聖戦の系譜 外伝 〜湖の戦旗〜   作:FE二次創作

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第六話 過日よりの問い 前編

 新星騎士団と在地勢力軍前衛の小競り合いは、いつ果てるともなく続くようにさえ思われた。

 ノディオン城と台地南端、その間に位置する平野で、両軍はさしたる細工を仕掛けることもせずぶつかり合う。常に騎士団側が攻めかかり、豪族側がそれを迎え撃つ。徐に騎士団側が退けば、豪族側は形だけの追撃をして、潮が引くように元の配置へと戻る。十日の対陣になるが、双方に損害らしい損害も出ておらず、端から見れば遊んでいるようにしか見えないであろう。

 しかし、変化は少しずつ、それでいて着実に起こっていた。

 かつて独立派の一大拠点であった、台地南端の陣地。騎士団の攻撃を受け破却されたそこに、色も形も異なる大小様々な旗が掲げられていた。在地豪族勢の進出が始まっているのだ。

 旗の本数は日を追うごとに増えていき、それは集結した戦力の規模に比例する。独立派の侵食を受けいいように扱われていた彼らが、豊かな大穀倉地帯である台地を完全に掌握することが叶えば、アグストリアの力関係は一挙に覆るだろう。

 

 目まぐるしく変わる情勢を、対岸の火事の如く眺めている者達が、ハイライン城にいる。城に幾つもある櫓の一つに詰める男達は、諸国を渡り歩く傭兵だった。

「見ろよ。平地で引っ掻き合いをしてる間に、台地がすっかり押さえられてやがる。二週間前には考えられなかったぜ」

「あの陰険ジジイも頭が痛いだろうよ」

「違いねぇ。はは・・・」

 現在ハイライン城を領する豪族は、かねてより密かに独立派と誼を通じていた。ラサールによって在地豪族方に打ち込まれた楔であり、大量の物資と詳細な情報が取引され、これまでの膠着状況を生み出していたのだ。そして、ハイラインを始めとする"内通者"の監視と警護のため派遣されたのが、彼ら傭兵部隊である。

「しかしアグスティが負ければ俺らの飯の種はどうなる?ダラダラやり合ってくれなきゃ困るぜ、命も懸けたくねぇのに」

「心配ないさ。帝国にはジジイの分け前にあずかってる奴らが大勢いるんだ。北の方からちょっかいかければ、豪族どももこっちにかかりきり、とはいかねぇよ」

 当面の主人であるラサールの本懐を遂げさせてやろう、という意欲は彼らにはない。それを指弾したところで、傭兵に忠義を求める方が馬鹿らしい、と開き直るだろうが。

 現在のアグストリアは、傭兵にとって理想的な戦地と言えた。大陸支配を固めつつある帝国(の黒幕たる暗黒教団)は優勢であるため、金払いも待遇もよくない。さりとて反乱軍はそもそもの勝ち目が薄く、命を懸けた所で割に合わない。

 しかしアグストリアのように、拮抗した勢力同士が泥沼の戦いを繰り広げている地域であれば、安定して報酬を得ることができるのだ。大陸各地の傭兵はそのことを嗅ぎつけ、列をなして陸海路を進み、アグストリアに集っている。

 この日も常のごとく、小競り合いのまま両軍は自陣へと戻っていった。台地南端に掲げられた旗は、その本数を増やしていない。陣地周辺に展開する兵力が、一帯の収容力を超えたためだ。

 飽きたように宿舎へ戻っていく傭兵達。不機嫌な虎のように佇む男が、一人残った。神殿の柱を思わせる雄大な体躯のため、携えた大剣も片手剣であるかのように錯覚する。同僚の会話に混ざることもなく、依然無口なまま、南に視線を投げていた。

 そこにはカルムの言う、"願いを叶える腕輪"伝説が語られる砂浜があった。

 

 驚愕の声が払暁の空を震わせた。

 豪族、騎士、傭兵、ハイラインの市民(兵を収容するため都市の一区画に追いやられている)・・・出自、立場の上下を問わず、ただただ唖然としてその光景に目を奪われる。

 海岸に砦ができていた。つい昨晩まで、そこには静かな波が訪れる白い砂浜だけが広がっていた筈なのに。神か、悪魔の為せる業か。或いは夢幻の類か。

「どうした事だ、この騒ぎは?」

「ティグレさん」

 昨日、最後まで櫓に残っていた男・・・ティグレの問いに応えたのは、武具の修繕を請け負うハイラインの職人だった。現在、二人がいる城壁には多くの人間が詰めかけ、ティグレが上がってきたことにすら気づかず色めき立っている。

