F.A.Girl the Classic   作:9号の球

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第3話

試験は滞りなく行われた。

よくある戦記ものでは試験中に敵が乱入してくる展開がベターであったが特にそういうイベントもなく驚くほどスムーズに進んだ。流石にそんな事があったら困るというもの。軍だって面子がある。

流石に最初から実弾射撃は行われず今回は通常の走る止まる曲がるの動作と関節可動域の試験、ブースターを使用した飛行などを行ったに過ぎなかった。

それでも慣らし運転の後に全力稼働をおこなったためか体に疲労感のようなものが残っていた。

でもそれは私の体というよりこっちの機体の方に発生しているもので、その原因を推測してみればそれは機体の損耗というものなのだろう。

短時間とはいえ全力で動かしたから負荷がかかり部品が摩耗しているのだ。

 

 

ちなみに護衛なのか同じく格納庫にいたスティレットも演習場にいつのまにか展開していた。

何をするわけでもなくじっと立っているだけだった。後で中にいる彼女の顔を拝みに行こうかななんて考えていたけれど私の試験が終わった後はそのまま基地の外に向かって飛んでいってしまった。

 

試験が終わってようやく一息。人間である頃の名残のようなものだ。

いくらこちらが機械であっても魂は疲労する。機体を元の格納庫へ戻して運用後チェックリスト。それが終わってようやく座席を離れることが出来る。大型機械の運用はチェックすることが多い。

そのため格納庫に止めてエンジンを切っても20分ほどかかる。

 

 

 

「お疲れ様。良いデータが取れた」

新たに送られてきたデータにはこの後の行動命令書が一通り圧縮ファイルとして入っていた。

アンドロイドは命令無くしては動かないということだろう。

「そんな固くなるな。それと明日は武装試験を行なって軍への納品だからな」

 

「明日?早くないですか」

 

「実戦での運用データが欲しい。特に部隊運用を考慮したものだ」

それでもこの機体はYが付く試験機。……なるほど私は軍で実戦運用してデータを回収すると…そのデータを元に量産機を製作する。そんなところか。

他のテストは同型の別機体を用意すれば事足りる。バーゼラルドが何体作られるのかはわからないけれどそれなりの数は作られるはずだろう。ましてや実戦に導入するとなれば消耗品などの交換部品も大量に作られるはず……

「なるほど、わかりました。ではこれで失礼します」

 

幸いこの後の行動指針はわかっている。この基地内限定だけれどどこになんの施設がありどこで何時までに何をしろということも全てデータとして送り込まれた。なるほど兵と機械の相性は良いとはよく言ったものだ。

 

 

 

 

 

 

 

「あれ見たか?」

 

「ええ、ばっちり」

隣にいた助手は目を丸くして歩き去るバーゼラルドを見ていた。

「音声認識なら『固くなるな』は命令と認識される。起動して4年経っているような機体なら兎も角あれはまだ数時間だ。それなのに命令ではなくただの世辞と判断した」

ここ何年も軍用アンドロイドの頭脳を作り続けていたがあのような存在は初めてだった。プログラムはあまり変えていない。学習能力だって通常と変わらないように設定した。それでいてこれだ。まさしく突然変異と言っても過言ではない。

「学習速度が早すぎます。既に受け答えは人間と大差ありません」

 

「まるで人間と接しているみたいか」

 

 

試験中もこちらの命令に受け応えるだけで無く独り言を呟いていた。

民間の第三次産業用なら元からインプットされている人格データで近いことは可能だったが軍用にそのような機能はない。ましてや独り言を呟くなど驚愕の事態である。

あの仕草は起動してからわずかの時間で覚えたということになる。

人と変わらないアンドロイド。人と機械の垣根が曖昧になる。

 

「軍への報告は?」

 

「正直にするさ。しかし面白い。あれがどこまで成長するか楽しみだ」

 

 

 

 

 

 

私達のボディの動力はこれまたUEシステム。ただし機体と違ってサイズも小柄。個数も一つだけだ。

さらにいえばこれは発電機のようなものであり基本は電気で動く。

一回の補充で最大稼働時間は200時間。

 

さらにもう一つ。食事からの補給も可能だ。

軍用アンドロイドは動力源のTクリスタルが困難となる可能性を考慮して複数の発電機関を搭載している。

私の場合太陽光発電、そしてマイクロバイオ発電装置。

バイオというが発電方法はメタンガスとかではなく食物から化学的に電子を引き出し発電する方法らしい。そのため普通の食事やそこら辺の雑草、木などでも一応の発電は可能なのだ。

まあUEシステムより劣るけれど。

 

 

というわけだから私は早速食堂に来ていた。

単純に食事を楽しみたいからだ。うんそれだけ。

食事こそ心を落ち着かせてストレスを緩和させる睡眠と並ぶ究極のリラックス機能なんだから。

機械となっても食事が可能であると言われれば早速試すしかないのだ。と思って食堂に向かったのは良かったのだが、アンドロイド用の食事を見て呆れ果てることになった。

一応機能チェックの関係でアンドロイド用の食料、正式名称バイオ発電用軍用燃料群。

固形燃料と液体燃料の組み合わせは見た目が恐ろしく残念だった。

液体燃料…飲み物は色が青色、それも食欲をそそる方ではなく光の反射で色が緑に偏光するとろみがある何かだった。

固形燃料はまだビスケット状の硬めの板なのでまあわかるのだが。

 

ややくすんだクリーム色の壁に背中を押し付けながらこの残念な見た目の食べ物?というか燃料をしげしげ眺めることになった。

ちなみにビスケットは普通だった。しかし味はしない。味覚の機能はないらしい。それでも嗅覚はあるので風味でなんとなく味の想像がつく。カロリー◯イトのチーズ味とチョコ味を混ぜたような感じだ。

