ストライクウィッチーズ ~天翔る狼達の奮戦記~ 作:ティルピッツ
初見の方は初めまして。以前からお読みになって下さっている方々はお久しぶりです、作者のティルピッツです。
本作のリメイク元となる《ストライクウィッチーズ ~天翔ル白狼の奮戦記~》を投稿してからかなりの期間が空いてしまいました。大変、申し訳ありません。
言い訳になってしまいますが、身の回りで重大な出来事が連続して起こりその対応に追われていました。
とはいえ、特に報告もなく投稿を全くしていなかった事は事実です。本当に申し訳ありません。
さて、本作は前作に新たな設定を加えるにあたって、全面的に書き直す必要があると思い、投稿させてもらったものです。
前作から引き継いだ設定もありますが、大幅に設定を変更した箇所もあります。
前置きが長くなってしまいましたが、本編をどうぞ!
プロローグ 《大西洋沖海戦①》
20世紀は戦争の世紀と言える‥…
海に‥‥陸に‥‥戦火は絶えず、近代兵器の発達はその災禍を飛躍的に拡大させた‥‥
幾度も激戦の舞台となったこの大海では、この日も何度目か分からない大規模な戦闘が繰り広げられていた。
大小様々な軍艦が海上を右往左往しながら、艦上では盛んに砲煙が湧き出ている。上空には多数の航空機が飛び交い、それらに向けて海上の軍艦から猛烈な火線が伸び、時折その線に捕らえられ火球と化して墜落する機もいたが、大半の航空機は海上の軍艦に向けて攻撃を仕掛ける。
軍艦も航空機だけでなく、敵艦に向けて砲撃や魚雷による攻撃を盛んに仕掛け敵艦を沈めるが、敵の反撃をつけ大きな水柱で覆い尽くされる艦や大爆発を起こし、黒煙を履きながらその姿を海中へと没する艦もいた。
─── 日本、アメリカ、イギリスの3カ国を中核とする連合国は、講和後を見据えて大西洋の制海権を失わない為に、多数の航空機や艦艇を大西洋に投入。
対するドイツ第三帝国改め神聖欧州帝国を中核とする帝国側も講話を有利にする為、大兵力を大西洋に送り込んだ。両者は大西洋上で激突。昼夜を問わないほどの大激戦が数日間にわたって連続で繰り広げられていた。
しかし、比較的補給が容易い欧州帝国軍と違って、補給線の確保が難しく補給面に難のある連合軍では、修繕に使う資材や武器弾薬が不足、更に昼夜問わずの戦闘で連合軍の将兵達は疲弊……
──そして、この日の欧州帝国軍の猛攻は何時にもまして苛烈を極めた
アメリカ海軍 第6艦隊 旗艦 戦艦《フィルモア》
「重巡《ノーザンプトン》被弾!」
「《ヴィンセンス》被雷!速力低下!
