ドラゴンボール()   作:yosui

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兄、驚愕


強すぎる弟

 孫悟飯は見覚えのある懐かしい天井を見ながらあの時何があったのかを思い出していた。

 自分が2人の人造人間に殺されそうになったあの時、放たれたエネルギー弾と自分の間に何者かが割り込んできてエネルギー弾を弾き飛ばした。その人物は人造人間達の方を向いていたので顔を見る事が出来なかったが、あの服装はよく覚えている。

 

「あれは昔お父さんが地球にやってきたフリーザ達を倒した時に着ていた服だ。確かお父さんが瞬間移動を習ったと言うヤードラット星の服だったか」

 

 あの時、その衣装と髪型でお父さんが駆けつけてくれたのだと一瞬思ったが、そんなはずはない。何故ならお父さんはずいぶん昔に自分の目の前で心臓病で苦しみながら生き絶えたからだ。ではいったい誰なのか。いくら考えても、このベッドの上では答えが出そうになかった。

 

 さっきも言ったが、この天井には見覚えがある。それもそのはずで、子供の頃は毎日見ていた実家の自分の部屋のベッドから見える天井だからだ。誰かがここに運んでくれたとすれば、やはりあの時助けてくれた人物だろうか。もしかしたらリビングに行けばまだ居るかもしれない。

 痛む体を動かして、悟飯はゆっくりとリビングに向かう。時折痛みに顔が歪む悟飯だったが、何故だかどことなく嬉しそうな表情をしていた。

 

 久しぶりの実家、母にはものすごく心配をかけてしまっている。会ったら何と謝ろうかと頭の中で考えながら歩いていると、すぐにリビングまで着いてしまった。ブルマの家のように大きいわけじゃないので、ゆっくり歩いてもすぐに着くのは当たり前だった。そこで悟飯は違和感に気づく。父が死んでしまってから長らく感じていなかった賑やかな雰囲気をリビングの方から感じるのだ。一体何が起きているのか、悟飯は恐る恐るリビングへと入っていった。

 

「ははは! そったら事があっただか!」

「そうなんだよ! お金がないからって、簡単にあんなの引き受けるんじゃなかった。あの後自分の体何回洗っても臭いが取れなかったもん!」

 

 悟天がこの家に帰ってきてから1時間。積もりに積もった話しは尽きる事はなく、リビングでの談笑は続いていた。

 玄関で会った時の母の生気のなかった顔も、悟天が帰ってきて食欲が出てきたのか、牛魔王が作り置きしていた料理を食べ尽くすほどに回復し、すっかり良くなっている。まだまだ一回の食事程度では十分な栄養が足りているわけではないが、それでも今では生気に満ち満ちていた。

 

 この1時間の間悟天は悟空が死んでしまったことや、クリリンやヤムチャ、ピッコロ達までやられてしまったことを母から直接聞いていた。正直、気を感じられないことで分かってはいたのだが、やはりこうやって聞かされると来るものがある。人造人間にDr.ゲロ、それらを語る母の目には恐怖が浮かんでいるのも分かった。あの強い母が恐怖する、それ程までに人造人間の脅威は長くそして残虐だったと言うことだ。

 ひとまず今後のことは悟飯が起きて来るのを待ってそれからと言うことになり、その後は宇宙でのくだらない冒険話に花を咲かせた。そして1時間が経ち、悟飯がリビングへと入って来る。

 

「よう、悟飯。起きたみたいだな」

「あ、え? も、もしかして悟天、か?」

「そうだよ。これだけ父さんに似てて髪型もそっくりな子供なんて、僕しかいないだろ?」

「ご、悟天! 生きてたんだな、良かった……。あれ? でも悟天と言うにはちょっと若すぎるんじゃないか? 俺と同い年のはずだろう?」

「うーん、そこんところは僕にもよくわからないんだよ。まあ、宇宙は不思議がいっぱいって事で」

「えぇ、そう言うもんなのか?」

 

 余りにも説明不足、でも確かに宇宙は謎が多い。最近では地球で生き残るのに精一杯で、誰も宇宙のことなど気にしている余裕が無いからか、宇宙に関する研究は全く進んでいなかった。まあそれでも悟天に起きた現象は解明されないんじゃ無いかと思うが。

 

 悟飯が起きて来たことで早速今後の話し合いが始まった。まず最初に出たのはやはり人造人間の事だ。悟飯を助けた時、悟天は人造人間たちの攻撃を軽く弾き飛ばしていた。もしかしたら悟天ならあの人造人間たちを二人同時に相手しても倒せるのでは無いか、そう思った悟飯が悟天にどうなのかと聞くと、悟天はあっさりと倒せると言い放ってしまった。

 

「ほ、本当にあの人造人間たちを倒せるって言うのか?」

「あの時のパワー程度しかないなら苦戦もしないと思うけどね。なんならいっちょ戦ってみるか?」

「ダメだべ! 悟飯ちゃんはまだ怪我してんだぞ。戦いは怪我が治ってからだ!」

「あっとそうだった。うーん、それじゃあ僕が外でパワーを上げてくから、それ見て判断してくれるか?」

「あ、ああ、分かった」

 

 自信満々という感じでもなく極々自然体で倒せて当たり前のような態度の悟天に、悟飯は人造人間の強さを知らないからだとは言えなかった。短いとは言え悟天も奴らと戦っている。達人なら力量差を測るのにはそれで十分だからだ。

 

 皆んなで外に出て、悟天だけが広い場所へと向かう。洗濯物が秋の風に揺れるのを横目に、いよいよ悟天のパワーが上がり始めた。

 

「まずはこれだな。はっ!」

 

 悟天はまず悟空や悟飯もなることが出来るスーパーサイヤ人へと変身した。戦闘力で言えば50倍の上昇、悟飯はこの状態でも人造人間たちに勝てなかった。しかし、悟飯は悟天のこの変身で驚くことになる。明らかに自分の超化時よりもパワーの上昇が大きかったのだ。おまけに悟天はスーパーサイヤ人時特有の気の急激な減少も起きていないように見える。一体どうなっているのか。

 

「ご、悟天。お前その状態で何ともないのか?」

「ん? ああ、これか。これは訓練してこうなったんだ。毎日毎日どんな時もずっとスーパーサイヤ人のまま生活して身体に慣らしたんだ」

「なっ!?」

 

 悟飯にとってこの話はまさに寝耳に水。そんな事は全く考えもしなかった。パワーを上げることばかりを考え、感情の昂ぶりや気の減少についてはすっかり後回しにして忘れてしまっていた。短期決戦で倒すことしか考えていなかったのだ。

 

 悟天のパワーはこの状態でももう十分人造人間を倒せそうなまでに高まっていた。これで自分も戦いに参戦すれば確実に倒すことが出来るだろう。

 悟飯は自分やかつての父すらも超えて強くなった弟を見て少しの寂しさを感じたが、それよりも嬉しい気持ちの方が大きかったのかその顔には数年ぶりの穏やかな笑顔が浮かんでいた。

 

「よし、じゃあ次行ってみっか!」

「え?」

「はぁーっ!!! はあぁあっっっ!!!!!」

 

 バチバチと体の周りに走る青白いスパーク。スーパーサイヤ人時の2倍、通常時の100倍のパワーを持ったその姿に、孫悟飯は絶句した。自分やお父さんを超えたどころじゃない。強過ぎだろ悟天! と。

 

 一つの物語が終わり、新しい物語が始まろうとしている。幕引きの時は近い。




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