小説どもが夢の跡   作:ちくSUN

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導入部分


ノンフィクション・ファンタジー
ノンフィクション・ファンタジー


 7歳ほどの身長に腰まである長い白髪、頭の横に付いているものとは別に新たに増えた頭の上の獣耳。目の色は碧色(あおいろ)で、全体的にぷにぷにした柔らかい筋肉が付いている。それが今の俺だ。

 こんな身体になったのは、まぁ自分自身の不注意とただの不幸だ。だが、全ての原因はかなり前に(さかのぼ)ることになる。あれは大体今から半年ほど前のことだった。

 

 

 小説家を目指し、小説投稿サイトを利用していた俺は、かつてないほどに悩んでいた。それはもうものすごい悩み様だった。例えるなら、3年後に夢が叶い小説家になれるがそれまで一ヶ月5000円で暮らすか、そこそこしんどいが年収1000万を超える仕事につくか、今すぐ選べと言われたくらいに悩んでいた。

 なぜそんなに悩んでいたかといえば簡単な話だ、小説が全く書けないのだ。それはもう怖いくらいに書けない。1ヶ月考えに考え、試行錯誤(しこうさくご)して、アイデアを(しぼ)り出して、それでかけたのがたったの200文字。

 ファンタジー小説が好きで、小学生の頃から読み(あさ)っていた。中学生あたりから他のジャンルにも手を出しつつ、自分のオリジナルの世界観や魔法、キャラクターの設定を考え、ノートにまとめていた。それらを総動員して、それでようやくかけたのがたったのそれだけ。200文字なんて素人でも1日もかけずに書き終わるだろう。

 正直自分には才能がないのだろうとは、初めから思っていた。ファンタジーに向いていないのかと、学園モノやミステリなんかも書こうとしてみたがこれはもっと酷かった。

 絶望した。絶望して枕に顔を埋め、深呼吸をし、むせた。深呼吸をした拍子に、枕の中の(ほこり)を思いっきり吸ってしまいむせた。そのとき、前にネットで見たことがあるちょっとした話を思い出した。

『作家は、自分の経験したことしか書けない』

 初めてその言葉を見た時は「いや、そんなわけがないだろう。それだとファンタジーを書いている人は異世界に行ったことがあって、ミステリを書いている人は、頻繁(ひんぱん)に殺人現場に居合わせているのか?」そう思った。だが、もしかしたら、これは正しいのかもしれない。いや、流石に実際に異世界に行っているとは思ってはいないが、その異世界での出来事を考える元となった何かしらの事にはきっと遭遇(そうぐう)しているのだろう。

 そう、俺に足りていなかったのは経験だ。今まで小説を読み、設定を考える事に熱中しすぎて。学校以外でまともに外出したことなど無かった。

その学校ですら友達もつくらず、朝も休み時間もずっと1人で小説を読み、ノートに設定を書いていた。

 それじゃあいくら設定を考えても、小説を書けるわけがない。当たり前だ。特にファンタジー小説なんか主人公は大体がコミュニケーションが高いのだ、俺と真逆だ。人と会話できないやつが、会話の内容なんか書けるわけがないだろう。

 そうつまり、今から俺がやるべきは町に出て、なんでもいいから経験を積むこと。そしてその経験を余さずメモして、小説のネタへと変換することだ。

 そうと決まれば話は早い。俺は早速出かけるために上着としてパーカーを羽織(はお)り、靴を()き、町に()り出した。

 そして気がつくと森に出ていた。森と言っても、草が踏まれて自然にできたであろう道もあるし。後ろを振り返れば村のような何かが少し遠くに見える。

 何があったのか全くわからなかった。住んでいる家の前は別に森じゃないし、扉なんか周りを見渡しても跡形(あとかた)もない。ただなんとなく、このまま森にいるのは危ない気がして村に向かった。

 村に向かって道を歩いていき、あと少しで着くというところで。何者かに後ろから何か刃物を首筋に突きつけられた。

「キィエスクセ」

 何と言われているのかわからなかった。そもそも言葉が通じるかの前に、聞き取ることすら出来なかった。

「た、たすけて……殺さないでください」

 俺がその時できたのは、命乞いだけだった。後ろの人物は何度も最初と同じことを繰り返しているが、全く聞き覚えがない。少なくとも英語では無いみたいだということくらいしかわからなかった。

 何度か命乞いをしていたら、相手も言葉が通じていない事に気がついたようで、何やら困惑(こんわく)した様子が伝わってきた。

「アァ……アレ! アレ!」

 しばらくしたら首筋からようやく刃物を離してくれた。後ろを軽く見てみると、いかにもファンタジー世界の村民といった感じの麻でできたと思われる服を着た男だった。当てられていた刃物は矢の先についていた(やじり)だったようで、矢を右手に、弓を左手に持っていた。

 アレ! と言いながら(ひじ)で俺の背中を押してきた、おそらく進めという意味だろう。それに従い村の方に進んでいると、男は周りに何か叫んでいた。その声に反応し、周りから男と同じような格好(かっこう)をした男たちが3人現れた。

 男たちは俺の周りを囲う形で歩き、俺はそのまま村の中に入る事になった。

 


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