深夜0時頃。
とある立体駐車場に茶髪の眼鏡をかけた黒スーツの男がスナイパーライフルを構えてとある男を見る。
軍服を肩に羽織った白髪の男、『ゲラーシー・アリスタルフ』だ。
「…。」
男は何も言わず、頭に照準を合わせると、静かに引き金を引く。
しかし、その弾丸は彼の頭蓋に穴を開けることはなく、突如現れた氷壁によって防がれる。
「…そう簡単には死んでくれないか。」
男はスナイパーライフルを下ろすと、縁から身を乗り出し、飛び降りる。
「アーチャー、着地。」
男がそう言うと、霊体化していたブロンドヘアを持つ大柄の男、アーチャーが彼のマスターを抱え、地面に降り立つ。
「若造、スナイパーライフルで儂を仕留められると思ったのか?
ガハハハ!!甘い、甘いわ!!」
ゲラーシーは杖を地面にドン、と叩きつける。
茶髪の男は何もせず、それを眺め、かけている眼鏡を指で押し上げる。
「…殺れるとは思っていなかったさ。
ゲラーシー・アリスタルフ。ロシアの赤き熊。
ただ力量を測っただけだ。
それで、まさか単身で歩いたわけがないだろう?
バーサーカーはどこだ?」
眼鏡の奥から覗く鋭い眼光はゲラーシーをしっかりと見据える。
「ガハハ、いい目をしとる。
良いだろう!!来い、バーサーカー!!」
ゲラーシーがそう叫ぶと、彼の隣に2mを越える腰に布を巻いた長身の大柄な男が現れた。
「◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎___!!」
バーサーカーはアーチャーとそのマスターに向かって咆哮する。
「…これは強敵になりそうだ。
僕はギオーネ・ロベルト。
しがない始末屋だ。」
服の中からサブマシンガンを取り出すと男、ロベルトはゲラーシーへその銃口を向ける。
「良い殺気だ、同士よ!!
改めて名乗らせてもらおう!!
儂は『ロシア機密魔術作戦連隊』最高司令官ゲラーシー・アリスタルフ!!
相手になろう、若造!!」
ここまで言い切ると、彼はすぅ、と息を吸う。
「
大声でそう叫ぶと、横で控えていたバーサーカーの目が赤く光り、答えるかのように再び咆哮すると、手に棍棒を握り、アーチャーの方へ向かっていく。
アーチャーは後ろに大きく跳躍すると、出現させた弓を引く。
放たれた矢はバーサーカーに刺さることなく、棍棒で叩き落とされる。
「やはり王の弓は弱い。」
アーチャーは持っていた弓を投げ、手に西洋剣と盾を出現させ、バーサーカーに斬りかかる。
バーサーカーはそれを棍棒で受ける。
「ほう、やるじゃないか。
儂のバーサーカーの攻撃を受けてなお無事とは。」
氷壁を作り出しているゲラーシーは2人の戦いを眺める。
「…アーチャーは他の連中に比べてしまえばはっきり言って弱い。
…いや、今の所はアサシンに比べれば強いか。
まぁでも、それを奴はある理由でカバーしている。
ここがノルウェーである限り、アーチャーが負けることは無い。」
「知名度補正って奴だな。」
氷壁の向こう側からアーチャーとバーサーカーの戦いを眺めるゲラーシー。
そんな彼の足元に手榴弾が転がる。
「
まさか聖杯戦争でパイナップルを見ることになるとは…!!」
その言葉と共に手榴弾は炸裂し、黒煙が上がる。
「僕はとある魔術師に惹かれてこの世界に入ったんだ。
これでも故郷のローマでは有名なんだ。
始末屋のロベルトってね。」
そう言う彼の目には眼鏡がかけられておらず、赤く光っていた。
「…コホッ、コホッ。
老人を敬え、このバカもんが…。」
右肩を負傷したのか、血を吐きながらだらんと垂れている右腕を杖を持った左手で抑えるゲラーシー。
その杖からは盾のような氷壁が展開されている。
「…しかしその目、魔眼か…!!」
その場から1歩も動けないのか、ゲラーシーの足や腕がガクガクとしている。
絶体絶命の状況だが、彼は楽しそうにしていた。
「…ほう、僕の魔眼を受けてもなおまだ無駄口を叩けるとは。
さすがロシアの赤熊だな。」
ロベルトはそう呟くと、目を抑える。
「ガハハ、儂はロシアの広大な大地で育った大熊じゃからな!!
