幼馴染がドMな僕が傷つこうとするのをデスループしてまで止めてくる 作:でってゆー
週に一度行える教会での祈りの時間。
私はこの時間が大嫌いだ。
学校の中に建てられた教会内にある女神像に祈りを捧げる。
学年一位である私は二年生の祈りの時間の際は最前列で女神像に祈りを捧げることになっている。
でも、私はこの学園に入学してから女神に祈りを捧げたことなんて一度もない。
女神伝説。
それがこの国に伝わるもっとも有名な昔話。
遠い過去、この国は災害によって貧困の中にあった。
水は干上がり、作物は育たず、病気が蔓延する地獄のような世界。
その中で人間は飢えと病気に苦しみながらもなんとか生きていた。
そんなこの国の人間達を助けるために天から女神が降臨した。
女神は苦しむ人間達を救うためにスキルを作り、それらを人間へ授けた。
女神の作ったスキルは水を作り、作物を育て、病気を消したという。
飢えと病気の苦しみから解放された人間達は女神様へ涙して感謝した。
女神は二度と同じように人々が苦しまぬよう、自身の代わりに人々を導けるように数人に特別なスキルを授けた。
女神に選ばれたその人間達は授けられた特別なスキルを使い、人々を導き、災厄を退け国を築いた。
それを見届けた女神は天に帰り、天から人々を見守り続けることにした。
女神は今も人々を見守り、スキルを授け、この国の永劫の繁栄をいつまでも願っている。
これがこの国に伝わる伝説の一部。
子供の頃から飽きるほど聞かされた内容だ。
女神は才能がある者を好む。
なぜならその者はこの国の人々をより良い方向へ導けるから。
才能を持つ者がより輝けるように女神は多くのスキルや特別なスキルを授けるという。
女神は努力が出来る者を好む。
女神は人々の行いを見ている。努力をしている者には必ずスキルを授けてくれる。
授けられたスキルはさらなる努力で熟練され、より強力なスキルになる。
ゆえに才能がある者に従うことこそが最善。
なぜならその者は女神に選ばれているのだから。
そして他の者は努力し、才能がある者を助けることこそが重要。
なぜなら女神は人の努力を見ているから。
人の努力を必ず女神が見ており、努力する者には必ずスキルを授けてくれる。
ふざけるな!!!
女神が才能がある者を好む?
ええ、そうなんでしょうね!わかりやすくスキルなんていう目印があるんだから誰が好きで
女神が才能のある者を好むなら、それは裏を返せば才能のない子には興味ないってことでしょうが!!
女神は人々の努力をいつも見ているですって?
ふざけないで!あの子がどれだけ努力してるかわかってるの!?
あの子は毎日
痛いはずなのに!何度もやめるように言っても、それでも振り続けてるのよ!?
なのにどうしてあの子にはスキルを一個も与えないの!?
どうして!?私のことはこんなに贔屓するくせに!
どうしてあの子のことを見てあげないの!?
見なさいよ!今もあんなに一生懸命あんたに祈ってるあの子をちゃんと見なさいよ!!
私は後ろを向いて目を閉じて真剣に女神像に祈りを捧げるあの子を見つめる。
いくら努力してもスキルをもらえず、女神に見られてないというのに。
それでもあの子は心からの感謝を伝えるように微笑みながら目を閉じて祈りを捧げている。
私はそれ以上あの子を見ることが出来ず、前を向いて目の前に鎮座する女神像を睨みつける。
いいわよ、あんたが私を贔屓するならされてあげるわ。
あんたがあの子を見ないなら、私があの子を見続ける。
スキルはもらうわ、でも絶対に祈ってなんかやるもんか。
◇
「ねぇ!君のスキルは一体何!?僕に教えて教えて!」
目を輝かせて僕を見つめる生徒会長に困惑する。
スキルと言っても僕は本当に一個も持ってないんだよね。
『スキルチェック』と言っても僕の場合は何も表示されないのだ。
普通の人ならそれで自分のスキルを見ることが出来るはずなんだけど。
つまりこれは、僕がスキルを持っていないことの証明のようなものだ。
ふ、本当に女神様は僕のことをよく見てくれているよね。
努力は気持ちいいし好きだ。
でもいくら頑張ってもスキルがもらえずバカにされる。
さすがは女神様、僕がドMだということはお見通しのようだ。
先週も教会で感謝の気持ちを込めて祈ったから届いてると嬉しい。
「あの生徒会長、僕はスキルを一個も持ってないんです。だから見間違いだと思うんですけど」
困った笑みを浮かべながら生徒会長に言葉を返す。
そもそも他の人って見えるものなの?
今までそんなことを見たこともないし、フレイ達からも聞いたことがない。
「いや君はスキルを持ってる、それは間違いない。でも違和感があるんだよね、まるでスキルが隠れているみたい」
「ええっと?」
「もう少し詳しく見ればわかるかも!ねぇねぇ!君の寮の部屋は何号室?今日遊びに行っていいかな!?」
困惑する僕をよそにどんどん話を進める生徒会長。
何と言っていいか悩む僕を見てイバラが助け舟を出してくれる。
「ご主人様を困らせないでください、というより会長、集会はいいんですか?」
「・・・・ご主人様?」
イバラの発言を聞いて僕を見る会長。
さっきまでの視線に比べてその目に畏怖が宿っているのは気のせいだろうか。
「君、なかなかすごい趣味してるね。あのイバラがどうやったらこうなるの?」
「あなたには関係ないです。早く生徒会室に失せ、ではなく戻ってください」
「ほら、僕にはこうだよ?あともう集会とかどうでもいいや!ねぇねぇ君の部屋の番号を教えてよ!遊びに行くからさ!」
会長はイバラを見てため息をついた後に再び目を輝かせて僕にそう尋ねてくる。
「あ、僕は下宿先に泊まってるので寮生じゃないです」
「んん?寮生じゃないの?あぁ、だからフレイとイバラが騒いでたのか。納得」
ずっと会長を睨みつけているイバラをチラ見しながらそう呟く会長。
どうやら今までの集会でも僕のために色々言ってくれていたようだ。
「よしじゃあ今から君の下宿先に行こう!ここだとフゥに見つかっちゃうしね。そこで君の話を聞かせてよ!!」
「なに勝手に決めてるんですか?そもそも寮からの勝手な外出は禁止でしょう」
僕の下宿先に行く気満々の会長にイバラがため息を吐きながら口を開く。
え?外出ダメなの?フレイとかかなり頻繁に来てるよ?
