混ぜるなキケン!!~2人が奏でる滅びの序曲?!~ 作:かなた@FANKS
魔界と思しき大地。
土地勘も地図もない摩訶不思議な土地を闇雲に歩き回ってみた結果、分かったことがいくつかある。
何もない荒野だと思っていたそこは、いくつもの空間の繋ぎ合わせだった。
真っ直ぐ何も無いところに向かっていたはずが、突然ガラッと雰囲気が変わった不思議な建物の中を進んでいたり。
かと思えば、戦場の真っ只中に放り出され、向かってきた相手の攻撃を防ごうとして気づく。それが幻影だ、と。
過去なのか、未来なのか、現実なのか、虚構なのか…それさえも分からない不気味な空間の連続。
浮いているシェリィはどうか分からないが、歩きどおしの3人の顔にはいい加減疲れが色濃く出ている。それでも――誰一人として弱音は吐かなかった。あのエレジオールでさえも、だ。
とはいえ、慣れない異空間に3人が限界を感じ始めた、その時。
「あれ?人…が、いる?」
疲れ果てたせいかまるで独白のようなエミルの一言に、
「嘘?!幻影…じゃない??!」
エレジオールは目を疑う。
確かに誰かが向こうにいた。しかも、それまで見てきた幻影とは何か違う、実体を持っているとハッキリわかる誰か、だ。
背丈は子供くらいか?
どれくらいぶりかに見た実体を持つ人。
その存在に無条件にほっとする。
相手が危険かどうかとか、そんなことには思い至らなかった。とにかく話せる誰かにたどり着いたことが嬉しかった。
いつも浮かれるふたりを制する役目のセリスでさえ、2人とともにその人物に駆け寄った。
すると、その人影はエミルに向かって抱きついた!!
「勇者様ああああ!!良かっだああああ!!たすがっだのニャ!!うわあああん!!」
「君は…ニャノス??」
「うう…そうですニャ!!覚えていてくれたんですニャ!!こんな訳の分からないところで1人は寂しかったのですニャ!!」
そう言って涙と鼻水で顔をベトベトにしながら語ったことを要約すると、どうやら商売のメモ書きを見ながら道を歩いていたところ、気づいたら周りが真っ黒くなって、このおかしな空間に放り出されたのだという。
「それ、余所見して完全に魔道紋に入り込んだやつね…。」
エレジオールは呆れたが、実体を持つ知り合いに会えてひとまずホッとしたのは間違いない。
「やれやれ、遭難者が1人増えましたね…。」
そういうセリスもどことなく嬉しそうだ。
「え?助かったんじゃないのニャ??」
「実は僕らもどこをどう進んだらいいのやら…皆目見当もつかないんだよね。」
「ええぇぇえええええ?!」
エミルのその言葉にショックを受けるニャノスだったが。
「いや、でも1人よりはいいですニャ!!皆様、お願いですニャ!!連れていってくださいニャ!!こんなとこに1人で置いてかれたらオイラ…。」
再び潤みだすニャノスの涙がこぼれ落ちるその前に。
「もちろん!こんなとこで1人は辛いよね!!一緒に行こう!!」
エミルの即答に異を唱えるものはおらず。
相変わらず遭難状態なのに変わりはなかったが、少し雰囲気が明るくなった一行は、再び歩き出した。
一行の切なる願い。
実態を持った人が暮らすところにたどり着きたい!!
それを聞き届けたのは神なのか、それとも強い願いの力なのか――
またも唐突に、集落が現れたのだった。
◇◇◇◇
?!
――
――外国から?!つまり、勇者様か?!
――そうに違いねえ!!皆の衆、丁重におもてなしを!!
