追放大聖女、ざまぁしてたら日本に呼ばれた件   作:月城 友麻

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2-9. 公爵の街、ダギュラ

「こんな事態になったのは君たち王族の問題だ」

 ジェイドはアルシェに厳しい声で言う。

 アルシェは驚いて顔を上げ、ジェイドを見る。

「そ、そうかもしれません……」

 アルシェはうなだれた。

「ジェイド、彼はまだ十四歳よ。責任は無いわ」

 ユリアはアルシェをかばう。

 そんなユリアをジェイドは少し不機嫌そうに見つめた。

「ユリア、いいんだ……。王族……というのはそれだけ責任が……あるんだ」

 アルシェはうなだれながら絞り出すように言う。

「これからどうするんだ?」

 ジェイドは淡々と聞く。

「父や兄……主要な王族は全員……処刑されてしまいました。僕が立て直すしかありません……。うっうっう……」

 アルシェはそう言ってうなだれ、ポトポトと涙を落とす。

 

「アルシェ……」

 ユリアはアルシェを引き寄せ、優しくハグをする。

 ジェイドは何かを言おうとして……、目をつぶるとため息をついた。

 

        ◇

 

 今は亡き国王の執務室に移動すると、善後策を話し合う。ポイントは二つ、内政をどう立て直すかと公爵を含めた外交をどうするかだった。内政はアルシェが王位を継承したことを国民に広く周知し、生き残った幹部で新たな体制を作り回していくしかない。これは大変だがそれでも作業の話だ。

 問題は外交、これは喫緊の課題だ。公爵の影響を排除をしなくてはならないが、公爵と全面戦争なんてしたらまた外国に狙われてしまう。あくまでも戦争をせずに公爵家をお取りつぶしにしないとならない。しかし、どうやって……。

 

 アルシェはジェイドに頭を下げて言った。

「申し訳ありません、僕に力を貸してくれませんか?」

 ジェイドは不機嫌そうに答える。

「お前たちはユリアを傷つけた。気軽に味方などできん」

 アルシェはうつむき、ギュッとこぶしを握ると、ジェイドに土下座して、

「それについては申し開きもありません。でも、ユリアを陥れたのは公爵です。公爵を倒すのだけ、ご協力いただけませんか? なにとぞ……」

 と、大きな声で頼んだ。

 ジェイドは返答に詰まる。仮にも一国の王が額を床に付けている。その意味は重いのだ。大きく息をつき……、そして、ユリアの方を向く。

 ユリアは悩む。もちろん、公爵は倒さねばならない。でも、それはジェイドとは関係ない話なのだ。ユリアが頼めば力は貸してくれるだろうが、それでいいのだろうか?

「ジェイド……。私はどうしたらいいの……?」

 ユリアも答えが出せずにジェイドの袖をつまんで言った。

 ジェイドはしばらく思案し、毅然とした態度で言う。

「やはりダメだ。一緒に家に帰ろう。人間界の争いに首など突っ込んじゃダメだ」

「えっ!?」

 一瞬驚いたユリアだったが、それは正論だった。

「王都解放までやったんだ。それで十分じゃないか。追放されたユリアがこれ以上助ける筋合いなんてない」

 確かにその通りである。追放された時、群衆に石を投げられたことを思い出せば、王国で大聖女として復帰する事も素直に喜べない自分がいる。もちろん、大聖女の力を人々のために使い、安心と平和をもたらしたいという思いはある。だが、それは王国の大聖女という地位とはイコールではない。国に帰属しない道だってあるのだ。

 

「ユリア! お願いだ、見捨てないでくれ!」

 アルシェは立ち上がり、ユリアの手を取って真剣な目で頼む。

 ユリアは悩んだ。アルシェは助けてあげたいが、ジェイドを巻き込むのも気が引けるし、公爵軍の兵士たちにだって家族がいるのだ。気軽に叩いていい話ではない。

 何が正解か全然見えてこなかった。

 ユリアは目をつぶり、しばらく考えると、ジェイドに聞く。

「公爵をさらってくる。これだけ……、お願いできるかな?」

「さらう……」

 ジェイドは気乗りのしない顔でしばらく考え、

「まぁ……、さらうだけなら……」

 と、嫌そうに答えた。

 

         ◇

 

 ユリアを乗せたドラゴンは澄んだ群青色の空を飛ぶ。公爵の支配する街、ダギュラが見えてきた頃にはすっかりと暗くなり、上弦の月が高く輝いていた。

「見えてきた、あそこだ」

 ジェイドが言う。

 

「あそこね……、結界……かしら?」

 ぼうっと明るく光る城郭都市の中心部にはガラスドームのような結界があり、淡く虹色に蛍光して神秘的なイルミネーションとなっていた。宮殿はそのドームの中にある。

「あのくらいなら破れるだろう」

「さすがジェイドね!」

 ユリアはジェイドのウロコのトゲにギュッとしがみつく。

 

 ジェイドは宮殿に向けて急降下しながら青白く全身を光らせ、直後、衝撃波を放った。

 衝撃波は結界を砕き、ガシャ――――ン! パリパリというガラスが割れたような音を立てながら崩壊していった。

 ジェイドはそのまま一気に綺麗に手入れされた庭園の広がる正面玄関前に着地する。

 しかし……、宮殿には明かりはなく、静まり返り、ただ、不気味に街灯だけが魔法の炎を揺らしていた。

 

 


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