「それが、大変なんです。海沿いに一晩で砦ができたって・・・」

「ヴェルダンの者達か」

 ティグレは驚かない。ノディオン周辺での膠着を打開するならば、ここから上陸して背後を脅かすだろうと、大凡の見当は付けていた。とはいえ、迎撃の暇も与えぬほど早く敵が展開するとは、流石に予想の範疇を超えている。

「何か秘密はあるだろうな。だが・・・」

 そのカラクリを暴いた所で、広がる動揺を完全に抑えることは困難だろう。昨日の会話は、ハイライン周辺が戦場になることはないだろうと、城内に蔓延する油断の発露であった。それというのも、こちらの注意が台地南端に向けられ過ぎているためではないか。先だっての新星騎士団による襲撃も、その布石の一つだったのでは・・・。

 喧騒を背に受けながら、ティグレは城を抜け出して北へと向かった。進展の見えぬ小競り合いが続く方角へ。

 

「あの男、見ていたな」

 自軍に向けられる視線に勘づいていたのは、上陸の指揮を取ったロイグである。怜悧な指揮官としての側面が強い彼だが、同時に凄腕の剣士でもある。殺気や敵意を感知するのは造作もないことだった。

「見られるのも仕事の内だぜ?ほれ、東に出張った連中からの偵察だ。相当ビビってるかな」

「或いは機嫌がよいかもしれん。東においては奴らの思うように事が運んでいるし、こちらが焦って分散したとすら思っているだろう」

「台地を押さえる時間稼ぎを遂げた敵は必ずや反転する!ノディオンからそれを追撃する!戦況が大きく動くのはその時だ」

 湖上兵団がこの地に展開した目的・・・それは現在、新星騎士団と対峙する敵を西に引き戻すことにあった。戦況が膠着するのは敵の思惑通りだが、それを逆手に取って、一計を案じたのである。

「お、麗しの女騎士殿がお出ましになったか」

 上陸部隊は湖上兵団で占められているわけではなく、騎士団長ベアトリス直率の騎兵三百ほども乗り込んでいた。ちなみに、湖上兵団の幹部達も二箇所に分かれて配置に付いており、リューダ、ウェールズ、オーガスはノディオン、ロイグ、アルバン、メルヒは上陸部隊に参陣していた。

「我々も出撃準備に入ります。・・・しかし、この展開の素早さには目を見張るものがありますね」

 ハイラインの敵を動揺せしめるという勿怪の幸いを齎すほどの迅速な布陣に、ベアトリスは舌を巻いている。一晩で現れた砦の正体は、アルバンが開発、改良した折り畳み式の防壁、陣屋であった。無論その防御力は然程でもないが、敵の意表を突くことも含め、布陣までの時間稼ぎには非常に有用だ。アルバンの知識と創意が、林業の盛んなヴェルダン人の技術と結びついたが故の発明である。

 さらに言えば、敵に比してそこまで多くない兵数で、付け入る隙が無いような重厚な陣を敷いていることも、瞠目に値する。統率を保ったまま整列し、地形の高低差を巧みに利用して兵を配していることを示しているためだ。

「私ども新星騎士団も、様々な出身、立場の人間が多く集う混成軍。貴方がたからは、学ぶべきことが多くありそうね」

「光栄なことだが、こうした仕組みの大半を構想したのは、軍師殿だ。戦友だったあなたの指揮からも、多分に影響を受けているんじゃないか」

「それは・・・ふふ、お褒めの言葉に恥じぬ戦いをお見せするわ」

 ほんの僅かに面映い顔を浮かべ、ベアトリスは戦支度のために去っていった。目ざとくそれをメルヒが見つけたのは、彼が目端の利く盗賊であり、同時に女の顔色を見誤らない色男でもあるためだ。