ちらりとフレイと見ると、彼女は口を閉じて何かを考え込むように僕たちを見つめていた。
「大丈夫!僕は生徒会長だから何とでもなるよ。それに実際に彼の現状を見れば寮に入れてあげれるかもよ?」
「・・・・」
「君たちも来ていいからさ!ほら善は急げだ!早くしないと怖い副会長に見つかっちゃう!」
そう言って会長は僕の手をとり立ち上がる。
イバラも止める気はないのか黙ったまま空き教室から出る姿勢を見せる。
「・・・・イバラ、ちょっと聞きたいことがあるんだけど」
ずっと黙っていたフレイがようやく口を開く。
「・・・・
「喧嘩売ってます?喜んで買いますが?
「・・・・」
イバラの答えにフレイはどうしてか動揺したように汗を浮かべている。
あれ?イバラって三位じゃなかったっけ?あれでも四位だったかな?あれれ?
自分でもどちらだったか怪しくなって混乱してしまう。
フレイが聞いてくれてよかった!僕もうっかり間違えて彼女を傷つけるところだったよ。
「・・・・会長、今回の集会に来ていないのは本当に私達だけですか?」
「そうだよ?さっきもそう言ったじゃん」
会長にも質問したフレイは完全に顔を青ざめて黙り込む。
そして震えながら僕の手を握りしめた。
「フレイ?」
心配になり声をかけるが反応が薄い。
不安になりもう一度声をかけようとした時、空き教室の扉がゆっくりと開いた。
「・・・・ここにいたのか」
扉を開けて現れたのは
「・・・・会長、副会長が探してましたよ。あとそこの2人も来るように言ってる」
男は無表情のままみんなを見てそう告げる。
どうやら集会の関係者のようだ。
会長が戻ってこないから探しにきたんだね。
「っ!?やっぱり来たわね!あんたには聞きたいことが山ほどあるわ!」
僕の手を握っていたフレイが彼を見た途端そう叫んで炎を生み出す。
「フレイ!?」
当然の彼女の行動に思わず叫ぶ。
しかし彼女は僕を背中に隠して今にも彼へ攻撃をしてしまいそうだ。
そしてフレイが相手に突撃するために足に力をこめようとしたタイミングで彼女の前に会長が立ちふさがる。
「フレイ?何かあったか知らないけどここでの戦闘はダメだよ。それに彼は集会に来ない私達を探しにきただけだ」
「っ!そんなわけあるか!あいつの目的はこの子よ!空き教室からこの子を連れてあいつは!!」
生徒会長の言葉をフレイは否定しながら相手を睨みつける。
え、僕?いやそれはないと思うよ?だってどう聞いても生徒会関係でみんなを呼びにきた感じだもん。
相手も困惑しながらフレイを見つめ、そして後ろに隠れる僕へ視線を移した。
僕も同じように彼を見ていたから当然目が合う。
あれ?なんか既視感があるな。
もしかして彼とはどこかで会ってるのかもしれないね。
フレイに隠されながらも一応目が合ったので笑っておく。
それを見た相手はまた珍獣を見るような目で僕を見てきた。
「・・・・誰かと勘違いしてないか?俺はそいつを初めて見たし用もない」
「っ!本当のこと言わないなら言わせてやるわよ!」
相手は困惑しながらフレイにそういうが彼女は信じようとはしない。
困惑する僕らを他所にフレイが戦闘を開始しようとした時、会長が動いた。
「なんかややこしいことになってるようだね。とりあえずフレイの話を聞くから君は下がっていいよ」
「・・・・いや副会長から会長を連れてくるように言われてるんですけど」
「じゃあフゥにこう言って!あとは任せた!!」
会長がそう言った瞬間、僕らの視界が突然切り替わる。
んん?何が起こったの?
さっきまで空き教室にいたはずの僕らは気が付けば全く別の場所にいる。
ここは学園の外?
まさか、空き教室からここまで僕らを連れて一瞬で移動した?
もしかしてこれが会長のスキル?
現状を理解して僕は戦慄する。
僕らを連れてここまで一瞬で移動できるスキルなんて身体強化スキルや移動系スキルを使っても不可能だ。
なのにそれを可能にするなんて、一体どんな強力なスキルを使えば可能になるんだろうかか。
それにスキル名を言わずに一瞬で発動させたってことは熟練度が最大でこのスキルを極めているということ。
強力なスキルほど極めるのは当然難しい。
なのに、こんな強力なスキルを極めてるなんて。
「よしよし撒けたね!じゃあとりあえず君の家に行こうか」
呆然とする僕らに彼女は何でもないように笑いながらそう告げる。
え?この流れで僕の下宿先に行くの?