未完の神話 / Beyond the Ruminant   作:うみやっち

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 目が醒める。かち、かちと時計の針が音を立てている。

 のんびりしている時間はない。ネプテューヌは布団を撥ね上げながら跳び起きると、大急ぎでイストワールの元に向かった。過去は戻る方法を聞き、プルルートに伝えなければいけない。

 期待が淡く胸の内にある。性能差の話だ。神次元のイストワールに比べ、超次元の彼女はいくらかスペックが高い。何らかの解決策を見つけてくれる可能性はあるはずだ。

 

「いーすん!」

「ね、ネプテューヌさん?」

 

 普段のネプテューヌからは見られない真剣な表情を見て、イストワールが怯んだように目を見開く。

 

「ごめん、いーすん。色々説明してる時間はないから、本題だけ訊くよ。どうにかして、過去に戻る方法ってない?」

「……それは、今この状況を解決するために必要な事柄ですか?」

「うん」

 

 プラネテューヌから国民がいなくなっている、という異常事態にはイストワールも気付いている。彼女の察しの良さに感謝しながら、ネプテューヌは頷いた。

 

「三十秒程待って下さい。検索します」

 

 そう言うと、イストワールは口を噤んで目を閉じた。壁に据えられた時計の秒針が鳴り響く音が、やけに大きく感じられる。

 永遠にも思える三十秒の後、イストワールが目を開く。身構えるネプテューヌ。

 

「結論から言うと、過去に戻る事はできません」

 

 足の力が抜ける感覚。その場に崩れ落ちそうになるのを堪えながら、ネプテューヌは目の前が暗くなるような錯覚に襲われた。

 結局、このまま死に続けるしかないのだろうか。このまま国の終焉を見届ける事しかできないのだろうか。何度も、何度も、何度も……

 

「ですが」

 

 しかし、イストワールの言葉は終わっていなかった。

 

「この世界の過去にあたる次元に転送する事であれば、可能です」

「……何が違うの?」

「神次元の様子がどこか一昔前の超次元に似ているように、無数の次元の中にはこの次元の過去にあたる次元もあります。シェアさえあれば、そちらに転送することができます」

 

 とん、と足音がした。振り返る。

 

「だったら、シェアは私の物を使って下さい」

「……ネプギア」

 

 そこには、決意に満ちた瞳のネプギアがいる。

 二人からの信頼に心から感謝しながら、ネプテューヌは先に神次元へと転送してくれるように頼んだ。プルルートの事も、一緒に連れて行かなければいけない。

 イストワールは了承した。

 

「でしたら、過去にあたる次元の座標をお伝えしておきます。そちらの私には、この次元座標に転送するよう言って下さい」

「うん、分かった。ありがとう、いーすん」

「では、転送を開始します」

 

 その言葉とともに、ネプテューヌの視界がホワイトアウトする。

 

 

「ぷるるん!」

「ねぷちゃん〜! ……どうだった?」

「えっとね……」

 

 ネプテューヌは超次元のイストワールから聞いた事を、なるべくかいつまんでプルルートに話した。

 プルルートに、普段の眠そうな表情は欠片もない。お互い真剣なままに話を終えると、プルルートはすくりと立ち上がった。

 

「いーすんに、その……えっと、過去にあたる次元、だっけ〜? そこに転送してもらうようにお願いしなきゃ」

「うん。……あ、でも」

「でも?」

「シェア、足りるかな……」

 

 異なる次元を繋ぐためには、少なからずシェアがいる。超次元と同様の異常が巻き起こされた神次元に、そのためのシェアが残っているかは怪しいところだ。

 

「多分、大丈夫だと思うよ〜?」

「何で?」

「ねぷちゃんの次元で、ぎあちゃんがシェアを分けてくれたんでしょ? いーすんは頭いいし、残りのシェアをこっちに転送してくれたりしてるんじゃないかなぁ」

「あ、確かに」

 

 イストワールなら、そのくらいの機転は利かせてくれているだろう。

 扉を開ける。こちらを見とめたイストワールは、二人の慌てた様子に驚いたのかぱちくりと目を瞬かせた。

 

「ど、どうされましたか?」

「ごめん、細かい事を話してる時間はないんだ。いーすん、今なら言う座標の次元に転送してくれることって、できる?」

「でしたら、今ちょうどネプテューヌさんの次元から多量のシェアが転送されてきたところです。何のためかと思いましたが、これを使えば可能ですよ」

「おお〜、さすがおっきいーすんだねぇ」

 

 プルルートの予想通りにイストワールが行動してくれていた事に、ネプテューヌはほっと胸を撫で下ろす。

 

「じゃあ、座標を言うよ? えっと……」

 

 ネプテューヌが超次元のイストワールに教えられた数字の羅列を言い終えると、小さなイストワールはしっかりと頷いた。

 

「はい、確かにその座標にある次元を特定できました。転送するのはネプテューヌさん、プルルートさん、お二人でいいんですね?」

「うん。できる〜?」

「はい、可能です。では、転送を開始します」

 

 視界がホワイトアウトする寸前、ネプテューヌはプルルートの手をしっかりと握った。床の感触がなくなる。浮遊感が体を支配する。それでも、繋いだ手の温もりが消える事はない。

 一人ではない事に心から安堵している間にも、再び地面の感触が足裏に戻ってきた。浮遊感が一瞬強まり、ふっと消える。そろり、と目を開く。

 プラネテューヌの町並みが広がっていた。見知らぬ店や家々はあるし、今立っている通りがどこかも分からない。それでも、確かにプラネテューヌの町だった。

 

「ここが、過去にあたる次元……」

 

 辺りを見渡す。どこか薄寒い空気に、小さく体が震えた。

 

「うわぁぁぁっ!」

 

 誰かの悲鳴が聞こえた。

 ネプテューヌの脳裏に、大気が隆起するあの光景が思い浮かぶ。

 

「まさか、ここもダメなの〜……?」

 

 プルルートも同じ考えに至ったらしく、不安そうにそう呟く。ネプテューヌは、繋いだ手をしっかりと握り締めた。

 

「大丈夫、波の音は聞こえないじゃん。声がするって事は、誰かがいるって事でしょ? 行ってみようよ」

 

 無理やりに明るい声を出すと、プルルートの目元が緩んだ。こくり、と頷く。

 

「うん、ねぷちゃん」

 

 手を離し、歩き出す。

 途端、何かが砕け散るような轟音が聞こえた。それに紛れて、再び悲鳴が響き渡る。

 強い不安感に苛まれながらも、何度も聞こえる声と破壊音に導かれ、ネプテューヌとプルルートは声の元へ辿り着いた。

 砕けたアスファルトと折れた電柱の間に、赤い髪を靡かせる誰かが立っている。手にはメガホンを握っており、頬や腕の節々からは血が溢れている。それでも拳をぐっと握り締め、鋭い目つきで前を向いていた。

 

「……あなたは?」

 

 プルルートの声に気付き、彼女はくるりとこちらを向いた。たらり、と口の端から血が溢れるのを荒っぽく袖で拭う。

 訝しげにネプテューヌとプルルートの事を見つめながらも、彼女は口を開いて答えた。

 

「俺は、天王星うずめ。プラネテューヌの守護女神だ」

 


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