この程度の魔眼……!!」
辺りに冷たい風が吹く。
その冷風は一気に-35度にもなり、辺りのものを凍え上がらせる。
「どうじゃ!儂の魔術は風と氷!!
シベリアの如きこの冷風は甘い環境で育ってきた貴様程度では耐えれまい!
あまりの寒さにロベルトは地面に膝をつき、体を抱える。
盾を展開していた杖を前に出し、氷柱のようなものをその先端に出現させる。
(無理だ…!!
制御出来ない、寒すぎる…!!)
顔を上げ、ゲラーシーの方を見ようとするが、瞬きする間に瞼が凍り、目が開けられなくなる。
目を閉じると、ダン、と何かが放たれる音がし、何かにぶつかる音が後ろでし、寒さが収まる。
(…?
何が起こった…?)
目を辛うじて開き、後ろを見れば黒い軍服を着た男が黒い光に纏われて消えていった。
「…で、これはお前さんのツレか?
そうは見えんかったの。お前さんを殺そうとしていたからな。」
ゲラーシーは前に向けていた杖を地面につき、左手で体重を支える。
「あの軍服には見覚えしかないな。
アレは我らの親世代が勇敢に戦った第二次世界大戦に敗北したヤツらの服に見えるな。
なんと不遇な奴らだろうか。ロシアに2度負けるなんてな。」
彼はそう言ってチラリとバーサーカーの方を見る。
バーサーカーに群がっていた3人ほど黒い軍服の男が向かっていたが、アーチャーとバーサーカーの手によってなぎ払われていた。
「奴らは絶対に勝たせては行けない相手だ。ロシアの赤熊。
アサシン、真名『ハインリヒ・ヒムラー』。
僕の使い魔を通して夕方頃ランサーとぶつかったのが確認されている。そこでランサーのマスターはアサシンの真名を割り出した。
…それで、どうする?戦いを続けるか?」
ツゥ、とロベルトの目から二筋の赤い液体が垂れる。
「…どうやら魔眼を完全に制御しきれていないようじゃな。
いいだろう。トドメを刺したいところだが、今日はこの辺りにしておこう。
バーサーカー!!帰るぞ。」
そういったゲラーシーの隣にバーサーカーがいつの間にか立つ。
その姿は膝に矢を受けており、更に腹には大きな切り傷があった。
「ガハハ、派手にやられたようじゃな。
霊体化して休むといい。」
バーサーカーが消えると、ゲラーシーも杖を付いてゆっくりと歩いていく。
「…アーチャー、無事か?」
血が垂れる目に眼鏡をかけると、アーチャーの方へ振り向き、声をかける。
「あぁ、マスター。
だが背中にいい一撃を貰っちまった。正直このまま続けていたらヤバかった。」
背中をさすり、その男はロベルトの隣に立つ。
「…しかしマスター。
アサシン『ハインリヒ・ヒムラー』はそんなにも倒さないといけない人物なのか?
見たところただの貧弱そうなオッサンに見えたが。」
アーチャーは不思議そうな表情を浮かべる。
そんな彼にロベルトは頷き
「恐らくだがアサシンはまだ切り札を残している。
…だってアイツ単体では確かに弱すぎるし。
奴はもっと強力な師団を動かせる力があった。
ハイドリヒの姿も確認されている。ただの歩兵しか持ってない訳が無い。」
アサシンの消えた方を険しそうに1度見ると、踵を返しどこかへ歩いていく。
「僕達も帰るぞ、アーチャー。
アサシンを倒してあの赤熊へのリベンジをするための作戦会議を拠点でみっちり語り合おう。」
アーチャーは1度困った顔をすると
「俺は怪我人だぞ?」
とため息混じりに漏らし、霊体化する。
ここにひとつの戦いが静かに終わる。
___しかしまた、別の場所では戦闘による大きな混乱が起きていることを彼らはまだ知らない。
これは聖杯戦争第1夜目に起きた戦いのひとつに過ぎないのだ。
ここでアーチャーvsバーサーカーが起こりました。
バーサーカーは喋れるタイプじゃない『The・バーサーカー』って感じのバーサーカーです。
さて、彼らの戦いは一旦これで終わりですが、これは1夜目に起きた戦いのひとつに過ぎません。
別の場所ではどこで、誰がぶつかったのでしょうか?
お楽しみに…。