「戦友ねぇ・・・」

 アルバンの肩にわざとらしく手を置いて語りかける様は、まるで後進に教え諭すようでもある。

「軍師殿との仲はそんなもんに留まると思うかい?お前も気づいたろ、初めてお会いした時、軍師殿に向けられてた熱視線にさ」

 ・・・内容は些か下世話であったが。

「安直だなぁ。三十路を過ぎるとすぐそういう方向に話が逸れる」

「ハイハイ、帝国生まれの坊やに大人の艶話は早かったよ」

 ノディオンに寄せていた敵が、ハイライン方面へ反転したとの報が入ってなお、メルヒの意識は軍師の過去に向けられていた。

 

 

 湖上兵団の上陸は、豪族勢にとって吉報であった。焦って誘い出されたな、と膝を打った者もいた程である。

 湖上兵団はヴェルダンから来航した外敵に他ならず、それを攻撃しなければ体面に関わるという点において、行動を掣肘する目の上の瘤とも言える存在である。それを早期に除くことが叶えば、以降の軍事行動は格段に自由度を増すというものだ。

 翌日、土煙を巻き上げながら、豪族勢は戦場に背を向けて西へと動き始める。十日間、だらだらと対陣を続けていたのが嘘のような未練のなさだ。

「やはり奴らは所定を完遂したというらしい。当初の策で仕掛ける」

 台地南端にて戦力の終結が完了したことを、ウェールズは正確に洞察していた。だからこそ豪族勢は持ち場を離れ、勇んで上陸した湖上兵団を叩きに行くのだ。

 現在、ウェールズは馬上の人となって陣列の中央にある。西へ向かう豪族勢を追撃するために編成された、騎馬だけの部隊だ。左翼はオーガス、右翼はエドアルドの率いる隊で、歩兵を主力とするヴェルダンでの戦いに慣れた彼にとっては、左右に騎馬の列が伸びている光景は久方ぶりのものであった。

 元クロスナイツであったと、彼やその部下、そしてかつての同僚が喧伝したことは一度もない。しかし噂というものは、誰の意図にも背いて広まるようであり、「かつてのクロスナイツがヴェルダンで軍閥の幹部になっている」ということは上下の知る所であった。対抗心、そして憧憬の込められた視線が突き刺さるのをウェールズは感じ取っている。自分にそれを受ける資格はないというのに。

 

 早朝、豪族勢の背後につく形で、追撃部隊は西進を開始した。彼らの殆どが駆るアグストリア駒は、大陸で最も速度に優れるとされるが、それを発揮することもなく、相手との距離を一定に保ち続けている。さらにどういう訳か、左翼が突出し右翼が遅れているため、追撃隊そのものが斜行する形となっていた。追い掛けている敵が逆撃を加えてきた際、迎え撃つためと考えれば、筋が通っている陣形ではある。

 鬨の声が台地の南端より上がり、大波となって平野に轟いた。これが豪族勢の打算であって、即ち、南端の陣地に集結した戦力を以て、追撃してくる敵に大打撃を与えんとするものである。もし出てこなければ、上陸した敵を各個に撃破したうえで、ノディオンの北側からじわじわと侵食していくつもりであったが、台地の制圧を目指す今、早急に決着がつくのは豪族勢にとって望ましいことである。

 陣地の豪族勢には二つの選択肢・・・つまり、敵の追撃隊とノディオンのいずれかを攻めるか、それを決定する権利があった。台地から滑り降りるようにして平野に躍り出た彼らは後者を選び、全体の戦況を劇的に変えようと画策した。昇りきった日は携えた得物を照らし、白銀の橋が台地とノディオンの間に架かったようにも見える。

 

 それが先頭から断ち切られ、足と勢いを止められたのはまさに突然のことであった。ノディオンよりはるか手前、西に森を見る地点での会敵ある。

 矢の驟雨が左側面より叩きつけられ、薙ぎ倒された兵は隣り合う味方まで巻き込んで陣を乱す。周期的に襲い来る矢群に狼狽しながら辛うじてその方角を見遣ると、弓兵隊が平野で陣を構えているではないか。湖上兵団の誇る、ユングヴィ・ヴェルダン混成の弓兵隊と、彼らは初めて接触することとなった。

 アグストリアでは、野戦で弓兵隊を運用する思想があまり浸透していない。平野が多いために逆撃を受けやすく、街道も整備されているため、騎兵や歩兵が交戦を始めるまでの距離、時間共に短いためだ。