勇者一行は謎の歓迎に困惑していた。
魔界の民と思しき人達に、勇者一行が歓迎されるなんて。
「罠、かな?」
「とてもそうは見えませんが…とりあえず事情を聞いてみましょう。」
小声でやり取りするエミルとセリス。
「あの、皆さん、魔界の方ですよね?」
エミルが発した問いに、
「ちょっとエミル、どストレート過ぎるでしょ!!」
小声でつっこむエレジオール。
しかし、魔界の住人たちは気にした素振りも見せず、朗らかに答えた。
「ええ。我々は待ち続けてきました。魔王が生まれし時より、勇者様《あなたさま》が現れるのを。ずっと、ずっと。」
少し歳のいった女性が続ける。
「詳しい事情は長老様にお聞きください。ご案内致しますゆえ。」
案内されるがままに長老の家に着くと、すでに宴の準備が整っていた。
「勇者様、よくぞこの呪われた地まで来てくださった!!今宵は心ゆくまでくつろいでくだされ。」
長老はそう言って勇者を宴席の上座に座らせると、食べ物や飲み物をすすめた。
魔界の生物を調理しているのだろうか、時々色がおかしい料理もあったし、毒でも入っているのでは?と疑ったのも最初だけで。食べてみれば毒もなくどれも美味しいことがわかった。
ひとしきり飲んだり食べたりして落ち着いた頃、長老は突然エミルに問うた。
「勇者様、魔王とはどんな存在か、ご存知かな?」
「魔界を統べる、魔族の王。破壊の申し子、と聞いていますが…違うのですか?」
「ふむ、半分当たり、半分外れ、と言ったところですかな。」
「といいますと?」
「魔王というのは、魔族の王ではないのです。」
「ええ?!どういうことですか?」
驚きを隠せないエミルに、長老は続ける。
「魔王とは…生まれながらに破壊の力を持って生まれた破壊の化身。魔族の中からまれに生まれ落ちる、忌み子なのです。」
?!
「魔王が、忌み子…。」
「そうです。放置すれば世界の破壊をもたらすもの。我々魔族も人と変わりなく、平和を愛し、生きることを善しとするのです。違うのは住まう土地くらいのものです。」
そこで一旦言葉を切り、深いため息とともに長老は続けた。
「しかし、魔王は違う。滅びをこそ善しとし、生きとし生けるもの全て、この世に存在する全てを破壊することを望むもの。故に我らは貴方様の到来を心よりお待ち申し上げていたのです。」
「にゃるほど…魔王を倒すことは、オイラたちだけじゃなく、あんた方の悲願でもある、ってことですニャ。」
「そういうことでございます。」
ニャノスの言葉に長老が頷く。
エレジオールは何故か複雑な思いにかられていた。
魔王は倒さなきゃいけない。けれど。同じ魔族からも忌み嫌われる存在――
「悲しい、わね…」
「えっ?」
「!!ごめんなさい、なんでもないの。」
うっかり漏らした独白を聞かれて、エレジオールは慌てた。
「エレジオール様、と仰ったか。少々こちらへ来ていただけますかな?他の方はこちらでお待ちを。」
「はい?」
言われるがままにエレジオールは長老の後について行く。
曲がりくねった地下通路の先に、それはあった。
「これを是非、勇者様の同行者である貴女に持っていて頂きたい。」
大層に保管されていた割に、何の変哲もない髪飾りだ。
「これを?なぜ私に?」
「魔王に
「何となく??」
「ええ、何となく。」
きっと本音は別にあるのだろう。けれど、これ以上追求しても何も出てこなさそうなのも何となく察した。
訝しみつつも受け取るエレジオールに、長老は感謝を述べる。
「何かあった時のお守り、だと思ってくだされ。」
「分かりました。」
三人と一匹が待つ宴席に戻ると、エミルもセリスも、そしてニャノスもお腹が膨れたせいか少し眠たげだ。
「皆様お疲れでしょう、今宵はこちらにお泊まりくだされ。寝室にご案内致します。」
寝室に向かいながらエレジオールはふと、とある事実に思い当たる。
そういえばシェリィは魔界に入ってから一言も口をきいてくれない。
念話を飛ばしても黙ったままだ。
――体調でも悪いのかしら??
…
相変わらず返事はない。
珍しいこともあるのね、と思いつつ、ベッドに潜り込むと秒で眠りについた。
魔界の夜は、静かに更ける。