最悪のタイミングで初登場したために謎の第3勢力になったTS魔法少女 作:きし川
「はぁ、はぁ……!し、師匠ぅ〜、待ってくださいぃ〜……」
いつものランニングコースをいつものペースで走っていると、後ろからヘロヘロ状態で走る焦げ茶色の髪をツーサイドアップにした少女に声をかけられた。
ピンクの魔法少女もとい
立ち止まって、蛍ちゃんが追いつくのを待つ。追いついた蛍ちゃんは膝に手をついて息を整えた。そして、着ているピンク色のジャージの袖で汗を拭うと、勢いよく顔を上げた。
「あ、あの、師匠! 弟子入りしてからずっと走ったりとかしかしてないんですけど、これで本当に師匠みたいになれるんですか!?」
「もちろんなれるよ。ただ、本格的にトレーニングするにはもっと蛍ちゃんに体力をつけてもらわないといけないし、魔法少女はハードだから体力が多いことに越したことはないんだよ」
本当に疲れるからね、魔法少女って。
「そうなんですね……すみません、浅はかでした……」
「謝らなくていいよ。地味なトレーニングだから力がついたか実感がわかないからね」
正直なところ、本当にこれで強くなれるのかと言われると自分でも分からない。これはあくまで”あたしのようになりたい“という蛍ちゃんの頼みを聞いて、とりあえず自分がやってきた事をなぞらせているだけだから、もしかしたら、あまり効果がないかもしれない。
けれど、経験上、体力があった方がいいのは分かっているから、蛍ちゃんには申し訳ないけど、納得してもらうしかない。
「さ、休憩は終わり!後、2キロは走ろっか!」
「ふぇぇ……」
涙目になっている蛍ちゃんを尻目に、あたしは再び走り出した。
「ぜぇ、ぜぇ……」
「なにも、あたしのペースに合わせなくて良かったのに……」
十数分後、川の土手に大の字に寝転がって、息も絶え絶えの死に体となった蛍ちゃんにそう言った。
……ちょっと、自分の度量を超えた無茶をするところはあるけれど、一生懸命ついていこうとする根性はあるから、その辺りをどうにかできれば十分強くなれそうだな、この子は。
出会ってまだ間もないが、蛍ちゃんが真面目なのはすぐに分かった。たぶん、体力づくりを終えてから教える技術もきっとこの子なら問題なく習得できるだろう。
「こんなことして意味があるのかキュン?」
土手に腰掛けて、蛍ちゃんを見ていると蛍ちゃんのそばに居たマスコットことキュン助がいつの間にかあたしの隣に現れてそう言ってきた。
「さぁね。すぐに結果が出るようなものでもないし、蛍ちゃんにはあんまり意味が無いかもしれないかもね。けど、あたしはこれをやってて良かったと思ってるから、勧めてるだけだよ」
「ふーん、そうなのかキュン……あっ!そういえば君に聞きたいことがあったキュン」
「ん、なに?本名と住所以外なら答えるけど」
「初めて君と出会った時、僕はあの辺り一帯の空間を隔離して、外部から認識できないようにしてたキュン。なのに、なんで君は隔離している壁を突破できたキュン?」
……マスコットみたいな見た目の割にとんでもないことしてるわこの子。
キュン助と呼ばれるこのマスコットは蛍ちゃんから聞いた話だとどうもこことは違う世界から来た生物らしい。
違う世界から来たと、聞いて一瞬、モンスターの類いかと思ったが攻撃性が感じられず、狼も何も反応を示さなかったのでモンスターではなく、本当に別の世界の生物だと判断した。そのためか、この世界の理に合わない事をする。
先の空間の隔離だったり、蛍ちゃんにこの世界の魔法少女とは全く違う力を与えたりと不思議な力を持っている。
だから、正直言って、あたしはキュン助の事を信用してはいない。
「……ああ、それね。たぶんあたしの”識色特性“のせいだよ」
「”識色特性“?」
これぐらいなら話してもいいかと、思い、話すことにする。
「あたし達、魔法少女には
「肉体的・精神的干渉耐性……?」
「やっぱ、分かりにくいよね。あたしも理解するのに時間かかったから、しょうがないけど。……そうだね、例えば強力な毒を体に入れられたとする。すると、それは肉体的干渉にあたるから識色効果が働いて無効化される。そして、この前の場合も認識を阻害するという力が精神的干渉になるから無効化されて壁の中に入れたという訳」
「すごいキュン!そんなすごい力がこの世界の魔法少女には宿っているんだキュン!他にはどんな色があるんだキュン!?」
急に興奮しだしたキュン助。
純粋にすごいと思っているのか、そういうフリをして情報聞き出そうとしているのか、分からないけど、これぐらいなら話していいかな。
「えっと、確か……白は変幻自在、青は液体化、赤は炎熱、黄色は電撃、緑は治癒、だったかな」