 故にアグストリアでは、弓兵隊を拠点防衛を目的とする部隊と看做し、攻撃力と射程を追求してきた。ハイライン、マッキリーなどに配備されたロングアーチはその象徴の一つと言えよう(双方ともに、帝国の攻撃を受けて破壊されたが)。

 そして、ただ意表を突くに留まらず、純粋な戦術の洗練度合いについても、弓兵隊は高い水準を誇っていた。初めは二列が前後に重なり、代わる代わる射撃を続けていたが、敵が負けじと突撃をかけてくると見るや、直ちに逃げに転ずる。接近された弓兵など蹂躙されるだけだ。

 だがその逃げ方は巧妙にして、辛辣を極めていた。鳥が翼を広げるように二部隊に分かれると、向かってくる敵の左右前方にそれぞれ展開する。一方が距離を取ろうとすれば、もう一方が一斉に矢を放って敵を足止め。敵がそちらに向かってくれば、今度は逃げる隊と撃つ隊が入れ替わって再び敵を牽制、敵が反撃してくれば・・・。

 それを幾度も繰り返し、敵を右往左往させて接近を許さないのだ。両隊の中間には歩兵隊が控え、取りこぼしが生じた場合にすかさず支援する。彼ら弓兵隊は、平野において狩られるだけの獲物ではなく、積極的に動き回って己の優勢を保ち続けていた。豪族勢は騎士団に引けを取らぬ数の騎馬を有していたが、速度の差から孤立して集中射撃を受けている様が散見される。

「いょーし!次、次!もっともっと敵を引き摺り出してやろう」

 歩兵隊に在って、声を張り上げる少女が指揮官であると、豪族勢が気付くまでそう時間はかからなかった。左右から降り注ぐ矢の雨にも構わず、ひたすら中央へと殺到する敵が現れ始める。それは無謀であると同時に、敵の頭を叩くべしという点においては正しかったが、その正しさは報われなかった。少女手ずから、ある者は斧で粉砕され、またある者は頸を短剣に貫かれ倒れ伏す。

 

 苦心しながら態勢を立て直さんとする豪族勢の前に、新たな脅威が正面から殺到していた。

「新星騎士団、参上ッ」

 アーロンの名乗りも高らかに、新星騎士団の本隊が白刃を煌めかせ、正面から豪族勢と衝突した。騎士団はあたかも蓋をするように横陣を敷き、長槍を並べて突撃を防ぐ態勢を取った。

 この時、豪族勢の左手では湖上兵団の弓攻撃が依然として続き、右手の森には多くの罠が設けられ進軍を妨げていた。つまり、左右に展開して敵の側面を突くことはできず、止まろうにも、後ろから進んでくる味方と揉みあいになって混乱が加速する。目前に迫る刃の壁を承知で、前方に活路を見出すしかない。

 それに対するべく、騎士団の横隊は二重の構造になっていた。前方の長槍部隊に突破される兆しが見えれば、後方の白兵戦部隊が躍り出て敵の浸透を食い止める。空きそうになった陣列の穴はたちまち埋められ、不動の城壁を思わせる堅牢さであった。中でも指揮を取るアーロンの働きはめざましく、直率部隊と共に陣中を駆けずり回って、敵の攻めが集中する箇所を目敏く見つけ、したたかな逆撃を食らわせる。それが味方を主導し、全体の動きが隙のないものへと洗練されてゆくようだった。

 

「ふん、アーロン殿は奮戦しておられるようですね」

「・・・いつものことながらね」

 部下の言葉に不満の欠片を見出しながら、エドアルドはそれに触れることはない。

 劣勢に焦燥を募らせる豪族勢に、止めの一撃を与える役目を任されたのは、ウェールズ麾下の追撃隊である。なぜ城の防御施設に拠ることなく、わざわざ森に罠を張ってまで野戦を仕掛けたのか?西から鳴り響く馬蹄音、立ち込める土煙が、豪族勢に答えを教えた。

 西に向かい敵を追っていたはずの追撃隊が、騎馬の真骨頂である速度を存分に発揮して舞い戻り、台地から降りた豪族勢の右側背に食らいつこうとしている。斜行していたのは前からの逆襲に備えるためではなく、旋回して逆進するための前準備であったのだ。その偽装を額面通り受け取ったからこそ、豪族勢はノディオン攻撃を決意したわけで、完全に裏をかく形となっている。