飲み物は……なんだこれ冷却液か。

甘い香りが合成で付けられているらしくなんかもう冷却液のようにしか感じない。

食欲ガタ落ちだ。頭のアンテナもかなり倒れている。

アンドロイドの食事くらいうまいもんにしてくれよせめて風味!風味をどうにか……

こんなディストピア飯ネットに上げればそりゃ面白いってなるかもしれないけど普通の食事がこれだったら泣くわ。だって人間の方の食事は普通の食事なのにさ。

 

しかもものすごい視線の数。

そういえば私はついさっきロールアウトして起動したばかりの新型だったな。そりゃみんなに見られるのも普通の話か。

 

 

これは…あれだな。何人かと目があったし…とりあえずにぱー☆としておこう。

あら……何人かの屈強な男が鼻血吹いて倒れたよ。大丈夫なのかあれ?うんまあ……多分大丈夫だろう。言うほど血まみれじゃないし…

どうしてこうなった。

これをどうするのかって?いや私は悪くないし。

 

 

うん、なんか危ない感じがしてきたから帰ろ。

 

ちなみにベッドルームなんてものがあるわけもなく私の寝床は起動したドーナッツのようなCTUのような訳の分からない装置の中だった。

寝ると言うよりスリープモードになると言った方が良い。基本機械なので寝なくても良いが不要な電力消費は良くないのでスリープモードで何時間か機能をほぼ落とすそうだ。

その合間にメンテナンスや自己診断、OSのアップデートなどを行うらしい。なんだか寝ている合間に体をいじられるみたいで嫌なのだけれど命令は絶対になっているが故に逆らえない。

 

寝るというよりかそれはスイッチが切れたかのようだった。意識も同時に停止していた。それでも全ての機能が一斉に止まるわけではなかった。

そのせいか夢のようなものを見た気がした。だけれど内容はよく覚えていない。前世のものなのかそれとも現世のことなのか。

 

 

しかし起動した時には全て綺麗さっぱり忘れてしまっていた。アンドロイドも夢を見るらしい。その夢の内容を覚えていないというのは致命傷だったけれど。

 

 

 

本日は武装試験。

 

事前に武装単体での射撃試験は行っているらしいので弾が出ないとか暴発して壊れますなんて言うのは無いらしい。らしいと言うのは確率として99.9999%ありえないと言うものだから絶対ではない。

まあそこまで9が並んだらもう絶対でいい気がする。

 

 

演習場のいくつか土が盛られて小さな丘になっているところに白色の的があった。中心からサークル状の集弾観測線が描かれているのはこの世界でも変わらないらしい。

 

 

 

セグメントライフルを構える。バーゼラルドのメイン兵器。

普段は左側に装備されたスラストアーマーに隠れるようにして装着されている。

照準は視界にレイヤーを重ねるように目標の移動予測と偏差を入れたレティクルが浮かぶ。

射撃式装置のデータだ。それに合わせて照準のズレを補正し射撃。人差し指の接触通電装置から流れた電流が回路を開いた。

 

発射される弾丸は1つだけ。

反動を機体全体で受け止める。そこまで大きな反動ではなかった。これなら片手撃ちも可能だ。

 

本来のセグメントライフルは連装式で最初に対シールド弾、続いて実体弾を発射する2点バースト型のレールガンだ。

しかしこの世界はフレズヴェルクはまだ存在しない。それゆえにセグメントライフルも単初発射のレールガンとなっている。

発射速度はバッテリーの関係で毎分30秒。装填弾数は15発。基本は装弾筒付翼安定徹甲弾と多目的対戦車榴弾の二種類。

状況に応じて他の弾も装填可能となっている。

さらにアタッチメントを使用して155mm榴弾砲を装備することができる。

 

今回はその全てを搭載しているため見た目としては結局パッケージにあった通りのセグメントライフルとなっている。

 

 

 

500m離れたところあった的に穴が空いた。望遠モードで見ればちょうど真ん中から少し下に下がった位置だった。

それでも500m実際の交戦距離はもう少し長いくらいだろうか。

 

FCSの有効測定距離は1200m

これは探知した目標を補足追尾できるだけの能力が保証される距離だ。実際16mの巨人機にとってはそのくらいでの撃ち合いが普通なのだろう。実際対戦車、対歩兵戦であれば交戦距離はさらに伸びて2km前後となる。ただ、互いに高速に、立体的に動くアーキテクト戦では1kmの距離は十分長距離。実際の戦闘データはいくつか閲覧することができるが大体は500m以内というのが普通のようだ。

1km以上の距離の場合狙撃かミサイル戦となるのだとか。

実際射程15km、弾頭重量500kgの対Faミサイルというものも開発されている。

 

 

使用が終わったそれを再びアーマーに設けられたラックに戻す。

 

一応アーマーとは言うけれどこれは盾じゃない。ただのセグメントライフル用充電器

外部に露出せざるおえなかったから装甲を貼っているだけ。だからこのアーマーも腕ではなく背部ウェポンアームを使用して装備されている。ちなみにこれ自体にもブースターが付いているから機動力低下は最低限となっている。

 

ちなみにこのアーマーに装着した状態でも攻撃を行うことができる。

 

 

しかし当然こんな装備な上に外見極振りな性能のバーゼラルドは単機性能こそあれど整備性と量産性が致命的に悪い。実際昨日も格納庫では私の機体の整備に整備員が四苦八苦していた。

こんなの量産機にするつもりなのだろうか?流石に怖いんだけど…

 

しかしそんなこともお構いなく試験は続けられていく。

連射、移動しながらの射撃。飛びながらの射撃。

再び整備員泣かせなこの機体は酷使されたのだった。

それでも試験だからまだ良い。戦場では比にならない消耗をするのだから。


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