、止まっていた孫家の時間もまた動き出したのであった。

 




牛魔王の口調むず過ぎる。

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