 最後尾の右翼を率いていたエドアルドは、追撃隊による攻撃の口火を切ることとなっていた。陣立ても戦法も、開戦に先立つ軍議で既に了承を得ている。

「全隊、"ジャベリン・チャージ"の用意」

 矢と比すれば長大にして重量もある投槍が、彼我の距離を一瞬で飛び越え、豪族勢の陣に突き刺さる。悲鳴と呻きを上げて人馬が倒れ伏した箇所は、そのまま陣の穴となって、エドアルドはすかさずそこに楔を打ち込んだ。剣を掲げた騎兵が鋭く突撃し、亀裂を陣全体に広げていく。

 その名の通り、投槍によって敵陣の防備を崩し、妨げられることなく騎馬の破壊力を発揮することを目的とした、騎兵戦術の中でも屈指と称されるものである。突撃から引き揚げる際、敵に付け入られてしまうと危うくなる弱点を抱えていたが、エドアルド隊の右方に構えたウェールズ隊の側面攻撃がそれを許さない。

 この時、豪族勢の陣中では一見、奇異に見える現象が起こっていた。敵の戦法に対し、戦歴の長い年配の将兵の方が強く動揺し、それが全体に波及していたのである。あるいはその瞬間が、豪族勢の敗れる破断界であったと言えるかもしれない。

 ・・・間もなくして、どうにか敗軍を纏めた豪族勢は、台地へと引き揚げていった。道中、救援に向かっていたであろう味方が、散々に射倒されているのを目の当たりにして彼らは驚愕する。オーガスの部隊は反転し台地の出口に駆けつけ、加勢に出てくるであろう豪族勢を待ち伏せる役割を担っていたのだった。

 

 

「団長からの伝令です。西の方も滞りなく事が進んでいる、と」

「そうか。・・・相変わらず抜かりのない」

 ノディオン周辺での勝利と前後して、上陸部隊も一帯の完全制圧に成功したという報が齎された。西に向かった豪族勢は当初の予定通り、上陸した敵の撃破に向かったが、ベアトリス率いる騎兵に進路を誘導され、シューターによる船上射撃で大打撃を被ったのである。

 "外部からの侵略者"である湖上兵団が、豪族勢の動きを掣肘しているというのは既述の通りだが、今回の戦いによってさらに、新星騎士団は敵の分断に成功した。

 現在、豪族勢は主に台地南端とハイラインに展開している。最短の連絡路は平地の街道であるが、通過しようとすればノディオンの騎士団本隊、あるいは上陸部隊にそれを妨げられてしまう。

 となれば、部隊間の連絡には北の迂回路を使うしかないが、かつて独立派の要衝であっただけに、奪回せんとの動きは今なお続いており、その妨害によって更なる時間を要することになるであろう。戦力の一部が台地南端に"閉じ込められた"ことによって、豪族勢は有機的な連携を封じられているのだ。

 

「台地攻めを主張したのはアーロンの奴です。ここまで見越していたんでしょう、僕には真似できませんよ」

「お前の"ジャベリン・チャージ"も悪くなかった。ベアトリスは教え子に恵まれたな」

「はぁ・・・ウェールズ卿の援護あればこそですよ」

 "ジャベリン・チャージ"はアグストリア最強の誉高いクロスナイツが得意とし、研鑽を重ねてきた戦法である。だからこそ、かつてその一員であったウェールズは適切な援護ができ、豪族勢の熟練者は恐れたのである。

「騎士団にはクロスナイツの縁者もいると聞いたが、お前もそうか」

「ええ、まぁ。父がそうでした。名はギヨームと申します」

「何・・・?」

 ウェールズの態度に怪訝としたエドアルドの耳が、唐突に刺激された。

「貴様、謀ったな!」

 飛び込んできた第三者の声は、クロスナイツに縁のある二人の会話を妨害せんと発せられたものではなかった。しかしその声量、剣呑さは到底看過しえるものではない。何やら今しがた合流したばかりの騎士団本隊において、何やら諍いが起こっているらしい。

 

 驚きと疑問を心中に残したまま、二人は静かな馬蹄と共に、その場を後にした。


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