「へぇ、そんなにあるんですねぇ……あっ、私にはどんな能力があるんですか?」
いつの間にか復活していた蛍ちゃんが興味津々といった感じで聞いてきた。が、あたしはその質問に答えられそうになかった。なぜなら――
「あー……言いづらいんだけど、蛍ちゃんには識色特性は無いと思うよ」
「えっ!? なんでですか!?」
「だって、魔法少女のルーツが違うから」
蛍ちゃんは、あたし達とはまったく別物の魔法少女だ。
あたし達のような魔法少女は鏡界にいるモンスターと契約するか、魔法少女だった者から魔法のケースを受け継ぐ事で魔法少女になる事ができる。だけど、蛍ちゃんの場合はキュン助に力を与えられる形で魔法少女になっているからあたし達と形態が違う。実際、蛍ちゃんにはあたし達には必ずある魔法のケースが
「え〜……そんな〜……」
ガックリと項垂れる蛍ちゃん。
「まぁ、でも……識色特性が無くても戦うことはできるし、便利なものでもないから、そんなに落ち込まないで」
識色特性は効果だけ聞けば、正しくチートとも言える物だけど、デメリットもある。
黒の識色特性は悪影響を及ぼす能力を無効にできるけど、良い影響を及ぼす能力も無効にしてしまう。他の色も同じく、扱いが難しかったり、下手をすれば自滅するものまである。だから、一概に識色特性があるから優位になれるわけじゃない。
「それに、蛍ちゃんには蛍ちゃんにしかない強みがあるから大丈夫だよ」
「私だけの強み、ですか?」
「蛍ちゃんはあたし達には無い、《魔力》っていう未知のエネルギーを消費して、魔法を使えるようになっている。それはつまり、魔力がある限り何度でも魔法が使えるということ。しかも、蛍ちゃんのイメージ次第で色んな
「師匠達は違うんですか……?」
「全然、違うね。まず、あたし達が魔法を使う時、消費されるのは使用者の生命力だよ。そして、使う魔法も決まった
本当に羨ましい。あたしもそんな風に魔法を連発できるなら、苦労しなかったな。
「あの生命力って……?」
「簡単に言えば、寿命かな。魔法を使えば使うだけ、威力や効果を上げれば上げるだけ、それ相応の寿命を払うことになる」
「そ、それって大丈夫なんですか!?」
心配そうに言ってくる蛍ちゃんに対して首を横に振る。
「大丈夫じゃない。大丈夫じゃないから、あたし達は魔法を切り札や奥の手として滅多に使わない。だから、他の技術を磨く。魔法を使わなくても良いようにね」
ちょっとカッコつけて言ってみる。……小学生相手に何ドヤってんだろ、あたし。
「……すごいんですね師匠達って――――――私、もっともっと頑張ります!そんなすごい師匠たちに負けないように!」
そう元気いっぱいに決意表明してくる蛍ちゃん。
ああ、眩しいなぁ……。こういう若者の前向きに取り組んでいこうとする姿は。
「そっか、そっか。なら、もっとトレーニング量増やそう。明日からランニング30キロだ♪」
「ヒェ……」
蛍ちゃんの熱意に応えて、そう言ったら今にも泣きそうな表情になった蛍ちゃん。
どうしたの?さっきのやる気はどこへ行ったの?
「わ、私……魔法の練習とかもしたいです!その……色んな種類の魔法を使いたいので!」
「それも確かに大事だけど、どんなに強い魔法や能力を使おうと最終的に勝敗を決めるのは本人の地力だよ。しっかりと完成させた基礎があるのと無いとじゃ、技や魔法の質もかなり差が出るよ」
ちなみに聞くけど、さっきのヘロヘロ状態で魔法のイメージ出来る?と、最後に付け足して蛍ちゃんに聞いてみる。
「……出来ません」
「でしょ。何を始めるにしても
「……はい」
さっきよりも深く項垂れ、どんよりとした雰囲気を醸し出している蛍ちゃん。どうか折れずに頑張って欲しいと、願う。
まぁ、それはそれとしてランニング距離はどんどん伸ばすけどね。
ピンクの魔法少女
変身者 御神蛍
戦闘歴 1か月未満
魔法武装 ステッキ型名称不明(キュン助曰く特に名前は無い)
経歴
近くの小学校に通う小学5年生。ある日、登校中にカメレオン系のモンスターに遭遇し、襲われる。が、突如現れたキュン助と自称する不可思議生物に魔法少女になることを勧められ、助言に従いながら変身。戦闘する。しかし、苦戦を強いられ危うく命を落としかけるが駆けつけた黒の魔法少女によって、助けられる。以後、黒の魔法少女を師匠として慕っている。
その魔法少女になった経緯からこの世界の魔法少女とは、まったくの別物の魔法少女のため、実力は未知数である。
日常面では、明るく誰とでも仲良く話せるので学校の友人は多い。また困っている人を見つけたら積極的に助けるようにしている。