イクリプス・ワールド  終末世界、生き抜いてみませんか? 《挿絵あり》   作:南波グラビトン

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7話

 

防音の効いた個室を出れば、ダブステップのビートに再び包まれた。

 

 

 

「さて、どうすっかな……」

 

 

当然、アテは無い。

 

青暗いライトに照らされた店内を、ブラブラっと散策していく。ミニカジノにラーバウンジ。レーザービームの光が飛び交うダンスフロア。

 

 普段は全く縁のない世界だが……複数の階層に分かれた広いナイトクラブを探索するのは、中々に楽しいモンだ。修学旅行で宿泊先のホテルを見回った時の様な、非日常のワクワクを感じてしまう。

 

 ふと、壁掛けのテレビに『トンネル』の映像が映っているのに気付き、俺は足を止めた。

 

 

『うおぉお来てる来てるッ! 右の奴頼んでいいか!?』

『いいぞいいぞっ! 撃ちまくってやろうぜ兄弟ッ!!』

 

 

 バラエティ番組の企画、なのだろうか?

 ヤカン頭の二人組が景気良くマシンガンをぶっ放し、トンネルを駆け下る小柄な【パンドラ】どもを撃ち殺していた。画面右上のテロップには、『トリガーハッピー芸人〈スチームポッド〉は、パンドラどもの攻勢を3分間耐えきれるのか!?』と大げさな見出しが綴られている。

 

 

(……平和なもんだな)

 

 

 思わず苦笑しちまった。

 10年経った今や、【パンドラ】も娯楽のタネになっているって訳だ。奴らと本気で殺し合った身としては、なんとも言えねぇ気持ちになるが……まぁいい。

 兎にも角にも、落ち着ける場所を探さなきゃな。

 

 下へ下へと螺旋階段を降り、最下層のフロアに辿り着いた。曇りガラスの扉を開けてーーナイトプールか。小分けされたプールが点々と存在する薄暗い空間には、単調なエレクトロポップが控えめに流れていた。

 

 シットリと落ち着いた雰囲気。

 

 

 

(ここで暫くゆっくりするか)

 

 

 そう決めた。

 受付で海パンを借り、パパっとロッカールームで着替えてしまう。隊長と部隊の皆を思えば、ゆっくりする気にはなれないが……ラルカスの言った通り、今は待ちの時間だよな。キッチリ休もう。

 

 ザプリと。底に配置された光源により、青白く輝く温水プールに身を浸す。浮かんでいたアヒル浮き輪に乗っかった。

 

 うし、ネットサーフィンだ。

 水に濡れた髪を掻き上げ、指を動かし、仮想ウィンドウを宙にポップさせた。ふむふむ、ふむふむ……と、レッカーズエデンの情報を流し見てーー没頭。10年寝坊したギャップを埋めるべく、今の状況や常識をザックリと脳内に流し込む。

 

記事の見出し。

 

 

・広がる格差! ドールコープは『ストリップ地区』と『高級ホテル街』しか守らないのか!? 貧民街『流民団地』の今!

・とれたて! 新鮮! ピチピチ大特価! 【ソウルボックス】売ります!! 年齢性別応相談! ~『パッチワーカーズ人身販売部』

・今! レッカーズエデンで『パンドラ食』が熱いッ! 食べて応援! 地上奪還計画! ~『はためく黄衣の伝道教団』

・乳幼児死亡率、ついに大台の30%を突破。食料と医療品の不足は深刻で、素体化出来ない幼児達はーー

 

 

暗い情報。真面目な情報。 意味の分からねぇ情報。とにかく目を通し、気になる単語を片っ端から検索していく。

 

 パッチワーカーズが根城にしている、『流民団地』とやらの事も調べた。元は一般層向けのお手頃価格なホテル街だったが、終末の際に流れ込んできた家無し人が住みついた結果、たちまちスラム化したエリアのようだ。

 

 歩道に乱立するテントやバラック小屋。

 ボロボロのビルに屯する人達。

 

 終末前の景観を十分に保っている『ストリップ地区』と比べると、凄まじい程の格差を呈していた。元々、レッカーズエデンは政府要人の緊急避難先としての役割も期待され開発された場所なので、レアメタルや燃料資源は膨大にーーそれこそ日本国全体が60日は回る程に資源を備蓄していた筈だが……リソースにも限りがある以上、それを割り振る箇所には優先を付けているのだろう。

 

 

 ドールコープが軍事拠点にしているらしい『高級ホテル街』そして、街の中心地であり俺が今いる『ストリップ地区』調べた限り、その二か所だけは重点的に保護されているようだ。

 

 ポチポチと他の単語も知らべていき、ふとユキナの事が気になった。

 何とはなしに検索してみる。

 

『クリニック・ユキナ』というHPがヒット。

 