「第38駆逐隊…被害甚大……!」
「くっ!…………何隻やられた?」
「駆逐艦12、軽巡及び重巡8隻が沈没。空母と戦艦はそれぞれ4隻ずつ失いました……」
「ヒトラーのクソ野郎め……っ…!…次から次へとっ!……一体どれだけの戦力を投入しているんだ!」
米第6艦隊司令長官 ウォルター・スコット大将は、自艦隊の損害を聞き、ヒトラーに対して悪態をつく。
連合軍の中でも比較的豊富な戦力を持つ米軍が率先して迎撃に当たっていたが、敵の数が尋常では無い程多く艦隊や航空部隊に大損害が生じていた。
「独海軍は旭日艦隊があらかた片付けたと思っていたが、その考えは甘かったようだな………」
「残念ながらその様です。敵戦艦4を含む20隻あまりをを撃沈しておりますが、敵艦隊の総数はそれ程減っていません。」
日本の援英派遣艦隊…《旭日艦隊》の活躍によって欧州帝国海軍は何度も大損害を受けていた。にも関わらず、来襲した敵艦隊は多数のビスマルク級戦艦やシャルンホルスト級巡洋戦艦などの水上艦、様々な型式のUボートで構成されていた。
「加えて敵航空部隊には
「厄介だな…………」
参謀の言う例の巨人機……《ドルニエ Do317 "アース"》は独空軍の切り札と言える超重爆撃機で、胴体や主翼、尾翼まで
「日本艦隊及び日本機が率先して迎撃しておりますが、英艦隊と空母部隊が集中攻撃を受けています。」
「旭日艦隊を壊滅に追い込んだだけの事はあるという訳か……」
大西洋防衛の要でもあった《旭日艦隊》は相次いで"アース"による攻撃を受け中核戦力の《第一遊撃打撃艦隊》が壊滅し、残存艦も再度攻撃を受けて壊滅。
旗艦《日本武尊》及びその護衛艦数隻は、補給及び修理の為に大西洋から離れていたが、十数隻の日本艦は大西洋に残っており、米英艦隊と共にこの戦いに参戦していた。
「…………各艦隊の損耗率は?」
「英艦隊及び我が艦隊の損耗率は3割を超えています。日本艦隊に至っては4割を超えています。」
「司令、このままでは全滅です。部隊を集結させ撤退すべきです。」
「しかし、それだと大西洋の制海権を失う事になる。それだけは避けねばならん。」
「ですがもう限界です。各艦隊や航空部隊は長時間の連戦で疲弊しており、これ以上組織的戦闘を行う事は不可能です。」
「そんな事は分かっている!だが、講和前に大西洋の制海権を失う訳には………っ!」
スコットも自軍の兵士達の疲弊状況を知らない訳では無い。だが、今撤退してしまえば大西洋の制海権は欧州帝国軍の手に堕ちる。それだけは何としても避けたかった。
「スコット司令!《蔵馬》の椎名少将より通信!」
「椎名司令から?繋げ!」
「はっ。」
通信士が通信回路を繋ぐと雑音混じりだが、男性の声が《フェルモア》の艦橋内に流れる。
「"┈┈スコット司令┈┈退却して下さい!┈敵┈┈は我々┈引き受けます!┈┈┈その隙に撤退を┈┈!"」
「何を言ってるんだ椎名司令!たった数隻で敵艦隊相手に戦える筈がない!」
「"行ってくださいスコット司令!┈┈このままでは全滅です┈それでは大西洋を守る戦力が無くなる┈┈我々がが時間を稼ぎます、その隙に撤退して体制を建て直して下さい!┈┈┈"」
「しかしっ!」
「"時間がありません┈┈┈長くは持ち堪えられません┈┈┈┈行って下さい!┈┈┈我々も隙を見て後退し合流します!┈"」
スコットは椎名少将が指揮する僅か数隻の日本艦隊では、欧州帝国軍を相手に戦えるとは思えなかった。それに戦って持ち堪えられたとしても、無事に撤退して自分たちに合流出来る可能性もゼロに近い。
「────────了解…したっ…………殿を頼む椎名司令…………。」
1分ほどの沈黙の後、スコットは椎名少将に殿として米英艦隊の撤退を援護するように要請した。
「"┈┈了解しました┈┈後で会いましょう┈┈┈┈┈┈"」
その言葉を最後に《蔵馬》からの通信は終わった…
沈黙が《フェルモア》艦橋内を支配し、参謀や乗員達はスコットに注目する。
「司令……」
「………通信士官、全艦隊及び航空部隊に命令!直ちに現海域から離脱!航空機は最悪放棄しても構わん!パイロットの回収を最優先だ!」
「はっ!」
スコットの命令を受けた米艦隊と英艦隊は帝国艦隊と航空隊への攻撃を続けながら、進路を変え現海域からの離脱コースを取る。
