追放大聖女、ざまぁしてたら日本に呼ばれた件   作:月城 友麻

34 / 68
2-13. 神様の戯れ

 ジェイドの傷は快方には向かっているものの、重傷であり、少なくとも一週間は寝たきりである。

 その間、ユリアは食事を用意したり、包帯を替えたり、身体を綺麗にしたりかいがいしく看病をした。

 公爵を捕縛した事はアルシェには伝えてあるが、ジェイドがこんな状態である以上、しばらく王都へは行けない。王国の立て直しは十四歳の新王には荷が重いとは思うが、化け物と化した公爵を見てしまったユリアには、もう政治の世界に近づく気にはなれなかった。

 

「公爵は……、なんであんな化け物になっちゃったのかな……?」

 ユリアは食後に魔法で紅茶を入れながら聞いた。

「分からない。だが、彼が使っていたのは神の力……、人間が手にできるような力ではない」

「後ろに神様がついてるってこと? 神様が私を追放させ、王国を滅ぼそうとしたってことなの?」

「そうなるが……、神様にはそんなことするメリットなんてない。公爵なんか使わなくても一人で王国なんて滅ぼせてしまうし」

「そうよね……。どういうことなのかしら……」

 ユリアは眉をひそめながらティーカップに紅茶を注ぎ、ジェイドの前に置いた。

「神様が関わっているとしたら我はもう出られない」

 ジェイドは傷口をさすりながら言う。

「そうよね……」

 アルシェを手伝ってあげたい思いもあるが、これ以上ジェイドを危険な目に遭わせるわけにはいかないのだ。

 神様の戯れに振り回される人間たち……。

 ユリアは大きくため息を漏らし、紅茶をすすりながら思案に沈んだ。

 

         ◇

 

 その晩、ユリアがベッドに入ると、ジェイドが腕枕をしてきた。

「えっ!? 傷口が開くわよ?」

 ユリアは驚く。

「このくらい大丈夫だ。いろいろありがとう」

 ジェイドはユリアの頭をなでながら言った、

 ユリアはジェイドの精悍な男の匂いに頬を赤らめながら、

「このくらい大したこと無いわ」

 と言って、スリスリと頬でジェイドを感じた。

「最初の晩に……」

 ジェイドがちょっと恥ずかしそうに切り出す。

「え?」

「もしかして、水を……飲ませてくれた?」

 ユリアはボッと顔から火が出る思いで真っ赤にして、

「ごめんなさい、あれは必死だったの!」

 そう言ってジェイドの胸に顔をうずめた。

「謝らないで……。もっとして欲しいくらいなんだから……」

 ジェイドはユリアに頬を寄せ、耳元でささやく。

「え……?」

 ユリアは恐る恐るジェイドを見る。

 すると、ジェイドは優しくユリアの頬にキスをした。

 唇の温かな感触にユリアは少しボーっとして……、そして、吸い寄せられるようにジェイドの唇を求めた。

 ぎこちなく唇を重ねるユリアをジェイドは優しく受け入れる。しばらく二人はお互いの想いを確かめるように舌を絡めた。

 

 想いが高まったユリアはついジェイドを抱きしめようと、もう片方の腕に触れてしまう。

 うっ!

 ジェイドが痛そうな声をあげて固まる。

「あっ! ごめんなさい! ごめんなさい!」

 ユリアは慌てて離れた。

「だ、大丈夫……」

 ジェイドは美しい顔を歪めながら傷口を押さえる。

 ユリアはジェイドの様子を申し訳なさそうにしばらく眺め、毛布を広げるとそっとジェイドにかぶせた。

 

        ◇

 

 翌日、ユリアが食事の用意をして部屋に持ってくると、ジェイドが深刻そうな顔をしている。

 

「ど、どうしたの? 何かあった?」

 ユリアがプレートをテーブルに置きながら、引きつった笑顔で聞く。

 ジェイドは大きく息をつくと言った。

「王国で内戦だ。公爵軍が反旗を翻した」

「えっ!? 公爵はもういないのに?」

「先日のオザッカの侵攻で王国軍がかなりやられてしまったので、統制が効かないのだろう」

「ど、ど、ど、どうしよう……」

 ユリアは青くなってうつむく。また多くの人が死んでしまう。アルシェも死んでしまうかもしれない……。

「どうしようもない。人間同士の争いに首を突っ込んじゃダメだ」

「そ、そんな……」

 ユリアが行ったとして戦争なんて止められない。それは分かっているが、王都の人たちが傷つくのは何とか減らしたい。何かいい手は無いだろうか……?

「治癒だけ、ケガを直すのだけやればいいのかも?」

「ダメだ。直した兵士はまた戦いに行くし、ユリアも標的になる」

「じゃあどうしたら!?」

 ユリアは今にも泣きそうな目でジェイドを見る。

 ジェイドは目をつぶり、大きく息をつくと諭すように言う。

「祈る……しかない」

「そんなぁ!」

 ユリアはガックリとうなだれ、涙をポロポロとこぼす。

 自分の無力さ、神の理不尽さ、そんな神に踊らされる人間たちの不甲斐なさに打ちのめされ、動けなくなった。

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。