 そういやユキナの仕事を知らなかったが、フリーの『素体師』をーー素体(ボディ)のメンテや拡張、自作のパーツや制御ソフトを売る職業ーーをやっていたのか。評判は……予約ページの状況を見るに、かなり良いみたいだな。

 

 

 パンドラの事も調べ、一時間、二時間と時が経ち……

 

 

 

「ーーい。おいっ! キキキキっ聞いてんのかッ!!?」

 

 誰かの声に起こされた。

 いけね、いつの間にか寝ていたらしい。

 

 視界の隅に表示された時計を見ればーー時刻は午後の8時過ぎ。2時間ほど舟を漕いでいたようだ。

 

 うーむ。素体は生身の人間が持つ習慣性の動作を非常に高いレベルで再現している影響で、あんまり気ぃ抜いてると普通に寝ちまうんだよな……。アンスリープモードで調べ物をするべきだったと軽く反省する。

 

 フワァとノビをした。

 アヒルの浮き輪を降り、眠気覚ましに軽~くプールで泳ぐ。

 

 

 

「おい! オイオイオイ! キキッ聞けよッ!?」

 

 がなり声。耳に煩く響き……ったく、何なんだよ一体?

 

 

「悪い悪い、何の用だ?」

 

 プールサイドに上がり、異常にご立腹な金髪男に問いかけた。

 瞬間にーーバンっ! 

 弾丸が肩を掠め、後ろのアヒル浮き輪に突き刺さり、プシュリと空気が抜ける音。

 

 

「は……?」

 

  チンチチチーンと。濡れた大理石のプールサイドに空薬莢が転がり、乾いた金属音が響く。小刻みに震える銃口の先が俺の頭部へと狙いを修正していきーー

 

 

「ーーチクショウめ!?」

 

 体を屈め次弾を回避っ! そのままクルリと後転して、プールの中へとガムシャラに退避した! ぱ、パッチワーカーズの襲撃か!!?

 

 訳も分からぬまま、とにかく水底(みなも)へ身を沈めていく!

 

 

「キキッ! コココ殺すッ!」

 

 ドンドンドンッ! と。

 水底に沈む俺を狙い、景気よく銃弾が速射されーーだが、無意味だ。水中用の拳銃なら話は別になるが、奴の持っていた銃は『グロック17』。普通の拳銃である。幾ら俺を狙い撃とうとも、ただの9mm弾では水中を50cmも進めば威力の殆どを失うのが摂理だろう。

 

 それが分かってるからこそ、俺はプールに飛び込んだのだ。

 

 ゴポリゴポリと敵弾が水をかき混ぜ、気泡の線を引き、ヘニャリと水底へ落ちていく様を黙って眺めーー17発撃ったっ! プールサイドへと飛び出す!!

 

 

「チチチ近づくんじゃねぇ!!?」

 

 グロック17は、その名の通りに装弾数が17発の拳銃で。予想通りに、金髪男は覚束ない手付きでリロードをしていた。瞬時に間合いを詰め、銃を掴み、スライドストップを押し込んで拳銃を分解。無力化する。

 

 

「相手が悪かったなっ、ちったあ頭を冷やせ!」

「ぐぎっ……」

 

 スライドとフレームが泣き別れした『グロック17』。

 それを、ありえないとばかりに見やる男に前蹴りをブチ込み、吹き飛ばし、人のいないプールへと叩き落とした。ザッパーンと、派手な水柱が上がる音。

 

 と、同時。

 武装したクラブのスタッフ達が、男を確保せんとプールに殺到し……

 

 

(……はぁ、何だったんだよアイツは?)

 

 

 マジで意味が分からなくて首を捻った。

 ターミネーターみたいな剥き出しの頭蓋骨に、原色のペイントを塗りたくった奴ら。それが『パッチワーカーズ』の特徴だ。

 

 でも今の男は、普通の人間の素体を使っていた。だというのに……いや、奴らの協力者か? だとしても何故、面が割れてない俺を襲って来たんだ? 釈然とせぬまま周囲を警戒すれば、緩~い拍手と口笛の協奏がにわかに鳴り響いた。

 

 

『ナイスファイトっ、兄ちゃんメチャクチャ強えーなぁ~』

『はははっ、就職先に困ってんならウチで雇ってやるぞ~』

『チップは弾むから、もう1回誰かと戦ってくれないかしら~?』

 

 

 プールの縁に両手を掛け、周囲の人々が呑気なコメントをしてくれている。

 

 み、見てたんなら助けてくれよ……?

 思わずそう胸中でボヤくが……まぁ、この街の人間にそんな期待をしても仕方ないか。俺は溜息を飲み込んだ。からかう様な歓声に対して適当に手を振り返しつつ、ロッカールームに入っていく。

 

 兎に角、報告の為にも個室へ帰ろう。

 スーツ姿に格好を戻しナイトプールを出た。

 

 

 

 

 

 


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