その頃、東京でも動きがあった――――。
ウェーブがかった美しい金髪を揺らし、少女「ルドヴィカ」は田町の街を歩いていた。大胆に大股で歩く、ミニスカートから延びるすらりとした生足に、すれ違う人も目を奪われている。国道十五号線を行きかうバスやタクシー、ずらりと並ぶガラス張りの高層ビル、遠くには赤い東京タワーも見える。少女は楽しそうに歩き、高級マンションの前まで来ると、まるでドラッグをキメたかのように狂気を孕んだ瞳でキャハッ! と笑ってマンションを見上げた――――。
マンションの最上階、メゾネット造りの気持ちのいいオフィスにきた少女は、会議室へと案内される。少女はずらりと並ぶ面々をチラッと見ると、フンと鼻を鳴らし、席に着く。
「ルドヴィカさん、わざわざ来てもらってすみませんね」
チェストナットブラウンの髪を揺らし、琥珀色の瞳を輝かせながら、神懸った美しさを放つ女性「ヴィーナ」が口を開いた。
「いや、全然かまわないわ」
ルドヴィカはやや反抗的な口調で答える。
「さっそくで悪いけど、これを見てくれるかしら?」
そう言ってヴィーナは会議机の上にグラフをいくつか浮かび上がらせた。
「あなたに管理を任せていた星の情報よ。戦乱だらけで人口……、多様性……、その他全ての点で急速に悪化してるの。説明をしてもらえるかしら?」
ヴィーナはポインターでグラフを指し、ルドヴィカを静かに見つめた。
「説明もくそも、見たまんまよ!」
そう言って肩をすくめる。
「では、廃棄処分に同意という事でいいかしら?」
ヴィーナは淡々と事務的に言った。
「ふん! あんたらはいつもそうよ。お高く留まって偉そうに処分をするだけ! いいご身分だこと!」
ルドヴィカは叫ぶ。
「あなたの行動記録……見たわよ。
抑制的なトーンで返すヴィーナ。
くっ!
ルドヴィカは歯をぎゅっと食いしばると、いきなり立ち上がり、腕を高く上げて、
「
と、叫んだ。
直後、窓の向こう、東京タワー上空で激烈な閃光が放たれ、東京は瞬時に鮮烈な熱線に
閃光がおさまると、白い繭のような衝撃波が広がっていき、ビルは次々と吹き飛び、東京全域を瓦礫の山へと変えていく。
「キャハッ! ざまぁみろ!」
イカれた狂気を孕んだ目で叫ぶルドヴィカ。
しかし、全てを焼き尽くす史上最強の核兵器
「どうしてみんなコレやるのかしら?」
ヴィーナはウンザリしたように肩をすくめる。
そして、腕を高く掲げると、
「
と、叫ぶ。直後、窓の外が青白い光の奔流に覆いつくされ……、やがて光が晴れるとそこには爆破前の東京が戻っていた。
「へっ!?」
唖然とするルドヴィカ。
青空に東京タワーがそびえ、道には多くの車が行きかい、爆発前と寸分たがわない東京がそこにあった。
「ご苦労様、言い残すことは?」
ヴィーナは鋭い視線でルドヴィカをにらむ。
「くっ! 化け物どもめ! グァ――――!」
ルドヴィカは怒りに任せてこぶしを会議テーブルに叩きつけ、粉々に砕いて吹き飛ばすとヴィーナに飛びかかった。
「くらえ!」
渾身のパンチがヴィーナの頬にさく裂し、ヴィーナは吹き飛ぶ。
そして、ルドヴィカはそれを追いかけると馬乗りになり、両手で次々とヴィーナを殴った。唇が切れて血が飛び散り、ゴスッ! ゴスッ! と猟奇的な鈍い音が部屋に響き続ける……。
「死ね! 死ね!」
しかし、殴りながらルドヴィカは違和感に囚われた。
なぜ誰も止めないのか……?
そして、血にまみれた殴る手を止め、恐る恐る周りを見ると、ニコニコと笑っている水色の髪の女の子「シアン」一人を残して、他には誰もいなくなっていた。
「な、何で……止めないんだ?」
ルドヴィカはけげんそうに聞く。
「だって、それただの人形だもん。きゃははは!」
シアンは楽しそうに笑った。
「に、人形!? くっ……」
ルドヴィカは血まみれとなった女性の人形を忌々しそうに見つめ、大きく息をつくと首を振った。