対して、椎名少将が指揮する日本艦隊は米英艦隊とは逆に帝国艦隊に向けて進路を取った。
「………済まない椎名司令……日本軍将兵の諸君…………なんとか生き残ってくれ………っ!」
日本海軍 援英派遣艦隊所属 重巡洋艦 《
「英艦隊及び米艦隊、離脱して行きます。」
「スコット大将は撤退を決意してくれたか………」
「航行不能な損傷艦は乗員を救助して艦は放棄するようです。」
「ふむ………」
重巡《蔵馬》艦橋では、艦隊司令官
「……敵艦隊及び敵航空隊の動きは?」
「再編成を行っているようです。敵艦隊は駆逐艦を先頭とした陣形へ。敵機は爆撃機や攻撃機ごとに再集結しています。」
「圧倒的物量で一気に叩き潰すつもりだな。」
「恐らくそうでしょう。如何致しますか司令?」
「真っ向から相手にしていては埒が明かん。敵の親玉を叩き潰す。」
「敵艦隊の旗艦に攻撃を集中させるという事ですね。」
「米英艦隊の撤退時間を稼ぐにはそれしかあるまい……」
彼が指揮する日本艦隊は、①《
50隻もの大艦隊だった頃の援英派遣艦隊が僅か10隻にまで減少し、旗艦でありシンボルの超戦艦《
「………勝てる見込みは限りなく低い……だが、
椎名少将はそう言うと制帽を被り直し、参謀や艦長達に身体を向けた。
「諸君、これより我が援英派遣艦隊は
「司令…頭を上げてください。」
「我々は最期まで司令官らと共に戦い抜くと決めたのです!軍人として悔いはありません!」
「確かに家族に会えないのは残念です。──ですが、二度と会えないとは思ってません!後世で愛する者とまた再会出来た様に…また会えると信じています………!」
「お前達…………」
元々、援英派遣艦隊には
──これから絶望的と言える戦いに挑もうとしているにも関わらず、彼らは誰一人不安な表情をしていなかった……
「さて、諸君………奴らに我々援英派遣艦隊の底力を見せてやろう………たった10隻でも自軍の何倍のもの敵艦隊に打ち勝つ事が出来る事を証明しようではないか!」
「「はっ!!」」
「全艦、砲雷撃戦用意!目標敵艦隊!我々は……この戦いに勝つ!」
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日本艦隊が絶望的な艦隊戦に挑もうとしていた頃、日本軍航空隊も米英航空隊の撤退を支援すべく決死の航空戦に挑もうとしていた……
「"─加東隊長!─正面に敵機…多数!─"」
「来たか………っ…!」
日本海軍航空隊指揮官
彼が指揮する日本海軍航空隊は、4個小隊16機。噴式艦上重戦闘機《
「1人10機以上墜さないと互角にならないな………」
苦笑いを浮かべながら彼はボソッと呟く……
とても笑ってられる状況では無いが、少しでも気を紛らわす為に彼は苦笑いしたのだ。
──素人が見ても分かりきった戦いだ、100機以上の敵機と自軍16機では、まともな戦いにすらならない。あっという間に撃滅されるのが目に見えている。
「"─ 加東隊長、指示をお願いします。─"」
無線越しに聞こえる部下の声はいつも通り冷静でハッキリとした口調で動揺した様子は全くない。
「よく出来た連中だ、相変わらず肝が据わってる。」内心そう感心しつつ、全機に向けて彼は指示を出した。
「全機に告げる。見ての通り敵さんは大団体だ。一人一人満足な歓迎が出来ないがまぁやれるだけやろう、好き勝手動かない様にしっかりとエスコートしてやれ。」
「"─要するに「いつも通りにやれ」って事でしょう?─"」
「"─隊長、柄にもないその言い回しはキツイですよ?何時もの口調で普通に指示を出せばいいのに…─"」
「五月蝿い、偶には言い方を変えてみようと思っただけだ。無駄口を叩く暇があるなら、敵に堕とされない様に注意してろ。」
「"─はいはい、分かってますよ大尉殿。─"」
「"─隊長もお気を付けて、油断は禁物ですよ?─"」
「……言われなくても分かってるよ………。───全機、戦闘態勢!命は落とすな、敵を堕とせ!必ず生きて帰るぞ!"」
コミック版及びOVA版では、旭日艦隊の残存艦は全て大西洋から撤退してるんですが、そこをねじ曲げて少数の日本艦隊が大西洋に残っている様にしてます。